Artist: Lauryn Hill
Album: The Miseducation of Lauryn Hill
Song Title: Every Ghetto, Every City
概要
本作は、ローリン・ヒルが自身の故郷であるニュージャージー州ニューアーク(通称:ニュー・エルサレム)で過ごした70年代後半から80年代にかけての少女時代を回想した、極めて自伝的でノスタルジックな名曲である。楽曲全体を彩るクラビネットの音色は、スティーヴィー・ワンダーの70年代の傑作群を彷彿とさせ、彼女自身のルーツであるソウル/ファンクへの深い敬愛が込められている。歌詞にはニューアークのローカルな通り名、地元の不良たちの抗争、当時流行したヒップホップ・ファッションやダンス(リーのジーンズ、ザ・ワップ)、さらにはカリブ系移民の食文化までが限界まで詰め込まれている。特定のフッド(地元)の極めてパーソナルな記憶を歌いながらも、それが結果的に世界中の「あらゆるゲットー、あらゆる街(Every Ghetto, Every City)」で育った人々の普遍的な郷愁を呼び起こすという、彼女のストーリーテラーとしての圧倒的な才能が爆発した一曲だ。
和訳
[Verse 1]
I was just a little girl (Little girl)
アタシはまだほんの小さな女の子で
Skinny legs, a press and curl (Press and curl)
脚はガリガリ、「プレス&カール」で髪をセットしてた
※「press and curl」は黒人女性特有の縮れ髪を熱した金属コームで真っ直ぐに伸ばし(プレス)、毛先をカールさせる伝統的なヘアスタイリング法。当時の黒人の少女たちの日常的な風景である。
My mother always thought I'd be a star (My mom always thought I'd be a star)
ママはいつだって、アタシがスターになるって信じてた
But way before the record deals
でも、レコード契約を結んで世に出るずっと前に
Streets that nurtured Lauryn Hill (Uh-huh)
ローリン・ヒルを育ててくれたこのストリートが
Made sure that I'd never go too far (Oh wah, oh wah, yo)
アタシが道を踏み外さないように、しっかり見守ってくれてたのさ
※「go too far」は「遠くへ行きすぎる=調子に乗る、ルーツを忘れる」の意味。スターになっても地元ニューアークのストリートの教え(フッドの掟やコミュニティの絆)が、彼女の倫理観の土台となっていることを示している。
[Chorus]
Every ghetto, every city
あらゆるゲットー、あらゆる街
And suburban place I been
アタシが訪れたすべての郊外の景色が
Make me recall my days, in New Jerusalem (You know, uh-huh)
「ニュー・エルサレム」で過ごしたアタシの青春の日々を思い出させるのさ
※「New Jerusalem(新たなエルサレム)」は、ヒップホップ・カルチャーに絶大な影響を与えた黒人イスラム主義団体「Five Percent Nation(ファイブ・パセンターズ)」におけるニュージャージー州ニューアークの呼び名。彼らは都市を聖地の名で呼び(ブルックリン=メディナ、ハーレム=メッカなど)、ニューアークは黒人の精神的なルーツを象徴する約束の地として「ニュー・エルサレム」と呼ばれた。
[Verse 2]
Story starts in Hootaville (Hootaville)
物語は「フータヴィル」から始まる
※「Hootaville」はニューアーク南部の低所得者層向け公営住宅(Seth Boyden Terrace)のローカルな愛称。
Grew up next to Ivy Hill
「アイヴィー・ヒル」の隣で育ったんだ
※「Ivy Hill」も同じくニューアークにある地区・巨大なアパート群の名称。彼女の地元中の地元の原風景。
When kids were stealing quartervilles for fun
ガキどもが遊び半分で「クォーターヴィル」を盗んでた頃さ
※「quarterville」はニューアークの極めてローカルなストリート・スラング。詳細な由来は諸説あるが、文脈からは盗品の車や自転車、あるいはマリファナの計量単位などを指すとされる。
"Kill the Guy" in Carter Park (Uh)
カーター・パークで「キル・ザ・ガイ」をして遊んで
※「Carter Park」は地元の公園。「Kill the Guy(またはKill the Carrier)」は、ボールを持った一人を他の全員で追いかけてタックルする、アメリカの子供たちの間で遊ばれる荒っぽいストリートゲーム。
Rode a Mongoose 'til it's dark
暗くなるまで「マングース」の自転車を乗り回してた
※「Mongoose(マングース)」は80年代のキッズたちの憧れだった大人気のBMX(自転車)ブランド。
Watching kids show off the stolen ones
盗品のチャリを見せびらかすガキどもを眺めてたっけ
[Chorus]
Every ghetto (Every ghetto), every city (Every city)
あらゆるゲットー、あらゆる街
And suburban place I been (And suburban place I been)
アタシが訪れたすべての郊外の景色が
Make me recall my days, in the New Jerusalem (Oh woah, oh, yo)
「ニュー・エルサレム」で過ごしたアタシの青春の日々を思い出させるのさ
[Refrain]
You know it's hot (You know it's hot), don't forget, what you got
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
※「hot」はイケてる、最高だという意味。成功しても自分のルーツ(手にしたもの)を忘れるなというメッセージ。
Looking back... (Looking back) looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
You know it's hot, don't forget, what you got
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
[Verse 3]
Bag of Bontons, twenty cents and a nickel (Well, that's a quarter)
「ボントン」のポテトチップス一袋、20セントに5セント(ニッケル)を足してね(そう、これで25セントさ)
※「Bonton(ボントン)」はニュージャージーやニューヨーク周辺で親しまれていたローカルなスナック菓子のブランド。当時の物価のリアルな記憶。
Springfield Ave. had the best popsicles
スプリングフィールド・アベニューには、最高のアイスキャンディーがあった
※スプリングフィールド・アベニューはニューアークを東西に貫く主要な大通り。
Saturday morning cartoons and Kung-Fu (Wuh-TAH!)
土曜の朝はアニメとカンフー映画(ワターッ!)
※70〜80年代のアメリカの黒人コミュニティにおいて、カンフー映画(特にブルース・リーやショウ・ブラザーズ作品)は絶大な人気を誇り、後のウータン・クランなどに代表されるヒップホップ文化と武術の融合のルーツとなった。
Main street roots tonic with the dreads
メインストリートに行けば、ドレッドヘアのラスタマンが「ルーツ・トニック」を売ってて
※「roots tonic(ルーツ・トニック)」はジャマイカの伝統的な薬草ドリンク。当時のニューアークに西インド諸島(カリブ系)の移民文化が深く根付いていたことを示す。ローリン自身も後にボブ・マーリーの息子と結婚するなど、ラスタ・カルチャーとの縁が深い。
A beef patty and some coco bread
ビーフパティとココブレッドも食べたね
※どちらもジャマイカのソウルフード。パティ(ミートパイ)を甘みのあるココブレッドに挟んで食べるのが定番のストリートフード。
Move the patch from my Lee's to the tongue of my shoes (Uh-uh, uh-uh-uh)
「リー」のジーンズの革パッチを剥がして、スニーカーのタン(ベロ)に貼り付けたりさ
※80年代のオールドスクール・ヒップホップにおける象徴的なDIYファッション。Leeのジーンズの背面にあるレザーパッチを剥がし、アディダスやプーマのスニーカーのタンに縫い付けたり貼り付けたりするのが、当時のフッドのキッズたちの間で大流行していた。
'Member, Freling-Huysen used to have the bomb leather
覚えてる? フレリングハイゼンには「ヤバい」レザーコートが売ってたよね
※「Frelinghuysen Ave(フレリングハイゼン・アベニュー)」はニューアークの通り名。当時は革製品の工場や問屋が多く、Bボーイの憧れだったレザーコート(bomb leather=最高にイケてるレザー)を買う定番の場所だった。
Back when Doug Fresh and Slick Rick was together
ダグ・E・フレッシュとスリック・リックがまだコンビ組んでた頃の話さ
※1985年の歴史的ヒップホップ・クラシック「The Show / La Di Da Di」をリリースした伝説のデュオ。この曲の時代設定がまさに80年代半ばであることを明確にしている。
Looking at the crew, we thought we'd all live forever, yeah
いつもの仲間たちを見つめながら、アタシたちはみんな「永遠に生きられる」って本気で思ってたんだ
[Refrain]
You know it's hot (You know it's hot), don't forget, what you got (You know it's hot)
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... (Looking back) looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
You know it's hot (Uh, you know it's hot), don't forget, what you got (You know it's hot)
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... (Looking back) looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
[Verse 4]
Drill teams on Munn street
マン・ストリートのドリルチーム(マーチングバンド)
'Member when Hawthorne and Chancellor had beef (Yo)
「ホーソーン」と「チャンセラー」のキッズたちがビーフ(抗争)してたの覚えてる?
※ホーソーン・アベニューとチャンセラー・アベニュー。それぞれの通りにある学校や地域の若者同士のローカルな縄張り争い。
Moving Records was on Central Ave
セントラル・アベニューには「ムーヴィン・レコード」があった
※「Movin' Records(ムーヴィン・レコード)」は、ニューアーク周辺のクラブ・ミュージック、特にニュージャージー・ハウス(ガラージ)や初期ヒップホップの聖地として知られた伝説的なレコードショップ兼レーベル。
I was there at dancing school (Uh-huh)
アタシはそこのダンススクールに通ってたんだ
South Orange Ave. at Borlin pool
サウス・オレンジ・アベニューの「ボイラン・プール」にも行ったね
※「Borlin pool(正しくはBoylan Street Pool)」は地元の公共プール。
Unaware of what we didn't have
自分たちに「足りないもの(貧しさ)」なんて、少しも気づいてなかったのさ
※ゲットーの貧しい環境であっても、子供たちにとっては豊かなカルチャーと活気に満ちた世界であり、不幸だとは感じていなかったというノスタルジーの核心。
Writing my friends' names on my jeans with a marker
マジックでジーンズに友達の名前を書き殴って
July 4th races outside Parker
独立記念日(7月4日)には、パーカー・ストリートの外で徒競走をして
Fireworks at Martin Stadium (Uh, uh-uh-uh, uh-uh-uh)
マーティン・スタジアムで花火を見た
The Untouchable P.S.P. (S.P.)
「アンタッチャブル P.S.P.」さ
※「P.S.P.」は当時のニューアークの地元クルーやギャングの名称とされる。
Where all them crazy niggas be
クレイジーな連中がみんなそこに集まってた
And car thieves got away through Irvington (Skrrrt, lock it up, uh, uh)
車の泥棒たちは、アービントンを抜けて逃げて行ったっけ(スクィーッ、鍵をかけな)
※「Irvington(アービントン)」はニューアークに隣接する町。盗難車の逃走ルートとして有名だったというストリートのリアル。
Hillside brings beef with the cops
ヒルサイドの連中は、サツ(警察)と揉め事を起こして
※「Hillside(ヒルサイド)」もニューアークに隣接する地区。
Self Destruction record drops
『セルフ・ディストラクション』のレコードがドロップされた頃さ
※「Self Destruction」は、KRS-Oneが発起人となり、東海岸のラッパーたちが集結して1989年にリリースした、黒人同士の暴力撲滅を訴える名曲(Stop the Violence Movement)。時代背景が80年代末に進んでいる。
And everybody's name was Muslim (Children playing, women producing)
そして、誰も彼もがムスリム(イスラム教徒)の名前を名乗ってた
※80年代後半〜90年代初頭のヒップホップ・シーンでは、Five Percenters(5% Nation)やネーション・オブ・イスラムの教えが大流行し、多くの黒人ラッパーや若者がルーツ回帰としてイスラム風の名前(〜Allah, 〜Shabazzなど)を名乗るようになった現象を指している。
Sensations and eighty-eight
「センセーションズ」と1988年
※「Sensations(センセーションズ)」はニューアークにあった有名なティーン向けクラブ。クイーン・ラティファやノーティ・バイ・ネイチャーなど、ニュージャージー産ヒップホップの登竜門だった。
Attracted kids from out of state (Uh-uh, uh-uh)
州外からもキッズたちを引き寄せてたよね
And everybody used to do the wop (Wop it out, wop it out, wop it out)
誰もが「ザ・ワップ」を踊ってたっけ(ワップしろ、ワップしろ)
※「The Wop(ザ・ワップ)」は80年代後半のヒップホップ・シーンで大流行したストリートダンスのステップ。
Jack ya, jack ya, jack ya body
「ジャック・ユア・ボディ」さ
※スティーヴ・"シルク"・ハーリーによる1986年のシカゴ・ハウスの歴史的アンセム「Jack Your Body」。ヒップホップだけでなく、ハウス・ミュージックやクラブ・カルチャーもニューアークの若者たちに深く浸透していたことが窺える。
Nah, the BizMark used to amp up the party
いや、「ビズ・マーク」がパーティーを最高にブチ上げてたね
※「the BizMark(ザ・ビズ・マーク)」は、伝説のコミック・ラッパー、ビズ・マーキー(Biz Markie)が考案し流行らせたヒップホップ・ダンス。
I wish those days, they didn't stop (I wish those days didn't stop)
あの時代が、ずっと終わらなければよかったのにって思うよ
[Chorus]
Every ghetto (Every ghetto), every city
あらゆるゲットー、あらゆる街
And suburban place I been (And suburban place I been)
アタシが訪れたすべての郊外の景色が
(Every ghetto) Make me recall my days, in New Jerusalem (Every city)
「ニュー・エルサレム」で過ごしたアタシの青春の日々を思い出させるのさ
[Refrain]
You know it's hot (You know it's hot), don't forget, what you got
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... (Looking back) looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
You know it's hot, don't forget, what you got (You know it's hot)
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... looking back, looking back, looking back (Looking back)
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
You know it's hot, don't forget, what you got (You know it's hot)
最高だって分かってるっしょ、自分が手にしたものを忘れないで
Looking back... looking back, looking back, looking back (Looking back)
振り返ってみれば… 昔を思い出せば
[Outro]
Looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば、昔を思い出せば…
Looking back, looking back, looking back (Looking back)
振り返ってみれば、昔を思い出せば…
Looking back (Looking back, looking back, looking back), looking back, looking back
振り返ってみれば、昔を思い出せば…
Looking back, looking back (Looking back), looking back
振り返ってみれば、昔を思い出せば…
Looking back, looking back, looking back
振り返ってみれば、昔を思い出せば…
[Skit: Teacher, Boy, Girl]
What do you think about love? Come on
先生:お前ら、「愛」についてどう思う? さあ、言ってみろ
※アルバム全体を貫く、教師(ニュージャージーの詩人・政治家ラス・バラカ)と生徒たちによる「愛」についての授業スキット。
Ok, Laurence
先生:よし、ローレンス
Love...
男子生徒:愛ってのは…
Don't laugh, yo!
男子生徒:おい、笑うなよ!
Yo, he's 'bout to give us a dissertation, the way he said that
女子生徒:ヨォ、あいつのあの言い方、まるで論文でも発表しそうな勢いじゃん
Go ahead, breakdown, breakdown
先生:続けろ、噛み砕いて説明してみろ
Well, love is just a feeling
男子生徒:えっと、愛ってのはただの「感情」っすよ
Love is a feeling, it's like, it's just when you like somebody and you're gonna fall in love with them
愛ってのは感情で、なんていうか、誰かを好きになって、その人に恋に落ちる時のアレっすよ
Ok
先生:なるほど
And you just hope they feel the same way like you do towards them
男子生徒:それで、自分が相手を想うのと同じように、相手も自分のことを想ってくれればいいなって願うわけっすよ
Ok, ok
先生:なるほどな
This gettin' a lil' deep
先生:こいつは少し、ディープな話になってきたな
