Artist: Eminem
Album: The Eminem Show
Song Title: The Kiss (Skit)
概要
2002年リリースの3rdアルバム『The Eminem Show』に収録された本作は、エミネムのキャリアにおける決定的な転換点となった「2000年のジョン・ゲレラ事件」のリアルな追体験である。当時妻だったキムがナイトクラブの駐車場で別の男(バウンサー)とキスしているのを目撃し、逆上したエミネムが銃を持って車から飛び出すまでの緊迫した数分間をドキュメンタリータッチで再現している。この事件により彼は重罪で逮捕され、人生とキャリアのすべてを失う瀬戸際に立たされた。怒りと破滅の境界線を描いたこのスキットは、次曲であるヒップホップ史に残るハードな名曲「Soldier」への完璧かつ映画的なイントロダクションとして機能している。
和訳
[Skit: Eminem & Gary]
"Everybody's Looking at Me" playing in the background
背景で「Everybody's Looking at Me」が流れている
※車のカーステレオから漏れ聴こえているこのビートは、長年ファンの間で議論の的になっていた「Everybody's Looking at Me」というエミネムの未発表曲である。元々は映画『The Wash』のサウンドトラック、あるいは本作『The Eminem Show』への収録が検討されていたとされる幻の楽曲(後にドキュメンタリー等で公開された)であり、細部にまで自らのレア音源を仕込むエミネムのオタク的かつディープな演出である。
I'm gonna kill this bitch, I'm gonna kill her
このビッチをぶっ殺してやる、俺はこいつを殺すんだ
※ここでの「ビッチ」は当時の妻、キム・マザーズ(Kim Mathers)。2000年6月、ミシガン州ウォーレンのナイトクラブ「Hot Rock Sports Bar and Music Cafe」の駐車場で、エミネムがキムの浮気現場を目撃した際の実際の狂乱状態を再現している。
I'm going to fucking jail 'cause I'm gonna kill this bitch
俺は刑務所行きになるぜ、だってこのビッチを殺すからな
Yo, man (What?)
おい、お前(何だよ?)
※助手席に同乗している「ゲイリー(Gary)」は、事件当時にエミネムと一緒に車に乗っていた友人のゲイリー・グラディ(Gary Grady)がモデルだとされている。エミネムの抑えきれない怒りに対する、冷静な「良心の声」としての役割も果たしている。
I don't know, I got a really, really bad feeling about this
分かんねえけど、俺はこれにマジで、本当に嫌な予感がしてるんだよ
Man, would you shut the fuck up, Gary? You always got a bad feeling, man
なあ、黙っててくれないか、ゲイリー? お前はいつも嫌な予感ばっかりじゃねえか
That's her car right there
あそこにあるのがあいつの車だ
Alright, just let me park (Just park), I'm parking
分かった、とにかく駐車させてくれ(駐車しろ)、今停めてる
Fucking turn the car off, dawg (Alright)
とっととエンジンを切れよ(分かったよ)
Alright, we wait
よし、待つぞ
We wait for what?
何を待つんだよ?
We wait until she comes out, and then I'm gonna fucking kill her
あいつが出てくるのを待つんだ。そしたら俺があいつをぶっ殺す
Man, you ain't gonna kill no one
おいおい、お前は誰も殺したりなんかしねえよ
Man, shut the fuck up, dawg (What the fuck did you bring that for?)
なあ、黙ってろよ(一体何のためにそんなもん持ってきたんだよ?)
※「そんなもん(that)」とは、エミネムが取り出した9ミリの拳銃のこと。
Just shut up
いいから黙れ
Fucking clip is empty
弾倉は空っぽだ
(It's not—) Man, don't point that shit at me
(そんなこと——)おい、そんなモン俺に向けるなよ
It's not even loaded, bitch, look
弾なんか入ってねえよ、ビビり野郎、見ろよ
※エミネムは実際に弾の入っていない拳銃(アンローデッド・ガン)を所持していた。メディアや警察は彼が「銃で男を殴った(ピストルウィップ)」と報道したが、後の楽曲「Sing for the Moment」でエミネムは「お前は嘘つきだ、ゲレラ。お前を殴ったのは拳だ(That was a fist that hit you)」と反論している。しかしこのスキットでは、彼が実際に現場へ銃を持参したという致命的な事実は自ら認めている。
Dude (Hahaha)
おい!(ハハハ)
※空の銃の引き金をカチッと引いてゲイリーをからかっている。極限の怒りの中でもサイコパス的なジョークを忘れない、スリム・シェイディ的な狂気を見せつけるシーン。
God, I fucking hate when you do that shit
マジかよ、お前がそういうことするの本当に嫌いなんだよ
Yeah, but it's funny as fuck
ああ、でもクソウケるだろ
Gonna fuck around and kill me one of these days (Gets you every time), I swear
そのうちふざけて俺を殺すことになりかねねえぞ(毎回引っかかるな)、マジで
"Soldier" theme begins to play
「Soldier」のテーマが流れ始める
Is that her?
あれがあいつか?
Where?
どこだ?
Right there, motherfucker
あそこだよ、クソ野郎
Ah, yeah
あぁ、そうだな
Alright, get down, get down (Fuck, here we go again), get down
よし、伏せろ、伏せろ(クソ、また始まったぜ)、伏せるんだ
The fuck? You want me to get under the car?
何だって? 車の下にでも潜り込めってのか?
Yo, who's she walking with?
おい、あいつ誰と歩いてるんだ?
The fuck am I supposed to know? You told me to duck down
知るかよ? お前が伏せろって言ったんだろ
It's the fucking bouncer
あのクソ用心棒(バウンサー)だ
※事件の相手であるナイトクラブのバウンサー、ジョン・ゲレラ(John Guerrera)のこと。エミネムはこの後、彼に対する暴行(と銃器不法所持)の罪で逮捕され、2002年に10万ドルの和解金を支払って決着している。
Did she just kiss him?
今あいつにキスしたか?
I don't think so
そうは見えなかったけどな
Dawg, sh— she just fucking kissed him
おい、あ、あいつ今キスしやがった
No, she didn't
いや、してないって
She j— she's kissing him, dawg (No, she's not), she's fucking kissing—
あいつ、キスしてやがる(いや、してない)、キスしてやがるんだ——
Oh, shit
あーあ、クソッ
Come on
行くぞ
Motherfucker (Marsh)
クソ野郎(マーシュ)
※怒りが頂点に達したエミネムが、車のドアを乱暴に開けて外へ飛び出す。ゲイリーが必死に止めるために発した「マーシュ(Marsh)」は、エミネムの本名マーシャル・マザーズ(Marshall Mathers)の愛称。この車のドアが閉まる音と共に、エミネムのキャリア屈指のハードな名曲「Soldier」へとシームレスに突入する、ヒップホップ史に残る完璧なトランジションである。
