Artist: Lil Nas X
Album: NASARATI
Song Title: Donald Trump
概要
2018年にリリースされたLil Nas Xのデビューミックステープ『NASARATI』収録のアグレッシブなトラップ・バンガー。世界的ブレイクを果たす前、インターネットのミームクリエイターからラッパーへと変貌を遂げつつあった彼の、過激でユーモラスな才気が爆発している。最大の特徴は、自身のアサルトライフル(Choppa)を「ドナルド・トランプ」と名付け、「クソうるさくて、黒人(Niggas)を憎んでいるから」と形容する極めて強烈で政治的なパンチラインだ。ヒップホップコミュニティにおける第45代アメリカ合衆国大統領への反感を、ストリートの暴力的なメタファーへと変換する手腕は、Genius等のコミュニティでも高く評価された。また、大学進学やインターネット上のトロール気質といった自身のオタク的なルーツと、ギャングスタ・ラップのクリシェ(Fuck 12、ドラッグの密売)を意図的に混在させることで、既存のラップシーンの型を破ろうとする野心が克明に記録された重要な一曲である。
和訳
[Intro]
Ricky!
リッキー!
※本楽曲のビートを手掛けたプロデューサー(Ricky Anthony)のプロデューサータグ。
It's in the trunk (Yeah, yeah)
車のトランクに入ってるぜ(イェー、イェー)
Pop the trunk and let you meet lil' Donald Trump (Pop it)
トランクを開けて、リトル・ドナルド・トランプに挨拶させてやるよ(開けな)
※ここでの「リトル・ドナルド・トランプ」とは後述される自身のアサルトライフルのこと。トランクから大型の銃器を取り出すトラップ・ミュージックの典型的な描写。
[Verse]
I got thirteen hammers, need a reason why
俺は13丁のハンマー(銃)を持ってる、理由が欲しいのか?
※「hammer」は銃(特に拳銃)を指すストリート・スラング。撃鉄(ハンマー)から派生した言葉。
I should clap a nigga, send 'em in the sky
あいつを撃ち抜いて、空(天国)へ送ってやるべき理由がな
※「clap」は銃を撃つこと。銃声が手を叩く音に似ていることに由来する。
All you rapper niggas finna run and hide
お前らラッパー気取りはみんな逃げ隠れすることになる
I got that yoppa, pussy niggas finna die
こっちにはヤッパ(機関銃)がある、腰抜け共は死ぬ運命さ
※「yoppa (choppa)」は連射可能なアサルトライフル(AK-47など)のこと。
Got a choppa, call it Donald Trump
チョッパーを持ってる、俺はこいつを「ドナルド・トランプ」って呼んでるぜ
'Cause it's loud as fuck and it hate niggas
だってクソうるせえし、黒人を憎んでるからな
※本楽曲最大のパンチライン。GeniusやRedditでも絶賛されたこのラインは、アサルトライフルの「銃声がうるさい(loud)」ことと「黒人の命を奪う(hate niggas)」という物理的特徴を、当時のトランプ大統領の「過激な発言(loud)」と「人種差別的傾向(hate niggas)」に完璧に重ね合わせている。政治的風刺をストリートの文脈に落とし込んだLil Nas Xの卓越したリリシズムが光る。
Got some llamas, leave 'em in the trunk
ラマ(銃)もいくつかある、トランクに入れっぱなしだがな
※「llama(ラマ)」も銃を指すスラング。スペイン語の「llamar(呼ぶ)」や、唾を吐く動物のラマ(弾丸を吐き出すメタファー)に由来するなど諸説あるが、ここでは単に銃器のバリエーションとして使われている。
Call 'em fishin' rods and you the bait, nigga
こいつらは釣り竿さ、そしてお前は釣りエサ(標的)なんだよ
※銃身を長く伸ばした銃器を「釣り竿」に例え、敵を「エサ(bait)」として狩るという冷酷なメタファー。
Yeah, my name is Lil Nas
あぁ、俺の名前はLil Nasだ
Bitch, never call me Lil Naz
ビッチ、絶対に「リル・ナズ」なんて呼ぶんじゃねえぞ
※「Nas」の正しい発音は「ナス」であり、「ナズ」と濁って発音するヘイターや無知なリスナーへの訂正。自身の名前に込められた伝説的ラッパーNasへの敬意を損なうような誤読を嫌悪している。
'Cause if you do, I promise you
もしそう呼んだら、約束してやる
I'm comin' through and I'm bustin' ass
お前のとこに乗り込んで、そのケツをぶっ飛ばしてやるからな
Got a lot of cash in the stash
隠し場所(スタッシュ)には大金が唸ってる
If you touch that, then you getting splashed
それに触れようとしたら、血の海に沈む(スプラッシュ)ことになるぜ
Got a bad bitch with a thick ass
デカいケツをした極上のビッチを連れてる
She a stripper ho, yeah, she get cash
あの子はストリッパーで、あぁ、しっかり稼いでるんだ
My flow incredible
俺のフロウは信じられないくらいヤバい
Swae Lee; unforgettable
Swae Leeの「Unforgettable」みたいにな
※Rae SremmurdのメンバーであるSwae Leeが、French Montanaとコラボして世界的メガヒットを記録した2017年の楽曲「Unforgettable」への言及。自分のフロウが一度聴いたら忘れられない(unforgettable)キャッチーさを持っているというフレックス。
Pussy niggas keep talkin' shit
腰抜け共はずっとくだらねえ悪口を叩いてる
I'ma have 'em singin' to the medicals
医者の前で泣き叫ぶように歌わせてやるよ
※銃撃して病院送りにし、痛みで悲鳴を上げる(singing)姿を嘲笑している。
I don't fuck with no federals
俺は連邦捜査局(サツ)とは絶対につるまねえ
※「federals (feds)」はFBIなどの連邦警察。ストリートにおける徹底した反権力のアティチュード。
Fuck 12, them niggas terrible
警察(12)なんてクソ喰らえだ、あいつらはマジで最悪だからな
※「12」は麻薬取締局のコード等に由来する警察を指す一般的なスラング。
They set you up, yeah, I know what's up
奴らは罠を仕掛けてくる、あぁ、俺には分かってるぜ
※警察が黒人やストリートの住人に対して不当な逮捕や証拠捏造(set up)を行うアメリカの構造的な人種・警察問題への批判。
So I keep it tucked and accessible
だから銃は隠し持ちつつ、いつでも抜けるようにしてるんだ
Yes, I'm in college
そうさ、俺は大学に通ってる
※Lil Nas Xはブレイク前、ジョージア州のウェスト・ジョージア大学でコンピューターサイエンスを専攻していたが、音楽活動に専念するため1年で中退している。このミックステープの録音時はまだ学生だったか、その直後の時期である。
I'm smart as fuck, here come my degree
俺はクソ頭が良いんだ、もうすぐ学位も取れるぜ
Don't let that knowledge
だがその知識に
Fool you, boy, yeah, I know the street
騙されるなよ坊や、あぁ、俺はストリートの掟も熟知してるんだからな
※高学歴であることと、ストリートの冷酷さを知っていることは矛盾しないという宣言。J. Coleなどのコンシャスなラッパーもよく用いる「文武両道(ストリート・スマートとブック・スマートの兼備)」のフレックス。
Could've been a alcoholic
アル中になってたかもしれねえ
Poppin' mollies, all I smoke is weed
モリー(MDMA)をキメまくってな、でも俺が吸うのはウィード(マリファナ)だけさ
※ハードドラッグに溺れるトラップラッパーが多い中、自分はマリファナに留めてコントロールを保っているという言及。
I'm so hyperbolic
俺はマジで大げさ(ハイパーボリック)なんだ
※「hyperbolic」は誇張法を用いること。自分がこれまでにラップしてきたストリートの暴力描写が、実はインターネット上のペルソナ(誇張表現)であるかもしれないというメタ的な自己言及。高い知性を感じさせるワードチョイス。
It's hydraulics on my fuckin' Jeep
俺のクソみたいなJeepにはハイドロを積んでるぜ
※「hydraulics」はローライダー等に搭載される車高調整システム。車体を跳ねさせるカスタム。
Wait, I mean my damn Lamborghini
待てよ、俺のヤバいランボルギーニだったな
※同じアルバムの『In The Bank』等でも見せたような意図的な「言い直し」のジョーク。大衆車のJeepと言ってしまった後、ラッパーらしく高級車のLamborghiniに即座に訂正するトロール的ユーモア。
I do it big, never did it teeny
俺のやることは常にデカい、ちっぽけ(teeny)なことなんてしたことねえ
Bad bitch, polka dot bikini
極上のビッチが水玉模様のビキニを着てる
Shootin' niggas, like eeny, meeny
奴らを撃ち殺す、まるで「どれにしようかな(eeny, meeny)」みたいにな
Miny, moe, catch a fuck boy by his toe
マイニー、モー、クソ野郎のつま先を捕まえてな
※「Eeny, meeny, miny, moe(どれにしようかな、神様の言う通り)」という英語圏の有名な数え歌。本来は「catch a tiger by the toe(トラのつま先を捕まえろ)」と続く童謡のフレーズを、無差別に敵を撃ち殺すサイコパス的なガン・バーへと改変している。
Take his ho
あいつの女を奪い取って
If he talk shit, let it blow
もし文句を垂れるなら、ぶっ放してやる
Leave that nigga six feet below (gunshot)
あいつを地下6フィートに埋めてやるよ(※銃声)
※「six feet below (under)」は土葬の深さから「死」を意味する定番のイディオム。
Shoot a pussy nigga like— gunshot
腰抜け野郎をこんな風に撃ち抜く—(※銃声)
Pull up on 12 like— three gunshots
サツ(12)の前に車を停めて、こんな風にな—(※3発の銃声)
Ain't no pretendin', all my niggas winnin'
演技なんかじゃねえ、俺のダチは全員勝者だ
We trendin', we sendin' them— three gunshots
俺たちはトレンドの最先端、奴らにこれをお見舞いしてやる—(※3発の銃声)
※Twitter(現X)のトロールアカウント出身である彼らしい「trending(バズる、トレンド入りする)」という言葉のチョイス。
Pick up the Glock, nine on the dock
グロック(銃)を手に取る、法廷の被告席(dock)にいる9
※「nine」は9mm口径の拳銃。「dock」は法廷の被告席。銃犯罪で裁判にかけられるストリートの日常を暗喩している。
Blow your shit up, like we up in Iraq
お前らを吹き飛ばす、まるで俺らがイラクにいるみたいにな
※激戦地であるイラク戦争を引き合いに出し、ストリートの抗争の激しさを表現している。
Sellin' them rocks, I Milly Rock
ロック(クラック)を売り捌きながら、ミリー・ロックを踊るぜ
※「rocks」は結晶化されたコカイン(クラック)のこと。「Milly Rock」はラッパーの2 Millyが流行させたブルックリン発祥のバイラル・ダンス。Playboi Cartiの大ヒット曲「Magnolia」のライン「In New York I Milly Rock, hide it in my sock」を彷彿とさせる、トラップのマナーに則ったライミング。
You niggas can't rap, go get back to your job
お前らにはラップの才能がねえ、とっとと元の仕事に戻りな
※音楽で食っていけないワナビーのラッパーたちに対し、ファーストフード店等の一般職に戻れというヒップホップにおける痛烈なダメ出しで締めくくられる。
