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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

My Dad’s Gone Crazy - Eminem (feat. Hailie Jade) 【和訳・解説】

Artist: Eminem (feat. Hailie Jade)

Album: The Eminem Show

Song Title: My Dad’s Gone Crazy

概要

歴史的大名盤『The Eminem Show』の最終トラック(アウトロ的スキットを除く)を飾る本作は、エミネムのキャリアにおいて最も狂気的でありながら、同時に最も深い「父親としての愛」が表現された異色の傑作である。最大のトピックは、当時6歳だった実の娘ヘイリー・ジェイド(Hailie Jade)を大々的にフィーチャーしている点だ。制作秘話によれば、スタジオに遊びに来ていたヘイリーが録音ブースで「誰かパパを助けて、パパはおかしくなっちゃったみたい」と無邪気に発した言葉をドレーが気に入り、そのままフックとして採用されたという。歌詞の内容は、同性愛嫌悪への批判を逆手に取ったブラックジョーク、9.11テロの不謹慎な引用、そして社会からの激しいバッシングに対する徹底抗戦など、スリム・シェイディの毒が致死量まで詰め込まれている。しかし、最後に「親が俺の曲を子供に聴かせないのも無理はない。俺だって自分の娘には聴かせないからな」というオチをつけることで、彼が単なる狂人ではなく、極めて冷静な自己客観視と娘への深い愛情を持った一人の「父親」であることを証明している。

和訳

[Intro: Steve King, Hailie Jade, Eminem, Hailie Jade & Eminem]

Hello, boys and girls
こんにちは、男の子も女の子も
※レコーディング・エンジニアのスティーヴ・キングによる、教育的な幼児向け番組(『セサミストリート』や『ミスター・ロジャース・ネイバーフッド』など)を模したパロディのナレーション。

Today we're gonna talk about father and daughter relationships
今日は「父と娘の関係」についてお話ししましょう

Do you have a daddy?
みんなにはパパはいるかな?

I'll bet you do
きっといるよね

Who's your daddy?
君のパパは誰かな?

Daddy, what are you doing?
パパ、何してるの?
※実の娘、ヘイリー・ジェイド(Hailie Jade)の実際の音声。

Haha
ハハッ

Okay then
さて、それじゃあ

Everybody, listen up
みんな、よく聞け

I'm goin' to Hell, who's comin' with me?
俺は今から地獄へ行くぜ、一緒に行きたい奴はいるか?
※映画『ザ・エージェント(Jerry Maguire)』(または映画『ハーフ・ベイクド』)の有名なセリフ「Who's coming with me?」の狂気的なサンプリング。

Somebody, please help him
誰か、パパを助けてあげて

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい
※スタジオ内でエミネムがふざけて走り回っているのを見たヘイリーが発した実際の言葉。これがこの楽曲のタイトルとフックの着想源となった。

[Verse 1: Eminem, Hailie Jade & Dr. Dre]

There's no mountain I can't climb
俺に登れない山はねえ

There's no tower too high, no plane that I can't learn how to fly
高すぎる塔もねえし、俺に操縦できない飛行機もねえ
※マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの名曲「Ain't No Mountain High Enough」のパロディ。同時に、直後の「塔」と「飛行機」というワードは、2001年の9.11同時多発テロ(ワールドトレードセンターへの航空機突入)を露骨に連想させる、極めて危険な導入である。

What do I gotta do to get through to you
お前らに分からせるためには、俺はどうすりゃいいんだ?

To show you there ain't nothin' I can't take this chainsaw to?
このチェーンソーで切り刻めないモンなんて何一つねえってことを、お前らに見せつけるためにな

(Rahnn) Fuckin' brains, brawn and brass balls
(ブィィィーン!)クソみたいな頭脳、腕力、そして図太い真鍮のタマ(度胸)だ
※「Rahnn」はトレードマークであるチェーンソーを振り回す擬音。「brass balls(真鍮の玉)」はスラングで「ものすごい度胸」を意味する。

I cut 'em off and got 'em pickled and bronzed in a glass jar
そいつらを切り落としてホルマリン漬け(ピクルス)にし、ブロンズで固めてガラス瓶に飾ってやるよ

Inside of a hall, with my framed autographed sunglasses
ホールの内側にな。額縁に入った、サイン入りのサングラスと一緒にな

With Elton John's name on my drag wall
エルトン・ジョンの名前が入ったサングラスを、俺の「ドラァグクイーンの壁」に飾ってやる
※2001年のグラミー賞で、同性愛嫌悪(ホモフォビア)の批判を躱すためにゲイの象徴であるエルトン・ジョンと歴史的な共演を果たした事実を極限まで皮肉っている。エルトンのサイン入りグッズを自分の「女装(Drag)コレクション」に並べるという悪趣味なジョーク。

I'm out the closet, I've been lyin' my ass off
俺はクローゼットから出る(カミングアウトする)ぜ、今までずっと大嘘をついてたんだ
※「Out of the closet」は同性愛を公表すること。

All this time, me and Dre been fuckin' with hats off
実はずっと、俺とドレーは帽子を脱いでヤリ合ってたのさ
※ヒップホップ業界最大のタブーである同性愛を、あえて自分とプロデューサーのDr. Dreに当てはめて笑い飛ばすという究極のブラックジョーク。GLAAD(同性愛者団体)からの猛烈な批判に対し、「俺がゲイを差別してるだと? 俺自身がゲイだったらどうするんだよ」という理不尽な論法で煙に巻いている。

(Suck it, Marshall) So tell Laura and her husband to back off
(俺のをしゃぶれ、マーシャル) だから、ローラと彼女の旦那に「すっこんでろ」って伝えな
※「Suck it, Marshall」はDr. Dre本人の合いの手。「ローラと彼女の旦那」とは、当時の大統領ジョージ・W・ブッシュとファーストレディのローラ・ブッシュのこと。国家のトップに対して直接的に中指を立てている。

'Fore I push this motherfuckin' button and blast off
俺がこのクソッタレな核のボタンを押して、ぶっ放す前にな

And launch one of these Russians, and that's all
ロシアのミサイルの一つを発射してやる。それでおしまいだ

Blow every fuckin' thing except Afghanistan on the map off
アフガニスタン「以外」のすべてを、地図上から綺麗さっぱり吹き飛ばしてやるよ
※9.11テロ直後、ブッシュ政権がアフガニスタンへの報復攻撃(空爆)を開始した時期の強烈な政治風刺。「アフガニスタンを吹き飛ばす」という当時のアメリカの狂信的な愛国心に対し、逆に「アフガニスタン以外のアメリカを含むすべてを吹き飛ばしてやる」と宣言する、アンチヒーローの極致。

When will it stop? When will I knock the crap off?
いつになったら終わるんだ? 俺はいつになったらこのバカげた行いをやめるんだ?

Hailie, tell 'em, baby (My dad's lost it)
ヘイリー、あいつらに教えてやれ、ベイビー(パパ、イカれちゃった)

[Chorus: Eminem & Hailie Jade]

There's really nothin' else to say, I, I can't explain it
マジで他に言うことは何もない。俺にも、俺にも説明できねえんだ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

A little help from Hailie Jade, won't you tell 'em, baby
ヘイリー・ジェイドからのちょっとした手助けだ、連中に言ってやれよ、ベイビー

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's nothin' you could do or say that could ever change me
お前らが何をしようと、何を言おうと、俺を変えることなんて絶対にできねえ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's no one on Earth that can save me, not even Hailie
この地球上で俺を救える奴なんて誰もいねえ、たとえヘイリーでさえもな

I think my dad's gone crazy (Crazy)
パパ、おかしくなっちゃったみたい(クレイジー)

[Verse 2: Eminem & Hailie Jade]

It's like my mother always told me: "Rana rana rana ra-
まるで俺の母親がいつも言ってたことみたいだな:「ラナ・ラナ・ラナ・ラ——

-Na, rana rana rana rana rana and codeine and
——ナ、ラナ・ラナ・ラナ…それにコデインをキメて…

Goddamn it, you little motherfucker
クソッタレ、この小さいクソガキめ

If you ain't got nothin' nice to say, then don't say nothin'"
何か良いことが言えないなら、何も口にするんじゃないよ」
※母親デビーへの痛烈な皮肉。精神安定剤や咳止めシロップ(コデイン)の乱用で呂律が回らなくなっている様子(Rana rana...)を再現しつつ、虐待的な暴言を吐いた直後に「綺麗な言葉だけを使いなさい」という道徳的な教訓を垂れるという、母親の深い矛盾と狂気を表現している。

Uh, fuck that shit, bitch
アー、そんな戯言クソ食らえだ、ビッチ

Eat a motherfuckin' dick, chew on a prick
クソッタレなチンコでも食ってろ、イチモツでも噛みちぎってな

And lick a million motherfuckin' cocks per second
1秒間に100万本のクソッタレなチンポを舐め回してろ

I'd rather put out a motherfuckin' gospel record
俺はクソみたいなゴスペルのレコード(綺麗事)を出すくらいなら

I'd rather be a pussy-whipped bitch
女の尻に敷かれたビッチになった方がマシだぜ

Eat pussy and have pussy lips glued to my face
プッシーを舐め回して、女の唇を俺の顔面に接着剤で貼り付けて

With a clit ring in my nose, than quit bringin' my flows
鼻にクリトリス用のピアスを通された方がマシだ。俺のフロウ(ラップ)を繰り出すのをやめるくらいならな
※自主規制や検閲に従って無害な音楽(ゴスペル)を作るくらいなら、どれほど屈辱的で変態的な扱いを受けようとも、自分の過激な言葉(フロウ)を吐き出し続けるという異常な決意表明。

Quit givin' me my ammo; can't you see why I'm so mean?
俺に「弾薬(ネタ)」を与えるのはやめな。なんで俺がこんなに意地悪(過激)か、分からねえのか?
※PTAや政治家がエミネムを批判すればするほど、それが彼のラップの新たな攻撃材料(ammo)になっているというメディアの構造を突いている。

If y'all leave me alone this wouldn't be my MO
もしお前らが俺を放っておいてくれりゃ、こんなのは俺のやり方(M.O.=手口)じゃなくなるんだぜ

I wouldn't have to go eeny-meeny-miny-moe
「どれにしようかな、神様の言う通り(イーニー・ミーニー・マイニー・モー)」なんてやって

Catch a homo by his toe, man, I don't know no more
ホモのつま先を捕まえる必要もなくなるんだ。なあ、俺はもう何も分からねえよ
※英語の童謡「Catch a tiger by the toe(トラのつま先を捕まえろ)」のパロディ。「tiger」を「homo」に置き換え、わざと論争の的になる同性愛嫌悪のワードを放り込むことで、批判者たちを挑発している。

Am I the only fuckin' one who's normal anymore? (Dad)
もう、まとも(ノーマル)なのは俺だけなんじゃないか? (パパ)
※狂っているのは自分ではなく、自分の言動にいちいち目くじらを立てて過剰反応する社会の方だという真理。直後のヘイリーの「パパ」という呼びかけが、彼を現実に引き戻すアンカーとなっている。

[Chorus: Eminem & Hailie Jade]

There's really nothin' else to say, I, I can't explain it
マジで他に言うことは何もない。俺にも、俺にも説明できねえんだ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

A little help from Hailie Jade, won't you tell 'em, baby
ヘイリー・ジェイドからのちょっとした手助けだ、連中に言ってやれよ、ベイビー

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's nothin' you could do or say that could ever change me
お前らが何をしようと、何を言おうと、俺を変えることなんて絶対にできねえ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's no one on Earth that can save me, not even Hailie
この地球上で俺を救える奴なんて誰もいねえ、たとえヘイリーでさえもな

I think my dad's gone crazy (Crazy)
パパ、おかしくなっちゃったみたい(クレイジー)

[Verse 3: Eminem]

My songs can make you cry, take you by surprise
俺の曲は、お前らを泣かせることもできるし、不意打ちで驚かせることもできる

At the same time, can make you dry your eyes
それと同時に、お前らの涙を乾かす(励ます)ことだってできるんだ

With the same rhyme, see, what you're seein'
全く同じライム(韻)を使ってな。ほら、お前らが見てるのは

Is a genius at work, which to me isn't work
「天才の仕事」の瞬間だ。まあ、俺にとっては「仕事」ですらねえけどな
※自分のリリックが持つ多面性と、それをいとも簡単にやってのける圧倒的な才能(genius)への絶対的な自信。「Sing for the Moment」のような感動的な曲と、本作のような狂気的な曲を同じ韻で紡ぎ出すことができるという宣言。

So it's easy to misinterpret it at first, ‘cause when I speak
だから、最初は誤解されやすいんだ。だって俺が言葉を発する時、それは

It's tongue-in-cheek, I'd yank my fuckin' teeth
「タン・イン・チーク(皮肉やジョーク)」だからな。俺は自分のクソッタレな歯を全部引き抜くぜ

Before I'd ever bite my tongue, I'd slice my gums
自分の舌を噛む(自己検閲で言いたいことを我慢する)くらいならな。自分の歯茎を切り裂いて

Get struck by fuckin' lightning twice at once
クソッタレな雷に一度に2回撃たれて

And die and come back as Vanilla Ice's son
死んで、ヴァニラ・アイスの息子として生まれ変わった方がマシだ
※ヴァニラ・アイス(Vanilla Ice)は、90年代初頭に大ヒットしたものの、ヒップホップ界から「作られた白人のフェイクラッパー」として激しいバッシングを受けた人物。彼を最も恥ずべき存在として扱い、「言論の自由を奪われるくらいならフェイクラッパーの血筋に生まれる方がマシだ」と極端な比喩を用いている。

And walk around the rest of my life spit on
そして残りの人生ずっと、ツバを吐きかけられながら歩き回って

And kicked and hit with shit every time I sung
俺が歌うたびに、蹴飛ばされて、クソをぶつけられる方がマシだぜ

Like R. Kelly as soon as "Bump and Grind" comes on
R. Kellyの「Bump n' Grind」が流れた瞬間の、あいつの扱いみたいにな
※R. Kelly(R.ケリー)はR&B界の巨星だが、当時から未成年との淫行疑惑や児童ポルノ疑惑で激しい非難を浴びていた。エミネムは意図的に人々が最も嫌悪感を抱く人物名を引き合いに出し、ショック・バリューを最大化している。

With more pain inside of my brain, than the eyes of a little girl
俺の脳みその中には、強烈な痛みがある。小さな女の子の目に宿る悲しみよりも深い痛みがな

Inside of a plane aimed at the World Trade
ワールドトレードセンターに狙いを定めた、飛行機の中に乗っていた女の子の痛みよりもな
※ヒップホップ史上最も不謹慎で、物議を醸したラインの一つ。9.11テロでビルに突っ込んだ飛行機に乗っていた少女の恐怖と絶望よりも、自分自身の精神的苦痛(狂気)の方が大きいという、倫理の境界線を完全に越えたスリム・シェイディの暴走。

Standin' on Ronnie's grave, screamin' at the sky
ロニーの墓の上に立ち、空に向かって絶叫する

'Til clouds gather; it's Clyde Mathers and Bonnie Jade
雨雲が集まってくるまでな。こいつは「クライド・マザーズ」と「ボニー・ジェイド」だ
※「ロニー」はエミネムにヒップホップを教え、若くして自殺した最愛の叔父(『Cleanin' Out My Closet』などでも言及)。「ボニーとクライド」は有名なアメリカの強盗カップル。エミネムは自分と娘ヘイリーをこの犯罪者コンビに見立て、狂った世界(社会)に対して二人きりで戦いを挑む姿を描いている。

And that's pretty much the gist of it
とまあ、これが大体の要点(ジスト)ってわけだ

Parents are pissed, but the kids love it
親たちはブチギレてるが、子供たちはこの音楽(俺)を愛してる

Nine millimeter heaters stashed in two-seaters with meat cleavers
2シーターの車の中に、9ミリのヒーター(銃)と肉切り包丁(ミートクリーバー)を隠し持ってるのさ
※多音節ライムのお手本のような美しい韻。「heaters / two-seaters / meat cleavers」で完璧なリズムを刻む。

I don't blame you, I wouldn't let Hailie listen to me neither
お前ら(俺を批判する親たち)を責めるつもりはねえよ。俺だって、ヘイリーには俺の曲なんか絶対に聴かせないからな
※曲全体を貫く凄まじい狂気と不謹慎なジョークの連発を、最後の最後で完璧にひっくり返す天才的なオチ。世間の親がエミネムの音楽を子供に禁止するのを「当然だ」と認め、自分も父親として自分の娘にはこんな過激な音楽は聴かせないと白状する。スリム・シェイディの狂気の仮面の下に、マーシャル・マザーズという一人の常識的な父親がいることを明かしてアルバムの本編は幕を閉じる。

[Chorus: Eminem & Hailie Jade]

There's really nothin' else to say, I, I can't explain it
マジで他に言うことは何もない。俺にも、俺にも説明できねえんだ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

A little help from Hailie Jade, won't you tell 'em, baby
ヘイリー・ジェイドからのちょっとした手助けだ、連中に言ってやれよ、ベイビー

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's nothin' you could do or say that could ever change me
お前らが何をしようと、何を言おうと、俺を変えることなんて絶対にできねえ

I think my dad's gone crazy
パパ、おかしくなっちゃったみたい

There's no one on Earth that can save me, not even Hailie
この地球上で俺を救える奴なんて誰もいねえ、たとえヘイリーでさえもな

I think my dad's gone crazy (Crazy)
パパ、おかしくなっちゃったみたい(クレイジー)

[Outro: Eminem & Hailie Jade]

Crazy
狂ってる

Hahahaha hahahaha
ハハハハ、ハハハハ

You're funny, daddy
パパってば、面白いね
※これまで展開されてきた猟奇的な世界観から一転、マイクの前で過激な言葉を吐き出す父親の姿を、ただの「面白い遊び」として見つめるヘイリーの無邪気な笑い声。フィクションの狂気と、温かい親子の現実のコントラストが見事に描かれている。