Artist: Michael Jackson (feat. Cleveland Orchestra)
Album: Dangerous
Song Title: Will You Be There
概要
1991年発表のアルバム『Dangerous』に収録された、ゴスペルとクラシックを融合させた壮大な魂の救済歌である。映画『フリー・ウィリー』(1993年)の主題歌としても知られる。冒頭でクリーヴランド管弦楽団によるベートーヴェンの交響曲第9番(合唱付き)のプレリュードがサンプリングされ、神聖なコーラスとともにリスナーを祈りの空間へと導く。強靭なビートで社会問題に切り込んだアルバムの前半とは対照的に、ここでは「世界最大のポップスター」という重圧に押し潰されそうになるマイケルの、一人の人間としての究極の脆さ(ヴァルネラビリティ)と孤独が剥き出しにされている。「I'm only human(僕はただの人間なんだ)」という悲痛な叫びと、楽曲の最後に彼自身の涙声で語られるスポークン・ワードは、その後に彼を待ち受ける過酷な試練を予言していたかのようであり、聴く者の心を激しく揺さぶるポップミュージック史に残る歴史的な祈りの歌である。
和訳
[Intro/Prelude: Cleveland Orchestra]
Harmonizing
(ハーモナイズ)
※冒頭にサンプリングされているのは、クリーヴランド管弦楽団の演奏によるベートーヴェンの「交響曲第9番」のプレリュードである。クラシック音楽の荘厳な響きをポップスに導入することで、これから始まる楽曲が単なるエンターテインメントではなく、神聖な「祈り」の儀式であることを宣言している。
[Verse 1: Michael Jackson]
Hold me like the River Jordan
ヨルダン川のように、僕を抱きしめて
※「ヨルダン川(River Jordan)」は、キリスト教においてイエスが洗礼を受けた神聖な川であり、魂の浄化や約束の地への通過儀礼を象徴する。メガスターとしての重圧に苦しむマイケルが、宗教的なメタファーを用いて、見返りを求めない無条件の愛(アガペー)と魂の救済を渇望している。
And I will then say to thee
そうすれば、僕はあなたにこう言おう
"You are my friend"
「あなたは僕の友だ」と
Carry me like you are my brother
兄弟のように、僕を背負って歩いて
Love me like a mother
母親のように、僕を愛して
Will you be there?
君はそこにいてくれるかい?
[Interlude 1: Michael Jackson]
Hey
Hey
Yeah
Yeah
Mother
母さん
Oh, baby
Oh, baby
[Verse 2: Michael Jackson]
Weary, tell me will you hold me?
疲れ果てた時、僕を抱きしめてくれるか教えてほしい
When wrong, will you scold me?
間違った時には、僕を叱ってくれるかい?
When lost will you find me?
迷子になった時には、僕を見つけ出してくれるかい?
But they told me a man should be faithful
でも、人々は僕に「男なら誠実であれ」と言う
And walk when not able
歩けない時でも、歩き続けろと
And fight 'til the end, but I'm only human
そして最後まで戦い抜けと言うけれど、僕はただの人間に過ぎないんだ
※「僕はただの人間(I'm only human)」。マイケルの全キャリアにおいて最も痛切な告白の一つ。「キング・オブ・ポップ」として完璧な偶像(アイドル)であることを強要する世間(they)の暴力的な期待に対し、一人の脆い血の通った人間としての悲鳴を上げている。
[Interlude 2: Michael Jackson]
Mother
母さん
Hey
Hey
[Bridge: Michael Jackson & Cleveland Orchestra]
Everyone's taking control of me
誰もが僕をコントロールしようとする
Seems that the world's got a role for me
世界中が、僕に演じるべき役割を押し付けているみたいだ
I'm so confused, will you show it to me?
僕はひどく混乱している、どうか僕に道を示してくれないか?
You'll be there for me and
君が僕のためにそこにいて
Care enough to bear me
僕という重荷を背負うほど、思いやってくれることを
※レコード会社、メディア、そして大衆。マイケルという巨大な産業に群がり、彼を消費の対象(役割)として扱う「世界」に対する恐怖と疲弊。彼が求めているのは、スーパースターとしての役割を脱ぎ捨てた「ただのマイケル」を受け入れてくれる存在である。
[Refrain: Michael Jackson & Cleveland Orchestra]
Hold me (Show me), lay your head lowly (Told me)
抱きしめて(示して)、その頭を低く横たえて(教えてくれた)
Softly then boldly (Yeah)
優しく、そして大胆に(Yeah)
Carry me there (I'm only human), lead me (Hold me)
そこへ連れて行って(僕はただの人間なんだ)、導いて(抱きしめて)
Love me and feed me (Yeah, yeah), kiss me and free me (Yeah)
愛して、心を満たして(Yeah, yeah)、キスをして、僕を自由にして(Yeah)
I will feel blessed (I'm only human), carry (Carry)
僕は祝福されていると感じるだろう(僕はただの人間なんだ)、運んで(運んで)
Carry me boldly (Carry me), lift me up slowly (Yeah)
大胆に僕を背負って(背負って)、ゆっくりと僕を引き上げて(Yeah)
Carry me there (I'm only human), save me (Lift me)
そこへ連れて行って(僕はただの人間なんだ)、救って(引き上げて)
Heal me and bathe me (Lift me up, lift me up)
僕を癒やし、洗い清めて(引き上げて、引き上げて)
Softly you say to me, "I will be there" (I will be there)
優しく僕に言って、「私がそこにいるよ」と(僕がそこにいるよ)
Lift me, lift me up slowly, carry me boldly (Yeah)
引き上げて、ゆっくりと僕を引き上げて、大胆に僕を運んで(Yeah)
Show me you care (Yeah), hold me (Hoo)
思いやりを示して(Yeah)、抱きしめて(Hoo)
Lay your head lowly (It gets lonely sometimes)
その頭を低く横たえて(時々、すごく孤独になるんだ)
Softly then boldly (I get lonely, yeah, yeah)
優しく、そして大胆に(僕は孤独なんだ、yeah, yeah)
Carry me there (Carry me there), need me (Hoo)
そこへ連れて行って(そこへ連れて行って)、僕を必要として(Hoo)
Love me and feed me (Lift me up, hold me up)
愛して、心を満たして(引き上げて、支えて)
Kiss me and free me (Lift me up sometimes, up sometimes)
キスをして、僕を自由にして(時々は僕を引き上げて、引き上げて)
I will feel blessed (Yeah)
僕は祝福されていると感じるだろう(Yeah)
※アンドレ・クラウチ・クワイアによる圧巻のゴスペル合唱と、マイケルのシャウトが交錯するクライマックス。黒人教会のコール・アンド・レスポンスの形式を取り入れ、個人の悲しみが集団の祈りへと昇華していく。バッキングボーカルとリードボーカルが渾然一体となり、神(あるいは無償の愛を与えてくれる誰か)への救済を求めるトランス状態に達している。
[Spoken Word: Michael Jackson]
In our darkest hour
僕らの最も暗い時間に
In my deepest despair
僕の最も深い絶望の中で
Will you still care?
君はまだ、僕を気にかけてくれるかい?
Will you be there?
君はそこにいてくれるかい?
In my trials and my tribulations
僕の試練と苦難の中で
Through our doubts and frustrations
僕らの疑念と挫折を通り抜けて
In my violence, in my turbulence
僕の暴力性の中で、僕の心の乱れの中で
Through my fear and my confessions
僕の恐怖と、告白を通り抜けて
In my anguish and my pain
僕の苦悩と、僕の痛みの中で
Through my joy and my sorrow
僕の喜びと、悲しみを通り抜けて
In the promise of another tomorrow
また新たな明日が来るという約束の中で
I'll never let you part
僕は決して君を離さない
For you're always in my heart
だって、君はいつも僕の心の中にいるのだから
※涙を堪え、震える声で語られる伝説のスポークン・ワード。華やかなサウンドが完全に消え、マイケルの肉声だけが空間に響き渡る。1993年の児童的虐待疑惑(全くの冤罪であったが)以降、彼が経験することになる文字通りの「試練と苦難(trials and my tribulations)」を予言していたかのようなこの独白は、マイケルの全生涯を象徴する最も悲痛で、そして最も美しい魂の遺言(ステートメント)である。
