Artist: Eminem
Album: The Eminem Show (Expanded Edition)
Song Title: Freestyle #2 (Live From Tramps, New York / 1999)
概要
本作は、1999年にニューヨークの伝説的クラブ「Tramps」で録音された貴重なライブ・フリースタイル音源であり、『The Eminem Show』の20周年記念盤にて発掘収録された。メジャーデビュー作『The Slim Shady LP』でブレイクした直後の熱気が真空パックされており、当時のメインストリーム(BrandyやMa$e、No Limit Records)への噛みつきや、Lauryn Hillの都市伝説を引用したブラックジョークなど、アンダーグラウンドのバトルMCとしての獰猛な牙が剥き出しになっている。自身の貧困やドラッグへの依存を自虐的に綴りながらも、無尽蔵の言葉遊びとパンチラインで観客を圧倒する「スリム・シェイディ」の真骨頂と言えるパフォーマンスである。
和訳
[Intro]
I'm with you, I'm with you
分かってる、分かってるよ
A'ight, yo-yo
オーケイ、ヨー、ヨー
Beat 'em in the head
奴らの頭をブチ抜いてやるぜ
[Verse]
Hand me an eighth, beam me up and land me in space
ハッパを1/8オンス寄越せ、俺を宇宙まで転送してくれ
※"an eighth"は1/8オンス(約3.5グラム)のマリファナのこと。"beam me up"はSFドラマ『スタートレック』の有名な転送フレーズ(Beam me up, Scotty)の引用であり、ドラッグで意識を宇宙まで飛ばしてくれという意味だ。
I'ma sit on top of the world and shit on Brandy and Mae<br />世界の頂点に座って、BrandyとMaeの上にクソを垂れてやるよ
※当時メインストリームで大成功を収めていたR&BシンガーのBrandyと、クリーンでポップなラップスタイルで売っていたラッパーMa$eに対する名指しのディス。アンダーグラウンド出身のEminemが、商業主義的なポップ・ヒップホップ/R&Bを徹底的に見下す姿勢を示している。
I'm more than ill
俺は「ヤバい(病んでる)」なんてレベルじゃねぇ
Scarier than a white person trapped in a room with Lauryn Hill
Lauryn Hillと密室に閉じ込められた白人よりもビビってるはずだぜ
※90年代後半にまことしやかに囁かれていた「Lauryn Hillが『白人に私のアルバムを買われるくらいなら、自分の子供が餓死した方がマシ』と発言した」という(後に本人が完全に否定した)都市伝説を逆手に取ったブラックジョーク。Eminemはこの噂を信じていたわけではなく、当時の世間を騒がせていた人種間のゴシップをネタとして消費する彼特有の悪趣味なユーモアである。
Human horror film
俺は歩くホラー映画さ
But with a lot funnier plot and people that feel me
でももっと笑える筋書きで、俺に共感してくれる奴らもいるけどな
※自身の「スリム・シェイディ」という猟奇的かつコミカルなキャラクター像の的確な自己分析。
'Cause I'ma still be The Madd Rapper
だって俺は相変わらず「The Madd Rapper」のままだからな
※"The Madd Rapper"は、Bad Boy RecordsのプロデューサーDeric "D-Dot" Angelettieが演じていたコント用キャラクター(常に世間に不満を抱え、成功者を僻んでキレているラッパー)。Eminemは実際に彼のアルバムに客演しており、自身も彼のように常に世間への怒りとルサンチマンを抱え続けていることを示している。
Whether I got money or not
金を持っていようがいまいが関係ねぇ
As long as I'm on pills and I got plenty of pot
ピル(錠剤)をキメて、たっぷりのハッパがある限り
I'll be in a canoe paddlin', makin' fun of your yacht
俺はボロいカヌーを漕ぎながら、お前らの豪華なヨットを馬鹿にしてやるよ
※物質的な豊かさ(ヨット)を手に入れたメインストリームのラッパーたちに対して、自分は貧乏なカヌーに乗ったままでも、ドラッグのハイと圧倒的なラップスキルさえあればお前らを心底嘲笑できるという強烈なアンチテーゼ。
But I would like an award
でも、賞だけは一つもらっておきたいな
For the best rapper to get one mic' in The Source
「The Source誌で『マイク1本』を獲得した史上最高のラッパー」って賞をな
※権威あるヒップホップ誌『The Source』のアルバムレビューにおいて、最高評価が「マイク5本(5 mics)」であるのに対し、最低評価の「マイク1本」を食らうようなラッパーの中で俺が一番上手い、という皮肉。The Source誌や評論家たちによる既存の評価基準などクソ食らえだという反骨精神の表れである。
And a wardrobe I can afford
あとは俺でも買えるくらいの服(ワードローブ)が必要だな
Otherwise I might just еnd up back striking at Ford
じゃなきゃ、またフォードの工場に戻ってストライキをするハメになっちまう
※地元デトロイトの象徴である「フォード・モーター(自動車工場)」での過酷なブルーカラー労働の記憶。ラップで稼げなければ、また底辺の肉体労働に戻って全米自動車労組(UAW)のストライキに参加するしかないという、切実な労働者階級の現実を語っている。
And you wonder what the fuck I need more Vicodin for?
で、なんで俺がもっとバイコディンを必要としてるか不思議に思うか?
※"Vicodin(バイコディン)"は強力な医療用麻薬(鎮痛剤)。Eminemが当時深刻な依存症に陥っていた処方薬であり、肉体的・精神的な痛みを麻痺させるためのマストアイテムであった。
Evеrybody's pissin' me off, even the No Limit Tank
誰も彼もが俺をイラつかせるからだよ、あのNo Limitの戦車でさえもな
Looks like a middle finger sideways flippin' me off
横向きにしたら、俺に中指を立ててるように見えやがる
※Master Pが率いた南部の巨大ヒップホップ・レーベル「No Limit Records」の有名な戦車(Tank)のロゴを指している。あの戦車の砲身部分を横に傾けて見ると、自分に向かって「Fuck You(中指)」を立てているように見えるという、Eminemの狂気に満ちた天才的な視覚的ワードプレイ。Reddit等のファンコミュニティでも彼のフリースタイル史上屈指のパンチラインとして語り継がれている。
No shit, I'm a great danger to my health
マジな話、俺は俺自身の健康にとって最大の脅威だ
Why else would I kill you then jump in a grave and bury myself?
じゃないと、お前を殺した後に自分から墓穴に飛び込んで、自ら生き埋めになるわけねぇだろ?
※相手を殺す(ラップで圧倒する)圧倒的な攻撃性と、自分自身をも破滅へと導く自己破壊衝動(ドラッグ依存や過激な言動)が同居している「スリム・シェイディ」という狂気のペルソナを完璧に総括したクロージング。
[Outro]
A'ight, yo
オーケイ、ヨー
Who the fuck are ready to go?
ぶっ飛ぶ準備ができてるクソ野郎はどいつだ?
