Artist: Lauryn Hill
Album: The Miseducation of Lauryn Hill
Song Title: Forgive Them Father
概要
本作は、新約聖書(ルカによる福音書23章34節)におけるイエス・キリストの十字架上の言葉「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです」をモチーフに、身近な者からの裏切りや音楽業界の冷酷さを歌ったスピリチュアルなアンセムである。フージーズ時代の同志であったワイクリフ・ジョンとの確執や、富と名声に群がる「羊の皮を被った狼」たちへの深い失望が背景にある。ジャマイカのダンスホールDJ、シェリー・サンダーの強烈なパトワ(ジャマイカ英語)によるアジテーションと、アフリカの歴史や黒人解放運動(メネリク2世、ソウェト蜂起)を織り交ぜたローリンの鋭利なラップが見事に交差する。ボブ・マーリーの「Concrete Jungle」の精神を継承し、資本主義の呪縛から魂を解放し、自らのルーツと信仰に立ち返ることを促す歴史的な一曲である。
和訳
[Intro: Shelly Thunder]
Forgive us our trespasses as we forgive those that trespass against us
「わたしたちの負い目を赦してください、わたしたちも自分に負い目のある人を赦しましたように」
※キリスト教における「主の祈り(マタイによる福音書6章12節)」からの直接の引用。自らを裏切った者たちを赦そうとする神聖な試みから曲が幕を開ける。
Although them again we will never, never, never trust
まあ、二度とあいつらを信用することは絶対に、絶対にないけどな
Hoo-hoo-hoo-hoo-hoo!
フーフーフーフーフー!
Them nuh know what them do
あいつら、自分が何をしてるのか分かっちゃいないのさ
※「nuh」はパトワにおける「not」や「don't」。
Dig out your eye, while I'm sticking like glue
糊みたいにベッタリくっついて親友のふりをしながら、アンタの目をえぐり出そうとする
※親密な関係を装いながら背後から陥れようとする裏切り者の残酷な手口を、ジャマイカのストリートの生々しい言葉で表現している。
Fling, skin, grin, while them plotting for you, true!
歯を剥き出しにして笑いながら、裏でアンタをハメる計画を立ててる、マジでな!
[Chorus: Lauryn Hill & Shelly Thunder]
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do (Me a tell you, dem nuh know)
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです(言ってやるよ、あいつらは分かっちゃいない)
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do (Fi be real, them nuh have a clue!)
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです(マジな話、何にも分かっちゃいないんだ!)
[Verse 1: Lauryn Hill]
Beware the false motives of others
他人の偽りの動機には気をつけることね
Be careful of those who pretend to be brothers
ブラザー(兄弟)のふりをして近づいてくる連中には要注意だ
And you never suppose it's those who are closest to you
まさか自分に一番近い存在が裏切るなんて、思いもしないだろうけどね
To you
アンタに一番近い連中がさ
They say all the right things to gain their position
あいつらは自分のポジションを得るために、都合のいい正論ばかり並べ立てる
Then use your kindness as their ammunition
そして、アンタの親切心を「弾薬(武器)」として利用するのさ
※ローリンの優しさや才能を利用して音楽業界での地位を確立し、最終的に彼女を裏切ったとされるワイクリフや業界の大人たちを強烈に告発している。
To shoot you down in the name of ambition, they do
野心という名の下に、アンタを撃ち落とすためにね、本当にやるんだよ
Oh
ああ
[Chorus: Lauryn Hill]
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです
[Verse 2: Lauryn Hill]
Why every Indian wanna be the chief?
どうして誰もが「インディアンの酋長(トップ)」になりたがるの?
※集団の中で誰もがリーダーシップや権力を欲しがり、協力し合えない人間のエゴイズムへの皮肉。「Too many chiefs, not enough Indians(指示する者ばかりで働く者がいない)」という英語の慣用句を踏まえている。
Feed a man 'til he full and he still want beef
腹一杯食わせてやっても、男はまだ「ビーフ」を欲しがる
※「beef」は「牛肉(食べ物)」と、ヒップホップ・スラングの「争い・揉め事」の秀逸なダブルミーニング。どれだけ金や成功を与えられても満たされず、無意味な争いを求めるラッパーたちや元恋人の強欲さを突いている。
Give me grief, try to tief off my piece
アタシに悲しみを与え、アタシの分け前(心の平和)を盗もうとする
※「tief」はパトワにおける「thief(盗む)」。
Why for you to increase, I must decrease?
アンタが大きくなるために、どうしてアタシが小さくならなきゃいけないの?
※男性(ワイクリフ)のプライドや成功を保つために、才能ある女性(ローリン)が自己犠牲を強いられ、一歩引くことを求められるという、家父長制的な関係性への根源的な怒り。
If I treat you kindly, does it mean that I'm weak?
アタシが優しく接したら、それはアタシが弱いってことなの?
You hear me speak and think I won't take it to the streets
アタシが上品に喋るからって、ストリートのやり方(暴力的な報復)に出ないと思ってるんでしょ
I know enough cats that don't turn the other cheek
アタシだって「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」なんてお人好しじゃない連中を、いくらでも知ってんだから
※キリストの教え(マタイによる福音書5章39節)を引き合いに出し、「許し」を歌いながらも、舐められたらストリートの仲間を呼んで徹底的に潰すこともできるという強烈な威嚇。
But I try to keep it civilized, like Menelik
でもアタシは文明的であろうと努めてる、メネリクのようにね
※「Menelik(メネリク2世)」は、19世紀末にイタリア軍の侵略を撃退し、アフリカ大陸で唯一エチオピアの独立を守り抜いた偉大な皇帝。彼女のブラック・プライドとパン・アフリカニズムの象徴である。
And other African czars, observing stars with war scars
戦争の傷跡を抱えながら、星を観測した他のアフリカの王たちみたいにさ
Get yours in this capitalistic system
この資本主義システムの中で、自分の分を稼ぎな
So many caught or got bought you can't list them
システムに捕まったり、魂を買収されたりした奴らは、数え切れないほどいる
How you gon' idolize the missing? To survive is to stay alive in the face of opposition
消えていった奴らをどうやって偶像化するつもり? 生き残るってのは、敵の目の前でも生き延び続けることだよ
Even when they coming, gunning, I stand position
連中が銃をぶっ放して向かってきても、アタシは自分のポジションから一歩も引かない
L known the mission since conception
L(ローリン)は受胎した瞬間から、自分の使命を理解してるのさ
Let's free the people from deception
さあ、人々を欺瞞(嘘)から解放しよう
If you looking for the answers, then you gotta ask the questions
答えを探してるなら、まず疑問を投げかけなきゃ
And when I let go, my voice echoes through the ghetto
そしてアタシが解き放てば、その声はゲットー中に響き渡る
Sick of men trying to pull strings like Geppetto
ゼペット爺さんみたいに、裏で糸を引こうとする男たちにはもうウンザリ
※「Geppetto(ゼペット)」は童話『ピノキオ』の操り人形師。音楽業界の重役やプロデューサーたちが、アーティスト(特に女性)を自分の操り人形のようにコントロールしようとする構造への痛烈な批判。
Why black people always be the ones to settle?
どうして黒人はいつも、妥協して安住する側にならなきゃいけないの?
March through these streets like Soweto, uhh
ソウェトの時のように、このストリートを行進するんだ
※「Soweto(ソウェト蜂起)」は1976年に南アフリカで起きた、アパルトヘイト政策に反対する黒人学生たちの歴史的な大規模デモ。不当な支配に抗う黒人の団結と抵抗の歴史を、現在のアメリカのストリートに重ね合わせている。
[Bridge: Lauryn Hill]
Like Cain and Abel, Caesar and Brutus
カインとアベル、カエサルとブルータスみたいに
Jesus and Judas, backstabbers do this
イエスとユダみたいにさ、背後から刺す奴ら(裏切り者)はいつだって身内なんだよ
※旧約聖書の兄弟殺し(カインとアベル)、ローマ帝国の暗殺劇(カエサルとブルータス)、そしてキリストの受難(イエスとユダ)。歴史上の有名な「親しい者からの裏切り」を羅列し、人間の業の深さを浮き彫りにしている。
[Chorus: Lauryn Hill]
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです
[Verse 3: Lauryn Hill]
It took me a little while to discover
気づくのに少し時間がかかっちゃったよ
Wolves in sheep coats who pretend to be lovers
恋人のふりをした「羊の皮を被った狼」の存在にね
Men who lack conscience will even lie to themselves, to themselves
良心を持たない男ってのは、自分自身にすら嘘をつくのさ
A friend once said, and I found to be true
昔、友達が言ってたことが、本当だって分かったんだ
That everyday people, they lie to God too
「普通の人々だって、日常的に神様に嘘をついてる」ってね
So, what makes you think, that they won't lie to you?
だったら、あいつらがアンタに嘘をつかないなんて、どうして思えるわけ?
[Chorus: Lauryn Hill & Shelly Thunder]
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do (Forgive them, forgive them)
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです(赦してやってくれ)
Forgive them, Father, for
神様(父)よ、彼らをお赦しください
They know not what they do (Forgive them, forgive them)
彼らは自分が何をしているのか、分かっていないのです(赦してやってくれ)
[Verse 4: Shelly Thunder & Lauryn Hill]
Gwan like dem love you, while dem rip you to shreds
アンタを愛してるような素振りを見せながら、アンタをズタズタに引き裂く
Trample pon yuh heart, and leff you fi dead
心を土足で踏みにじって、死んだまま見捨てるのさ
※「leff you fi dead」は「left you for dead(見殺しにする)」のパトワ。
Dem a yuh friend, who you depend pon, from way back when
昔からずっと頼りにしてきた、アンタの友達だと思ってたのに
([?] to grace)
([?] 恩寵へ)
But if you, gi' dem yuh back, then you must meet yuh end
でも、もしそいつらに背中を見せたら、アンタはそこでジ・エンドさ
Dem nuh know what dem do do
あいつら、自分が何をしてるのか分かっちゃいないのさ
(Who's gonna be the one?)
(誰がその一人になるの?)
Dem nuh know what dem do do
あいつら、自分が何をしてるのか分かっちゃいないのさ
(Gotta be the one to say)
(言わなきゃいけない存在になるんだ)
Dem nuh know, dem nuh know, dem nuh know, dem nuh know
分かってない、あいつらは何にも分かっちゃいない
Dem nuh know what dem do do
あいつら、自分が何をしてるのか分かっちゃいないのさ
(Oh, yeah, oh)
(オー、イェー、オー)
[Outro: Lauryn Hill]
(Forgive them, Father, forgive them, Father...)
(彼らをお赦しください、父よ、お赦しください…)
[Skit: Teacher, Boy & Girl]
What do you think?
先生:お前はどう思う?
※アルバム全体を通して描かれる、教育制度とストリートのリアルな愛についての教室スキット。
It's just happenin', like things just become annoying and then like twenty-four-seven thinkin' about the girl and stuff like that and then you like— if you do somethin' wrong, you like, oh, does she hate me, right? You wanna know what they're thinkin'
男子生徒:なんていうか、自然と起こるんすよ。なんか色んなことが面倒になって、24時間ずっとその女の子のことばかり考えるようになって。それで、自分が何か間違ったことをすると「あぁ、俺、嫌われたかな?」ってなるじゃないすか。相手がどう思ってるか知りたくなるっていうか。
Yeah, yeah
女子生徒:うん、分かる
So, what— what she feels— hold! What she feels is important to you?
先生:つまり、彼女がどう感じるかが…ちょっと待て! 彼女の気持ちがお前には重要なのか?
Right
男子生徒:そうっすね
Huh? Why?
先生:ほう? それはなぜだ?
Because... I want her to still love me, but, you know, but— see, but, I know she still like me 'cause, you know, a little eye contact. 'Cause I don't want her no more, but—
男子生徒:だって…まだ俺のことを愛しててほしいからっすよ。でも、なんていうか…ほら、ちょっと目が合ったりするから、あいつがまだ俺のこと好きだってのは分かるんすよ。俺はもう、あいつのこと好きじゃないんすけど、でも…
※愛が冷めても、相手から向けられる愛情や承認欲求には依存してしまうという、人間のエゴや残酷な心理をストリートの少年がリアルに語っている。「自分を必要としてほしい」というこの矛盾した感情こそが、本楽曲で歌われた「自己中心的な偽りの愛」の入り口であることを示唆している。
Alright, you talkin' 'bout somebody, you love somebody
先生:なるほどな。お前は誰かのことを話してる、つまり、お前は誰かを愛してるってことだな
