Artist: Eminem
Album: The Eminem Show
Song Title: Sing for the Moment
概要
2002年にリリースされた『The Eminem Show』に収録された本作は、エミネムのキャリアにおいて最も美しく、そして最も真摯なステートメント(声明)である。エアロスミスの1973年の名曲「Dream On」を大胆にサンプリングし、スティーヴン・タイラーのボーカルとジョー・ペリーのギターソロをフィーチャーした壮大なロック・アンセム。エミネムは本作で、過激な歌詞が青少年の暴力(コロンバイン事件など)を引き起こすと主張するメディアや政治家の偽善を痛烈に批判する。同時に、家庭崩壊や貧困に苦しむ世界中の「何も持たないキッズたち」にとって、ヒップホップがいかに暗闇を照らす救いの光となっているかを力強く説いている。単なるエンターテイナーの枠を超え、彼が世代の代弁者(スポークスマン)として覚醒した瞬間を記録した、音楽史に燦然と輝くマスターピースである。
和訳
[Verse 1: Eminem]
These ideas are nightmares to white parents
こういう考え方は、白人の親どもにとっては悪夢でしかねえ
Whose worst fear is a child with dyed hair and who likes earrings
あいつらが一番恐れてるのは、髪をブリーチしてピアス開けるのが好きな自分の子供さ
※白人中流階級の親たちが抱く「黒人文化(ヒップホップ)への潜在的な恐怖」と、エミネムのように金髪に染めストリートのファッションを真似る自分の子供(スタンたち)に対するパニックを指摘している。
Like whatever they say has no bearing
親の言うことなんて全く耳に入ってないかのような態度
It's so scary in a house that allows no swearing
汚い言葉(スラング)が一切許されないような厳格な家庭で
To see him walkin' around with his headphones blarin'
ヘッドフォンから爆音を鳴らして歩き回る息子の姿を見るのは、そりゃ恐ろしいだろうよ
Alone in his own zone, cold and he don't care
自分だけの世界に引きこもり、冷めきってて、何も気にも留めねえ
He's a problemed child, and what bothers him all comes out
あいつは問題児だ。そしてあいつを悩ませてるもんが全部溢れ出すんだ
When he talks about his fuckin' dad walkin' out
クソッタレな親父が家族を捨てて出て行った話をする時にな
※エミネム自身の生い立ち(父親の蒸発)と、彼のファンである郊外の若者たちが抱える「機能不全家族(Broken home)」の痛みを重ね合わせている。
'Cause he hates him so bad that he blocks him out
親父のことが死ぬほど憎いから、あいつは記憶から完全に締め出してる(ブロックしてる)
If he ever saw him again, he'd probably knock him out
もし二度と親父に会うことがあったら、間違いなくブチのめしてやるだろうな
His thoughts are wacked, he's mad, so he's talkin' back
あいつの思考はイカれちまってる。怒り狂って、親にも口答えする
Talkin' black, brainwashed from rock and rap
黒人みたいな口調で喋り、ロックとラップに洗脳されてやがるのさ
※「Talkin' black(黒人のように話す)」。AAVE(黒人英語)やヒップホップのスラングを使う白人の若者たちを、保守的な大人たちが「黒人文化に洗脳された(brainwashed)」と非難していた当時の社会情勢を描写している。
He sags his pants, durags, and a stockin' cap
ズボンを腰パンして、ドゥーラグやニット帽を被ってる
His stepfather hit him so he socked him back
義理の親父に殴られたから、あいつも殴り返してやった
And broke his nose, his house is a broken home
で、親父の鼻をへし折ってやった。あいつの家は完全にぶっ壊れた家庭(ブロークン・ホーム)だ
There's no control, he just lets his emotions go
もう誰にもコントロールできねえ。あいつはただ、自分の感情を爆発させてるだけなんだ
[Chorus: Steven Tyler & Eminem]
(Come on) Sing with me (Sing), sing for the year (Sing it)
(さあ)俺と一緒に歌おう(歌え)、この一年のために歌うんだ(歌え)
※エアロスミスの「Dream On」の壮大なコーラス。スティーヴン・タイラーの原曲のボーカルをそのままサンプリングしている。Run-D.M.C.とエアロスミスによる「Walk This Way」の歴史的コラボレーションの系譜を受け継ぎ、ヒップホップとロックを見事に融合させている。
Sing for the laughter and sing for the tear (Come on)
笑いのために歌い、そして涙のために歌うんだ(来いよ)
Sing it with me, if it's just for today
俺と一緒に歌おう、たとえ今日という日だけでも
Maybe tomorrow, the good Lord will take you away
もしかしたら明日、神様がお前を連れ去っちまうかもしれないからな
[Verse 2: Eminem]
Entertainment is changin', intertwinin' with gangsters
エンターテインメントは変わっちまった。ギャングスタと複雑に絡み合ってな
In the land of the killers, a sinner's mind is a sanctum
殺し屋たちが蔓延るこの国じゃ、罪人の精神こそが聖域(サンクタム)なんだ
Holy or unholy, only have one homie
神聖だろうが邪悪だろうが、俺にはダチ(ホーミー)が一つしかない
Only this gun, lonely, 'cause don't anyone know me
この銃(ガン)だけさ。孤独だぜ、だって誰も俺の本当の姿なんて知らねえからな
※Verse 1の若者の視点から、エミネム自身の視点へと切り替わる。名声を得たことで周囲の人間が信じられなくなり、自衛のための「銃」だけが唯一の友になってしまったという、ギャングスタ・ラッパーの孤独とパラノイア。
Yet everybody just feels like they can relate (Uh-huh)
それなのに、誰もが俺の曲に「共感できる」って感じてるんだ(あぁ)
I guess words are a motherfucker, they can be great (Ugh)
言葉ってのはマジでヤバい代物だ。素晴らしいものにもなれば(アー)
Or they can degrade, or even worse, they can teach hate
人を貶めることだってできる。さらに最悪なのは、憎しみを教え込むことだってできるってことだ
※言葉(ラップ)の持つ巨大な影響力への自覚。自分の吐いた暴力的な言葉が、若者たちに憎悪(hate)を植え付けているのではないかというメディアからの批判に対する、彼なりの内省と葛藤の表れである。
It's like these kids hang on every single statement we make
まるでこのガキどもは、俺たちが発する一言一句にすがりついてるみたいだ
Like they worship us, plus all the stores ship us platinum
俺たちを神みたいに崇拝して、おまけにどこの店も俺たちのCDをプラチナム(何百万枚も)出荷しやがる
Now how the fuck did this metamorphosis happen?
一体全体、どうやってこんな劇的な変化(メタモルフォーシス)が起きちまったんだ?
From standin' on corners and porches just rappin'
ただ街角や家のポーチに立ってラップしてただけのガキが
To havin' a fortune, no more kissin' ass
今じゃ大金を手にして、誰かに媚びへつらう(ケツにキスする)必要もなくなった
But then these critics crucify you (Yep), journalists try to burn you
だが今度は、評論家どもがお前を十字架に架け(磔にし)、ジャーナリストどもが火炙りにしようとしてくる
Fans turn on you, attorneys all want a turn at you
ファンは手のひらを返し、弁護士どもはこぞってお前を食い物にしようと順番待ちだ
To get they hands on every dime you have
お前が持ってる一文銭(ダイム)残らず、むしり取ってやろうってな
They want you to lose your mind every time you mad
連中は、お前がキレて正気を失うのを今か今かと待ち望んでるんだ
So they can try to make you out to look like a loose cannon
そうすりゃ、お前を「制御不能な危険人物(ルーズ・キャノン)」に仕立て上げられるからな
Any dispute won't hesitate to produce handguns
どんな些細な揉め事でも、躊躇なく拳銃を持ち出すようなヤバい奴だってな
That's why these prosecutors wanna convict me
だから検察官どもは俺を有罪にしたがるんだ
Strictly just to get me off of these streets quickly
俺をこのストリートから一刻も早く、徹底的に排除するためだけにな
But all they kids be listenin' to me religiously
だがな、あいつら(権力者)の子供たちは全員、俺の曲を宗教みたいに熱狂的に聴いてるんだぜ
※親世代(政治家や裁判官)がエミネムを弾圧しようとする一方で、彼らの子供たちはエミネムの熱狂的な信者であるという、アメリカ社会の痛快かつ強烈な皮肉。前曲「Without Me」でも触れられた世代間の断絶。
So, I'm signin' CDs while police fingerprint me
だから俺は、警察で指紋を採られながらCDにサインをしてるのさ
They're for the judge's daughter, but his grudge is against me
「これは裁判官の娘さんへ」ってな。でもその裁判官は俺に個人的な恨みを抱いてやがる
※逮捕されて取り調べを受けている最中でさえ、警察官から「娘のためにサインをくれ」と頼まれるという、彼が経験した異常すぎる現実のエピソード。
If I'm such a fuckin' menace, this shit doesn't make sense, b'
もし俺がそんなクソみたいな社会の脅威(メナス)だって言うなら、こんなの全く筋が通らねえだろ、なあ?
It's all political, if my music is literal
全部ただの政治的なパフォーマンスなんだよ。もし俺の音楽がすべて「文字通り(現実)」だとして
And I'm a criminal, how the fuck can I raise a little girl?
俺が本当の凶悪犯罪者だっていうなら、どうやって俺は小さな娘(ヘイリー)を育てられるってんだ?
I couldn't, I wouldn't be fit to
無理に決まってんだろ、父親としてふさわしいわけがねえ
You're full of shit too, Guerrera, that was a fist that hit you (Bitch)
お前も嘘っぱちだらけだぜ、ゲレラ。お前を殴ったのは(銃じゃなくて)俺の拳だ(ビッチ)
※「ゲレラ(Guerrera)」は2000年にエミネムが妻キムとの浮気現場を目撃し、暴行事件を起こした相手のバウンサー、ジョン・ゲレラのこと(The KissやSoldierの主題)。メディアや検察は「エミネムが装填された銃で殴った」と報道したが、エミネムは「あれは素手(fist)だった」とここで公式に反論し、メディアの誇張報道を批判している。
[Chorus: Steven Tyler & Eminem]
(Come on) Sing with me (Sing), sing for the year (Sing it)
(さあ)俺と一緒に歌おう(歌え)、この一年のために歌うんだ(歌え)
Sing for the laughter and sing for the tear (Sing that shit)
笑いのために歌い、そして涙のために歌うんだ(歌ってやれ)
Sing it with me, if it's just for today
俺と一緒に歌おう、たとえ今日という日だけでも
Maybe tomorrow, the good lord will take you away
もしかしたら明日、神様がお前を連れ去っちまうかもしれないからな
[Verse 3: Eminem]
They say music can alter moods and talk to you
連中は「音楽は人の気分を変え、人に語りかける」なんて言うよな
Well, can it load a gun up for you and cock it too?
じゃあ聞くが、音楽がお前の代わりに銃に弾を込めて、撃鉄を起こしてくれるとでも言うのか?
※1999年のコロンバイン高校銃乱射事件以降、マリリン・マンソンやエミネムなどの過激な音楽が若者の暴力の原因であるとしてバッシングされた風潮への、完璧な反論。「音楽は引き金を引かない(暴力を振るうのは個人の責任である)」という本質的な自己決定権の主張。
Well, if it can, then the next time you assault a dude
まあ、もし音楽にそんな真似ができるってんなら、次にお前が誰かを襲撃した時
Just tell the judge it was my fault, and I'll get sued
裁判官に「エミネムのせいだ」って言い訳してみろよ。俺が喜んで訴えられてやるからさ
See, what these kids do is hear about us totin' pistols
ほら、このガキどもがやってるのは、俺たちが拳銃(ピストル)をぶら下げてるって噂を聞いて
And they wanna get one 'cause they think this shit's cool
自分も一つ欲しがるってことだ。「これマジでクールだぜ」って勘違いしてな
Not knowin' we really just protectin' ourselves
俺たちが本当にただ「自分の身を守るため」だけに持ってるってことも知らずにな
※ラッパーたちが銃を誇示するのはカッコつけるためではなく、ストリートの過酷な現実において生き残るための「自衛」であるという冷酷な事実。
We entertainers, of course the shit's affectin' our sales
俺たちはエンターテイナーだ。当然、そんなイメージが俺たちの売上(セールス)に影響を与えてる
You ignoramus, but music is reflection of self
この無知なバカどもめ。音楽ってのは「自己の投影(リフレクション)」なんだよ
We just explain it, and then we get our checks in the mail
俺たちはただ自分たちの現実を説明して、その結果として小切手が郵便で送られてくるだけだ
It's fucked up, ain't it? How we can come from practically nothin'
狂ってるだろ? 俺たちが事実上「何も持たない(無)」どん底から這い上がって
To bein' able to have any fuckin' thing that we wanted
今じゃ望むものは何でも手に入れられるようになったってことがさ
That's why we sing for these kids who don't have a thing
だからこそ、俺たちは歌うんだ。何も持ってないキッズたちのために
Except for a dream and a fuckin' rap magazine (Haha)
「夢」と、クソみたいな「ラップの雑誌」以外、何も持っていない奴らのためにな(ハハ)
Who post pin-up pictures on they walls all day long
一日中、壁にピンナップ(ポスター)を貼り付けて
Idolize they favorite rappers and know all they songs
お気に入りのラッパーを神格化して、その曲を全部暗記してるような奴ら
Or for anyone who's ever been through shit in they lives
あるいは、これまでの人生でクソみたいな目に遭ってきたすべての奴らのために
So they sit and they cry at night, wishin' they'd die
そいつらは夜になると座り込んで泣き、いっそ死んでしまいたいと願ってる
'Til they throw on a rap record, and they sit and they vibe
ラップのレコードを針に落として、それに身を委ねてバイブスを感じるまではな
※ここで「Sing for the Moment」という曲の真のメッセージが明かされる。エミネムの音楽は、社会から見放され、家庭に居場所がなく、絶望している若者たちにとっての「救命胴衣」であるという事実。音楽が彼らの命を繋ぎ止めているのである。
We're nothin' to you, but we're the fuckin' shit in they eyes
あんたたち(権力者や評論家)にとって俺たちは無価値かもしれないが、あいつらの目には俺たちが「すべて」なんだ
That's why we seize the moment, try to freeze it and own it
だから俺たちは、この瞬間(モーメント)を掴み取り、時間を止めて、自分のものにしようとするんだ
Squeeze it and hold it 'cause we consider these minutes golden
きつく絞り上げ、抱きしめる。だって俺たちは、この数分間を「黄金」だと思ってるからな
And maybe they'll admit it when we're gone
そして多分、俺たちがこの世を去った時に、連中もようやくそれを認めるんだろうよ
Just let our spirits live on
ただ、俺たちの魂(スピリット)を生き続けさせてくれ
Through our lyrics that you hear in our songs, and we can—
お前らが俺たちの曲の中で聴く、このリリック(歌詞)を通してな。そして俺たちは——
[Chorus: Steven Tyler & Eminem]
Sing with me (Sing), sing for the year (Sing it)
俺と一緒に歌おう(歌え)、この一年のために歌うんだ(歌え)
Sing for the laughter and sing for the tear (Come on)
笑いのために歌い、そして涙のために歌うんだ(来いよ)
Sing it with me, if it's just for today
俺と一緒に歌おう、たとえ今日という日だけでも
Maybe tomorrow, the good Lord will take you away
もしかしたら明日、神様がお前を連れ去っちまうかもしれないからな
[Outro: Steven Tyler & Eminem]
Sing with me (Sing), sing for the year (Sing it)
俺と一緒に歌おう(歌え)、この一年のために歌うんだ(歌え)
Sing for the laughter and sing for the tear (Come on)
笑いのために歌い、そして涙のために歌うんだ(来いよ)
Sing it with me, if it's just for today
俺と一緒に歌おう、たとえ今日という日だけでも
Maybe tomorrow, the good Lord will take you away
もしかしたら明日、神様がお前を連れ去っちまうかもしれないからな
※アウトロではジョー・ペリーによるエモーショナルなギターソロがフェードアウトしていく。刹那的であるからこそ美しい、ヒップホップとロックが交差した奇跡の瞬間(モーメント)である。
