Artist: Royce Da 5'9"
Album: Boom / Soldier’s Story
Song Title: Boom (Radio Version)
概要
1999年にリリースされたRoyce Da 5'9"の代表曲であり、ヒップホップ界の至宝DJ Premierがプロデュースを手掛けたデトロイト・アンダーグラウンドの金字塔的クラシック。本作は、Marc Hannibalの「Forever Is a Long, Long Time」からサンプリングされた不吉な「時計の秒針音(チクタク音)」のループ上で、Royceが精密機械のようなフロウと高度なダブルミーニングを展開する。エミネムとのデュオ「Bad Meets Evil」で知名度を飛躍させた直後の彼が、自身が単なる「エミネムの相棒」ではなく、比類なきリリシストであることを世に証明した一曲である。本作はラジオ向けのエディット版(Radio Version)であるが、ストリートの過酷な現実、ビギーやビッグLといったレジェンドへの言及、そして自らの圧倒的なスキルに対する矜持が、一切の隙のない言葉遊びによって徹底的に表現されている。
和訳
[Intro]
Uh, boom
あぁ、ドカン
Tick, tick, tick
チクタク、チクタク
※DJ Premierのビートを象徴する時計の秒針音。時限爆弾(Boom)が爆発するまでのカウントダウンを表現している。
Yeah
イェー
5’9, uh
5'9"(ファイブ・ナイン)、あぁ
Yo
ヨー
[Verse 1]
I'm the verbal-spit Smith & Wesson
俺は言葉を吐き出すスミス&ウェッソンだ
※「Smith & Wesson」は米国の代表的な銃器メーカー。自身のラップ(verbal-spit)を銃弾に見立てる、ヒップホップにおける伝統的なメタファーである。
I unload with sick spit
ヤバいツバ(ラップ)を全弾ブチ込むぜ
※「unload」は「(銃の)弾倉を空にする=全弾撃ち尽くす」という意味。sick spitは「病的なほどヤバいラップ」を指す。
The quick wit could split a split-second
俺の頭の回転の速さなら、一瞬のそのまた隙間すら切り裂ける
※「split a split-second」という高度な言葉遊び(Wordplay)。「split-second(ほんの一瞬)」をさらに「split(分割する)」ほどの神速の機転(quick wit)を持っているという圧倒的な誇張表現である。
Bomb with a lit wick expression
導火線に火がついた爆弾みたいなツラでな
※「lit wick」は火のついた導火線。自身のハングリーな切迫感や怒りを、爆発寸前の爆弾に例えている。タイトル「Boom」への巧みな伏線。
You here a tick tick then you testin'
「チクタク」って音が聞こえたら、俺を試してるってことだ
※入力歌詞の「here」は「hear」と同義のタイポとして解釈。DJ Premierのビートの時計音を直接歌詞に取り込み、敵対するラッパーがRoyceの実力を試す(test)行為自体が、時限爆弾のスイッチを入れる自殺行為だという警告。
My saliva and spit can split thread into fiber and bits
俺の唾液とラップは、1本の糸を繊維のチリにまで切り裂くんだ
※前の行の「split」のライムスキームを引き継いでいる。極細の糸(thread)をさらに微小な繊維(fiber)にまで解体するほど、自身のフロウが鋭利で精密であることを誇示している。
So trust me, I'm as live as it gets
だから信じな、俺は誰よりも現場でヤバいぜ
Everybody claiming they the best and they head the throne
誰もが「俺が最強だ」「王座に就く」ってほざいてるが
※ヒップホップにおける「King of New York」などの覇権争いに対する冷笑。誰もがトップを自称する状況を俯瞰している。
Since B.I.G is gone, if you ask me, they "Dead Wrong"
ビギーが死んでからな。言わせてもらえば、そいつらは「完全に間違ってる」ね
※1997年にThe Notorious B.I.G.(ビギー)が暗殺されて以降のシーンの混乱を描写。さらに1999年にリリースされたビギーの遺作アルバム『Born Again』収録の楽曲「Dead Wrong」(エミネムをフィーチャー)を引用した秀逸なダブルミーニングである。
My flow is hotter than the flash from the click
俺のフロウは、引き金を引いた時の閃光よりも熱い
※clickは銃の撃鉄の音。銃口から出るマズルフラッシュ(閃光)よりも自身のラップが熱い(ヤバい)という表現。
When the hammer slaps the bullet on the ass from the clip
撃鉄がクリップから出た弾丸のケツを引っ叩く時にな
※弾丸が発射される機械的なプロセス(撃針が雷管を叩くこと)を「弾丸のケツを引っ叩く(slaps the bullet on the ass)」という生々しくストリートな擬人化で表現している。Royceの映像喚起力の高さが光るラインである。
You wind up in a room full of my dogs
お前は俺のダチがうようよいる部屋に迷い込むことになる
※dogs(dawgs)は「仲間、ストリートの兄弟」を意味するスラング。
I'll have you feeling like a fire hydrant in a room full of dogs
犬だらけの部屋にポツンと置かれた消火栓みたいな気分にさせてやるよ
※前行の「dogs(仲間)」と「本物の犬」を掛けた極めて秀逸なパンチライン。犬は消火栓(fire hydrant)に小便をかける習性があるため、「俺の仲間たちから一斉に小便をかけられる(=徹底的に見下され、リンチされる)哀れな状態」をユーモラスかつ脅威的に描いている。
So come, come now, get pissed on, shitted on
だから来いよ、小便ひっかけられて、クソを塗りたくられてみな
Tough talk turns to, "Can't we all just get along"
タフな口叩いてた奴も「みんなで仲良くできないのか?」って泣きを入れるのさ
※1992年のロサンゼルス暴動の際、警察官から激しい暴行を受けたロドニー・キング(Rodney King)が発した有名な平和への呼びかけ「Can we all get along?」を引用。イキっていたラッパーが、圧倒的な実力差の前に屈して和解を求めてくる惨めな様子を皮肉っている。
You get blazed when the mic's off, shot when it's on
お前はマイクがオフの時は葉っぱでハイになって、オンになったら銃で撃たれるんだ
※「blazed」は「大麻でハイになる」と「銃で撃たれる」のダブルミーニング。「shot」も「銃撃される」と「カメラ等で撮影される、チャンスを掴む」の掛詞とも取れる。「ストリート(マイクオフ)でも、ラップゲーム(マイクオン)でも俺にボコボコにされる」という文脈である。
You probably ducked when they laid the gun shot in your song
お前ら、自分の曲に銃声の効果音を入れた時すらビビって伏せただろ
※フェイクなギャングスタ・ラッパーに対する痛烈なディス。「俺は本物のストリートを知っているが、お前らはスタジオの安全な環境で作られたただの銃声SEにすらビビるような偽物だ」という嘲笑。
My gun — stutters when it speaks to you
俺の銃がお前に話しかける時は「ド・ド・ド」ってどもるんだ
※フルオートマチック銃の連射音(タタタタという音)を、銃が「どもりながら話す(stutters)」と表現する素晴らしいメタファー。The Notorious B.I.G.の「Kick In The Door」における銃撃を示唆する吃音フロウへのオマージュとも考察されている。
Utter shit to repeat to you
お前に向かって同じヤバい言葉を何度も繰り返すんだよ
※銃が連射されるように、弾丸という「言葉」を敵の体に何度も撃ち込む(repeat)という表現。
Nothing the clip, then give a speech to you
クリップを空にして、お前にスピーチしてやるよ
※ストリートバージョンの「'Nough in the clip(弾は十分にある)」とは異なり、こちらは「Nothing the clip(クリップを無にする=撃ち尽くす)」というニュアンスになっている。全弾を撃ち込む行為自体が相手への「スピーチ(説教)」であるというメタファー。
Me and Premier, we kind of the same in ways
俺とプレミアはある意味で似た者同士なんだ
※この曲のプロデューサーである伝説的ビートメーカー、DJ Premierへのシャウトアウト。
We both speak with our hands in dangerous ways
どっちも両手を使って危険な方法で語りかけるからな
※DJ Premierはターンテーブルの上で「手を使って」スクラッチやビートメイクをし、Royceは「手を使って」銃の引き金を引き(あるいはリリックを書き)、共にヒップホップシーンにおいて致命的(dangerous)な影響力を持っているという鮮やかな対比。
Rap now is a circus of clowns
今のラップゲームはピエロだらけのサーカスだ
※実力のないラッパーばかりが売れ線に走る、当時のメインストリームを批判している。
A whole lot of lip from cliques I'd probably rap circles around
俺なら余裕でラップで周りをグルグル回れるような連中が、口ばかり達者なんだよ
※「run circles around (someone)」は「(相手を周回遅れにするほど)圧倒的に勝つ」という慣用句。これを「rap circles around」と言い換え、スキル面で他のクルー(cliques)を赤子扱いできると豪語している。
I'm the next best to reach a peak formerly known
俺が次に頂点を極める最有力候補さ、かつては
As the best kept secret, I guess that I just leaked it
「トップシークレット」として知られてたが、どうやら俺自身でバラしちまったみたいだな
※前行から続くセンテンス。「the best kept secret(誰も知らないが最高のもの)」という自身のアンダーグラウンドでの立ち位置を、この曲(Boom)で圧倒的なスキルを見せつけることで自ら情報漏洩(leak)し、世間に知らしめてしまったという痛快なパンチライン。
[Chorus]
"Tragic like the havoc of a nuclear bomb"
「核爆弾の惨状のような悲劇」
※ハーレムの伝説的ラッパーBig Lの歴史的クラシック「Ebonics」からのサンプリング(ボーカルスクラッチ)。DJ Premierの十八番である手法。
"Boom, boom, bam, God-damn!"
「ドカン、ドカン、バン、クソッタレ!」
※アングラシーンで支持されたラッパーAfu-Raの楽曲「Defeat」からのサンプリング。Afu-RaもDJ Premierと頻繁にコラボしていたアーティストである。
"Royce 5'9"
「ロイス・ファイブ・ナイン」
※Royce自身によるセルフタイトル・ネームドロップ。DJ Premierの巧みなスクラッチにより曲のシグネチャーとなっている。
"Tragic like the havoc of a nuclear bomb"
「核爆弾の惨状のような悲劇」
"Boom, boom, bam, God-damn!"
「ドカン、ドカン、バン、クソッタレ!」
"Royce 5'9"
「ロイス・ファイブ・ナイン」
[Verse 2]
I'm a motherfuckin' star, I don't battle no mo'
俺はクソヤバいスターだ、もうバトルなんてしねぇよ
※Royceは元々デトロイトのバトルシーンで名を馳せたMCだが、エミネムとの『Bad Meets Evil』の成功などでメインストリームのアーティストとしての地位を確立したため、路上のMCバトルからは卒業したという宣言。
I provide the gun clapping a round of applause after your show
お前のライブが終わった後、銃声のスタンディングオベーションを贈ってやるよ
※「round of applause(割れんばかりの拍手)」と「gun clapping(銃を撃つ音)」を掛けた恐ろしくも秀逸なライン。拍手喝采の代わりに弾丸の雨を降らせるというギャングスタな脅し。
We can go toe-to-toe cause they calling you hot
周りがお前のことヤバいって持ち上げてるから、サシで勝負してもいいぜ
※toe-to-toeはボクシングなどで「真っ向からの殴り合い、接近戦」を意味する。
Stepping around all your punches like, "That's all you got?"
お前のパンチを全部かわしながら「おっと、それで全力か?」って笑ってやる
※ボクシングのフットワーク(stepping around)と、ラップバトルの「パンチライン」を掛けている。相手のリリックの攻撃を軽々といなし、ダメージを全く受けないという余裕の表れ。
Everyday I'm meeting somebody and all of they peeps
毎日毎日、誰かさんやらその取り巻きの連中と顔を合わせるけど
※peepsはpeopleの略で「仲間、取り巻き」。
Quick to shake a nigga's hand and show me all of they teeth
どいつもこいつもすぐ握手求めてきて、作り笑い浮かべやがる
※「show all of they teeth」は歯を見せて笑う=愛想笑いや媚びへつらいを示す。名声を得た途端に擦り寄ってくるフェイクな業界人やラッパーたちへの嫌悪感。
And these bitches, I be patting they asses
で、群がってくるビッチどもさ、俺はそいつらのケツを叩いてる
※ラジオ版では放送コードに引っかかりやすい単語だが、ここではそのまま歌われている。名声によって寄ってくる女性ファンを適当にあしらっている描写。
They be all dumb and googly-eyed looking at me, batting they lashes
あいつら頭空っぽで、目を丸くして俺を見つめながらまつ毛をパチパチさせてやがる
※googly-eyedは「(恋や憧れで)目を丸くして見つめる」状態。女性たちがRoyceに夢中になっている様を皮肉混じりに描いている。
Rappers think Detroit niggas not as down as them
他のラッパーどもは、デトロイトの奴らが自分らほどハードじゃないって勘違いしてる
※当時のヒップホップはNYやLA、南部が主流であり、デトロイトのシーンは下に見られがちだった。しかしデトロイトは全米屈指の犯罪率を誇るハードな街であり、そのリアルさを舐めるなという地元への強烈なプライド。
Or since I'm down with Slim that I sound like him
それか、俺がスリムとツルんでるから、あいつみたいなラップするって思ってやがる
※「Slim」とはエミネム(Slim Shady)のこと。エミネムとのコラボで有名になったため、「エミネムの金魚のフン」や「クローン」扱いしてくるヘイターやメディアに対する強烈な反論。
Quick to judge me and tell me that my might sell
すぐに俺を評価しやがって、「お前の曲なら売れるかもな」なんて抜かしやがる
※入力歌詞では「my might sell」となっている(ストリート版では「my hook might sell」)。文脈としては「お前のスタイル(あるいはフック)ならメインストリームで売れるかもな」という業界人からの上から目線の評価に対する苛立ち。
And say faggot shit to me like I look like L
挙げ句の果てに「Big Lに似てるね」みたいな女々しい戯言までほざくんだ
※非常に複雑な背景を持つライン。1999年に銃殺されたハーレムの伝説的ラッパーBig LとRoyceは容姿が似ていると当時よく言われていた。RoyceはフックでBig Lをサンプリングするほどリスペクトしつつも、「顔が似ている」というアイドル的な(faggot shit)目線で語られること、あるいは自分が誰かの代用品として見られることへの強い拒絶を示している。
My advice: quit talking, it's over
俺からのアドバイスだ、おしゃべりはやめな、もう終わりだ
I was knocking niggas out when you was knocking sticks off of their shoulders
お前らが肩に置いた木の枝を叩き落とすような子供の喧嘩をしてた頃、俺はマジで野郎どもをノックアウトしてたんだよ
※「knock a stick off someone's shoulder」は「(喧嘩を売るために)肩に置いた小枝を叩き落としてみろと挑発する」という子供の喧嘩の典型的なフレーズ。お前らがガキのお遊びをしている時に、自分はストリートで本物の修羅場をくぐってきたという経験値の差を見せつけている。
I got dirt done in my past, I know y'all sweat
俺の過去には汚れ仕事の数々がある、お前らがビビって冷や汗かいてるのも知ってるぜ
※dirtは「犯罪、悪事」。過去の過酷なストリートライフを生き抜いてきたリアルさを語っている。
I got regrets older than some of you so called vets
俺が抱えてる後悔の歴史は、自称「ベテラン」の何人かの年齢よりも古いんだよ
※「ベテラン」を名乗る中身のないラッパーたちの人生経験よりも、俺がストリートで抱えた過去の過ちや後悔の方がずっと深い年季が入っているという重みのあるパンチライン。
Niggas say I found God with the flow
ヘイターどもは、俺のフロウは神がかりすぎてるなんて言いやがる
※直訳は「俺がフロウを通して神を見つけたと言う」。自身のラップスキルが宗教的・神聖なレベルに達しているという周囲からの評価。
Bring the police to the studio and bring the bomb squad to the show
スタジオには警察を、ライブには爆発物処理班を呼んどけよ
※俺のラップがあまりにもキリングで「爆弾(Boom)」のように危険だから、レコーディングスタジオに警察、ライブ会場に爆弾処理班(bomb squad)が必要になるという極端な誇張。
Ain't a nigga touching mines
俺の領域に触れられる奴なんていねぇよ
※minesはmy shit(俺の作品、俺のスキル)のストリート訛り。
When you listen to my shit - you don't chew, you don't breathe
俺の曲を聴く時は、モノを噛むな、息もするな
※自身のラップが極限まで緊迫感にあふれ、リスナーが文字通り息を呑んで聴き入ってしまう(一瞬も聞き逃せない)状態を表現している。
You'll miss a fucking line
一言半句たりとも絶対に聴き逃すなよ
Every time I spit, I tick to show you it's hot
俺がラップを吐くたびに「チクタク」鳴って、どれだけヤバいか教えてやるよ
※再びビートの「チクタク音」に回帰。自分のライムが時限爆弾のタイマーであることを示している。
Leave me in the deck too long I blow up your box: boom!
カセットデッキに俺のテープを長く入れたままにしとくと、お前のラジカセごと吹き飛ばすぜ、ドカン!
※「deck」はカセットデッキ、「box」はブームボックス(ラジカセ)。テープ自体が熱を持って爆発するという比喩表現。最後はタイトルの「Boom!」で見事に回収して曲を完璧に締める。
