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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Black Girl Memoir - Doechii 【和訳・解説】

Artist: Doechii

Album: Oh The Places You’ll Go

Song Title: Black Girl Memoir

概要

フロリダ出身のDoechiiによる本作は、黒人女性としてアメリカで育つ中での葛藤、トラウマ、そして野心を描いた痛切な回顧録(メモワール)だ。ビヨンセのような明るい肌色への憧れ(カラーイズムの問題)や、カニエ・ウェストのエゴ、エリカ・バドゥの精神性など、ブラックカルチャーのアイコンたちを引き合いに出しながら、自身のアイデンティティを形成していく過程を赤裸々に綴る。後半では、黒人特有のヘアケア(ホットコーム)に伴う火傷の痛みを家庭環境のトラウマと重ね合わせ、最終的には自身を阻む世界に対してアグレッシブに威嚇するスタンスへと移行する。彼女の繊細さとストリートのタフネスが同居する、極めてパーソナルで重要な一曲である。

和訳

[Chorus]

(Smoke some dope to make it go away)
(マリファナを吸って、全部忘れちまいな)

Smoke some dope, forget the drama
マリファナを吸って、ドラマ(ゴタゴタ)なんて忘れちまいな

Get your bank and make your comma
銀行口座を潤して、コンマ(大金)を稼ぐのさ
※「comma」は1,000(カンマ)以上の桁数、つまり大金(ミリオンやサウザンド)を稼ぐというヒップホップ特有のスラング。現実の苦しみ(drama)をドラッグ(dope)と金(bank/comma)で麻痺させようとする、ストリートの典型的な逃避行動をコーラスに据えている。

Away, away
遠くへ、遠くへ

(Smoke some dope to make it go away)
(マリファナを吸って、全部忘れちまいな)

Smoke some dope, forget the drama
マリファナを吸って、ドラマなんて忘れちまいな

Get your bank and make your comma
銀行口座を潤して、大金を稼ぐのさ

Away, away
遠くへ、遠くへ

[Verse 1]

(Smoke some dope)
(マリファナを吸いな)

When I get older I want the money and power so I can
大人になったら金と権力が欲しい、そしたら…

(Make it go away, make it go away)
(全部消し去れる、無かったことにできるから)

(Smoke some dope)
(マリファナを吸いな)

When I get older I want to move out the country so I can
大人になったらこの国を出ていきたい、そしたら…

(Make it go away, make it go away)
(全部消し去れる、無かったことにできるから)

I wish I wasn't dark so I could look like 'Yonce
自分の肌がもっと明るければよかった、ビヨンセみたいになれるのに
※ブラックコミュニティ内に深く根付く「カラーイズム(肌の色が明るいほど美しいとされる偏見)」に対する痛切な独白。同じ黒人女性でも、ビヨンセ(Beyoncé)のようなライトスキンのアーティストに憧れ、自身のダークな肌の色(dark)をコンプレックスに感じていた幼少期の苦悩を明かしている。

I wish I had a big ego like Kanye
カニエみたいにデカいエゴを持てたらよかったのに
※Kanye Westの強烈な自己愛への言及。カラーイズムや差別で傷ついた自尊心を、カニエのような傲慢なまでの自信(Big ego)で覆い隠して自分を守りたかったという防衛機制の表れ。

Then maybe I could spit three stacks like André
そしたらアンドレみたいに、スリー・スタックス(最高のラップ)を吐き出せるかもしれない
※伝説的ヒップホップデュオOutkastのメンバーであるAndré 3000(別名:3 Stacks)のこと。彼の持つ神がかったリリシズムを渇望している。また、「stacks」は千ドル札の束を意味するスラングでもあり、カニエのエゴとアンドレのスキルを手に入れて「大金を稼ぎたい」という二重のミーニング。

And we ain't gotta walk three blocks to do laundry
そしたらコインランドリーまで3ブロックも歩かなくて済むのに
※成功して大金を手に入れれば、ゲットーの貧しい生活(自宅に洗濯機がなく、歩いてコインランドリーに通う日常)から抜け出せるという切実な願い。

Or I could be Erykah
それか、エリカみたいになるのもいいわね
※ネオ・ソウルの女王、Erykah Baduへの言及。

Sing about the moon and astral 'ject out of 'Merica
月について歌って、アメリカからアストラル・プロジェクション(幽体離脱)するの
※Erykah Baduのスピリチュアルな世界観や宇宙的なテーマを模倣し、差別や貧困が蔓延するアメリカ('Merica)という過酷な現実から「幽体離脱(astral project)」して魂を解放したいという願望。

Huff and puff my way off the bus, light a blunt to your feria
バスを降りて息をつき、アンタのフェリア(金)でブラントに火をつける
※「feria」はスペイン語のスラングで「お金、小銭」。公共交通機関(バス)に乗る労働階級の生活から、他人の金でマリファナを吸うような成功したアーティストの生活への憧れ。

That's fair enough, it's fair for me, I could get a degree
それくらいフェアでしょ、アタシにとっての公平よ、学位だって取れるかもしれないし

[Refrain]

I could be anything
アタシはなんだってなれる

I can do anything
なんだってできるの

I could be anything
なんだってなれる

I can do anything
なんだってできるの

[Chorus]

(Smoke some dope to make it go away)
(マリファナを吸って、全部忘れちまいな)

Smoke some dope, forget the drama
マリファナを吸って、ドラマなんて忘れちまいな

Get your bank and make your comma
銀行口座を潤して、大金を稼ぐのさ

Away, away
遠くへ、遠くへ

(Smoke some dope to make it go away)
(マリファナを吸って、全部忘れちまいな)

Smoke some dope, forget the drama
マリファナを吸って、ドラマなんて忘れちまいな

Get your bank and make your comma
銀行口座を潤して、大金を稼ぐのさ

Away, away
遠くへ、遠くへ

[Verse 2]

Please don't fuck with me
マジでアタシを怒らせないで

This head on my shoulder's been weighed down with a hundred beads
アタシの肩に乗ってるこの頭は、100個のビーズの重みで垂れ下がってるのさ
※黒人の女の子の伝統的なヘアスタイル(編み込んだ髪の毛先に大量のビーズをつける)の描写。その物理的な「重さ」と、黒人女性として背負わなければならない社会的な偏見やトラウマという心理的な「重み」を掛けている。

I'm combin' out my trauma like my mama, do bdb's
ママみたいに自分のトラウマを櫛で梳かしてるの

A hot comb'll hit you with third degree
ホットコームが第3度熱傷(大火傷)を負わせてくる
※黒人家庭において、母親が娘の縮れ髪をホットコーム(熱した金属製の櫛)でまっすぐに伸ばすケアの光景。これを、自身のトラウマを整理し解きほぐす精神的なプロセスに重ね合わせている。

Burns around your neck for making moves that you shouldn't be
やっちゃいけない動きをしたせいで、首の周りに火傷の痕ができるのよ
※ホットコームで髪を伸ばす際、子供が痛がって動くと高熱の櫛が首や耳に当たって火傷をしてしまうという恐怖体験。これを、社会における「黒人女性のあるべき姿」から逸脱した行動(shouldn't be)をとった際に受ける、激しい社会的制裁や痛みのメタファーとして機能させている。

Laced up nigga I got to be, aught to be
隙を見せないように武装(レースアップ)しなきゃ、そうあるべきなの

Everything my father was not to me
パパがアタシにしてくれなかった、すべてのことに
※父親の不在、あるいはネグレクトに対する怒り。守ってくれなかった父親の代わりに、自分自身で自分を守る(Laced up)強さを持たなければならなかったという家庭環境の闇。

Fuck the private school lunch ladies, the crackers who wouldn't play with me
私立学校の給食のおばさんも、アタシと遊ぼうとしなかった白人ども(クラッカー)もクソ食らえ
※「cracker」は白人を侮蔑するスラング。私立の白人学校に通っていた際に受けた露骨な人種差別や疎外感を振り返り、中指を立てている。

Bitches who tried to jump me for believing I was something
アタシが「何者かになれる」って信じてたからって、リンチしようとしてきたビッチ共もな
※同じコミュニティ内であっても、向上心や野心を持つ者を引き摺り下ろそうとする「カニのバケツ理論(Crabs in a bucket)」的な同調圧力や暴力に対する憎悪。

[Refrain]

Just don't fuck with me
だから、アタシに構うんじゃないよ

Don't fuck with me
アタシを舐めないで

'Cause you can be anything, anything
だって、アンタもなんだってなれるんだから

'Cause you can be
なんだってなれる

[Chorus]

Smoke some dope, forget the drama (Fuck is up? This is not a bluff, it's a stick-a-up)
マリファナを吸って、ドラマなんて忘れちまいな(なんだよ? これはハッタリじゃない、強盗だぜ)
※コーラスの裏で、急激に攻撃的なストリートのスラング(強盗の脅し文句)がインサートされる。これまでの内省的な回顧から一転し、世界に対して牙を剥く防衛的な怒りのペルソナへと変貌する。

Get your bank and make your comma (Pick it up, nigga, break it up, nigga, pick your bluff)
銀行口座を潤して、大金を稼ぐのさ(拾いな、壊しちまえ、ハッタリかましてみろ)

Away (Pick it up, push your fuckin' luck, it's a stick-a-up)
遠くへ(拾いな、せいぜい運を試すんだな、強盗だぜ)

Away (Dig it up, nigga, dig it up, nigga, it's a stick-a-up)
遠くへ(掘り起こしな、掘り起こせ、強盗の時間だぜ)

Smoke some dope, forget the drama (Fuck is up? This is not a bluff, it's a stick-a-up)
マリファナを吸って、ドラマなんて忘れちまいな(なんだよ? これはハッタリじゃない、強盗だぜ)

Get your bank and make your comma (Pick it up, nigga, break it up, nigga, pick your bluff)
銀行口座を潤して、大金を稼ぐのさ(拾いな、壊しちまえ、ハッタリかましてみろ)

Away (Pick it up, push your fuckin' luck, it's a stick-a-up)
遠くへ(拾いな、せいぜい運を試すんだな、強盗だぜ)

Away (Dig it up, nigga, dig it up, nigga, it's a stick-a-up)
遠くへ(掘り起こしな、掘り起こせ、強盗の時間だぜ)

[Outro]

Fuck is up? This is not a bluff, it's a stick-a-up
何見てんだ? これはハッタリじゃない、ホールドアップ(強盗)だ

Pick it up, nigga, break it up, nigga, pick your bluff
拾いな、野郎、ぶっ壊せ、ハッタリかましてみろよ

Pick it up, push your fuckin' luck, it's a stick-a-up
拾いな、せいぜい運を試すんだな、強盗だぜ

Dig it up, nigga, dig it up, nigga, it's a stick-a-up
掘り起こしな、野郎、掘り起こせ、強盗の時間だぜ
※「stick up(銃口を向けて手を挙げさせる強盗)」という暴力的なフレーズの連呼。世界から傷つけられ、奪われてきた彼女が、今度はラップゲームにおいてすべてを奪い取る(強奪する)側に回るという、ストリートにおける弱肉強食の宣言で締めくくられる。