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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

I Used to Love Him - Lauryn Hill (feat. Mary J. Blige) 【和訳・解説】

Artist: Lauryn Hill (feat. Mary J. Blige)

Album: The Miseducation of Lauryn Hill

Song Title: I Used to Love Him

概要

本作は、90年代のR&B/ヒップホップ界を牽引した二人のクイーン、ローリン・ヒルとメアリー・J. ブライジによる歴史的なコラボレーション楽曲である。テーマは「有害な恋愛(トキシック・リレーションシップ)からの決別と精神的自立」。ローリンはフージーズの元同僚ワイクリフ・ジョンとの泥沼の愛憎劇を、客演のメアリーはJodeciのK-Ci(ケイ・シー)との暴力や依存に満ちた破滅的な交際を念頭に歌っていると広く考察されている。二人の圧倒的なボーカルは、男に自らの「パワー」を明け渡してしまった過去への深い後悔と、神(創造主)の愛によって自己の魂を取り戻すというスピリチュアルな再生のプロセスを見事に描き出している。単なる失恋ソングの枠を超え、傷ついた黒人女性たちを癒やし、エンパワーメントし続けるゴスペルライクなフェミニズム・アンセムの最高峰だ。

和訳

[Intro]

Now, I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now, I don't
今はもう、愛してない

[Verse 1: Lauryn Hill]

As I look at what I've done (What I've done)
アタシがやってきたことを見つめ直すと

The type of life that I've lived (Life that I've lived)
アタシが歩んできた人生をさ

How many things I pray the father will forgive
神様(ファーザー)に許してほしいって祈るような過ちが、どれだけあるだろう
※人生の暗部を振り返り、世俗の男ではなく天の父(神)に対して懺悔と赦しを求めるスピリチュアルな内省からバースが始まる。

One situation (Situation, uh-uh) involved a young man
ある出来事には、若い男が絡んでたの

He was the ocean (Uh-uh) and I was the sand
アイツは海で、アタシは砂だった
※波打ち際の海が砂浜を少しずつ削り取っていくように、自己犠牲を強いる男(ワイクリフ)によって彼女のアイデンティティや精神が徐々に侵食され、飲み込まれていったという極めて文学的で美しいメタファー。

He stole my heart like a thief in the night
アイツは夜の泥棒みたいにアタシの心を盗んでいった
※新約聖書・テサロニケの信徒への手紙第一5章2節「主の日は夜の盗人のように来る」からの引用。気づかないうちに忍び寄り、すべてを奪っていく有害な男の手口を神の裁きの前兆になぞらえている。

Dulled my senses and blurried my sight
アタシの感覚を鈍らせて、視界を曇らせたのさ

And I used to love him
それでもアタシは、アイツを愛してたんだ

[Chorus]

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

[Verse 2: Mary J. Blige & Lauryn Hill]

I chose the road of passion and pain (Passion and pain)
情熱と痛みの道を選んじまった

Sacrificed too much and waited in vain
犠牲ばかり払って、報われないのに待ち続けたのさ

Gave up my power; ceased being queen
自分のパワーを明け渡して、クイーンでいることすらやめちゃった
※ここで客演のメアリー・J. ブライジが歌うことで、彼女自身の「Queen of Hip-Hop Soul」という称号と、かつての恋人K-Ci(Jodeci)との壮絶なDV・依存関係の過去が重なり合い、リリックの説得力が爆発的に増幅されている。「パワーを奪われる」というテーマは、アルバム全体を貫く女性のエンパワーメントの核である。

Addicted to love like the drug of a fiend
ジャンキーの薬みたいに、愛に依存しきってたんだ
※「fiend(悪魔、ヤク中)」という強いスラングを使用。メアリー自身が実際にK-Ciとの関係悪化からアルコールやコカインなどの深刻な薬物依存に陥っていたリアルな背景を反映している。

See, torn and confused, wasted and used
ほら、引き裂かれて、混乱して、ボロボロになるまで利用されて

Reached the crossroad, which path would I choose?
十字路(クロスロード)に辿り着いた、アタシはどっちの道を選ぶべきだったの?

Stuck and frustrated, I waited, debated
身動きが取れなくて、苛立って、ただ待って、葛藤してた

For something to happen that just wasn't fated
運命でもなんでもない出来事が起きるのをさ

Thought what I wanted was something I needed
自分が「欲しいもの」が、「必要なもの」だと思い込んでたんだ
※前曲「When It Hurts so Bad」のサビのテーマである「WantとNeedの違い」の反復。破滅的な愛への執着(Want)を、自分に不可欠なもの(Need)だと勘違いする依存状態の心理。

When momma said no then I just should have heeded
ママが「ダメだ」って言った時、ちゃんと耳を傾けておくべきだった

Misled, I bled 'til the poison was gone
騙されて、毒が抜け切るまで血を流し続けたよ
※トキシック(有毒)な男という名の毒素を、文字通り出血(苦しみや涙)によって体外に排出(デトックス)する痛ましい浄化のプロセス。

And, out of the darkness, arrived the sweet dawn
そして暗闇を抜けて、甘美な夜明けがやって来たんだ

[Chorus]

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

[Verse 3: Lauryn Hill & Mary J. Blige]

Father you saved me and you showed me that life
神様、あなたはアタシを救い、人生ってものを教えてくれた

Was much more than being some foolish man's wife
どこかの愚かな男の妻になることより、ずっと素晴らしいものだって
※ワイクリフは既婚者でありながらローリンと関係を持っていた。「日陰の存在」や「ただの都合の良い女(または妻)」という窮屈な役割からの完全な決別宣言。フェミニズム的な自己解放の極致である。

Showed me that love was respect and devotion
愛とはリスペクトと献身であると教えてくれたね

Greater than planets and deeper than any oceans
惑星よりも大きく、どんな海よりも深いものだって
※Verse 1の「アイツは海でアタシは砂」というネガティブな海のメタファーを自ら覆し、神の愛(アガペー)こそがどんな海よりも深く、自分を削り取ることのない真実の愛であると再定義している。

See, my soul was weary, but now it's replenished
ほら、アタシの魂は擦り切れてたけど、今は満たされてる

Content because that part of my life is finished
満ち足りてるのさ、アタシの人生のあの最悪な時期はもう終わったんだから

I see him sometimes and the look in his eye
今でも時々アイツを見かけるけど、その瞳の奥にはさ

Is one of a man who's lost treasures untold
計り知れないほどの宝物を失った男の表情が浮かんでる
※楽曲「Lost Ones」のテーマの回収。ローリンという無二の才能と愛情を手放し、取り返しのつかない喪失感に苛まれているワイクリフの哀れな姿を客観的に描写している。

But my heart is gold, see, I took back my soul
でもアタシの心は黄金さ、ほら、自分の魂を取り戻したんだから

And totally let my creator control
そして、アタシの創造主(神)に完全に委ねることにしたの

The life which was his, the life which was his to begin with
神のものだったこの人生をね、最初から神の手にあったこの人生を
※男(He)に支配されていた人生を、本来の主である神(His / Creator)に返還するというスピリチュアルな帰依(サレンダー)。ヒップホップにおける宗教的救済の最も美しい帰結の一つである。

[Chorus]

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

Now I don't
今はもう、愛してない

[Outro]

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

I used to love him, but now I don't
昔はアイツを愛してた、でも今はもう愛してない

See, I used to love him
ほら、昔はアイツを愛してたのさ