Artist: Eminem
Album: The Eminem Show
Song Title: White America
概要
2002年リリースの3rdアルバム『The Eminem Show』の幕開けを飾る本作は、単なる自己顕示ではなく、アメリカ社会の根深い人種的・階級的偽善を鋭く突いたポリティカル・ラップの最高傑作の一つである。エミネムは自身が「白人」であるがゆえにメインストリームで異常なまでの特権的成功(レコード売上やMTVでの人気)を収めた事実を自嘲気味に認めつつ、同時に白人中流階級の親たちが抱く「黒人文化への潜在的な恐怖」を暴き出している。ヒップホップがゲットーの黒人社会に留まっていた頃は見て見ぬ振りをしていた白人層が、自らの子供たち(エリックやエリカ)が熱狂し始めた途端に検閲や非難に乗り出したという強烈な矛盾。本作は、表現の自由を盾に検閲推進派(ティッパー・ゴアやリン・チェイニー)へ中指を立て、分断社会アメリカの欺瞞を露わにする、白人ラッパーとしての彼にしか描けない自己批評的かつ社会風刺的なマニフェストだ。
和訳
[Intro]
(The white zone is for immediate loading and unloading of passengers only, no parking)
(白線ゾーンは乗客の迅速な乗降専用です、駐車はご遠慮ください)
※1980年のコメディ映画『フライングハイ(Airplane!)』の空港アナウンスのパロディ、あるいはフランク・ザッパの「Joe's Garage」へのオマージュとされる。しかしここでの「The white zone(白線ゾーン)」は、エミネムの主なリスナー層である「白人中流階級の居住区(ホワイト・アメリカ)」の極めて秀逸なダブルミーニングとなっている。「すぐにお乗りください」というアナウンスは、メインストリームのアメリカ白人社会がエミネムという巨大なムーブメントに「今すぐ便乗しろ」という皮肉だ。
America, hahaha
アメリカよ、ハハハ
We love you
愛してるぜ
How many people are proud to be citizens of this beautiful country of ours?
この美しき我が国の国民であることを誇りに思ってる奴はどれくらいいる?
The stripes and the stars for the rights that men have died for to protect
先人たちが命を懸けて守り抜いてきた権利の象徴、星条旗
The women and men who have broke their necks
首の骨を折るほどに身を粉にしてきた男女
For the freedom of speech the United States government has sworn to uphold (Yo, I want everybody to listen to the words of this song)
合衆国政府が守り抜くと誓った「言論の自由」のためにな。なあ、全員この曲の言葉をよく聴いてくれよ
※「言論の自由(Freedom of speech)」は合衆国憲法修正第1条で保障されているが、エミネムの過激な歌詞は常に議会や保守派から検閲の標的にされてきた。ここでは政府が掲げる「自由」がいかに建前であるかを痛烈に皮肉っており、同時にリスナーに対して「ここから先はただのジョークじゃない、俺のメッセージを真剣に聴け」という本気の宣言を行っている。
Or so we're told
…なーんて、俺たちはそう教わってきたわけだがな
[Verse 1]
I never would've dreamed in a million years I'd see
俺自身、こんな光景を見るなんて100万年経っても夢にも思わなかったぜ
So many motherfuckin' people who feel like me
俺と同じように感じてるクソみたいな奴らが、こんなにも大勢いるなんてな
Who share the same views and the same exact beliefs
同じ視点、全く同じ信念を共有してる奴らがさ
It's like a fuckin' army marchin' in back of me
まるで俺の背後を行進するクソデカい軍隊みたいじゃねえか
※「軍隊」は、彼を熱狂的に支持し、髪を金髪に染め、彼のファッションを真似る白人ティーンエイジャーたちの群れ(スタンたち)を指す。「The Real Slim Shady」のMVで大量のクローンが彼に従って歩くビジュアルを言語化したものであり、エミネム自身が自らの影響力の巨大さに戸惑い、同時にそれを武器として自覚し始めた瞬間を描写している。
So many lives I touched, so much anger aimed
クソほど多くの人生に触れて、山ほどの怒りが向けられてきた
In no particular direction, just sprays and sprays
特定の方向じゃなく、ただ無差別に乱射、乱射の嵐だ
※当時のアメリカ郊外の若者たちが抱えていた「理由なき怒り」や「行き場のないフラストレーション(Anger in no particular direction)」を見事に表現している。コロンバイン高校銃乱射事件(1999年)以降、メディアは若者の怒りの原因をマリリン・マンソンやエミネムなどの過激な音楽になすりつけたが、エミネムは「俺が怒りを生んだのではなく、既にそこにあった無差別の怒りを俺が代弁しただけだ」と暗に主張している。
And straight through your radio waves, it plays and plays
そしてお前らのラジオ電波を直撃して、何度も何度も垂れ流される
'Til it stays stuck in your head for days and days
何日も何日も、お前らの頭ん中にこびりついて離れなくなるまでな
Who would've thought standin' in this mirror, bleachin' my hair
誰が想像したよ、この鏡の前に立って髪をブリーチして
With some peroxide, reachin' for a t-shirt to wear
オキシドールを塗りたくりながら、着るためのTシャツに手を伸ばしてた俺が
That I would catapult to the forefront of rap like this?
こんな風にラップ・シーンの最前線へ一気にブチ上がるなんてよ?
※デビュー前夜、絶望のどん底にいたエミネムがドラッグの影響下で自らの分身「スリム・シェイディ」を生み出し、金髪に染めた運命の瞬間を回顧している。ただの貧しい白人青年が、外見を変え、狂気を纏っただけで世界の頂点(The forefront of rap)へカタパルト(投石機)のように打ち出されたという、ヒップホップにおける歴史的なターニングポイントの描写である。
How could I predict my words would have an impact like this?
俺の吐く言葉がこんなデカい影響力を持つなんて、どうやって予測できたってんだ?
I must've struck a chord with somebody up in the office
きっとお偉いさんのオフィスの誰かの逆鱗に触れちまったに違いねえ
'Cause Congress keep tellin' me I ain't causin' nothin' but problems
だって連邦議会の連中は、俺が問題しか起こさねえって喚き散らしてやがるからな
※2000年、米国連邦議会の公聴会にて、エミネムの暴力的な歌詞やミソジニー表現が「青少年に悪影響を与える」として直接的に議論の的となった事実を指している。エンターテイナーである彼が、国家レベルの政治的議論の対象( struck a chord with somebody up in the office )にまで発展したことへの強烈な皮肉。
And now they're sayin' I'm in trouble with the government
で、今じゃ俺が政府と揉めてヤバい状況だなんて言われてる始末だ
I'm lovin' it, I shoveled shit all my life, and now I'm dumpin' it on
最高じゃねえか。俺はこれまでの人生ずっとクソをかき集めてきたんだ、今度はそれをぶち撒けてやるよ
※底辺階級(トレイラーパーク)で生まれ育ち、社会から押し付けられた「クソ(理不尽や貧困、蔑視)」をシャベルで処理し続けてきたエミネム。大成功を収め発言力を得た今、その蓄積された怒りという「クソ」を、今度は偽善的なアメリカ社会全体に対してダンプカーのようにぶち撒けて(dumping it on)復讐しているというメタファーである。
[Chorus]
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
※「エリック(Eric)」は典型的な白人の男の子の名前。中流階級の親たちが自分たちとは無縁だと思っている「不良(エミネム)」は、実は彼らの家庭のすぐそばで育っている「普通の子」の姿そのものであるという事実を突きつけている。
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
※「エリカ(Erica)」は「エリック」の女性版であり、白人中流階級の少女の象徴。さらに「America(アメリカ)」と韻を踏むための意図的なネーミングでもある。保守的な親がどれだけ禁止しようと、彼らの愛娘は自室でエミネムの過激な曲を聴いて熱狂しているという現実を嘲笑っている。
I go to TRL, look how many hugs I get (Yo)
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
※「TRL(Total Request Live)」は当時MTVで放送されていた超人気音楽番組。主にティーンエイジャーのポップファンが観客であり、バックストリート・ボーイズやイン・シンクといったアイドルが出演する場であった。過激なラッパーであるはずのエミネムが、そこで白人の少女たちからアイドル並みの熱狂的な歓迎(ハグ)を受けているという、社会の巨大な矛盾と自身のポップアイコン化をシニカルに描写している。
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
I go to TRL, look how many hugs I get
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
[Verse 2]
Look at these eyes, baby blue, baby just like yourself
この目を見てみろよ、ベイビー・ブルーだぜ。なあ、お前らと全く同じだろ
If they were brown, Shady'd lose, Shady sits on the shelf
もしこの目が茶色だったら、シェイディは負け犬だ。店の棚でホコリを被ってたはずさ
※ヒップホップ史に残る極めて重要なライン。エミネムは、もし自分が黒人(brown eyes/skin)であれば、人種的偏見によりMTVで大々的にプッシュされることもなく、メインストリームの白人層に受け入れられずにCDが売れ残っていた(sits on the shelf)だろうと、自身の「白人特権(White Privilege)」を完全に認めている。ラッパーが自らの成功要因の一部が実力ではなく人種にあると白状することは異例であり、評論家からも高く評価された自己分析である。
But Shady's cute, Shady knew Shady's dimples would help
でもシェイディはキュートだからな。自分のえくぼが有利に働くって分かってたのさ
Make ladies swoon, baby (Ooh, baby), look at my sales
女どもをメロメロにさせるんだ。俺の売上を見てみろよ
Let's do the math: if I was Black, I would've sold half
計算してみようぜ。もし俺が黒人だったら、売上は半分だっただろうな
※ここでも引き続き自身の白人特権に言及している。このラインは、The Notorious B.I.G.の「What's Beef?」における「If I was white, I would've sold half(もし俺が白人だったら、売上は半分だっただろう)」というラインに対するオマージュ、あるいはその逆説的な引用とされる。いずれにせよ、エミネムのメガヒットの背後には白人市場の巨大な購買力があったという業界のタブーを自ら暴露している。
I ain't have to graduate from Lincoln High School to know that
そんなこと、リンカーン高校を卒業してなくたって分かることだぜ
※「リンカーン高校」はエミネムが通っていたミシガン州ウォーレンの高校。彼は9年生を3回落第した末に中退している。学歴がない自分でも、アメリカの音楽産業における人種とビジネスの「算数(do the math)」くらいは容易に理解できるという皮肉。
But I could rap, so fuck school, I'm too cool to go back
でも俺にはラップができた。だから学校なんかクソ食らえだ、戻るには俺はクールすぎるしな
Give me the mic, show me where the fuckin' studio's at
俺にマイクをよこせ、クソッタレなスタジオの場所を教えな
When I was underground, no one gave a fuck I was White
俺がアンダーグラウンドにいた頃は、俺が白人だなんて誰も気にしちゃいなかった
No labels wanted to sign me, almost gave up, I was like
どこのレーベルも俺と契約したがらなくて、危うく諦めかけたよ。こう思ったね
※先ほどの「白人特権で売れた」という主張と対比されるライン。黒人中心のヒップホップ・アンダーグラウンド・シーンでは、白人であることはむしろハンデであり、偏見の目に晒された。ヴァニラ・アイスの失敗以降、レコード会社は「白人ラッパー=売れないジョーク」とみなし、実力があっても契約を見送っていたというエミネムの冷遇された下積み時代の事実である。
"Fuck it," until I met Dre, the only one to look past
「もうクソ食らえだ」ってな。ドレーに出会うまでは。あいつだけが肌の色を越えて中身を見てくれたんだ
※Dr. Dre(ドクター・ドレー)は、肌の色や周囲の反対(インタースコープの役員ですら最初はエミネムとの契約に難色を示した)を気にせず、純粋にエミネムのスキルだけを評価して契約した恩人。ドレーのこの英断がなければ、エミネムの才能は世に出なかった。
Gave me a chance and I lit a fire up under his ass
チャンスをくれた恩返しに、俺はあいつのケツに火をつけてやったのさ
Helped him get back to the top, every fan Black that I got
ドレーが再び頂点に返り咲くのを手助けした。俺が獲得した黒人ファンは全員
※エミネムがデビューした1999年当時、ドレーはDeath Rowレーベルからの離脱やAftermath初期の低迷により、キャリアの停滞期にあった。しかしエミネムの大成功(そして彼が提供したビートや客演)により、ドレーは再びヒップホップ界の頂点へと返り咲いた。
Was probably his in exchange for every White fan that he's got
おそらくあいつのファンになっただろうな。あいつが手に入れた白人ファンと引き換えにさ
※「異人種間のオーディエンスの交換」。ドレー(黒人)の後ろ盾があったからこそ、エミネム(白人)はヒップホップのコアな黒人層から「本物」として受け入れられた。逆に、エミネムという巨大なポップアイコンのプロデューサーであるからこそ、ドレーは郊外の白人ティーンエイジャー層のファンを獲得した。完璧なビジネス的・文化的な共生関係の分析である。
Like damn, we just swapped, sittin' back lookin' at shit, wow
マジかよ、俺たちファン層を交換しちまったのかよ。のんびり座って状況を眺めながら、ワオって感じだ
I'm like, "My skin is it startin' to work to my benefit now?" It's
俺はこう思ったね。「俺の肌の色、今になってようやく俺の有利に働き始めたのか?」ってな。こいつは…
[Chorus]
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
I go to TRL, look how many hugs I get (Yo)
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
I go to TRL, look how many hugs I get
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
[Verse 3]
See, the problem is, I speak to suburban kids
ほら、問題はだな、俺が郊外のガキどもに向かって語りかけてるってことなんだよ
Who otherwise would've never knew these words exist
俺がいなきゃ、こんな汚い言葉が存在することすら一生知らなかったような連中にさ
Whose moms probably would've never gave two squirts of piss
そいつらの母親も、おそらく小便を2滴漏らすほども気に留めなかっただろうよ
※「not give two squirts of piss」は「全く気にしない、どうでもいい」という意味の俗語。「squirt(噴出)」を使った下品な表現で、上品ぶった白人中産階級の母親たちを揶揄している。エミネムが登場するまで、彼女たちはゲットーの黒人たちが何を歌おうが完全に無関心だった。
'Til I created so much motherfuckin' turbulence
俺がこんなにもクソデカい旋風を巻き起こすまではな
Straight out the tube, right into your livin' rooms I came
ブラウン管から一直線に、お前らのリビングルームに俺は飛び込んだ
And kids flipped when they knew I was produced by Dre
で、ガキどもは俺がドレーのプロデュースだって知ってブチ上がったわけさ
That's all it took, and they were instantly hooked right in
たったそれだけで十分だった。あいつらは即座に完全に夢中になっちまった
And they connected with me too because I look like them
しかも俺とお前らのガキどもは繋がったんだ。だって俺の見た目は、あいつらと同じだからな
※郊外の白人の子供たちにとって、黒人のギャングスタラッパーはどこか遠い世界の存在だった。しかし、エミネムは「同じ肌の色」「同じような家庭の不和を抱えるティーン」であったため、彼らはエミネムに強烈なシンパシーと自己同一性(connected)を感じたのである。これが社会現象化した最大の理由である。
That's why they put my lyrics up under this microscope
だからこそ連中は、俺の歌詞を顕微鏡の下に置いて粗探しするんだ
Searchin' with a fine tooth comb, it's like this rope
目の細かいクシでしらみ潰しに探してやがる。まるでこのロープが
※「search with a fine-tooth comb」は「徹底的に調べる、しらみ潰しにする」という慣用句。メディアや政治家がエミネムの歌詞の一部を切り取り、わずかな過激なワードでも見つけて吊るし上げようとしている監視社会的な状況を批判している。
Waitin' to choke, tightenin' around my throat
俺を窒息させようと待ち構え、首の周りでキツく締まっていくみたいだ
Watchin' me while I write this, like, "I don't like this, oh"
俺がこうやってリリックを書いてる間も見張ってて、「こんな言葉は気に入らないわね、あぁ」とか言ってやがる
All I hear is: lyrics, lyrics, constant controversy
俺の耳に入ってくるのは「歌詞がどうの、リリックがどうの」って絶え間ない論争ばかり
Sponsors workin' 'round the clock to try to stop my concerts early
スポンサーどもは俺のコンサートを早々に打ち切ろうと24時間休まず働き詰めだ
Surely hip-hop was never a problem in Harlem, only in Boston
間違いねえ、ヒップホップはハーレムじゃ一切問題にならなかった。問題になったのはボストンだけだ
※曲の核心となる極めて重要なメタファー。「ハーレム(Harlem)」はニューヨークの黒人層が多く住むエリアの象徴。「ボストン(Boston)」は白人が多く住む中流以上の郊外エリアの象徴。N.W.A.や2Pacがどれだけ過激なギャングスタ・ラップを歌っても、それが黒人コミュニティ(ハーレム)内に留まっている限り、白人の権力者たちは「どうせゲットーでの出来事」と無視していた。しかし、白人のエミネムが登場し、自分たちのテリトリー(ボストン)にヒップホップを持ち込んだ途端に、彼らは手のひらを返して「社会問題だ!」と騒ぎ立てた。アメリカ社会の露骨な人種差別とダブルスタンダードを痛烈に批判したヒップホップ史屈指の名パンチラインである。
After it bothered the fathers of daughters startin' to blossom
思春期を迎え始めた娘たちの父親連中が、それにイラつき始めてからな
So now I'm catchin' the flak from these activists when they raggin'
だから今、俺は怒り狂った活動家どもから猛烈な非難を浴びてるわけだ
Actin' like I'm the first rapper to smack a bitch or say "faggot"
まるで俺が、女を引っぱたいたり「オカマ野郎」って言葉を使った最初のラッパーであるかのように振る舞いやがって
※女性蔑視や同性愛嫌悪のスラング(faggotなど)は、ヒップホップの歴史において黒人ラッパーたちが長年使ってきた定型的な表現(ボースティングの一部)であった。しかし、メディアはエミネムだけを特別視し、彼一人を「諸悪の根源」としてスケープゴートにした。ここでも白人社会の無知と偽善を指摘している。
Shit, just look at me like I'm your closest pal
クソが、俺をお前らの大親友みたいに見てみろよ
The poster child, the motherfuckin' spokesman now, for
今じゃ俺がポスター・チャイルドであり、クソッタレな代弁者なんだぜ。この…
[Chorus]
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
I go to TRL, look how many hugs I get (Yo)
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
White America, I could be one of your kids
ホワイト・アメリカよ、俺はお前らの子供の一人だったかもしれないんだぜ
White America, Little Eric looks just like this
ホワイト・アメリカ、お前んちの可愛いエリック坊やもまさにこんな風に育つかもな
White America, Erica loves my shit
ホワイト・アメリカ、お前んちのエリカは俺の曲が大好きだぜ
I go to TRL, look how many hugs I get
TRLに行ってみろよ、俺がどれだけハグされてるか見てみろよ
[Outro]
So to the parents of America, I am the Derringer
だからアメリカの親御さんたちよ、俺はデリンジャーなんだ
※「デリンジャー(Derringer)」は護身用や暗殺用に隠し持つ小型拳銃のこと。ここでは親たちが気づかないうちに子供たちの懐に入り込み、洗脳する危険な凶器としてのエミネム自身を比喩している。過保護な親たちの被害妄想をわざと煽る邪悪なジョークである。
Aimed at little Erica to attack her character
可愛いエリカちゃんに向けられ、彼女の品性を攻撃するためのな
The ringleader of this circus of worthless pawns
価値のねえ歩兵どもを集めたこのサーカス団の団長だ
Sent to lead the march right up to the steps of Congress
連邦議会の階段のすぐ目の前まで、デモ行進を先導するために送り込まれたのさ
And piss on the lawns of the White House
そしてホワイトハウスの芝生に小便をひっかけて
To burn the galf and replace it with a Parental Advisory sticker
"旗"を燃やし、その代わりに「ペアレンタル・アドバイザリー」のステッカーを掲げるために
※ここでの「galf」は「flag(国旗)」を逆から発音した(バックワード・マスキング)もの。9.11テロ直後の愛国心が高まっていた時期(2002年)において、「星条旗を燃やす」という直接的な表現は過激すぎると判断され、自己検閲を逆手に取ってテープを逆再生して挿入するという天才的な手法がとられた。「Parental Advisory(親への警告)」ステッカーを新たな国旗にするという表現は、検閲社会アメリカに対する痛烈な風刺である。
To spit liquor in the faces of this democracy of hypocrisy
この偽善にまみれた民主主義のツラに、酒を吐きかけてやるためにな
Fuck you, Ms. Cheney! Fuck you, Tipper Gore!
くたばれ、チェイニー夫人! クソ食らえだ、ティッパー・ゴア!
※リン・チェイニー(Ms. Cheney)は当時のディック・チェイニー副大統領の妻で、エミネムを「女性嫌悪で暴力的」と激しく非難していた保守派。ティッパー・ゴア(Tipper Gore)はアル・ゴア元副大統領の妻であり、1980年代にPMRC(音楽資料親の目的センター)を設立し、CDに「Parental Advisory」ステッカーを貼る制度を作った張本人である。エミネムは、表現の自由を弾圧するこの二人の権力者に対して直接的な宣戦布告を行っている。
Fuck you with the freest of speech this Divided States of Embarrassment will allow me to have, fuck you!
この「分断された恥晒しな合衆国」が俺に許す限りの最高の言論の自由をもって言ってやる、くたばれ!
※アメリカ合衆国(United States of America)を「Divided States of Embarrassment(分断された恥辱の国)」と言い換えた痛烈なパンチライン。人種や階級で真っ二つに分断(Divided)され、言論の自由を掲げながら検閲を行う恥ずかしい(Embarrassment)国家の現状を糾弾している。
Hahaha, I'm just playin', America
ハハハ、ただの冗談さ、アメリカ
You know I love you
俺がお前のこと愛してるって分かってんだろ
※これほどまでに痛烈な国家批判と権力者への罵詈雑言を並べ立てた後、「ただのジョークだよ」と笑い飛ばして曲を締める、初期エミネムのトレードマークとも言えるアイロニーの極致。このサイコパス的な「煙に巻く」着地が、さらなる怒りを保守派から引き出すことを完全に計算している。
