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Lost Ones - Lauryn Hill 【和訳・解説】

Artist: Lauryn Hill

Album: The Miseducation of Lauryn Hill

Song Title: Lost Ones

概要

本楽曲は、伝説的ヒップホップ・グループ「Fugees」の解散と、メンバーであり恋人でもあったワイクリフ・ジョンとの愛憎渦巻く決別を直接的に叩きつけた痛烈なディストラックであると同時に、彼女の精神的独立を高らかに宣言するアンセムである。ジャマイカのボブ・マーリーが設立したタフ・ゴング・スタジオで録音され、シスター・ナンシーの古典「Bam Bam」を引用するなど、色濃いダンスホール・レゲエのヴァイブスを纏う。名声や金に目が眩み、魂を見失ったかつての同志に対し、聖書の教えやカルマの思想を引用しながら容赦ない言葉の銃弾を放つ。ヒップホップ史において最も力強く、かつ文学的・音楽的に洗練された「別れの曲」の一つとして今なお高く評価されている。

和訳

[Verse 1]

It's funny how money change a situation
金が状況を変えちまうって滑稽だよね
※ワイクリフ・ジョンとの関係悪化の最大の要因が「金と名声」であったことを皮肉るライン。「フージーズ」として大成功を収めた後、ワイクリフが商業的成功やエゴを優先し始めたことへの批判である。

Miscommunication lead to complication
すれ違いが面倒な事態を引き起こす
※ワイクリフとの複雑な恋愛関係(彼は既婚者であった)と、グループの方向性を巡るコミュニケーション不全を指す。

My emancipation don't fit your equation
アタシの解放は、アンタの計算式には収まらない
※「emancipation(解放)」は奴隷解放宣言などで使われる重みのある言葉。ワイクリフの支配やグループの枠組みから精神的・音楽的に独立しようとする彼女の決断が、彼の思い描く「金儲けのビジネスプラン(equation)」の邪魔になったことを示している。

I was on the humble, you on every station
アタシは謙虚にしてたのに、アンタはどのテレビ局にも出しゃばって
※ローリンがメディアから距離を置こうとしていた時期に、ワイクリフが自身のソロアルバム『The Carnival』のプロモーションなどでメディアに過剰に露出し、自己顕示欲を満たしていた様子を糾弾している。

Some wan' play young Lauryn like she dumb
若いローリンを馬鹿だと思って舐めてかかる奴もいるけど
※「wan'」は「want to」のパトワ(ジャマイカ英語)訛り。若き黒人女性アーティストであるがゆえに、業界の大人たちや元パートナーから都合よく搾取されそうになった彼女の怒りが込められている。

But remember not a game new under the sun
でも太陽の下に新しいゲームなんて一つもないって覚えときな
※旧約聖書の「伝道の書(Ecclesiastes)」1章9節「太陽の下に新しいものは何もない」の引用。人間の強欲さや裏切りは歴史上繰り返されてきた陳腐なものであり、ワイクリフの浅はかな手口も完全にお見通しであるという知的な一撃。

Everything you did has already been done
アンタがやったことなんて、もうとっくに誰かがやってること

I know all the tricks from Bricks to Kingston
「ブリックス」からキングストンまでのあらゆる手口を知ってんだから
※「Bricks」は彼女の地元ニュージャージー州ニューアークのスラング(レンガ造りの建物が多いことに由来)。「Kingston」は本アルバムの録音地であるジャマイカの首都。フッドのストリートの知恵から、第三世界ジャマイカのサバイバル術まで、彼女の視野の広さとストリート・スマートさを誇示している。

My ting done made your kingdom wan' run
アタシのやり方が、アンタの王国を逃げ出させたくさせるのさ
※「ting」は「thing」のパトワ。ローリンの圧倒的なソロとしての才能が、ワイクリフの築こうとした薄っぺらい「王国(フージーズの支配権)」を根本から脅かしていることを意味する。

Now understand, L-Boogie, non-violent
よく理解しな、L-Boogieは非暴力主義だけど
※L-BoogieはローリンのMCネーム。

But if a thing test me, run for mi gun
アタシを試すような真似するなら、銃の引き金を引くよ
※レゲエ/ダンスホールの「サウンドクラッシュ(音楽的バトル)」文化における「gun」のメタファー。実際に発砲するのではなく、リリックという弾丸で相手のキャリアを終わらせるというストリートの警告。

Can't take a threat to mi new born son
生まれたばかりの息子への脅威は絶対に見過ごせない
※当時のローリンは、ボブ・マーリーの息子ローハン・マーリーとの間に第一子(ザイオン)を授かっていた。ワイクリフはこの子供が自分の子であると疑い、それが関係の決定的な崩壊を招いたとされる。この一節は母親としての強烈な防衛本能の表れである。

L been this way since creation
Lは生まれついた時からずっとこのスタイルさ

A groupie call, you fall from temptation
グルーピーからの誘いに、アンタはあっさり誘惑に負けて堕ちていく
※ワイクリフの女性関係の乱れを直接的に告発している。

Now you wanna bawl over separation
今更別れたからって泣き言を言ってんじゃないよ

Tarnish my image in the conversation
陰でアタシのイメージを汚すような噂話をしてさ
※ワイクリフが業界内でローリンを悪く言っていたという背景がある。

Who you gon' scrimmage, like you the champion?
王者気取って、一体誰とスクリメージ(乱闘)するつもり?

You might win some, but you just lost one
アンタはいくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだよ
※「lost one」は文字通りローリン自身のこと。目先の金や名声(win some)を得た代償として、かけがえのないパートナーと類稀なる才能(lost one)を永遠に失ったワイクリフへの痛烈なパンチライン。

[Refrain]

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

[Verse 2]

Now, now, how come your talk turn cold?
さてさて、どうしてそんな冷たい口調になっちまったの?

Gained the whole world for the price of your soul
自分の魂を代償にして、この世界をまるごと手に入れたってわけだ
※新約聖書のマルコによる福音書8章36節「人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の益があろうか」の引用。商業主義に魂を売ったワイクリフへの辛辣な皮肉。

Tryin' to grab hold of what you can't control
コントロールできないものにしがみつこうとしてさ

Now you're all floss, what a sight to behold
今じゃ全身見栄張って、見せ物としては最高だね
※「floss」は見せびらかす、フレックスするの意。

Wisdom is better than silver and gold
知恵は金銀よりも価値があるんだよ
※旧約聖書・箴言16章16節「金を得るより知恵を得る方がどれほどよいか」の引用。物質主義へのアンチテーゼ。

I was hopeless, now I'm on Hope Road
アタシも絶望してたけど、今は「ホープ・ロード」にいる
※ボブ・マーリーが住んでいたジャマイカの「56 Hope Road」との見事なダブルミーニング。絶望(Hopeless)の淵から、レゲエの神様が宿る希望の道(Hope Road=タフ・ゴングでの録音を通じた自己治癒)へと辿り着いた彼女の精神的再生を描いている。

Every man wanna act like he's exempt
男ってみんな自分が罰から免除されてるように振る舞うよね

Need to get down on his knees and repent
膝をついて悔い改めるべきなのにさ

Can't slick talk on the day of judgment
最後の審判の日には、口先の誤魔化しなんて通用しないんだから

Your movement's similar to a serpent
アンタの動き、まるで蛇みたいに這いずり回ってさ
※「蛇(serpent)」はキリスト教においてアダムとイヴを誘惑したサタン(悪魔)の象徴。裏切り者や狡猾な人間のメタファーとしてヒップホップでも頻出する。

Tried to play straight, how your whole style bent?
まともにやろうとしたのに、どうしてそんなにスタイルが歪んじまったの?

Consequence is no coincidence
報いってのは決して偶然じゃない
※因果応報(カルマ)の法則。自らが撒いた種(裏切りやエゴ)の刈り取りが、今のアンタの惨状であるという指摘。

Hypocrites always wanna play innocent
偽善者ってのは、いつも無実の被害者ぶるんだから

Always want to take it to the full out extent
いつだって極限まで自分の都合を押し通そうとするし

Always want to make it seem like good intent
いつも善意でやってるように見せかけたがる

Never want to face it when it time for punishment
罰を受ける時になると、絶対に現実と向き合おうとしない

I know you don't wanna hear my opinion
アタシの意見なんか聞きたくないだろうけど

There come many paths and you must choose one
道はいくつもある、その中から一つを選ばなきゃならない

And if you don't change then the rain soon come
変わろうとしないなら、すぐに土砂降りの雨が降ってくるよ
※「rain」は神の裁きや人生の苦難のメタファー。ジャマイカのパトワ的な響きを持っている。

[Refrain]

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

[Chorus]

You might win some, but you really lost one
いくつか勝つかもしれないけど、本当に大きな「ひとつ」を失ったんだ

You just lost one, it's so silly, how come?
アンタは失ったのさ、本当に馬鹿げてる、どうしてこうなった?

When it's all done, did you really gain from (Gain from)
全てが終わった時、アンタは本当に何かを得られたの?

What you done done? It's so silly, how come?
自分がしでかした事からさ? 本当に馬鹿げてる、どうして?

(You done, how come?)
(しでかした事からさ、どうして?)

You just lost one
アンタは失ったんだよ

[Verse 3]

Now don't you understand, man, universal law?
ねぇ、宇宙の法則ってものが分かってないの?

What you throw out comes back to you, star
自分が放り投げたものは、そのまま自分に返ってくるんだよ、スター気取りさん
※「star」と皮肉たっぷりに呼びかけることで、名声に固執するワイクリフの浅はかさを強調している。

Never underestimate those who you scar
自分が傷つけた相手を絶対に舐めないことだね

Cause karma, karma, karma comes back to you hard
なぜならカルマってやつは、容赦なく強烈に返ってくるから
※ヒンドゥー教や仏教の概念である「カルマ(業)」を強調。

You can't hold God's people back that long
神に選ばれた民を、そんなに長く押さえつけておくことなんてできない
※ローリン自身を不当に縛り付けたワイクリフへの決別であると同時に、黒人社会全体の抑圧からの解放というマクロな視点も重ね合わせている。

The chain of Shaitan wasn't made that strong
シャイターンの鎖だって、そこまで頑丈には作られてないんだ
※「Shaitan(シャイターン)」はイスラム教における悪魔(サタン)の呼称。彼女が当時の恋人ローハン・マーリーらを通じてラスタファリ運動やイスラム教(Five Percent Nation等の影響)など多様な宗教的知見を持っていたことが窺える。悪魔(=ワイクリフの束縛)の鎖は容易に断ち切れるという力強い宣言。

Trying to pretend like your word is your bond
『言葉は絶対に守る』なんて誓約のフリをしてさ
※"word is bond"はヒップホップにおける絶対的な約束・真実(Five Percenters由来の重要なスラング)だが、それが形骸化し嘘まみれになっていることを批判。

But until you do right, all you do will go wrong
でも、正しい行いをしない限り、何をやっても裏目に出るのさ

Now some might mistake this for just a simple song
これをただのシンプルな歌だと勘違いする奴もいるだろうけど

And some don't know what they have ‘til it's gone
失うまで自分の持っていたものの価値に気づかない奴もいる
※ジョニ・ミッチェルの「Big Yellow Taxi」の有名なフレーズ"You don't know what you've got 'til it's gone"を引用(同アルバムの隠しトラックでローリンはこの曲を見事にカバーしている)。

Now even when you're gone, you can still be reborn
でも、完全に堕ちて死んだとしても、また生まれ変わることはできる

And, from the night can arrive the sweet dawn
深い夜の闇からこそ、甘美な夜明けが訪れるんだ

Now, some might listen and some might shun
耳を傾ける奴もいれば、目を背ける奴もいる

And some may think that they've reached perfection
自分は完璧の境地に達したって勘違いしてる奴もいるね
※エゴが肥大化し、成長を止めてしまったワイクリフへの強烈な皮肉。

If you look closely you'll see what you've become
よく自分の姿を見つめ直してみな、自分が何になり果てたかを

'Cause you might win some, but you just lost one
だって、いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだから

[Refrain]

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

You might win some, but you just lost one
いくつか勝つかもしれないけど、最大の「ひとつ」を失ったんだ

[Chorus]

You might win some, but you really lost one
いくつか勝つかもしれないけど、本当に大きな「ひとつ」を失ったんだ

You just lost one, it's so silly, how come?
アンタは失ったのさ、本当に馬鹿げてる、どうしてこうなった?

When it's all done, did you really gain from
全てが終わった時、アンタは本当に何かを得られたの?

What you done done? It's so silly, how come?
自分がしでかした事からさ? 本当に馬鹿げてる、どうして?

You might win some, but you really lost one
いくつか勝つかもしれないけど、本当に大きな「ひとつ」を失ったんだ

You just lost one, it's so silly, how come?
アンタは失ったのさ、本当に馬鹿げてる、どうしてこうなった?

When it's all done, did you really gain from
全てが終わった時、アンタは本当に何かを得られたの?

What you done done? It's so silly, how come?
自分がしでかした事からさ? 本当に馬鹿げてる、どうして?

You just lost one
アンタは失ったんだよ

[Outro]

You just lost one, you just lost one
アンタは失ったんだ、アンタは失ったんだ

You just lost one, you just lost one
アンタは失ったんだ、アンタは失ったんだ

(How come, you lost one? It's so dumb)
(どうして失っちまったの? 本当にくだらないよ)

You just lost one, you just lost one
アンタは失ったんだ、アンタは失ったんだ

You just lost one
アンタは失ったんだ

What a bam-bam!... hehehe
なんて騒ぎだ!…フフフ
※シスター・ナンシーの大名曲にしてレゲエ/ダンスホールの大定番アンセム「Bam Bam」(1982年)のフレーズを直接引用。「Bam Bam」は元々、困難な状況や大騒動を意味するジャマイカのスラングである。この痛烈なディストラックの終わりにこの一言を置くことで、「ちょっと大きな騒ぎを起こしちゃったね」というローリンの不敵な笑いと、自身のルーツであるダンスホール文化への深いリスペクトを示している。

[Skit]

Teacher: Alright people, I'm gonna write something on the board. Let's spell it. First letter
先生:よしみんな、黒板に何か書くぞ。スペルを言ってみろ。最初の文字は?
※教師役はニュージャージー州ニューアークの詩人・政治家であるラス・バラカ(のちの同市長)が務めている。生徒たちのリアルな声を通して、教育制度の枠組みを問うスキット。

Class: L, O, V, E
生徒たち:L, O, V, E

Teacher: What's that?
先生:それは何だ?

Class: Love
生徒たち:Love(愛)!

Teacher: What?
先生:何だって?

Class: Love!
生徒たち:愛だよ!

Teacher: How many people know any songs about love?
先生:愛についての歌を知ってるやつはどれくらいいる?

Class: Right here! I know a lot about love
生徒たち:はい! 俺、愛についてはめっちゃ知ってるよ

Teacher: Tell me some titles, titles of some songs
先生:いくつかタイトルを教えてくれ、曲のタイトルだ

Boy: Love
男子:「Love」!

(Laughter)
(笑い声)

Teacher: There's a song called love?
先生:「Love」なんて曲があるのか?

Boy: Yeah!
男子:あるよ!

Teacher: There's no song called love!
先生:「Love」なんて曲はないぞ!

Boy: Yeah, it's by Kirk Franklin
男子:あるって、カーク・フランクリンの曲さ
※カーク・フランクリンは著名なゴスペル・アーティスト。ストリートの黒人の子供たちにとって、愛の歌といえば白人のポップスではなく、教会で歌われるスピリチュアルなゴスペルが身近であることが示唆されている。

Teacher: Ok ok, how it go?
先生:分かった分かった、どんな風に歌うんだ?

Boy: It go "Love"
男子:こうだよ、「ローーヴ!」

(Laughter)
(笑い声)

Teacher: Bet, bet, okay. Anybody else know any songs about love?
先生:よしよし、オーケー。他に愛についての曲を知ってるやつは?

(Mumbling)
(ざわめき)

Teacher: I can't hear you
先生:聞こえないぞ

Girl: I Will Always Love You
女子:I Will Always Love You(オールウェイズ・ラヴ・ユー)

Teacher: What about any movies about love? You know any movies about love?
先生:じゃあ愛についての映画はどうだ? 愛を描いた映画を知ってるか?

Girl: Titanic
女子:タイタニック!

Teacher: Alright
先生:よし

Boy: Romeo and Juliet
男子:ロミオとジュリエット!

Teacher: You didn't know that was about love ‘til you saw it on TV and they said it was about love
先生:お前ら、テレビで見て「これは愛の物語だ」って言われるまで、それが愛についてだなんて知らなかったんだろ
※アルバム全体のテーマである「Miseducation(誤った教育)」の核心を突く重要なセリフ。メディアや西洋・白人中心のメインストリーム社会(タイタニック、ロミオとジュリエット)によって「愛」の形がステレオタイプ化され、外部から教え込まれている子供たちの現状を浮き彫りにしている。真の愛や教育は外から与えられるものではなく、自分自身の内面から見つけ出すべきだというメッセージに繋がっている。