Artist: XXXTENTACION (feat. Kinoul & Killstation)
Album: Revenge
Song Title: Slipknot
概要
本作は、ミックステープ『Revenge』およびXXXTENTACIONが主宰するヒップホップ・コレクティヴ「Members Only」のコンピレーション・アルバム『Members Only, Vol. 3』に収録された極めて内省的な一曲だ。プロデューサーP. Soulによる、メロウなピアノのループを基調とした90年代風ジャジー・ブームバップのトラックを採用しており、初期のローファイで破壊的なトラップ・サウンドとは一線を画す彼の音楽的引き出しの多さを証明している。タイトルの「Slipknot」は、彼が深く敬愛する同名のニューメタル・バンドへのオマージュであると同時に、「slip not(滑り落ちない)」という自身の不屈の精神を表す秀逸なダブルミーニングとなっている。歌詞では、重度の自己嫌悪や希死念慮、母親への複雑な愛情と深い謝罪、そして仲間に対する自己犠牲が赤裸々に語られ、彼が単なるサウンドクラウド・ラッパーの枠に収まらない、卓越した表現力を持つリリシストであったことを知らしめる音楽史における重要作である。
和訳
[Intro: XXXTENTACION]
Uh
アー
Yeah
イェー
Members Only, Volume...
メンバーズ・オンリー、ボリューム…
Volume 3
ボリューム3
※Xが率いる南フロリダのコレクティヴ「Members Only」のコンピレーション・アルバム第3弾『Members Only, Vol. 3』に収録されることを示唆している(本作は後に『Revenge』にも収録された)。
P. Soul on the track
P. Soulのトラックだ
※プロデューサーP. Soulのプロデューサータグ。本作の激しいディストーションベースを排したジャジーなブームバップ・スタイルは、Xのヒップホップにおけるクラシックなルーツを明確に示している。
Uh
アー
[Chorus: XXXTENTACION]
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
※「slip not(滑らない)」とニューメタル・バンド「Slipknot」を掛けた高度なワードプレイ。Slipknotは仮面を被って狂気や疎外感を表現するバンドであり、Xもその精神性に深く共鳴していた。自分がどれだけ精神の闇に苛まれても、完全に墜落(fall/slip)することだけは拒絶するという彼なりの強烈な決意表明だ。
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
I won't be, dead, misled ahead, I never break, uh
俺は死なねえ、先を誤らねえ、絶対に壊れたりしねえよ、アー
※鬱病や周囲の悪意によって自身が押し潰されること(break)への必死の抵抗。彼の楽曲の根底に流れる「生と死の境界線」でのギリギリの精神的闘争が言語化されている。
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
Won't fall, my nigga, I slip not, uh
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
I won't be, dead, misled ahead, I never break, uh
俺は死なねえ、先を誤らねえ、絶対に壊れたりしねえよ、アー
[Verse 1: XXXTENTACION]
Lost in the pessimistic state of perception
悲観的な認知の状態に迷い込んじまってる
※心理学的な「認知の歪み(Cognitive distortion)」への言及。Xが日常的に抱えていた重度の抑うつ状態と、物事をすべてネガティブに捉えてしまう自らの脳の構造に対する客観的かつ冷徹な分析である。
It's been hard to participate in natural instances and
当たり前の日常に参加することすらキツいんだ
※鬱病がもたらす無気力感や解離症状のリアルな描写。普通の人々が享受しているような何気ない出来事(natural instances)にさえ溶け込めない深い疎外感。
Due to my history, I don't know what's next for me, but
俺の過去のせいで、この先どうなるか分かんねえけど
※少年院への収監、暴力事件、ネグレクトなどのトラウマに満ちた過去(history)が、自分の未来に暗い影を落とし続けていることへの恐怖と諦念。
Keep my composure, fuck over anyone next to me
冷静さを保ちながら、隣にいる奴をぶっ潰すのさ
※自分を守るために他者を先制攻撃するという、ストリートの過酷な環境で培われた防衛機制とパラノイア(偏執病)。親しい人間(next to me)さえも信じきれず、自ら関係を破壊してしまうという悲しい業を示唆している。
If dean detriment told me love was for negligent
もし破滅の長(ディーン・デトリメント)が「愛なんて怠け者のもんだ」って言うなら
※「dean detriment」はReddit等で頻繁に議論される不可解なフレーズ。「detriment(損害、破滅)」を擬人化し、心の中に住まう悪魔的な囁きや自己破壊衝動の主導者(Dean)として表現しているとする考察が極めて有力である。
Motherfuckers that can't seem to keep aware in they head
頭ん中で意識を保てねえようなクソ野郎どものことさ
I'm not self-aware, I'm misled, I'm a hypocrite like the rest
俺も自己認識できてねえし、道を誤ってるし、他の奴らと同じ偽善者だよ
※強烈な自己批判。自分の弱さや矛盾を一切隠さず、自らを「偽善者(hypocrite)」だと断罪するこの圧倒的な自己開示の姿勢こそが、リスナーとの間にカルト的なまでの信頼と共感を生み出した最大の要因である。
I will kill myself if it benefit all of my fucking friends
ダチ全員のためになるなら、俺は自殺だってしてやるよ
※Xの異常なまでの仲間への帰属意識と、自己犠牲を伴う希死念慮の結びつき。「自分が死ぬことで愛する者たちに利益をもたらせるのではないか」という極端に歪んだ愛情表現であり、彼の精神の限界状態を示している。
[Pre-Chorus: XXXTENTACION]
I'm sorry, mama, I didn't mean to fucking hurt you
ごめんよ、ママ、あんたを傷つけるつもりじゃなかったんだ
※実母Cleopatra Bernardへの悲痛な謝罪。Xは幼少期に素行不良により母の元を追い出され、祖母に育てられた背景を持つ。母からの愛に飢えつつも、犯罪等で母を苦しめてしまった過去への深い後悔が綴られている。
If I could test my worth, I'll show you heaven on this earth
もし俺の価値を証明できるなら、この地球で天国を見せてやるよ
※ラッパーとしての成功によって莫大な富と名声を手に入れ、母に最高の生活(heaven)を与えるという誓い。裏を返せば、物質的な成功を通して母に「自分の存在価値(worth)」を認めてほしいという切実な承認欲求の表れである。
So if alive or in the dirt, I swear to God, you'll be my first priority
だから、生きてようが土の中だろうが、神に誓ってあんたが最優先だ
※「in the dirt」は埋葬された状態、つまり死の隠喩。自分が死んでもなお母への愛は揺るがないという、ほとんど呪いにも似た強烈な愛着と執着。
Before the hurt, that mean for better or for worse
傷つく前に、つまり良くも悪くもってことさ
I said, I didn't mean to fucking hurt you
言ったろ、あんたを傷つけるつもりじゃなかったんだ
If I had to test my worth, I'll show you heaven on this earth
もし俺の価値を証明しなきゃならねえなら、この地球で天国を見せてやるよ
So if alive or in the dirt, I swear to God, you'll be my first priority
だから、生きてようが土の中だろうが、神に誓ってあんたが最優先だ
Before the hurt, that mean for better or for worse
傷つく前に、つまり良くも悪くもってことさ
I said
言ったろ
[Chorus: XXXTENTACION]
Won't fall, my nigga, I slip not, uh
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not, uh
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
I won't be, dead, misled ahead, I never break, uh
俺は死なねえ、先を誤らねえ、絶対に壊れたりしねえよ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not, uh
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not, uh
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ、アー
Won't fall, my nigga, I slip not
俺は落ちぶれねえよ、ブラザー、滑り落ちたりしねえ
I won't be, dead, misled ahead, I never break, uh
俺は死なねえ、先を誤らねえ、絶対に壊れたりしねえよ、アー
[Verse 2: Kinoul]
Through the soulless pit, I never slip, I get a grip
魂のないどん底を抜けても、俺は絶対に滑り落ちねえ、しっかり掴まってるぜ
※Members Onlyの一員であるKin$oulのバース。Xのフック「I slip not」に対する応答であり、ストリートの過酷な環境や心の闇(soulless pit)に飲み込まれず、自らの手で運命を掴み取る(get a grip)という意志の表明。
My mind drift to a place where the devil lives
俺の意識は悪魔が棲む場所へと漂っていく
※ドラッグの乱用による幻覚、あるいは抑うつによる暗く危険な思考の深淵へと落ちていく状態の描写。
My soul rise to a sky made of abyss
俺の魂は深淵でできた空へと昇っていくんだ
※「空(上昇・解放)」というポジティブなイメージと、「深淵(暗闇・墜落)」というネガティブなイメージを組み合わせたオクシモロン(撞着語法)。昇天しているようでいて、実はさらに深い闇に沈み込んでいるという矛盾したスピリチュアルな体験。
With the evidence that I made with the elements
俺がエレメントどもと作り上げた証拠を手にしてな
※「elements」はヒップホップを構成する要素や自然の四元素を指すと同時に、共に音楽を創り上げるMembers Onlyの同志たちを指している。
Fuck your settlement, let's settle this now, we tearing it down
お前らの和解案なんかクソ食らえだ、今ここでケリをつけようぜ、ぶっ壊してやるよ
We make these incredible sounds we cherishin' now
俺たちは今大切にしてる、この信じられないようなサウンドを作り出してるんだ
The pain that was never announced, we singin' it out
誰にも言えなかった痛みを、俺たちは歌い上げてる
※これこそがエモ・ラップ、そして彼らのコレクティヴのコアにある哲学である。社会からは無視され、公には口に出せなかったトラウマや心の傷を、音楽に乗せて解放している。
They look around confused like they ain't figure it out
奴らは何が起きてるか分からねえって顔で、混乱して周りを見回してるぜ
※トラウマや鬱を赤裸々に歌う彼らの新しいムーヴメントを理解できず、置き去りにされているメインストリームのリスナーや古い世代への痛烈な皮肉。
[Outro: Killstation]
Oh, you can't run away
あぁ、お前は逃げられない
※Xの盟友であるKillstationによるアウトロ。彼の幽玄でゴーストのような歌声は、Xの心の奥底から響く「もう一つの内なる声(良心や呪い)」のようにも機能している。
From everything you made
自分が作り出したすべてのものからは
※自分の過去の過ち、ストリートでの暴力、あるいは自らが築き上げた名声やカルマの連鎖からは、決して逃れられないという残酷な運命論。
You try to erase
お前は消し去ろうとするけれど
The memories will fade
記憶はいずれ薄れていくんだ
※トラウマや痛みもいつかは時間と共に薄れていく(fade)という微かな救済と、それでも過去の因果という根本からは逃れられないという絶望が入り混じる、極めて美しくも虚無的なエンディングである。
