Artist: Lil Nas X
Album: NASARATI
Song Title: Sonic Shit
概要
2018年発表の初期ミックステープ『NASARATI』収録。タイトル通り、名作ゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の世界観やSEGAの象徴的な起動音をサンプリングした、オタクカルチャーとトラップミュージックの融合である。本作の特筆すべき点は、Lil Nas Xがラッパーとして大成する前の「Twitterのインフルエンサー(ミームクリエイター)」であった過去を自ら誇示している点だ。サウンドクラウド・ラップ全盛期のシーンにおける「叫ぶだけのラップ」を批判しつつ、自らの圧倒的な成長スピードを音速のハリネズミに重ね合わせる。インターネット・トロールとしてのユーモアと、ヒップホップ的なフレックス(見せびらかし)が同居した、彼の初期の才気が爆発している極めて重要なトラックだ。
和訳
[Intro]
SEGA
セーガー
※1990年代に一世を風靡したメガドライブ(Sega Genesis)等の起動時に流れる、SEGAの象徴的なサウンドロゴのサンプリング。当時のヒップホップシーンで流行していたアニメやゲーム音楽のサンプリング文化(NerdcoreやSoundCloudラップの系譜)を踏襲しつつ、曲全体の「スピード感」のテーマを決定づける見事な導入である。
All tests needed
すべてのテストが必要だ
Glock, Glock, Glock, yeah
グロック、グロック、グロック、イェー
※Glockはヒップホップで最も頻出するオーストリア製の自動拳銃(グロック)のこと。ゲームのテストプレイや効果音と、ストリートの銃声を意図的に混同させている。
Wet, wet, wet, wet
血祭りにあげてやるよ
※「Wet」は銃撃で相手を血まみれにすること(wet somebody up)を意味するストリート・スラング。
[Verse 1]
Tick tock, big clock, "I miss you Nas," bitch, stop
チクタク、デカい時計の針が進む。「ナスがいなくて寂しい」だ? ビッチ、黙れよ
All this ice, fuck a price, gotta keep my bling right
この大量の宝石、値段なんてクソ食らえだ、俺のブリンブリンは常に完璧にしとかなきゃな
All this damn green, I'ma motherfuckin' fiend, right?
この大量の札束、俺はマジで金の亡者ってやつだろ?
※「green」は米国紙幣(ドル札)の隠語であり、同時にマリファナを指すダブルミーニング。「fiend」は中毒者のこと。
All you niggas trash can't rap, dance, sing, write
お前らゴミ共はラップも、ダンスも、歌うことも、リリックを書くこともできねえ
※Lil Nas Xの多才さ(ラップ、歌、キャッチーな振り付け、バイラルを生み出すライティング能力)との対比。後に彼がカントリーやポップスなどジャンルを越境して活躍するプレリュードとも取れるラインである。
What the fuck, I can't stop motherfuckin' going in
どうなってんだ、マジでブチカマすのが止められねえよ
Spent some yenny yens in Thailand just to buy gin
タイでジンを買うために、日本の円を散財してやったぜ
※意図的な地理的・通貨的なナンセンス(タイの通貨はバーツである)。Reddit等でも「Lil Nas Xの地理の知識がヤバい」とネタにされたが、これは彼が元々「@NasMaraj」というTwitterの巨大トロール(ネタ)アカウントであった背景に起因する。あえてツッコミどころを残すことでバイラルを生む、高度なネットミーム的作法である。
All he rap about is violence, move in silence
あいつがラップするのは暴力のことばかり、俺は誰にも気づかれずに行動するぜ
Niggas try to try me it's gon' be a fuckin' crime and
俺を試そうとする奴がいれば、マジで犯罪沙汰になるし
I ain't really with all that cappin' and shit
俺はそういう嘘っぱちには付き合わねえんだよ
※「cappin'(Cap)」は嘘をつくこと、誇張すること。
You pussies yell over a beat and call it rappin' and shit
お前ら腰抜け共はビートの上で叫んでるだけで、それをラップと呼んでやがる
※当時(2010年代後半)SoundCloudを中心に爆発的に流行していた、ディストーション(音割れ)を効かせたビートで絶叫するトラップメタルやエモ・ラップのスタイルに対する直接的な批判。ヒップホップの根幹である「リリシズム」の欠如を突いている。
I'm rookie and I'm out here snappin', I done mastered this shit
俺はルーキーだが、ここではブチギレてるぜ。もうこのゲームはマスターしたんだ
※「snappin'」は怒り狂う、あるいはラップで凄まじいスキルを見せつけること。
You pussy bastards get captured, fractured, and splattered and shit
お前ら腰抜け野郎は捕まって、骨を折られて、血しぶきを上げるんだ
Uh, you a quick jugg, yeah, hope you understood (Huh?)
あぁ、お前なんて簡単にカモれるんだよ、理解できたか?(ハァ?)
※「jugg」は強盗、詐欺、または簡単に金を奪える標的を意味するアトランタ特有のスラング。相手が取るに足らない存在であることを強調している。
That stick-up give you hiccup, give it up is what you should
銃を突きつけられりゃビビってしゃっくりが出るだろ、大人しく身ぐるみ剥がれるべきだな
※「stick-up」は銃を使った強盗。「hiccup(しゃっくり)」と「give it up(諦めて差し出す)」で滑らかな韻を踏みつつ、ストリートの冷酷さをユーモラスに描写している。
Yeah, I fuckin' run it, I'm motherfuckin' Sonic (Okay)
あぁ、俺がこのゲームを仕切ってる、俺はマジでソニックなんだよ(オーケー)
※「run it(仕切る、走る)」とセガのキャラクター「Sonic the Hedgehog(音速で走る)」を掛けたワードプレイ。他のラッパーたちをごぼう抜きにする彼の出世スピードの速さを暗示している。
Raised in the hood, I got my gun and niggas runnin'
フッド育ちの俺が銃を抜けば、奴らは逃げ惑うのさ
[Bridge]
See, I run shit, dumb bitch, go try out the phonics
見ろよ、俺が仕切ってんだよ、アホなビッチ共はフォニックスからやり直してこい
※「phonics」は子供が英語の綴りと発音の規則を学ぶための基礎学習法。他のラッパーたちのリリックの語彙力の無さや、不明瞭な発音(マンブル・ラップ)を「幼児レベル」だと嘲笑する強烈なパンチラインである。
Done wit', bum shit, I fly out to London
くだらねえホームレスみたいな真似は終わりだ、俺はロンドンへ飛び立つぜ
In my town, you better not get found
俺の街じゃ、見つからないようにするこったな
Call my hittas' Netflix, cause they make you get down, blit blow
俺のヒットマンたちをNetflixと呼んでくれ、だって奴らはお前をゲット・ダウンさせるからな、ババン
※非常に知的なダブルミーニング。「Netflix and chill(ネットフリックスを見てリラックスする=イチャイチャする、性行為をする)」の流れから、ベッドで「get down(行為に及ぶ)」するというスラングを、ヒットマンが標的を地面に「get down(這いつくばらせる、射殺する)」という意味に反転させている。
[Verse 2]
I can't wait to blow, wait to take off like a Migo
早くブレイクしたくてたまらねえ、MigosのTakeoffみたいに飛び立つんだ
※アトランタの大御所ラップトリオ「Migos」のメンバーであり、2022年に惜しくも凶弾に倒れた「Takeoff」の名前と、「take off(離陸する、大ブレイクする)」を掛けたアトランタ・ヒップホップへのオマージュ。
Shoutout latinos, despegando en cinco
ラティーノのダチにシャウトアウトだ、5秒で離陸するぜ
※直前の「take off」を受けて、スペイン語で「離陸」を意味するフレーズ(despegando)を用いている。
I think I'm the best, King Kong, I beat my chest
俺が最強だと思ってる、キングコングみたいに胸を叩いて吠えるぜ
Come wrong, nigga, you dead, give a fuck about a vest
舐めた態度で来たら死ぬぜ、防弾チョッキなんて知ったこっちゃねえ
※「Come wrong」は相手に対して失礼な態度を取ること。ヒップホップのビーフにおいて致命的な結果を招くことを警告している。
'Cause (Why?) I'm aiming for your head (Yeah)
だって(なぜって?)俺はお前の頭を狙ってんだからな(イェー)
That A.R. stand for "Ayy, you niggas gettin' left on read"
そのA.R.は「おい、お前ら既読スルーされてるぞ」の略だぜ
※Geniusの解説でも高く評価されているライン。「A.R.」は通常、アサルトライフル(AR-15)を指すが、それを「Ayy, you niggas gettin' left on Read(既読無視)」のアクロニムだと定義し直している。ストリートの物理的な暴力を、SNS世代特有の「メッセージの既読無視によるマウント」という精神的な暴力へと変換したLil Nas Xの真骨頂である。
I came up off of Twitter doing motherfuckin' threads
俺はTwitterのクソみたいなスレッドから成り上がってきたんだ
※自身の出自に関する極めて重要な言及。彼は音楽で売れる前、「@NasMaraj」というNicki Minajのファンアカウントを運営し、「〜な状況になったらどうする?」といった参加型の長文スレッド(scenario threads)やミーム画像で数十万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーであった。多くのラッパーがストリートの出自を自慢する中、インターネットのトロール上がりであることを堂々とフレックス(誇示)するのは、ヒップホップの歴史において革新的だった。
Gotta keep at least three shooters, that'll lay you niggas dead
少なくとも3人のシューターは確保しとく、そいつらがお前らを殺るのさ
Came fast like Paul, I can make a call
ポールみたいに速く現れて、電話一本でカタをつけてやる
※映画『ワイルド・スピード(Fast & Furious)』の主演であり、悲劇的な交通事故で亡くなった俳優の故Paul Walkerへの言及。スピード(速さ)という本作の根幹テーマと掛かっている。
Knock you niggas off while I'm shopping at the mall
モールで買い物してる間に、お前らを消し去ってやるよ
Killin' every beat, I need time to grieve
どのビートも殺しちまうから、喪に服す時間が必要だぜ
※ラッパーがビートを見事に乗りこなすことを「ビートを殺す(kill a beat)」と表現する。自分が殺したビートのために「悲しむ(grieve)」ふりをするという皮肉。
I keep them receipts, hittas' stomp you on concrete
俺は証拠を握ってる、ヒットマンたちがお前をコンクリートの上で踏みつけるぜ
※「receipts(レシート)」はインターネットスラングで「証拠(過去の論争のツイートやDMのスクショなど)」を意味する。物理的な暴力(コンクリートでのストンプ)と、デジタルな報復(証拠の暴露)という2つの脅威が混在している。
I just lit a blunt, finna grunt in this bitch (Grrr)
ブラントに火をつけたところだ、この場所で唸り声を上げてやるぜ(グルルル)
Yes I am your dad, and you're my son in this bitch (Papa)
そうさ、俺はお前らの親父だ。そしてお前らは俺の息子なんだよ(パパ)
※「son」を動詞として使い相手を格下に見る(sonning)ヒップホップスラングの変形。相手を自分の子供扱いし、リスペクトを強要するアティチュード。
You niggas bums and only bought some fuckin' ones in this bitch
お前らはホームレス同然だ、クラブに持ち込んだのもクソみたいな1ドル札だけだろ
※ストリップクラブ等で見栄を張るために、高額紙幣ではなく1ドル札(ones)の束しか用意できない同業者(bums)の資金力をバカにしている。
I guess I'm runnin' out of puns, just havin' fun in this bitch
言葉遊びも尽きてきたな、ただここで楽しんでるだけさ
Niggas on my dick, yeah, make em' sick, yeah
奴らは俺にまとわりついて媚びを売る、あぁ、反吐が出るぜ
※「on someone's dick」は過剰に媚びへつらう、または執着してストーキングする状態(dickriding)を指す。
New whip just hit a lick, yeah, sonic shit, yeah
新しい車、大金を稼いだばかりだぜ、あぁ、ソニックみたいに速くな
※「hit a lick」は強盗や違法な手段で短期間に大金を得るスラングだが、ここでは音楽による急激な成功を指す。「whip」は高級車。一瞬で金を稼ぎ、車を買うスピード感が「sonic shit」と総括されている。
Niggas on my dick, yeah, make em' sick, yeah
奴らは俺にまとわりついて媚びを売る、あぁ、反吐が出るぜ
New whip just hit a lick, yeah, sonic shit, yeah
新しい車、大金を稼いだばかりだぜ、あぁ、ソニックみたいに速くな
[Outro]
Yeah, sonic shit, yeah
あぁ、ソニックみたいなスピード感だ
Yeah, new whip, yeah
あぁ、新しい車だぜ
I just hit a lick
大金を稼いだばかりだ
I just, I just hit a lick
俺は、俺はたった今大金を荒稼ぎしたんだ
I just hit a lick and I got a new whip, uh
大金を荒稼ぎして、新しい車を手に入れたんだ、アー
