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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Bills - Doechii 【和訳・解説】

Artist: Doechii

Album: Coven Music Session, Vol. 1

Song Title: Bills

概要

『Coven Music Session, Vol. 1』に収録された本作は、Doechiiがメインストリームに迎合せず、独自のスタイルでラップゲームを制圧するという野心と強烈な自己肯定感に満ちたバンガーである。ナイキのような量産型のラッパーたちを嘲笑い、自らを「新品のK-Swiss」に例えるなど、他者との明確な差別化を図っている。ミックステープ時代を象徴するTrap-A-Holicsのアイコニックなプロデューサータグをサンプリングしつつ、彼女は自身の価値に見合う対価(高級ステーキ、ロールス・ロイス、性的快楽、そして何よりもリスペクト)を容赦なく要求する。TDE契約前にすでに完成されていた、彼女のドミナントでアグレッシブなフロウと、ストリートのウィットが炸裂する傑作だ。

和訳

[Intro]

(Damn, son, where'd you find this?)
(マジかよ、どこでこれ見つけたんだ?)
※ヒップホップファンなら誰もが知る、2000年代〜2010年代のミックステープ時代を席巻したDJコレクティヴ「Trap-A-Holics」の伝説的なプロデューサータグのサンプリング。このタグを冒頭に配置することで、本作がアンダーグラウンドの泥臭さとトラップミュージックのクラシックな系譜を受け継いでいることをリスナーに強烈にアピールしている。

(Santiago Purp)
(サンティアゴ・パープ)

[Chorus]

I'ma spit it to you bitches straight like this
ビッチ共、ウチがこんな風にストレートに吐き出してやるよ

In a world full of Nikes, I'm a fresh K-Swiss (Damn, son, where'd you find this?)
ナイキだらけの世界で、ウチは新品のK-Swissなんだわ(マジかよ、どこでこれ見つけたんだ?)
※「Nike」は誰もが履いているメインストリームや没個性的な量産型ラッパーたちのメタファー。対して「K-Swiss」は、クラシックでありながらも玄人好みで、他とは明確に異なる独自のスタイルを持つ存在として自身を定義している。流行に流されず、常にフレッシュ(fresh)であることへの絶対的な自信の表れだ。

I be smoking hieroglyphs, y'all be smoking on them Swishers
ウチはヒエログリフを吸ってるけど、アンタらはスウィッシャーでも吸ってな
※「Swisher(Swisher Sweets)」は、コンビニで安価に買える葉巻(中身を抜いてマリファナを詰めるブラント用としてストリートで重宝される)のこと。「hieroglyphs(古代エジプトの象形文字)」は、古代の叡智や高次元の意識、あるいは解読が難しいほど複雑で上質なウィードの比喩。安物のブラントで満足している有象無象のラッパーたちと、スピリチュアルで高次元な領域にいる自身とを対比させた秀逸なパンチラインである。

I'ma keep it pushing, they gon' flip out when this switch up
このままガンガン押し進めるわ、ウチがギアを上げたらアイツらパニックになるからね

[Verse 1]

They don't wanna live right (Uh, ayy)
アイツら真っ当に生きる気なんてないのよ

They don't wanna listen when I shed light (Uh, ayy)
ウチが光を当てて(真実を教えて)やっても聞く耳持たないし
※「shed light(光を当てる、真実を明らかにする)」という表現を用いて、自身の音楽やリリックがシーンを啓蒙するものであると主張している。しかし、フェイクなラッパーたちは真実から目を背け続けているという苛立ちを示している。

Why they wanna find me? I don't know why (Uh, ayy)
なんでウチを探し回ってんの? マジで意味わかんないんだけど

Don't you wanna elevate your whole life? (Uh, ayy)
自分の人生、もっと底上げしたくないわけ?

I can see the fake, no I-spy
フェイクな奴らは丸見えよ、「I-spy(アイ・スパイ)」なんてしなくてもね
※「I-spy」は、英語圏の子供たちが遊ぶ「I spy with my little eye...(私の小さな目で〇〇を見つけた)」という探し物ゲーム。偽物の人間やセルアウトしたラッパーを見抜くのに、わざわざゲームのように目を凝らして探す必要すらないほど、彼らの薄っぺらさは明白であるという痛烈なディス。

Slap a nigga up, no high five
野郎に強烈な平手打ちを食らわす、ハイファイブじゃないわよ

Posted on the 'net, no wifi
ネットに陣取ってるのさ、Wi-Fiなんてなくてもね
※「Posted」はストリートのスラングで「ブロック(縄張り)に立ってハッスルしている状態」を指す。「'net」はインターネットのことだが、ここではストリートのネットワークや自身のコミュニティ(網)というダブルミーニングになっている。オンラインのバズ(Wi-Fi)だけに頼る現代のラッパーたちとは違い、オフラインの現場(リアルなストリート)でもしっかりと確固たる地位を築いているという矜持である。

They don't wanna live right (Uh, ayy)
アイツら真っ当に生きる気なんてないのよ

They don't wanna listen when I shed light (Uh, ayy)
ウチが光を当ててやっても聞く耳持たないし

Doechii got woes, Doechii got bros
Doechiiには悩みもあるし、ブラザーたちもいる
※「woes」は悲しみや苦悩を意味するが、ドレイクの楽曲「Know Yourself」以降、ヒップホップコミュニティでは「自身のクルーや仲間(Working On Excellenceの略とも言われる)」を指すスラングとしても定着している。光と影、孤独と連帯の両面を抱えている複雑な人間性を提示している。

Doechii got friends, Doechii got foes
Doechiiにはダチもいるし、敵もいる

Suit a nigga up, Doechii got clothes
野郎をビシッと着飾らせてやる、Doechiiには服(センス)があるから

Put a nigga on, Doechii got shows
野郎をフックアップしてやる、Doechiiにはショー(ステージ)があるから
※「Put someone on」は、無名のアーティストにチャンスを与えたり、トレンドを教えたりするストリートの言い回し。自分がシーンを牽引し、他人に影響や仕事を与える側の「ボス」の立場にあることをフレックス(誇示)している。

Doechii got deals, fuck how you feel
Doechiiはディール(契約)を掴んでる、アンタの機嫌なんて知ったこっちゃないわ

Nigga, this the price, take it how it is
ザーコ、これがウチの対価よ、そのまま受け取りな

Doechii need a break, Doechii need a sirloin steak (Uh, ayy)
Doechiiには休みが必要、サーロインステーキも必要ね

Doechii need a key to your Wraith (Uh, ayy)
Doechiiにはアンタのレイスの鍵が必要よ
※「Wraith(レイス)」は超高級車ロールス・ロイスのクーペモデル。ヒップホップにおける究極の富と成功の象徴であり、男に頼るのではなく、自らの圧倒的な価値の対価としてトップクラスのラグジュアリーを当然のように要求している。

Doechii need a goddamn tape and a goddamn date and her ass ate up like cake
Doechiiにはイケてるミックステープと、最高のデートと、ケツをケーキみたいに食べ尽くされることが必要なの
※金や物質的な成功だけでなく、音楽的評価(tape)、ロマンス(date)、そして自身の性的欲求を満たすオーラルセックスを赤裸々に要求している。男性優位のヒップホップシーンにおいて、女性ラッパーが自身のセクシュアリティの主導権を握り、欲望を隠さずにアグレッシブに表現する現代的なフィーメイル・エンパワーメントの象徴的なラインだ。

Doechii save lives, Doechii need a goddamn cape
Doechiiは命を救ってるんだから、マントが必要でしょ
※自分の音楽が退屈なラップシーンや、抑圧されたリスナーたちを救済しているスーパーヒーローのような存在であると定義づけ、それに相応しい特注のマント(名誉)を求めている。

Doechii need her goddamn thanks, bitch
Doechiiには感謝の言葉が必要なのよ、このビッチが