Artist: Snoop Dogg (feat. Dr. Dre & Daz Dillinger)
Album: Doggystyle
Song Title: Domino Intro (Interlude)
概要
『Doggystyle』の中盤に配置された本楽曲は、ストリートの日常風景から一転して暴力的な結末へと向かう、極めてシネマティックで冷酷なスキット(インタールード)である。前半は、Dr. DreとDaz Dillingerが黒人コミュニティの伝統的な遊びであるドミノに興じながら、Snoopの性生活について下世話な冗談を言い合うリラックスした情景を描き出している。しかし後半、Dazが「テレビでDreをディスっていた連中」に言及した瞬間に空気は一変する。これは当時激化していた、N.W.A.脱退後のDr. Dre(Death Row Records)とEazy-E(Ruthless Records)の泥沼のビーフを直接的に反映したものである。特筆すべきは、Dazが放った「HIV」という強烈な中傷ワードだ。このアルバムがリリースされた約1年半後の1995年3月、Eazy-Eは実際にエイズによる合併症で急逝することになる。このスキットは偶然にも彼の悲劇的な運命を予言してしまった形となり、ギャングスタ・ラップの歴史において最も不気味でリアリティのある殺害予告のメタファーとして語り継がれている。
和訳
[Dr. Dre]
Domino motherfucker what's happenin'?
ドミノだ、クソ野郎。調子はどうだ?
※牌を叩きつける音から始まる。ドミノはアフリカ系アメリカ人のコミュニティにおいて、公園や家のポーチで日常的に行われる定番のボードゲームである。ギャングスタたちの「チル」な日常の空気感を演出するシネマティックな導入部となっている。
[Daz Dillinger]
Ahh, nigga, eat a dick, nigga, don't break my momma's nice ass table, nigga
ああ、クソ食らえ、ニガ。俺のお袋のイカしたテーブルを壊すなよ、ニガ
※「eat a dick」は直訳すると「ディックを食え」だが、ここでは仲間内での「ふざけんな」「クソ食らえ」程度の軽い悪態。ハードコアなラッパーたちが実家に集まり、「お袋(momma)」の家具に傷がつくことを本気で心配しているという、ギャングスタの等身大の姿を切り取ったユーモアである。
[Dr. Dre]
Yeah fuck that, fuck what they talkin' 'bout, nigga
ああ、そんなの知るかよ。あいつらが何を言ってようが知ったこっちゃねえ、ニガ
Rack them motherfuckin' dominoes up, nigga
さっさとそのクソドミノを並べろよ、ニガ
※「rack up」はドミノの牌を並べる、あるいはゲームをセットアップするという意味。Dreは他人の小言を一切気にせず、ゲームを続けるよう促している。
[Daz Dillinger]
Fuck that nigga, just look, look out for the table, nigga
知るかよ、ニガ。いいか、マジでテーブルには気をつけろよ、ニガ
※Dazが執拗に母親のテーブルを気にし続けており、コミュニティにおける「母親の絶対的な権力」を示唆している。
[Dr. Dre]
Fuck that
知るかよ
[Daz Dillinger]
Ayo where's Snoop Dogg?
エイヨォ、スヌープ・ドッグはどこだ?
[Dr. Dre]
I don't know, them niggas went upstairs with that big booty bitch, man
知らねえよ。あいつら、あのデカ尻のビッチと一緒に二階へ上がって行ったぜ
※パーティーの裏側でSnoopが女性と消えたことを語る。「Gin and Juice」等でも描かれる、当時のDeath Rowの快楽主義的で享楽的なライフスタイルの描写。
[Daz Dillinger]
Ahh, no he ain't bustin' no nuts on my momma's spread
ああ、まさか俺のお袋のベッドカバーの上でブチ撒けちゃいねえだろうな
※「bustin' nuts」は射精すること。「momma's spread」は母親のベッドカバー(bedspread)。神聖な母親の寝室が乱痴気騒ぎに使われているのではないかというDazのコミカルな危惧。
[Dr. Dre]
That nigga up there gettin' his socks blown the fuck off
あいつは上階で、靴下が吹っ飛ぶくらい極上のフェラをしてもらってる真っ最中さ
※「get one's socks blown off」は「強烈な感動や快感を得る」というイディオムを性的な意味に転用したストリート・スラング。
[Daz Dillinger]
Gettin' his ass chewed out
ケツまで舐め回されてるってわけか
※「chew out」は本来「ひどく叱る」という意味のイディオムだが、ここでは前後の文脈からオーラルセックスやアナルへの愛撫などを指す下品なスラングとして使われている。
[Dr. Dre]
Better ask somebody
誰かに聞いてみりゃいいさ
※「You better ask somebody」は、「俺が言うまでもない、誰に聞いてもそう答える(=間違いない)」という意味のヒップホップにおける常套句。
[Daz Dillinger]
Balls licked up and down
金玉の上下まで隅々とな
[Dr. Dre]
Hell yeah
ああ、全くだぜ
[Daz Dillinger]
Ayo what's up with them niggas that was on the TV dissin' you?
エイヨォ、テレビでお前をディスってたあの野郎どもはどうなったんだ?
※ここでスキットの空気が一変する。「テレビでディスっていた野郎ども」とは、Dreの元相棒であるEazy-EとRuthless Recordsの面々、およびマイアミのLukeなどを指す。当時、Eazy-Eは楽曲「Real Muthaphuckkin G's」とそのミュージックビデオなどで、DreとSnoopを「スタジオ・ギャングスタ(偽物)」として大々的に攻撃していた。
[Dr. Dre]
Man fuck them niggas, man, I ain't thinkin' about that old shit, man
あんな奴ら知るかよ。あんな過去のクソみたいなこと、気にも留めちゃいねえよ
※Dreは表向きには大人の対応を見せ、相手にしていないと強がっている。Ruthlessとの確執はすでに彼にとって「old shit(過ぎたこと)」であり、自分はDeath Rowで前進しているというポーズをとっている。
[Daz Dillinger]
Busta ass, HIV pussy-ass motherfuckers
クソみたいな、HIV持ちの腑抜け野郎どもが
※ヒップホップ史に残る、極めて物議を醸した残酷なライン。Eazy-Eが1995年にAIDSによる合併症で亡くなる前の1993年の時点で、すでに敵対するDeath Row陣営から「HIV」という言葉で中傷されていた事実を示している。単なる悪口として発せられた言葉が、後に現実の悲劇を予言する形となり、このスキットに後戻りできないほどのダークな歴史的価値を付与することになった。
[Dr. Dre]
Yo yo yo Daz, easy come, easy-
ヨォ、ヨォ、ヨォ、ダズ、イージー・カム、イージー——
※「Easy come, easy go(悪銭身に付かず、得やすいものは失いやすい)」ということわざを言いかけているが、明確に「Eazy-E」の「Eazy」に掛けた冷酷なワードプレイである。彼の成功や命はあっけなく散るだろうという暗黙の脅迫となっている。
[Gunshot]
(銃声)
※Dreが「easy go」と言い終わる前に、強烈な銃声が鳴り響いてスキットが強制終了する。Eazy-Eに対する比喩的(あるいは直接的)な殺害予告であり、直後の曲「Lodi Dodi」のビートへと不穏な余韻を残したままシームレスに繋がっていく。G-Funk特有のバイオレンスとシネマティックな演出の極致である。
