Artist: Lauryn Hill
Album: The Miseducation of Lauryn Hill
Song Title: Tell Him
概要
本作は、新約聖書の「コリント人への第一の手紙(1 Corinthians)」第13章、通称「愛の賛歌」を直接的なモチーフとした、ゴスペルとネオソウルが完璧に融合した美しい賛美歌である。名盤『The Miseducation of Lauryn Hill』の最後を締めくくる(あるいは隠しトラックとして配置された)この曲は、かつての恋人ワイクリフ・ジョンへの未練や音楽業界のしがらみといった地上の執着を完全に手放し、神(Him)の絶対的な愛と導き(アガペー)に身を委ねるローリンの魂の帰着点を示している。タイトルや歌詞に登場する「Him」は愛する男性と天の父のダブルミーニングとして機能しているが、随所にちりばめられた聖書からの引用は、彼女が最終的にたどり着いた愛の定義が、極めてスピリチュアルで無償のものであることを証明している。名声や物質的な成功よりも、愛がなければ「無に等しい」と説く、音楽評論的にも極めて評価の高いマスターピースである。
和訳
[Intro]
Yo, he-he, tell him um, (Huuu)
ヨォ、フフ、あの方に伝えてよ、えっと
※この「him」は地上の愛する人と同時に、神(天の父)を指すダブルミーニング。照れ隠しのような笑い声から入り、神との親密な対話へと入っていく。
It's like, uhh, you know, uhh
なんていうか、ほら、えっと
Sweet, sweet, sweet
スウィート、スウィート、スウィートなのさ
Tell him
あの方に伝えてよ
Uhh
アー
Mmm-m-m-m
ウーン
[Verse 1]
Let me be patient, let me be kind
アタシに忍耐を、そして優しさを与えて
※新約聖書『コリント人への第一の手紙』13章4節「愛は寛容であり、愛は情深い(Love is patient, love is kind)」の直接的な引用。ワイクリフとのトキシックな恋愛(嫉妬や怒り)から抜け出し、神の教えである無償の愛を実践しようとする祈りである。
Make me unselfish without being blind
盲目にならない程度の、無私の心を持たせてよ
※愛に溺れて周りが見えなくなる「blind love」を避けつつ、自己中心的なエゴ(selfishness)を捨てるという絶妙なバランスを求めている。かつての依存関係への深い反省が含まれている。
Though I may suffer, I'll envy it not
たとえ苦しむことがあっても、妬んだりしないから
※同じくコリント人への第一の手紙13章4節「愛はねたまない」の引用。
And endure what comes (Daah)
そして、何が起きても耐え抜くよ
※13章7節「すべてを忍び、すべてを耐える」の引用。
'Cause he's all that I got (Uuu) tell him (Aha)
だって、アタシには彼(神)しかいないんだから、あの方に伝えてよ(アハ)
※すべてを失っても信仰(神の愛)があれば生きていけるという強烈な悟り。
[Refrain]
Tell him I need him (Yeah)
アタシにはあの方が必要だって伝えて(イェー)
Tell him I love him (Tell him who it hit)
あの方を愛してるって伝えて(誰の心に響いたか伝えてよ)
And it'll be alright (It'll be alright)
そうすれば、きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
And tell him (Tell him)
あの方に伝えてよ(伝えて)
Tell him I need him (Be alright)
あの方が必要だって伝えて(上手くいくさ)
Tell him I love him (Tell him I love him)
あの方を愛してるって伝えて(愛してるって伝えてよ)
It'll be alright (Be alright)
きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
[Verse 2]
Now I may have faith (I may have faith) to make mountains fall
たとえアタシに、山を動かすほどの信仰心があったとしても
※コリント人への第一の手紙13章2節「山を移すほどの強い信仰があっても、愛がなければ無に等しい」の引用。どんなにラッパーとして成功し、ストリートでプロップス(支持)を得ようとも、愛がなければ意味がないというヒップホップ的成功へのアンチテーゼ。
(To make mountains fall)
(山を崩すほどのね)
But if I lack love, then I am nothin' at all
愛が欠けてるなら、アタシなんて全く無価値な存在なのさ
I can give away (I can give away) everything I possess
自分が持ってる全財産を他人に分け与えたとしても
※13章3節「全財産を貧しい人々のために施しても...愛がなければ、無益である」の引用。
But left without love then I have no happiness
愛がなけりゃ、アタシに幸せなんて残らないんだ
I know I'm imperfect (I know I'm imperfect), and not without sin
自分が完璧じゃないのは分かってる、罪だって犯してきたよ
※キリスト教の原罪の意識と、自分自身の過ち(不倫関係やエゴイズム)を神の前で率直に認める懺悔。
(Not without sin, nah)
(罪がないわけじゃない、なぁ)
But now that I'm older, all childish things end (Ohh)
でももう大人になったんだ、子供じみたマネはすべて終わりにするのさ
※13章11節「子供のときは...子供のように思い、子供のように論じていた。しかし、大人になった今は、子供のときのことを捨ててしまった」の引用。精神的な成長(Miseducationからの脱却)の最終段階を意味している。
And tell him (Tell him)
だから、あの方に伝えてよ(伝えて)
[Refrain]
Tell him I need him (Tell him I need him)
あの方が必要だって伝えて(あの方が必要だって)
Tell him I love him (Ha-ah)
あの方を愛してるって伝えて(ハァ)
And it'll be alright (It'll be alright)
そうすれば、きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
Tell him (Tell him)
あの方に伝えてよ(伝えて)
Tell him I need him (Tell him)
あの方が必要だって伝えて(伝えて)
Tell him I love him (Tell him) (Be alright)
あの方を愛してるって伝えて(伝えて)(上手くいくさ)
It'll be alright (Be alright)
きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
Oh, yeah
オー、イェー
[Bridge]
I'll never be jealous (I'll never be jealous)
もう絶対に嫉妬なんてしない
And I won't be too proud (Houu)
プライドだって高ぶらせないよ
※13章4節「愛は自慢せず、高ぶらない」の引用。スターとしての虚栄心やエゴを捨てる決意。
'Cause love is not boastful (Noo)
だって、本当の愛は自慢げにひけらかすものじゃないからね
Oooh and love is not loud
そして、本当の愛は騒がしくなんてないのさ
※メディアやゴシップで騒がれたワイクリフとのスキャンダラスな恋愛関係と対比させ、神(あるいは新たな家族)との静かで平穏な愛を称賛している。
Tell him I need him (Tell him I need him)
あの方が必要だって伝えて(あの方が必要だって)
Tell him I love him (Tell him I love him)
あの方を愛してるって伝えて(愛してるって伝えてよ)
Everything is gonna (Everything), is gonna be (Everything) alright
すべては(すべて)、きっと(すべて)上手くいくから
Ya-eee-ya-eee-ya-eee-ya-eee-ya-eee-ya-eee-ya-eee-ya-eee
ヤーーー
Uuu-u-uu (Uuu)
ウーーー
Yeah, yeah, oh yeah
イェー、イェー、オーイェー
Uuu-u-uu (Uuu)
ウーーー
Ah-ah-ah
アァァ
[Verse 3]
Now I may have wisdom (I may have wisdom)
たとえアタシが、この世の知恵を身につけて
And knowledge on Earth
地球上のあらゆる知識を手に入れたとしても
※13章2節「すべての奥義とすべての知識とに通じていても...愛がなければ、無に等しい」の引用。
But if I speak wrong, ooh, then what is it worth? (What is it worth?)
でも間違った言葉を口にするなら、一体そんなものに何の価値があるのさ?(何の価値がある?)
※13章1節「人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、騒がしいどらや、やかましいシンバルと同じである」の引用。MCとしての卓越したスキルや言葉選びも、その根底に愛(神への帰依)がなければ単なる騒音に過ぎないという、音楽家としての究極の自己否定と昇華。
See what we now know is nothing compared
ほら、アタシたちが今知ってることなんて、まるでちっぽけなもんなんだ
To the love that was shown when our lives were spared (Uuh)
アタシたちの命が救われた時に示された、あの愛の大きさに比べたらね
※イエス・キリストの十字架上の贖罪(人類の罪を背負って命を捧げた究極の無償の愛)に触れている。地上のどんな知識も成功も、神の救済の愛には到底及ばないという神への完全なるサレンダー(降伏)。
And tell him (Tell him)
だから、あの方に伝えてよ(伝えて)
[Refrain]
Tell him I need him (Tell him I need him)
あの方が必要だって伝えて(あの方が必要だって)
Tell him I love him (Love him)
あの方を愛してるって伝えて(愛してるって)
And it'll be alright (It'll be alright)
そうすれば、きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
Oh-oh-oh
オー、オー、オー
Tell him (Tell him)
あの方に伝えてよ(伝えて)
Tell him I need him (I need you)
あの方が必要だって伝えて(あなたが必要なのさ)
Tell him I love him (Be alright)
あの方を愛してるって伝えて(上手くいくさ)
Be alright (Be alright)
きっと上手くいく(上手くいくさ)
Oh-oh-oh (It's gonna be alright)
オー、オー、オー(きっとすべて上手くいく)
Tell oh-oh him (It's gonna be alright, in the morning) (Tell him)
あの方に伝えてよ(朝になれば、きっと上手くいくさ)(伝えて)
Tell him I need him, oh (Be alright)
あの方が必要だって伝えて(上手くいくさ)
It'll be alright (It's gonna be alright)
きっとすべて上手くいくから(上手くいくさ)
Oh-oh-oh, yeah, yeah (I need you)
オー、オー、オー、イェー、イェー(あなたが必要なのさ)
When the, when the evening comes, oh
夕暮れ時がやって来ても
In the night time
暗い夜の中でも
In the morning
朝になっても
In the evening baby tell him
夕暮れ時でも、ベイビー、あの方に伝えてよ
Tell him
あの方に伝えて
