Artist: Doechii
Album: Coven Music Session, Vol. 1
Song Title: Doechii 101
概要
『Coven Music Session, Vol. 1』収録の本作は、タイトルに「101(大学の入門・基礎科目番号)」を冠する通り、Doechiiがラップゲームにおける自らの圧倒的な優位性を見せつけ、フェイクな有象無象の同業者たちに「本物の態度」を叩き込むレクチャーのような一曲だ。学園モノのメタファーから始まり、次第にドラッグ、バイオレンス、そしてジョージ・ジマーマンを引き合いに出す痛烈な社会・人種的コンテクストへとシームレスに移行していく彼女の恐るべきリリシズムが光る。「オタク」と「シューター」の双方を惹きつける彼女独自の多面的な魅力や、地方のマイナーラッパー(local rapper)に対する容赦ない冷笑など、フロリダの泥臭さと洗練されたワードプレイが同居する。TDE契約前のハングリーな精神状態と、すでに完成された「クイーン(学部長)」としての貫禄が完璧なバランスで混ざり合った、ストリートの教典とも呼べるドープなバンガーである。
和訳
[Verse]
Doechii 101, I'm the dean in the school-a
Doechii入門講座へようこそ、ウチはこの学校の学部長よ
※「101」はアメリカの大学における入門・基礎科目の番号(例:English 101など)を指すスラング。ラップゲームにおける「いろは」を教えてやるというスタンスを示し、「dean(学部長)」を自称することでシーンにおける最高権威としての絶対的な自信をアピールしている。
See they taking notes, get your pens and your rulers
ほら、アイツらメモ取ってるわ、アンタらもペンと定規を出しな
Sitting in the back with the nerds and the shooters
ウチは教室の一番後ろで、オタクどもやギャングのヒットマンたちと一緒に座ってるんだわ
※「nerds(オタク、陰キャ)」と「shooters(ギャングの鉄砲玉、ヒットマン)」という、本来なら絶対に交わらない両極端な人間が自分の周りに集まっていることを示している。これはDoechii自身の「オルタナティブでオタク気質な一面」と「フロリダのゲットー育ちというストリートの顔」という二面性(多面性)のメタファーであり、彼女の音楽がいかに幅広い層を惹きつけているかを証明するラインだ。
Bet you that bazooka make 'em do the Zumba
そのバズーカをブッ放せば、アイツらズンバを踊り出すに決まってる
※「bazooka」は大型の銃器の比喩でありつつ、重低音の効いた彼女の強烈なビートやパンチラインを指す。「Zumba(ズンバ)」はラテン系の音楽に合わせて激しく踊るフィットネス・プログラム。銃撃から逃げ惑う人々の姿を、陽気で激しいエクササイズダンスであるズンバに例えるという、不謹慎でダークなユーモアが効いたストリート特有の表現。
Working like a winner, but I'm humble like a loser
勝者のようにハードに働きつつも、敗者のように謙虚な姿勢を忘れないのさ
Wonder who's the beggars and the motherfuckin' choosers
一体どっちが乞食で、どっちが選ぶ立場なのかしらね
※英語の有名なことわざ「Beggars can't be choosers(乞食は選り好みできない=貰う立場のくせに文句は言えない)」の引用。シーンに群がる有象無象のラッパーたち(Beggars)と、圧倒的な才能でオファーを「選ぶ」立場にある自身(Choosers)の格の違いを明確にしている。
New bitch on my debit, call her Debbie, she a chula
デビットカードで買った新しいビッチ、名前はデビー、超イイ女よ
※デビットカード(Debit)から連想して女性を「Debbie(デビー)」と名付けるワードプレイ。「chula(チューラ)」はスペイン語で「かわいい女の子、セクシーな女」を意味するスラング。性的対象として女性を金で囲うという、男性ラッパーがよく使うフレックス(自慢)を、バイセクシャルを公言する彼女自身がアグレッシブに実践し、男性優位のヒップホップ・トロピックを軽やかにハイジャックしている。
She don't speak no inglés, talk to me in numbers
あの娘は英語(インクレス)が話せないから、数字(金額)で語りかけてくるのさ
※「inglés」はスペイン語で「英語」のこと。言葉が通じなくても、大金(numbers)という世界共通言語さえあれば関係が成立するという、生々しいハスラー精神の描写。
Gotta say a prayer before I hop insidе that ooh-yah
あの「ウーヤ」に飛び乗る前には、祈りを捧げなきゃね
※「ooh-yah」は、高級車、あるいは女性の局所(プッシー)を指す独自の隠語・感嘆詞と推測される。あまりにも最高すぎる(危険すぎる)体験の前には神への祈りが必要だという誇張表現。
Wetter than the ocеan, damnit, I'ma scuba
海より濡れまくってる、クソッ、ウチがスキューバダイビングしてやるわ
※前の行の「ooh-yah」が女性器であることを裏付けるライン。「Wetter(濡れている)」という露骨な性的アピールと、スキューバダイビングというマリンスポーツを掛けている。
Can't get you a flight, but I can call your Uber
飛行機のチケットは買ってやれないけど、Uberくらいなら呼んであげる
※相手の女性(あるいは男)に対して、そこまで完全に貢ぐ(フライトを手配するほどの特別な扱い)つもりはなく、あくまで「その場限りの関係(Uberで帰らせる)」に留めるという、冷酷なプレイヤー(遊び人)としての態度を示している。
Drop her off at nighttime on the coast of Cuba
夜になったらキューバの海岸にでも降ろしてやるわ
I can't be mad about no bitches that I'm badder than
自分よりイケてないビッチ共のことなんて、いちいち怒る気にもなれない
I can't be sad about no demons I been battlin'
ウチがずっと闘ってきた悪魔たちのことで、悲しんでる暇なんてないのよ
※トラウマや精神的な葛藤(demons)を抱えながらも、それに負けずにサバイブしてきたという彼女のタフなメンタリティの表明。
I'm a brand, I get booked, I got fans, I got looks
ウチ自身がブランドなの、オファーは絶えないし、ファンもいるし、ルックスも最高
※自身がすでに単なるラッパーの枠を超え、一つの完成された企業(ブランド)として成立していることを宣言。実力、人気、ビジュアルのすべてを兼ね備えた「スリー・スレット(三拍子揃った存在)」であることの証明。
Can't be skippin' over data, I ain't settlin'
データ(実績)を無視するわけにはいかないわ、ウチは妥協なんてしない
You want my spot, you gotta walk inside my Lettermans
ウチのポジションを奪いたいなら、ウチのレターマンジャケットを着て歩いてみな
※英語のイディオム「Walk a mile in someone's shoes(その人の立場になって経験する)」の応用。「Lettermans(レターマンジャケット)」は、アメリカの高校や大学で優秀な成績を収めたスポーツ選手(=勝者、エリート)だけが着ることを許されるスタジャンのこと。Doechiiがこれまでに経験してきた圧倒的なプレッシャーや努力(エリートとしての重圧)を体験してみろという強烈な煽り。
Talk shit, might get laid on my platter then
戯言を抜かすなら、ウチの皿の上に盛り付けて食っちまうわよ
※相手のヘイトやディス(Talk shit)を、自らを成長させるための「糧(食事)」として大皿(platter)に盛り付けて飲み込んでしまうという表現。相手を物理的に殺して料理するという猟奇的なメタファーも含んだアグレッシブなライン。
I'll snatch you out the sack you were smothered in
アンタが包まれて窒息しかけてるその袋から、引きずり出してやる
※無知で狭い世界(袋の中)に閉じこもっている有象無象のラッパーたちを、力ずくで現実世界(Doechiiが君臨する残酷なシーン)へと引きずり出すという、暴力的な啓蒙活動の比喩。
Who your favorite rapper? Well, let's get to stutterin'
アンタの好きなラッパーは誰? ほら、言葉に詰まってどもり始めたじゃない
※Doechiiを前にして、自分のお気に入りの(しかしDoechiiより遥かに劣る)ラッパーの名前を答えることに恐怖し、言葉を失う相手の姿を冷笑している。
Turn 'em into smithereens, taking all your dividends
アイツらを粉々に吹き飛ばして、配当金(利益)を全部かっさらってやる
※「smithereens(粉々)」と「dividends(配当金、利益)」で韻を踏みつつ、ラップゲームにおける他者のシェアや利益を物理的な破壊行為によってすべて強奪するというギャングスタ的な野望。
Make your life a living hell, treat you like you Zimmerman
アンタの人生を生き地獄にしてやる、まるでジマーマンみたいに扱ってやるわ
※ジョージ・ジマーマン(George Zimmerman)は、2012年にフロリダ州で当時17歳の黒人少年トレイボン・マーティンを射殺しながらも無罪判決を受けた元自警団員。この事件は全米でBlack Lives Matter運動の引き金となった。黒人コミュニティにとって最も憎悪すべき象徴であるジマーマンの名前を出すことで、「全米の黒人たちから永遠に憎まれ、命を狙われ続ける地獄のような日々」を相手に味わせてやるという、ブラックコミュニティ特有の最も残酷で重い呪いの言葉。フロリダ出身のDoechiiだからこそ、同じフロリダで起きたこの凄惨な事件をディスに用いることの文脈が極めて深く、重い。
Could've sworn I warned you, you just don't remember it
警告したはずだけど、アンタが覚えてないだけよ
Put 'em in the hot seat, I can see 'em sizzling
アイツらを電気椅子に座らせてやる、ジュージュー焼けるのが見えるわ
※「hot seat」は「厳しい追及を受ける立場」を意味するが、ここでは文字通りの「電気椅子(死刑執行)」のこと。「sizzling(肉が焼ける音)」を重ねることで、ジマーマンのラインから続く残虐な報復のイメージをさらに鮮明にしている。
Hoo, I gotta laugh
フゥ、笑いが止まんないわ
Your favorite local rapper drew the dirt out my bath
アンタのお気に入りのローカルラッパーなんて、ウチの風呂の垢すり係レベルよ
※地元でチヤホヤされている程度の「favorite local rapper」を、自分の入浴後の汚れたお湯(dirt)を抜く、あるいは垢をこすり落とす程度の卑しい召使い扱いすることで、圧倒的なヒエラルキーの差を突きつけている。
I'm dropping something light just so niggas feel my wrath
野郎どもにウチの怒り(実力)を分からせるために、ちょっと軽めのヤツを落としただけ
※ここまで超絶なスキルと過激なリリックを展開しておきながら、「これはまだ本気(全力)ではなく、軽くジャブを打っただけ(something light)」と豪語する、ラッパーとしての底知れぬポテンシャルを誇示する定番のパンチライン。
And usually I play nice, but niggas in my path
普段のウチは優しく振る舞ってるけど、野郎どもがウチの邪魔をするから…
Niggas in my—
野郎どもがウチの…
※曲の最後が意図的に途切れる(カットアウトされる)演出。邪魔者を文字通り「消し去った」直後であるかのような余韻を残し、不気味で唐突なエンディングを迎えている。
