Artist: Lil Nas X
Album: October 31st
Song Title: Same Shit (Freestyle)
概要
2018年発表のEP『October 31st』に収録されたフリースタイル楽曲。世界的ヒット「Old Town Road」でブレイクを果たす直前のLil Nas Xが、自身の現状へのフラストレーションと、近い将来の成功への確信をスピットした野心的なトラックである。インターネット上のミームクリエイターから本物のラッパーへと羽ばたこうとする過渡期にあり、レコード会社(オークション)からの注目を集め始めている状況が赤裸々に綴られている。デビッド・ブレインやフェリス・ビューラーといったポップカルチャーからの引用、そして「bars(リリックの小節/鉄格子)」を用いた古典的なワードプレイなど、彼の高い言語センスとオタク的な知性が光る。群雄割拠のSoundCloudラップシーンにおいて、量産型のラッパーたちを冷笑し、自身がトップに立つことを宣言した重要作だ。
和訳
[Verse]
Caught up in the same shit
いつもと同じクソみたいな状況にハマってる
※世界的ブレイク前の彼が、現状のパッとしない生活やアンダーグラウンドのシーンに停滞していることへのフラストレーション。
Tryna keep it low until I get the fame shit
名声を手に入れるまでは、目立たないように大人しくしてるのさ
Get the yens, find my yin to my yang shit
円(金)を稼いで、俺の陽に対する陰(パートナー)を見つけるんだ
※「yens(日本の通貨である円=金)」と、東洋哲学の「yin and yang(陰と陽)」を掛けた秀逸なワードプレイ。彼がアニメ等の日本文化やネットミームに精通しているバックグラウンドが窺える。
With the gang, but I don't really bang shit
ギャングとつるんではいるが、マジでギャングバンギング(犯罪行為)をやってるわけじゃねえ
※「bang」はギャングの抗争や発砲を指す。当時のトラップシーンで蔓延していた「ギャングスタのフリ(キャップ)」をするのではなく、自分はあくまで音楽をやるネット出身の人間であるという素直な自己言及。
Uh, they bidding on me like an auction
あぁ、奴らはオークションみたいに俺に値をつけてやがる
※彼がネット上でバズり始め、複数のレコードレーベルが契約金(アドバンス)を提示して彼を奪い合っている状況(入札戦争)を比喩している。
Pretty soon, I’ma be they top option
もうすぐ、俺が奴らの最有力候補(トップ・オプション)になるぜ
Tell my jeweler, get the cooler when the rocks done
俺の宝石商に伝えておけ、石(ダイヤ)が仕上がったらクーラーボックスを用意しろってな
※ヒップホップにおいてダイヤモンドは「氷(Ice / Rocks)」と呼ばれる。あまりにも大量のダイヤ(氷)を身につけるため、冷やしておくためのクーラーが必要だという大げさなフレックス。
No school, Ferris Bueller, I'm a hot one
学校はサボりだ、フェリス・ビューラーみたいにな。俺はイケてるからな
※1986年のカルト映画『フェリスはある朝突然に(Ferris Bueller's Day Off)』の主人公フェリス・ビューラーへの言及。Lil Nas X自身も音楽の道へ進むために大学を中退しており、学校に行かずとも成功を掴む自分の現状と重ねている。
Uh, they ain't shit, and they remain shit
あぁ、奴らは大したことねえし、クソのままだ
They miss, they aimless
奴らは的外れで、目的もねえ
Disdain, they main hits
奴らの最大のヒットは、軽蔑されることだけさ
They all the same shit
奴らはみんな同じようなクソだ
All the same hit
どれも同じようなヒット曲ばかりだ
※当時のSoundCloudラップシーンにおいて、似たようなフロウやビートを量産する没個性的なラッパーたちへの痛烈な批判。
They disappear in a year on that Blane shit
奴らはブレインみたいに、1年で消えちまうのさ
※世界的に有名なイリュージョニスト、David Blaine(デビッド・ブレイン)の引用。一発屋(One-hit wonder)のラッパーたちがマジックのようにあっという間にシーンから姿を消す様を皮肉っている。
These niggas is coughin’, yes, I kill often
奴らは咳き込んでる、あぁ、俺はしょっちゅう殺してるからな
※「coughing」は病気や弱さの象徴、あるいは大麻を吸って咽せている状態。「kill」はビートを完璧に乗りこなすこと。自分の圧倒的なスキルが他者を圧倒(殺害)しているという比喩。
They say they got bars
奴らは「俺にはバーがある」って言うが
Where is the warden?
刑務所長はどこにいるんだ?
※ヒップホップにおける「bars」は「リリックの小節(優れたパンチライン)」を意味するが、それを「刑務所の鉄格子(bars)」と捉え直し、「鉄格子があるなら刑務所長(warden)がいるはずだろ」と茶化す、非常にクラシックで知的なダブルミーニング。
I ball like Boston
俺はボストンのようにボール(成功)をするぜ
※NBAの名門チーム「ボストン・セルティックス」と、「ball(バスケをする/大金を稼いで成功する)」を掛けた定番のスラング。
Just keep on, just scorin'
ひたすらスコアを稼ぎ続けるのさ
I am who they sleep on, they snorin'
奴らがスルーしてる(寝てる)のは俺のことだ、イビキまでかいてやがる
※「sleep on」は才能を過小評価する、気づかないことのAAVE。世間が自分の才能に気づかず完全に熟睡(snoring)している状態を冷笑している。
Sometimes I really hate switching my flow up
時々、フロウを変えるのが本当に嫌になるんだ
'Cause I know these niggas could rip it and blow up
だって、俺のフロウをパクってブレイクする奴らがいるって分かってるからな
※「rip」は盗む、パクること。自分の生み出した斬新なフロウやスタイルを、実力のない他のラッパーたちが盗んで安易に成功(blow up)していく業界の構造への苛立ち。
I'm really out here working hard for my glow up
俺は自分のグロウアップ(成功して輝くこと)のために、ここでマジで必死に働いてんだ
Broke shit make me sick, make me cough, make me throw up
貧乏くせえ事柄にはヘドが出る、咳き込むし、吐き気がするぜ
Can't fuck with these niggas, they pussy, they petty
こんな奴らとは関われねえよ、腰抜けで器が小せえからな
That top spot for taking, they book me, I'm ready
あのトップの座は俺が奪うためにある、ブッキングされたら、準備は万端だ
They said you was next? Well, they must never met me
奴らはお前が次にブレイクするって言ってたのか? まぁ、そいつらは俺に会ったことがないんだろうな
I'm saucing on niggas, Ragu, like spaghetti
俺は奴らの上でソースをぶっかける、スパゲッティのラグーみたいにな
※「sauce(saucing)」は抜群のセンスやスワッグ(魅力)を持っていることを意味するスラング。それを文字通りのパスタソースである有名ブランド「Ragu(ラグー)」のスパゲッティと掛けて、曲をユーモラスに締めくくっている。
