Artist: Doechii
Album: Oh The Places You’ll Go
Song Title: Yucky Blucky Fruitcake
概要
フロリダ出身の気鋭ラッパーDoechiiを一躍スターダムに押し上げたブレイクスルー・アンセム。TikTokでのバイラルヒットを記録した本作は、米国の児童書『Junie B. Jones』のエピソードタイトルをサンプリングし、学校の「自己紹介」という体裁で進行する。前半では「変わり者の黒人少女(Weird Black Girl)」としての孤独や貧困(フードスタンプ)、自身のセクシュアリティをコミカルかつ赤裸々に語り、ビートスイッチ後の後半では一転してアグレッシブなフロウでヘイターを圧倒する。Lisa FrankやParamoreといった2000年代のノスタルジックなポップカルチャーを散りばめながら、システム的マイノリティ(統計学上の敗者)という運命を自らの力で打破する、新世代オルタナティブ・ヒップホップの金字塔である。
和訳
[Part I] [Intro]
Doechii, why don't you introduce yourself to the class? Okay?
ドーチ、クラスのみんなに自己紹介をしてくれない? いいかしら?
※白人の教師がクラスの生徒たちに向けてDoechiiに自己紹介を促すというスキット。郊外の学校の教室と、フッド(貧困街)育ちの彼女の「ストリートのリアル」がこの後強烈なコントラストを描くことになる。
[Verse 1]
Hi, my name's Doechii with two I's
ハイ、アタシの名前はDoechii、最後に「i」が2つくっつくの
※当初は「Doechi」というスペルだったが、個性を際立たせるために「i」を一つ増やしたという彼女のアーティスト名の由来。
I feel anxious when I'm high (Huh)
ハイになると不安になっちゃうんだ(ハァ)
Teachers say I talk too much
先生たちはアタシが喋りすぎだって言うし
Momma say I'on't talk enough
ママはもっと喋れって言う
In the dark, I'm like a torch
暗闇の中じゃ、アタシは松明みたいに燃えてる
From the hood, I hopped the porch
フッド出身だけど、ポーチからは抜け出したんだ
※「hop the porch」はストリートスラング。「porch(家の玄関先のポーチ)」に一日中たむろして無為な時間を過ごすフッドの若者たちのライフスタイルから抜け出し、成功を掴み取るために行動を起こしたことを意味する。
I don't bang or slang, on gang
ギャング稼業(バン)もドラッグ密売(スラン)もしてない、マジでね
But my dada keep them thangs
でもパパは「ハジキ」を隠し持ってるの
※「keep them thangs」は銃器(thang = thingのスラング)を所持していること。自分自身はストリート犯罪に手を染めていないが、育った環境はハードコアなゲットーであったことを端的に示している。
[Chorus]
Speak up
もっと大きな声で
Speak up
もっと大きな声で
Speak up
もっと大きな声で
Speak
話して
[Verse 2]
I get a little violent when I play the game of tag
鬼ごっこをしてると、ちょっと乱暴になっちゃう
I get a little quiet when I think about the bag
でも「バッグ(大金)」のことを考えると、口数が減るの
I slob when I sleep, and I wake up with a drag
寝てる時はヨダレを垂らすし、起きる時は超ダルい
I'm pulling out my teeth, so I wake up to the cash
自分の歯を引っこ抜いてるから、目が覚めれば札束(キャッシュ)があるの
※抜けた乳歯を枕の下に入れておくと「歯の妖精(Tooth Fairy)」がお金に変えてくれるという欧米の伝承。寝ている間に金を手に入れるために自ら無理やり歯を抜くという、幼少期からのクレイジーなハスラー精神のメタファー。
This is who I am from the back, to the front
これが裏も表も含めた、アタシの本当の姿
I never had to pay for my schoolhouse lunch
学校の給食代なんて払ったことないわ
My mama used stamps, 'cause she need a little help
ママは少し助けが必要だったからフードスタンプ(配給券)を使ってた
※「stamps」は米国政府が低所得者向けに支給する食料配給券(SNAP/EBT)。給食費が免除されるほどの貧困家庭(below the poverty line)で育ったという事実を隠さずにレペゼンしている。
But a nigga made do with the cards been dealt
でもアタシは、配られたカードでどうにかやりくりしてきたんだ
※ポーカーなどのカードゲームの比喩。生まれ持った不利な環境(配られた手札)に文句を言うのではなく、自分の才能と努力でサバイブしてきたというストイックな決意表明。
I try to act smart 'cause I want a lot of friends
友達がいっぱい欲しくて賢いフリをしてた
I never really went with the flow of the trends
トレンドの流れに乗ったことなんて一度もなかったし
I think I like girls, but I think I like men
女の子が好きかもって思うし、男の子が好きかもとも思う
※バイセクシュアル / パンセクシュアルとしての自身のセクシュアリティの公言。ヒップホップにおいてこうした性的指向をオープンにすることは、旧来のマッチョイズムからの脱却という大きな意味を持つ。
Doechii is a dick, I never fit in
Doechiiはクソ野郎だから、どこにも馴染めないのさ
※「dick」はここでは「嫌な奴、浮いている存在」。コミュニティに迎合できないアウトサイダー(変わり者)としての自己認識。
Overly cocky, I'm hyper-ambitious
自信過剰で、超野心家
Me, me, me, me, bitch, I'm narcin-assistic
アタシ、アタシ、アタシ、そうよビッチ、アタシはナルシストなの
I am a Black girl who beat the statistics
アタシは統計上の確率(負け組)を打ち破った黒人少女よ
※「beat the statistics」は、アメリカのゲットーで育った黒人女性が直面する低い成功率や高い犯罪・貧困率といった「社会的な統計」を覆し、成功を掴み取ったという極めて強力なエンパワーメント・ライン。
Fuck the opinions and all the logistics, haha
他人の意見も論理も、全部クソ食らえってね、ハハ
[Chorus]
Speak up (Wow, ha)
もっと大きな声で(ワオ、ハ)
Speak up (Wow)
もっと大きな声で(ワオ)
Speak up (Hwoo, well, Doechii, why don't you tell us what you do in your spare time?)
もっと大きな声で(フゥ、ええと、ドーチ、暇な時は何をしてるのか教えてくれるかしら?)
Speak
話して
[Verse 3]
I'm all alone on the deep dark web
ディープでダークなウェブの海で、アタシはひとりぼっち
Me and my phone in this queen-size bed
クイーンサイズのベッドに、アタシとスマホだけ
I'm looking at my pillow, my pillow look back at me
枕を見つめると、枕もアタシを見つめ返してくる
My thumb is over the screen, the other is in my jeans
片方の親指は画面の上、もう片方はジーンズの中よ
※自室での自慰行為(Masturbation)の生々しい描写。孤独とインターネットへの依存、そして思春期の鬱屈とした性衝動を描いている。
It took a second to soak, my fingers inside my throat
浸透するのに少し時間がかかった、指を喉の奥に突っ込むの
※精神的な不安によるパニック、あるいは過食からの嘔吐(摂食障害的な行動)の暗喩。思春期の強いストレスと自己破壊的な衝動。
I paused, and then, I choked to think about it some more
ふと手を止めて、もう少し考えようとして息を詰まらせた
Connection is moving slow, my brightness is on that low
ネットの回線は遅いし、画面の明るさも一番暗くしてる
I'm reaching for the remote, then my mama bust through the door (Shit)
リモコンに手を伸ばした瞬間、ママがドアをぶち破って入ってきたの(クソッ)
※親に自室でのプライベートな行為(または精神的に不安定な状態)を見つかってしまうという、誰もが経験する気まずく混沌とした思春期のワンシーン。
[Part II] [Interlude]
Doechii (Doechii), Doechii (Doechii)
ドーチ(ドーチ)、ドーチ(ドーチ)
You forgot to take the chicken out (You forgot to take the chicken out)
冷凍庫からチキン出しといてって言ったの忘れてたでしょ!(忘れてたでしょ!)
※母親の怒鳴り声のサンプリング。黒人家庭の「あるある(母親が仕事から帰ってくる前に冷凍チキンを解凍し忘れて激怒される)」であり、共感と笑いを誘うブラックコミュニティ特有のクラシックなスキット。ここで一気にビートが攻撃的にスイッチする。
Doechii (Doechii)
ドーチ(ドーチ)
You forgot to take the chicken out (Do-do-do-do-do-do-do, do-do, do-do-do-do-do-do)
チキンを出し忘れたわね
Somethin', somethin', somethin', somethin', somethin'
なんだかんだ、なんだかんだ
Somethin', somethin', somethin' (Ooh, ooh)
なんだかんだ、なんだかんだ(オー、オー)
[Verse 4]
I fuck with Junie B., Barbara was my idol
『Junie B.』が大好きなの、バーバラはアタシのアイドルだったわ
※曲のタイトルにもなっている米国の人気児童書シリーズ『Junie B. Jones』の著者であるBarbara Parkのこと。型破りでちょっとおバカな主人公ジュニー・Bの姿に、子供時代のDoechiiは自分を重ね合わせていた。
Had to wear my attitude to every dance recital
ダンスの発表会には、いつも反抗的な態度を身に纏って臨んでた
In my black Taylor Chucks, the ones that laced up
太ももまで編み上げる、黒のチャックテイラー(コンバース)を履いてね
※2000年代のエモ / オルタナキッズの間で流行した、膝下(太もも)まである長靴のようなコンバース。典型的なブラックカルチャーのファッションではなく、スケーターやパンクの文化を好む「変わり者(Alt-Black Girl)」としてのスタイル。
To my thighs, Lisa Frank lipstick on my eyes
目にはリサ・フランクのリップスティックを塗って
※「Lisa Frank」は90年代に全米の女子小学生を熱狂させた、極彩色(ネオンカラー)の動物キャラクター文具ブランド。それを「目」に塗るという普通ではないメイクアップで、自身の奇抜さを際立たせている。
Weird girl activity, Black bitch nativity
変わり者のオンナの行動、黒人ビッチのキリスト降誕祭
Spy girl erotica, bucket hat from Nautica
スパイガールのエロティカに、ノーティカのバケットハット
※「Nautica」のバケットハットは90年代〜00年代のヒップホップシーンで流行したクラシックなアイテム。ナードな趣味とストリートのカルチャーが混在している。
Clit throbbing, I start sobbing watching Narnia
クリトリスを疼かせながら、『ナルニア国物語』を見て号泣しちゃうの
I been winning trophies since Fear Factor
『フィアー・ファクター』の時代から、ずっとトロフィーを勝ち獲ってきたのよ
※『Fear Factor』は2000年代前半に大ヒットした過激なリアリティ番組。幼少期からすでに勝者としてのメンタリティを持っていたというフレックス。
I was earning medals the same rate you basic bitches learned how to use protractors
アンタら量産型ビッチが分度器の使い方を習ってる頃には、アタシはメダルを稼ぎまくってたわ
Foot been on their necks before chiropractor
カイロプラクターよりも前から、連中の首をガッツリ踏みつけてきたし
※「Foot on someone's neck」は、相手を圧倒して息の根を止める(シーンを支配する)というヒップホップの定番フレーズ。それを首の骨を鳴らす「カイロプラクター(整体師)」と掛けている秀逸なライン。
But I gave all the game boys cooties
でもアタシ、ゲームボーイで遊ぶ男の子たちには「バイ菌(クーティーズ)」をうつしてやったけどね
※「cooties」は欧米の子供たちが恐れる架空の伝染病(日本でいう「エンガチョ」)。男の子たちが「女の子に触るとクーティーズがうつる!」と騒ぐ子供の遊びを引用し、ナードな男の子たちを翻弄していたませた子供時代を描写している。
Most of y'all are the type of kids I'd hate
アンタらの大半は、アタシが大嫌いなタイプのガキよ
If I was the monster under your beds, you'd be the kids I ate
もしアタシがベッドの下に潜むモンスターなら、アンタらは真っ先に食われるガキね
If I was a man your mom fucked, I'd fuck her right in your face
もしアタシがアンタのママとヤる男だったら、アンタの目の前でママを抱いてやる
And take you and your siblings on a Domino's pizza date
そのあと、アンタと兄弟をドミノ・ピザのデートに連れてってやるわ
※バトルラップ特有の「お前の母親とヤった」という強烈なディス。家庭を蹂躙した上に、安っぽいドミノ・ピザで子供たちを手懐けるという、ドラスティックでコミカルな支配のメタファー。
Damn, Gen X baby going crazy with the cam
クソ、X世代のベイビーがカメラの前で発狂してる
Back when I was rhyming on my Green Eggs and Ham
アタシが『グリーン・エッグス・アンド・ハム』で韻を踏んでた頃にな
※『Green Eggs and Ham』はDr. Seuss(ドクター・スース)の有名な絵本。本作が収録されているEPのタイトル『Oh The Places You'll Go』も同じくDr. Seussの作品名からの引用。幼い頃から絵本でライミング(韻)の英才教育を受けていたというアピール。
Edited my pictures with the Microsoft filters
Microsoftのフィルターで自分の写真を加工してたのよ
I was making Trillers way before they called 'em "Trillers"
連中が「Triller」って呼び始めるずっと前から、アタシはあんな動画を作ってたわ
※「Triller」はTikTokのライバル的なショート動画アプリ。DIYで映像編集や楽曲制作をしていたインターネット世代としての自負。
Sixth grade, every nigga pressured me to fuck
小学6年生、男共はみんなヤらせろってプレッシャーをかけてきた
While y'all was givin' it up, I was servin' looks
アンタらが簡単に股を開いてる間、アタシは最高のルックスを見せつけてたのよ
Custom-made drip with the pastry couture
ペイストリー・クチュールを合わせた特注のドリップ(ファッション)
Selling Silly Bandz from my desk to my drawer
机から引き出しまで、シリーバンズを売り捌いてたわ
※「Pastry」はRun-DMCの娘たちが立ち上げた2000年代のスニーカーブランド。「Silly Bandz」は2010年頃に全米の学校で爆発的に流行した、動物の形をしたシリコン製ブレスレット。校内でこれを密売して小遣い稼ぎをする子供が続出したが、Doechiiもその一人(生まれながらのハスラー)だった。
Singing karaoke while my mom was at the store ("You are")
ママが買い物に行ってる間、カラオケで歌いまくってた("You are")
Scared that she would walk in on me singing Paramore ("The only exception")
ママが帰ってきて、Paramoreを歌ってるのを見られるのが怖かったの("The only exception")
※Paramoreは白人のエモ / ポップパンクバンド。("You are the only exception"は彼らの大ヒット曲の歌詞)。当時のブラックコミュニティでは、黒人の子供がロックやパンクを聴くことは「白人ぶっている」「おかしい」と見なされることが多く、隠れて聴かなければならないという「オルタナティブな黒人キッズ」共通の切ないあるある体験。
While y'all was sticking house keys in motherfucking sockets ("You are")
アンタらが家の鍵をコンセントに突っ込んで感電してる間("You are")
I was stuffing all y’all lunch moneys in my pocket
アタシはアンタらの給食代を自分のポケットにねじ込んでたのよ
※バカな子供たちが危険な遊びをしている裏で、彼らの金を巻き上げていたというストリートスマートな幼少期のエピソード。
Please, stop it
マジでやめて
I'm in to blow up like the white thing that soda rockets
アタシはソーダにブチ込む白い錠剤みたいに爆発(ブレイク)するんだから
※メントス(白いキャンディ)をコーラに入れると間欠泉のように爆発する「メントスガイザー(メントスコーラ)」の比喩。
Talking back to my teachers, I'm out of pocket
先生に口答えして、やりたい放題(アウト・オブ・ポケット)
Got so much shit on my chest, yo, I need to drop it
胸の内に溜まったクソみたいな鬱憤、全部吐き出さなきゃ
Dribbling inside my journal, kiss my locket
日記帳に想いを書き殴って、ロケットにキスをするの
Let the paper soak my tears up, Ultra Charmin
紙に涙を吸わせるわ、まるでウルトラ・チャーミン(トイレットペーパー)みたいにね
Ooh, I need to let it out (Let it out)
ああ、吐き出さなきゃ(吐き出させて)
I gotta let it out (Let it out)
全部ぶちまけなきゃ(ぶちまけさせて)
[Refrain]
Uninvited and I'm undercover
招かれざる客、そしてアンダーカバー(潜入中)
Undivided, undiscovered
分裂させられないし、誰にも発見されてない
Uninvited and I'm undercover
招かれざる客、そしてアンダーカバー
But I never liked 'em, forever fuck 'em
でもあいつらのことなんて好きになったことない、永遠にクソ食らえよ
※学校や社会というコミュニティに属しながらも、決してそこに迎合せず、孤独なアウトサイダーとして内なる牙を研ぎ澄ませてきた彼女の真のスタンス。
[Outro]
Wow, haha
ワオ、ハハ
That was quite the introduction, Doechii
すごい自己紹介だったわね、ドーチ
Everybody, give it up for Doechii
みんな、ドーチに拍手を
(That was really inappropriate)
(マジで不適切すぎでしょ)
Give it up for Doechii
ドーチに拍手を
(Did she say "Food stamps"?)
(あの子「フードスタンプ」って言った?)
※白人の生徒がフードスタンプ(低所得者層向けの配給券)という言葉にドン引きしている声。恵まれた郊外の生徒たちと、ゲットー育ちのDoechiiとの間にある越えられない階級や人種の壁を皮肉に描いている。
Okay, we're going to have to have a talk after class, okay?
オーケイ、放課後に少しお話をしましょうか、いいわね?
※結局、異物である彼女のリアルな背景は学校教育(白人社会のシステム)には受け入れられず、問題児として処理されてしまうというオチ。
