Artist: Lauryn Hill
Album: The Miseducation of Lauryn Hill
Song Title: Doo Wop (That Thing)
概要
本楽曲は、女性ラッパーとして史上初めてビルボードHot100で初登場1位を獲得した、ヒップホップ/R&B史に燦然と輝く金字塔である。1950〜60年代のドゥーワップと90年代のブーンバップ・ヒップホップを完璧に融合させた画期的なサウンドに乗せ、ローリンは男女双方の物質主義や表面的な恋愛関係(=That Thing)に痛烈な警鐘を鳴らす。イスラム教やキリスト教の教理を引用しつつ、過剰な露出や外見至上主義に走る同性への愛ある説教から、無責任で虚勢ばかり張る男性への容赦ない批判まで、ストリートの現実とスピリチュアリティを交差させた彼女のリリシズムは圧巻だ。ミュージックビデオでの1967年と1998年を対比させた演出も含め、黒人音楽の歴史を紡ぎながら自己啓発を促す歴史的名曲である。
和訳
[Intro]
Yo, 'member back on the bouley when cats used to harmonize like (Ooh, ooh-ooh, ooh)
ヨォ、昔大通りで連中がハモってた頃を思い出してみな(ウー、ウー、ウー)
※「bouley」は「boulevard(大通り)」のスラング。1950〜60年代のストリートコーナーで若者たちがアカペラでドゥーワップを歌っていた黒人音楽のルーツへのオマージュである。
Yo, yo, my men and my women, don't forget about the deen (Ooh, ooh-ooh, ooh)
ヨォ、ブラザーもシスターも、「ディーン」を忘れるなよ
※「deen」はアラビア語で「宗教」や「生き方・信仰」を意味するイスラム教の用語。当時のローリンはFive Percent Nationなどイスラム的価値観の影響を強く受けており、世俗的な欲望に流されず精神的な信念を持てというメッセージが込められている。
The Sirat al-Mustaqim
「シラート・アル=ムスタキーム(正しい道)」をさ
※クルアーン(イスラム教の聖典)第1章に登場する「正しい道(The Straight Path)」を意味するフレーズ。ストリートの誘惑や物質主義から離れ、道徳的に正しい人生を歩むことの重要性を説いている。
Yo, (Eheh) it's about a thing (Uh, yo, yo; ooh, ooh-ooh, ooh)
ヨォ、これは「あるモノ」についての話さ
If ya feel real good wavin' your hands in the air (What? What-woah)
空中で手を振ってて最高な気分なら
And lick two shots in the atmosphere (Yeah, yeah)
空に向かって銃を2発ぶっ放しな
※「lick shots」はジャマイカのダンスホール・レゲエ文化に由来するスラング。テンションが上がった際に空に向かって発砲する(あるいはそのジェスチャーをする)行為を指し、彼女の音楽的ルーツの広さを示している。
Yeah, uh-yeah, yeah, yeah, yeah (Put them up, put them up; yeah, yeah)
イェー、両手を挙げな
Yeah, uh-yeah, yeah, yeah, yeah (Put them up, put them up; yeah, yeah)
イェー、両手を挙げな
Uh-yeah, yeah, yeah, yeah (Put them up, put them up; yeah, yeah)
イェー、両手を挙げな
[Verse 1]
It's been three weeks since you were looking for your friend
あの男を探し回るようになってから、もう3週間も経つじゃん
The one you let hit it and never called you again (Uh)
ヤラせてあげたのに、それっきり電話も寄越さないアイツをさ
※「hit it」は性行為を表すストリート・スラング。肉体関係を持った途端に音信不通になる典型的な遊び人に対する言及。
'Member when he told you he was 'bout the Benjamins? (Uh-huh, yeah)
アイツが「俺はベンジャミン(100ドル札)が全てだ」って言ってたの覚えてる?
※「Benjamins」はベンジャミン・フランクリンの肖像画が描かれた100ドル紙幣のこと。当時大ヒットしていたパフ・ダディの物質主義的なアンセム「It's All About the Benjamins」(1997年)を引用し、金儲けしか頭にない薄っぺらい男に引っかかる女性たちを皮肉っている。
You act like you ain't hear him then give him a little trim
聞こえなかったフリして、結局アイツにヤラせちまったんだろ
※「trim」も性行為(特に女性の局所)を意味する古いスラング。
To begin, how you think you're really gon' pretend (Pretend)
そもそもさ、どうやって誤魔化せると思ってんの?
Like you wasn't down and you called him again? (Called him again, friend)
気がないフリしつつ、またアイツに電話しちゃったこととかさ
Plus, when you give it up so easy you ain't even foolin' him (Him)
それに、そんな簡単に股を開いてたら、アイツを騙すことなんてできないよ
If you did it then, then you'd probably **** again
一回ヤッちゃったら、どうせまたヤッちゃうんだから
Talking out your neck, sayin' you're a Christian
クリスチャンだなんて、よくもまあ口から出まかせ言えるよね
A Muslim, sleeping with the jinn
ムスリムだって言いながら、「ジン」と一緒に寝てるくせに
※「ジン(Jinn)」はイスラム教における精霊や悪霊のこと。宗教的な信仰心をアピールしながら、実際には悪魔のような男(=不道徳な欲望)と体を重ねている女性の偽善を鋭く突いている。
Now that was the sin that did Jezebel in
それこそがイゼベルを破滅させた罪なんだよ
※「Jezebel(イゼベル)」は旧約聖書に登場する悪女。売春や性的放縦、不道徳の代名詞としてヒップホップでも頻出するメタファーであり、歴史は繰り返されるという警告。
Who you gon' tell when the repercussions spin?
その報いが返ってきた時、一体誰に泣きつくつもり?
Showing off your ass 'cause you're thinking it's a trend
流行りだと思ってケツ見せびらかしてるけど
Girlfriend, let me break it down for you again
ねぇガールフレンド、もう一回アタシに説明させてよ
You know I only say it 'cause I'm truly genuine
アタシがマジで本気だから言ってるって分かるでしょ?
Don't be a hard rock when you really are a gem
本当は宝石なのに、ただの硬い石っころ(不良娘)のフリなんかしないで
※「hard rock」はストリートでタフに振る舞う不良や、ゴツゴツした原石のこと。「gem(宝石)」としての本来の価値を自ら貶め、安売りしている黒人女性たちへの強烈な自己肯定感の啓発。本作屈指のパンチラインである。
Baby girl, respect is just a minimum (Minimum)
ベイビーガール、リスペクトなんて最低限の条件だよ
Ni*** **** and you still defendin' 'em (Defendin' 'em)
アイツらはクソなのに、アンタはまだ庇ってんの?
Now, Lauryn is only human (Human)
アタシ、ローリンだってただの人間さ
Don't think I haven't been through the same predicament (I been there)
アタシが同じような苦境を味わってないなんて思わないで
※説教臭くならないよう、ローリン自身も過去にワイクリフ・ジョンとの泥沼の恋愛で同様の経験(不当な扱いや依存)をしてきたことを認め、同じ目線に立っている。
Let it sit inside your head like a million women in Philly, Penn (Philly, Penn)
ペンシルベニア州フィリーにいる百万人の女たちみたいに、頭の中にしっかり叩き込みな
It's silly when girls sell their souls because it's in ('Cause it's in)
流行りだからって魂を売るなんて、本当にバカげてるよ
Look at where you be in, hair weaves like Europeans (Europeans)
自分の現状を見てみなよ、白人みたいなヘアウィーブ(編み込みの付け毛)をしてさ
※黒人女性特有の髪質を隠し、ヨーロッパ系(白人)のストレートヘアを美の基準として押し付けられている社会構造への批判。自身のルーツを否定する同化主義に警鐘を鳴らす。
Fake nails done by Koreans
韓国人がやってるネイルサロンで付けたフェイクの爪でさ
※90年代の米国都市部のフッドにおいて、黒人女性向けのビューティーサロン(ネイルやヘアサプライ)の大半を韓国系移民が経営していたというストリートのリアルな経済構造を切り取ったライン。他民族のビジネスにお金を落とし、偽物の美しさ(Fake nails)で着飾るだけで内面の価値を高めていないことへの痛烈な風刺。
[Refrain]
Come again
もう一回言うよ
※「Come again」はダンスホール・レゲエでDJが曲をかけ直す際や、重要なメッセージを繰り返す際に使われる定番のパトワ(ジャマイカ英語)表現。
Yuh, a win-win, come again
そう、ウィンウィンになるようにね、もう一回さ
A win-win, come again (Yeah, yeah)
ウィンウィンだよ、もう一回
My friend, come again
マイフレンド、もう一度考え直して
[Chorus]
Guys, you know you'd better watch out (Uh)
男連中、気をつけたほうがいいよ
Some girls, some girls are only about
中にはさ、こういう女もいるんだ
That thing, that thing, that thing
「アレ」のことしか頭にない女がね
※「That thing」はセックスや金、表面的なステータスなど、真の愛以外の不純な動機や物質的なモノすべてを指すマジックワード。
That thing, that thing, that thing (Yuh, yum)
「アレ」のことしか頭にない女がさ
[Verse 2]
The second verse is dedicated to the men (The men)
2バース目は男連中に捧げるよ
More concerned with his rims and his Timbs than his women
自分の女よりも、車のリム(ホイール)とティンブズにばっか夢中なヤツらにね
※「Timbs」はティンバーランドのイエローブーツ。90年代の東海岸ヒップホップ・カルチャーにおける絶対的なステータス・シンボルであり制服。物質主義に毒された男性像を描写している。
Him and his men come in the club like hooligans
仲間と一緒にフーリガンみたいにクラブに乗り込んできて
Don't care who they offend, poppin' yang (Like you got yen)
誰に迷惑かけようがお構いなしで、デカい口叩いてさ(大金でも持ってるみたいにね)
※「poppin' yang」は強がったりデタラメを言うこと。「yen」は日本の「円」を指し、当時日本円が経済的に強かったことから、大金持ちぶっているフェイクな態度を揶揄している。
Let's stop pretend, the ones that pack pistols by they waist men
もうフリをするのはやめなよ、腰にチャカ(銃)忍ばせてる男たち
Cristal by the case men, still in they mother's basement
クリスタル(高級シャンパン)を箱買いするくせに、まだママの家の地下室に住んでるようなヤツら
※「Cristal」はノトーリアス・B.I.G.やジェイ・Zら当時の大物ラッパーたちが富の象徴として愛飲していた超高級シャンパン。実家暮らしで自立もしていないのに、クラブで無理して見栄を張る「Wanksta(フェイクなギャングスタ)」たちの滑稽さを強烈にディスっている。
The pretty-face men claiming that they did a bid men
「俺はムショ上がりだぜ」ってイキってる優男たち
※「did a bid」は刑務所で服役したという意味のスラング。ストリートの箔をつけるために犯罪歴すらファッション感覚で自慢する風潮への批判。
Need to take care of they three or four kids
お前ら、3、4人いる自分の子供の面倒を見るのが先だろ
And they face a court case when the child support late (The child support late)
養育費の支払いが遅れて、裁判沙汰になってるくせにさ
※ヒップホップ・コミュニティが抱える「デッドビート・ダッド(育児放棄する父親)」の深刻な社会問題を直球で叩き斬るライン。
Money taking and heart breaking, now you wonder why women hate men (Why)
金はせびるわ、心は踏みにじるわ、それでなんで女が男を憎むのか不思議がってるんだから
The sneaky, silent men, the punk, domestic violence men (Why)
陰湿で黙りこくる男、DV(家庭内暴力)を働くチンピラ男たち
Quick to shoot the semen, stop acting like boys and be men (Be men)
すぐにタネ(精液)をばら撒くくせに、ガキみたいな真似はやめてちゃんとした男になりなよ
※避妊もせずに無責任に子供を作る行為を「shoot the semen(精液を撃つ)」と表現し、銃(pistols)を撃つことばかりにこだわる彼らの歪んだ男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)を鋭く批判している。
How you gonna win when you ain't right within? (Be men)
自分の内面が正しくないのに、どうやって人生の勝者になるつもり?
※「right within」は精神的な健康や道徳的・宗教的な誠実さを指す。外見や物質的なステータス(Win)ばかり追い求めても、魂が腐っていれば真の成功はないというローリンの核心となる哲学。
How you gonna win when you ain't right within? (Bredrin)
自分の内面が正しくないのに、どうやって人生の勝者になるつもりさ?(ブラザーたち)
How you gonna win when you ain't right within? (Be men)
自分の内面が正しくないのに、どうやって人生の勝者になるつもり?(男になれよ)
[Refrain]
Uh-uh, come again (Uh-uh; yeah, yeah; come again)
もう一回言うよ
Yo-yo-yo, come again (Yeah, yeah; come again)
ヨォ、もう一回さ
The bredrin, come again (Yeah, yeah; come again)
ブラザーたち、もう一度考え直して
※「bredrin」は「brethren(兄弟・同胞)」のパトワ訛り。
And sistren, come again (Yeah, yeah; come again)
シスターたちも、もう一度考え直して
[Bridge]
Watch out, watch out (Bom, bom, bom)
気をつけて、気をつけなよ
Look out, look out (Bom, bom)
目を凝らして、よく見て
Watch out, watch out (Bom, bom)
気をつけて、気をつけなよ
Look out, look out
目を凝らして、よく見て
Watch out, watch out (Bom, bom, bom)
気をつけて、気をつけなよ
Look out, look out (Bom, bom)
目を凝らして、よく見て
Watch out, watch out (Bom, bom)
気をつけて、気をつけなよ
Look out, look out
目を凝らして、よく見て
[Chorus]
Girls, you know you'd better watch out (Uh, hahah)
女の子たち、気をつけたほうがいいよ
Some guys, some guys are only about
中にはさ、こういう男もいるんだ
That thing, that thing, that thing
「アレ」のことしか頭にない男がね
That thing, that thing, that thing
「アレ」のことしか頭にない男がさ
Guys, you know you'd better watch out
男連中、気をつけたほうがいいよ
'Cause girls, some girls are only about
だって女の子の中には、こういう子もいるんだから
That thing, that thing, that thing
「アレ」のことしか頭にない女がね
That thing, that thing, that thing
「アレ」のことしか頭にない女がさ
Some guys, some guys are only about that thing
「アレ」のことしか頭にない男もいる
(Girls, you know you’d better watch out) Yuh
(女の子たち、気をつけたほうがいいよ)
Some guys, (Girls) some guys are only about that thing
中にはさ、(女の子たち)「アレ」のことしか頭にない男もいる
That thing, that thing, that thing (We takin' this back, yuh, haha)
「アレ」のことしか頭にないヤツらが(昔のスタイルを取り戻すのさ、ハハッ)
That thing, that thing, that thing (Takin' it back, yuh)
「アレ」のことしか頭にないヤツらがね(ルーツに戻るんだ)
[Skit/Outro]
Class!
クラスのみんな!
Hey, we’ve got some very intelligent women here, man
おいおい、ここにはすごく知的な女性たちがいるみたいだな
Do you think you’re too young to really love somebody?
お前ら、誰かを本当に愛するには自分たちはまだ若すぎると思うか?
※アルバム全体を貫く、教師と生徒たちによる「愛と教育」についての対話スキット。ここで真実の愛について生徒たちに自ら考えさせることで、「That Thing(表面的な関係)」からの脱却を促している。
(No! No, no, I don’t think so)
(ううん!全然、そうは思わないわ)
I say it for me, uh, I’m an adult I say, wait
俺個人の意見として言うけどな、俺は大人だから、こう言うんだ。「待てよ」と。
“You’re too young to be in love, this is silly
「お前らは恋をするには若すぎる、バカバカしい。
You’re infatuated or whatever, you got nice jeans
ただのぼせ上がってるだけだろ、いいジーンズ履いてさ。
You wear fancy Adidas”
イカしたアディダスなんか履いちゃって」ってね。
I mean, it might be something I don’t know
まあ、俺の知らない何かがあるのかもしれないけどな
(It's the difference from loving somebody and being in love with somebody)
(誰かを『愛すること(loving)』と、誰かに『恋すること(being in love)』の違いですよ)
Well, you tell me. What’s the difference?
ほう、じゃあ教えてくれ。その違いってのは何だ?
(Okay. You can love anybody but when you’re in love with somebody you’re looking at it like this—you’re taking that person for what he or she is no matter what he or she look like or no matter what he or she do)
(いいですか。『愛する』ことは誰にでもできるけど、誰かに『恋してる(夢中になっている)』時は、こんな風に見えちゃうんです。その人がどんな外見をしていようと、何をしようと、その人のありのままを受け入れちゃうんですよ)
※「being in love(恋に落ちている状態=盲目的な執着や依存)」の危険性を生徒自身が分析している。これは1バース目や2バース目でローリンが指摘した、ダメな男やフェイクな女に引っかかってしまう若者たちの心理状態を説明している。
(You’re crazy! You fall in love, you can fall out of love)
(狂ってるよ!恋に落ちるってことは、恋から覚めることだってあるんだぜ)
(You might stop being in love with them but you are not gonna stop loving that person)
(『恋してる』状態は終わるかもしれないけど、その人を『愛する』ことはやめないでしょ)
(Maybe they ain’t never been loved before or been in love before, they don’t know what the feeling is to be loved)
(たぶん、その人たちは今まで愛されたことも恋したこともないから、愛されるってことがどんな感覚なのか分かってないのよ)
(She poetic)
(あいつ、詩人だな)
She killed it, we could end that conversation with that, right?
彼女が見事にまとめてくれたな、この会話はこれで終わりにできそうだ、だろ?
