Artist: Doechii
Album: Bra-Less
Song Title: Pms
概要
フロリダ州タンパ出身の異端児、DoechiiのEP『Bra-Less』に収録された本作は、音楽業界のプレッシャーやメンタルヘルスの問題を赤裸々に綴った内省的かつアグレッシブな一曲だ。タイトルの「Pms(月経前症候群)」は、女性の正当な怒りや不満を「ただのホルモンバランスのせい」として軽視しようとする社会や業界に対する痛烈な皮肉として機能している。重厚なビートの上で、Kanye Westのような自滅的衝動、周囲を養うプレッシャー、そして「才能よりも図太さがモノを言う」というショービジネスの残酷な真理をスピットする。自身を「秘密兵器」として出し惜しみするレーベルへの苛立ちを隠さず、女性としての複雑な感情と鋭い知性をストリートのタフネスでコーティングした、彼女のリリシストとしての真骨頂とも言える重要曲である。
和訳
[Intro]
(Black Metaphor)
(ブラック・メタファー)
※アトランタ出身のプロデューサー、Black Metaphor(ブラック・メタファー)のプロデューサータグ。Rick RossやJeezyなど数々のハードコアなヒップホップ・クラシックを手掛けてきた彼のビートに乗ることで、本楽曲のシリアスな空気が初手から強調されている。
Uh
アー
[Verse 1]
Weaving through this traffic from a heavy session
ハードなレコーディングの帰り、渋滞をすり抜けてる
The way the past aggressions left the wrong impression
過去の揉め事のせいで、連中に間違った印象を持たれちまってるわ
They ask me if I'm good, I say I'm PMS-in'
みんなアタシに「大丈夫か」って聞いてくるけど、「PMS(月経前症候群)なだけ」って答えてるのさ
※曲のタイトルにして最大のテーマ。女性が正当な怒りや不満を露わにした際、男性中心の社会や業界がそれを「ヒステリー」や「生理(PMS)だから感情的になっているだけ」と矮小化して処理しようとするミソジニー(女性蔑視)への強烈な皮肉。あえて「PMSなだけ」と突き放すことで、無理解な相手との対話をシャットアウトしている。
So try to preach me lessons at your own discretion
だからアタシに説教垂れるなら、自己責任でやりなよ
They pitch a safe space for me to make confessions
連中は「ここは安全な場所(セーフ・スペース)だから打ち明けて」なんてそそのかしてくるけど
But soon as I confess it, they start second guessin'
いざ本音をこぼすと、すぐにアタシの言葉を疑い(値踏みし)始めるのよ
The labels treat my talent like a secret weapon
レーベルはアタシの才能を、「秘密兵器」みたいに扱い(出し惜しみし)やがる
※TDEなどのメジャーレーベルと契約し、確かな実力がありながらも、なかなか曲をリリースさせてもらえない(飼い殺しにされる)新人アーティスト特有の業界への苛立ちと焦燥感。
And I'm a force to reckon, just gotta accept it
アタシは侮れない存在(フォース)なんだから、さっさと認めるしかないのよ
[Chorus]
I gotta accept it, I gotta protect it
アタシ自身が受け入れて、守り抜かなきゃいけない
Even when I leavе my body, I gotta possess it
幽体離脱(ハイに)なってる時でさえ、自分自身をコントロールしなきゃダメなの
I'm over-possessivе, I'm over suggestion
アタシは独占欲が強すぎるし、他人の指図にはウンザリ
Now I'm walkin' in the rooms and I'm overly present
今じゃ部屋に入れば、アタシの存在感(プレゼンス)はデカすぎるくらいよ
Balance my aggression with a glass of perfection
アタシの攻撃性を、グラス一杯の「完璧(酒)」で中和させるの
Clearin' out the section, sneakin' out the Westin
VIP席を空にして、ウェスティンホテルからこっそり抜け出す
Bitches still undressin', and as soon as we step in
ビッチ共はまだ服を脱いでる途中、ウチらが足を踏み入れるなり
They ask me if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
[Post-Chorus]
Let it ride
そのまま流して
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」って言ってんの
They ask me if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」だって
Hmm
フーム
Uh
アー
[Verse 2]
What if I go beast mode and eat the family?
もしアタシがビーストモードになって、家族を食い殺しちゃったらどうする?
What if I go Kanye and crash the Bentley?
もしアタシがカニエみたいに狂って、ベントレーをクラッシュさせたら?
※Kanye Westが2002年に起こした瀕死の交通事故(名曲「Through the Wire」を生んだ)、あるいは近年の双極性障害による突発的で破壊的な奇行を引き合いに出している。名声のプレッシャーに押し潰され、自己破壊的な行動に走ってしまうことへのリアルな恐怖のメタファー。
Who gon' be for Courtney, Lisa, Sydney, Tammy?
そしたらコートニー、リサ、シドニー、タミーの面倒は誰が見るのよ?
※Doechiiの実際の家族や友人、あるいは彼女が経済的・精神的に支えなければならない身近なブラックコミュニティの女性たちの象徴。自分が倒れれば全員が共倒れになるという、成功者にのしかかる強烈な重圧(サバイバーズ・ギルト)を吐露している。
Who gon' try to stop me if I pop this Xanny?
アタシがこのザナックスをキメようとしたら、誰が止めてくれるの?
※「Xanny」は抗不安薬Xanax(ザナックス)のスラング。ヒップホップにおける負の逃避行の象徴であり、メンタルヘルスの限界を暗示している。
And I just might, just to prove that I'm human
やってしまうかもね、自分がただの「人間」だって証明するためだけに
I be gettin' niggas hot just to prove that I'm humid
アタシが「湿っている(女である)」って証明するためだけに、男どもを興奮させてやってるのさ
I mean I'm spittin' state to state just to prove that I'm fluid
つまり、アタシが「流動的(多才)」だって証明するために、州から州へとラップして回ってるってこと
※「humid(湿気・女性性)」「fluid(流動的・ジェンダーフルイド)」というワードプレイ。セクシュアリティやアイデンティティの境界線を曖昧にしつつ、全米(state to state)を股に掛ける圧倒的なラップスキルを証明している。
'Cause the first to do it is the closest to losin'
だって「最初にやる奴(パイオニア)」ってのは、一番「全てを失う」のに近い場所にいるから
Or the furthest to choosin', the child of destiny
それか「選択肢」から一番遠い場所にいる、「運命の子供」なのよ
※伝説的R&Bグループ「Destiny's Child(デスティニーズ・チャイルド)」とのダブルミーニング。神に選ばれし者(Child of destiny)であるがゆえに、凡人のような自由な選択肢(choosin')が奪われ、常に先駆者として危険な最前線を走らなければならない孤独。
The secret recipe exist allegedly
「秘密のレシピ(成功の法則)」が存在するらしいわね
May the legends rest in peace and feel my alchemy
レジェンドたちが安らかに眠り、アタシの「錬金術(才能)」を感じられますように
May the children take a leap and get as high as me
子供たちが大きく跳躍して、アタシと同じ高み(High)まで辿り着けますように
May the children take a leap and get as high as me
子供たちが大きく跳躍して、アタシと同じ高みまで辿り着けますように
May the legends rest in peace and feel my, uh
レジェンドたちが安らかに眠り、アタシの…アー
[Chorus]
I gotta accept it, I gotta protect it
アタシ自身が受け入れて、守り抜かなきゃいけない
Even when I leave my body, I gotta possess it
幽体離脱してる時でさえ、自分をコントロールしなきゃダメなの
I'm over-possessive, I'm over suggestion
アタシは独占欲が強すぎるし、他人の指図にはウンザリ
Now I'm walkin' in the rooms and I'm overly present
今じゃ部屋に入れば、アタシの存在感はデカすぎるくらいよ
Balance my aggression with a glass of perfection
アタシの攻撃性を、グラス一杯の「完璧」で中和させる
Clearin' out the section, sneakin' out the Westin
VIP席を空にして、ウェスティンホテルからこっそり抜け出す
Bitches still undressin', and as soon as we step in
ビッチ共はまだ服を脱いでる途中、ウチらが足を踏み入れるなり
They ask me if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
[Post-Chorus]
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」って言ってんの
They ask me if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」だって
They ask me if I'm good, I say I'm—
みんなアタシに「大丈夫か」って聞いてくるけど、アタシは—
[Verse 3]
Address me as Your Majesty, disrespect you casually
アタシを「女王陛下」と呼びな、アンタらのことなんて軽くディスってやるから
Know what's to come after me if I keep speakin' recklessly
アタシがこのまま無謀な発言を続ければ、次に何が起こるかくらい分かってるわ
You can call it rhapsody, claim it as a tragedy
狂詩曲(ラプソディ)と呼ぶか、悲劇と呼ぶか、好きにしな
I'm in my reality, ain't no other bitch high as me
アタシは自分の現実を生きている、アタシほど高み(ハイ)にいるビッチは他にいないの
I gradually introduce these niggas to the half of me
野郎共に、アタシの「半分(本性)」を徐々に見せつけてやる
More than my mentality is more like my anatomy
アタシのメンタリティというより、もはや解剖学(アナトミー)的な次元の話よ
※彼女の才能や怒りが、単なる精神論(気持ちの問題)ではなく、DNAレベルの肉体(解剖学)に刻み込まれた本質的なものであるという宣言。
The talent doesn't put you center stage, it's the audacity
才能がアンタをセンターステージに立たせるんじゃない、「図太さ(Audacity)」が立たせるのよ
※本楽曲における最重要パンチライン。音楽業界において、どれだけ圧倒的な才能(Talent)があっても、厚かましさや野心、エゴ(Audacity)がなければ成功を掴むことはできないという、彼女が身をもって学んだ残酷なリアル。
Careful, don't come after me, close the show dramatically
気をつけることね、アタシの後に続こうなんて思わないで。ショーをドラマチックに幕引きしてやるから
[Chorus]
And now the labels treat my talent like a secret weapon
そして今、レーベルはアタシの才能を秘密兵器みたいに扱い(出し惜しみし)やがる
And I'm a force to reckon, just gotta accept it
アタシは侮れない存在なんだから、さっさと認めるしかないのよ
I gotta accept it, I gotta protect it
アタシ自身が受け入れて、守り抜かなきゃいけない
Even when I leave my body, I gotta possess it
幽体離脱してる時でさえ、自分をコントロールしなきゃダメなの
I'm over-possessive, I'm over suggestion
アタシは独占欲が強すぎるし、他人の指図にはウンザリ
Now I'm walkin' in the rooms and I'm overly present
今じゃ部屋に入れば、アタシの存在感はデカすぎるくらいよ
Balance my aggression with a glass of perfection
アタシの攻撃性を、グラス一杯の「完璧」で中和させるの
They askin' if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
[Post-Chorus]
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」って言ってんの
They askin' if I'm good, I say I'm PMS-in'
大丈夫かって聞いてくるけど、「PMSなだけ」って返すのさ
I say I'm PMS-in'
「PMSなだけ」だって
Don't ask me if I'm good, I think I'm PMS-in'
大丈夫かなんて聞かないで、「PMSなだけ」だと思うから
[Outro]
Yes, sir
イエス・サー(その通りよ)
Keep all that
今のテイク、全部残しといて
※エンジニアに対する指示の生声。作り込まれたポップソングではなく、ブース内で吐き出された生々しい感情とリアルな言葉をそのままパッケージングするという、ヒップホップのコアなアティチュード。
