Album: The Miseducation of Lauryn Hill
Song Title: When It Hurts so Bad
概要
本楽曲は、アルバムの核心的テーマである「有害な関係(トキシック・リレーションシップ)」における矛盾した感情を、ディープなソウル/R&Bのサウンドに乗せて歌い上げた名曲である。前曲「Ex-Factor」と同様、フージーズの元同僚であり既婚者でもあったワイクリフ・ジョンとの泥沼の恋愛関係が背景にある。「こんなに苦しいのになぜ快感なのか」という愛のパラドックスに苦悩し、最終的に「自分が欲しいもの(Want)」と「自分に本当に必要なもの(Need)」の決定的な違いに気づくという、極めて内省的でスピリチュアルな成長の過程が描かれている。オールドスクールなソウル・ミュージックへの深いリスペクトを感じさせる生楽器のグルーヴと、アウトロで挿入される「メディアが教える偽りの愛」についてのストリートの若者たちとの対話(スキット)が、本作の「Miseducation(誤った教育からの脱却)」というコンセプトを完璧に補完している。
和訳
[Refrain]
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにも痛くて苦しいのに
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにもヒドく傷ついてるのに
Why's it feel so good? (When it hurts so bad)
どうしてこんなに気持ちいいんだろう?
※精神的・感情的な虐待に近い関係性において、苦痛と快感が表裏一体となってしまう依存状態(トラウマ・ボンディング)の恐ろしさを端的に表現している。痛みを伴う愛こそが真実の愛であると「誤って教育(Miseducation)」されてしまった彼女の悲痛な叫びである。
(When it hurts so bad)
(こんなにも苦しいのに)
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにも痛くて苦しいのに
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにもヒドく傷ついてるのに
Why's it feel so good? (When it hurts so bad)
どうしてこんなに気持ちいいんだろう?
(When it hurts so bad)
(こんなにも苦しいのに)
[Verse 1]
I loved real, real hard once
アタシ、一度だけマジで狂うほど愛したことがあったの
But the love wasn't returned
でも、その愛が返ってくることはなかった
※ワイクリフ・ジョンへの献身的な愛に対する「reciprocity(見返り)」の欠如。名曲「Ex-Factor」と完全にリンクするテーマである。
Found out the man I'd die for
アタシが命を懸けてもいいって思えた男が
He wasn't even concerned
アタシのことなんて気にも留めてないって気づいたんだ
※ワイクリフが自身のソロ活動や別の女性関係にかまけ、フージーズの成功を支えたローリンの感情を完全に無視していた冷酷な現実を告発している。
I tried, and I tried, and I tried
アタシは何度も何度も、必死に努力したよ
To keep him in my life (To keep him in my life)
彼をアタシの人生に繋ぎ止めておくためにね
I cried, and I cried, and I cried
何度も何度も、死ぬほど泣き明かした
But I couldn't make it right
でも、どうやっても上手くはいかなかったのさ
[Pre-Chorus]
But I, I loved the young man
それでもアタシは、あの若い男を愛しちゃってたんだよ
And if you ever been in love
もしアンタが、本気で恋に落ちたことがあるなら
Then you'd understand
この気持ち、分かってくれるっしょ?
[Chorus]
That what you want might make you cry
「自分が欲しいもの」が、自分を泣かせる原因になるかもしれないってこと
※「Want(欲望・執着)」が必ずしも自分の幸せに繋がらないという、仏教的な悟りにも似た本作の核心となるライン。ワイクリフとの破滅的な愛への執着が自分を深く傷つけていたことに気づいた瞬間である。
What you need might pass you by
そして「自分に本当に必要なもの」は、気付かずに通り過ぎてしまうかもしれないってこと
If you don't catch it
もし、アンタがしっかり掴み取ろうとしないならね
If you don't catch it, if you don't catch it
しっかり掴み取らないと、見過ごしちまうのさ
And what you need ironically (Ironically)
それに皮肉なことにさ(皮肉なことにね)
Will turn out what you want to be (What you want to be)
「自分に本当に必要なもの」こそが、最終的に「自分が望む姿」に変わっていくんだよ
If you just let it (if you just let it)
もし、自然の流れに身を任せることができればね
If you just let it (if you just let it)
執着を手放して、受け入れることができればさ
[Verse 2]
See, I thought this feeling, it was all that I had
ほら、アタシはこの感情こそが自分のすべてだと思い込んでたんだ
But how could this be love
でも、どうしてこれが愛だなんて言えるの?
And make me feel so bad? (Gave up my power)
アタシをこんなにも惨めな気分にさせるのにさ(自分の力を明け渡しちまった)
※「Gave up my power」は、相手に精神的な主導権を握られ、自分らしさや自尊心(パワー)を奪われてしまった状態への後悔。フェミニズム的な視点からも、女性が恋愛において自己を犠牲にすることの危険性を説いている。
Gave up my power, I existed for you
自分のパワーを捨てて、アンタのためだけに存在してた
But whoever knew, the voodoo you'd do
でも誰が想像できた? アンタがそんなブードゥーの呪いをかけるなんてさ
※「voodoo」はハイチ発祥の民間信仰・呪術。ハイチ出身であるワイクリフ・ジョンのルーツを直接的に引用し、彼がローリンの心をマインドコントロール(ガスライティング)で呪縛していたことを痛烈に皮肉った、ヒップホップ的な見事なパンチラインである。
[Pre-Chorus]
But I, I loved the young man (Uh-huh)
それでもアタシは、あの若い男を愛しちゃってたんだよ
And if you ever been in love
もしアンタが、本気で恋に落ちたことがあるなら
Then you'd understand
この気持ち、分かってくれるっしょ?
[Chorus]
That what you want might make you cry
「自分が欲しいもの」が、自分を泣かせる原因になるかもしれないってこと
What you need might pass you by
そして「自分に本当に必要なもの」は、気付かずに通り過ぎてしまうかもしれないってこと
If you don't catch it (If you don't— if you don't—)
もし、アンタがしっかり掴み取ろうとしないならね
(If you don't— if you don't—)
(掴み取らないと)
And what you need ironically
それに皮肉なことにさ
Will turn out what you want to be
「自分に本当に必要なもの」こそが、最終的に「自分が望む姿」に変わっていくんだよ
If you just let it (If you don't— if you don't—)
もし、自然の流れに身を任せることができればね
(If you don't— if you don't—)
(身を任せれば)
See what you want might make you cry (If you don't— if you don't—)
ほら、「自分が欲しいもの」が、自分を泣かせる原因になるかもしれない
What you need might pass you by (If you don't— if you don't—)
「自分に本当に必要なもの」は、気付かずに通り過ぎてしまうかもしれない
If you don't catch it (If you don't— if you don't—)
もし、アンタがしっかり掴み取ろうとしないならね
(If you don't— if you don't—)
(掴み取らないと)
And what you need ironically (If you don't— if you don't—)
それに皮肉なことにさ
Will turn out what you want to be (If you don't— if you don't—)
「自分に本当に必要なもの」こそが、最終的に「自分が望む姿」に変わっていくんだよ
If you just let it
もし、自然の流れに身を任せることができればね
If you just let it
執着を手放して、受け入れることができればさ
[Refrain]
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにも痛くて苦しいのに
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにもヒドく傷ついてるのに
Why's it feel so good? (When it hurts so bad)
どうしてこんなに気持ちいいんだろう?
(When it hurts so bad)
(こんなにも苦しいのに)
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにも痛くて苦しいのに
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにもヒドく傷ついてるのに
Why's it feel so good? (When it hurts so bad)
どうしてこんなに気持ちいいんだろう?
(When it hurts so bad)
(こんなにも苦しいのに)
When it hurts so bad (When it hurts so bad)
こんなにも痛くて苦しいのに
So bad (When it hurts so bad)
ヒドく痛むのにさ
(When it hurts so bad)
(こんなにも苦しいのに)
[Skit: Teacher, Boy & Girl]
You ain't said nothin'
生徒A:お前、何も言ってないじゃん
Why you ain't say somethin' to me?
生徒B:どうして俺に何か意見を求めてくれないんだよ?
I feel like love right now is like confusion
生徒B:俺が思うに、今の『愛』ってやつは混乱(コンフュージョン)みたいなもんだよ
※アルバム全体を通して描かれる教室のスキット。ここで少年は、大人や社会から押し付けられる「愛」の概念がいかに曖昧で混乱に満ちているかを鋭く指摘する。
It's like people think they love somebody
みんな、誰かを愛してるって思い込んでるだけっていうか
When they don't really love somebody
本当は愛してなんかないのにさ
Like I thought I was in love with this girl, but I really wasn't
俺だって、ある女の子に恋してると思ってたけど、実際は全然違ったんだ
It's like now, I don't feel about her
今はもう、あいつのことなんとも思ってないし
Ok
先生:なるほど
Alright
先生:いいだろう
You think that TV and music have somethin' to do with
先生:お前は、テレビや音楽が何か関係してると思うか?
Why people are always confused about love?
なぜ人々がいつも愛について混乱しているのかということにさ
Yes!
生徒たち:はい!
Why?
先生:なぜだ?
'Cause today we listen to a lot of TV a lot of music
生徒B:だって今の俺たちは、テレビを見まくって、音楽を聴きまくってるからさ
※メディア(ハリウッド映画やポップソング)が描く「美化された愛」や「劇的な依存関係」の刷り込みが、若者たちに誤った愛の形を植え付けているという事実をストリートの子供自身が言語化している。
And it sounds nice, but it may not always be right for you
耳障りはいいけど、それが必ずしも自分にとって正しいとは限らないじゃん
※ローリンがこの曲で歌った「痛みを伴うのが愛だ」という誤った教育(Miseducation)からの解放を、少年が見事に代弁してスキットを締めくくっている。
We need to put you on a bullhorn
先生:お前には拡声器(ブルホーン)を持たせる必要があるな
Let you ride around Newark
それでニューアークの街中を走り回らせてやらないとな
※ローリンの地元であるニュージャージー州ニューアークを引き合いに出し、メディアの嘘に気づいたこの若者のリアルな声を、ゲットーのコミュニティ全体に届けるべきだという教師の熱いリスペクト。
