Artist: Michael Jackson
Album: Dangerous
Song Title: Can’t Let Her Get Away
概要
1991年のアルバム『Dangerous』に収録された、テディ・ライリーとの共作によるニュージャックスウィングの真骨頂とも言えるダンストラックである。ジェームス・ブラウンのサンプリング(「Funky President」等)を多用し、マイケル自身のヒューマン・ビートボックスと複雑に絡み合う重厚なポリリズムを構築している。特筆すべきは、非常に攻撃的で硬質なストリート・ビートに乗せて、逃げゆく恋人にすがりつく男の「脆さ」と「執着」という対極の感情が歌われている点だ。ブリッジ部分ではマイケルとしては極めて異例のFワード(fucked up)が使用されており、優等生的なポップスターからの完全なる脱却と、生の感情を剥き出しにした90年代型R&Bへの深い傾倒を証明する野心作である。
和訳
[Verse 1]
I thought she had to have it
僕の愛をどうしても必要としていると思っていた
※「have it」は愛情や関係性を指す。強気な思い込みから始まるが、すぐにそれが幻想であったことに気づく男の狼狽が描かれる。
Since the first time she came
彼女が初めて僕の元へやって来た時から
Who knows the situation?
この状況を誰が理解できるというんだ?
Mysteries do remain
謎は残されたままさ
And now I wonder why
そして今、僕は不思議に思うんだ
I break down when I cry
泣き崩れてしまう自分のことが
※世界的なメガスターであるマイケルが、一人の女性を前にして「泣き崩れる(break down)」という究極の脆弱性(ヴァルネラビリティ)を曝け出している。硬質なマシーン・ビートと相反する、この人間臭い弱さのコントラストこそが本作の最大の魅力である。
Is it something I said
僕が何かひどいことを言ったのか
Or is it just a lie?
それとも、すべてはただの嘘だったのか?
Is it just a lie?
ただの嘘だったというのか?
I try so hard to love you
君を愛そうと、必死に努力してきた
Some things take time and shame
時間と恥を伴うことだってあるけれど
※「shame(恥)」。プライドを捨てて関係を修復しようとする男の切実な心理。恋愛関係におけるパワーバランスが完全に女性側に傾いていることを示している。
I think the whole world of you
君のことを世界中の誰よりも大切に思っているんだ
Your thoughts of me remain
君の中の僕の記憶は残ったままで
I'll play the fool for you
君のためならピエロにだってなる
I'll change the rules for you
君のためならルールだって変えてみせる
※「play the fool(道化を演じる)」「change the rules(ルールを変える)」。かつて『Billie Jean』などで「主導権を握るスター」であった彼が、ここでは自らの絶対的なルールすらも曲げて女性にすがりついている。
Just say it and I'll do
ただ言ってくれれば、その通りにするよ
Just make this dream come true
どうかこの夢を叶えてくれ
Make a dream come true
この夢を現実にしてくれ
[Pre-Chorus]
If I let her get away
もし彼女を逃してしまったら
Though I'm begging on my knees
膝をついて懇願しているというのに
※膝をついて懇願する(begging on my knees)という究極の屈服。ジェームス・ブラウンの熱狂的なステージ・パフォーマンス(マントショーでの膝つき)へのオマージュとも取れる情熱的な表現である。
I'll be crying every day
僕は毎日泣き続けることになる
Knowing the girl that got away
逃げ去ってしまった彼女のことを思い知らされながら
[Hook]
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
(No)
(ダメだ)
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
[Verse 2]
I tried to mastermind it
僕はすべてをコントロールしようとした
※「mastermind(首謀者となる、巧みに操る)」。自分が恋愛の主導権を握り、状況を操作できると思い込んでいたスター特有の傲慢さと、それが通用しない現実への戸惑いが込められている。
By saying let you be
君の好きにさせておこうと言うことでね
But every time I did it
でも、そうするたびに
The hurt came back at me
痛みが僕のところへ跳ね返ってきた
I told you that I need you
君が必要だと伝えたよね
A thousand times and why
なぜなのか、何千回も
※「何千回も(A thousand times)」。執拗なまでの反復。テディ・ライリーのループするマシーン・ビートが、この堂々巡りする思考の執着を音楽的に補強している。
I played the fool for you
君のためにピエロを演じた
And still, you said goodbye
それなのに、君はさよならを言った
Still, you said goodbye
それなのに、君は去っていったんだ
[Pre-Chorus]
If I let her get away
もし彼女を逃してしまったら
Then the world will have to see
世界中の人々は目の当たりにすることになる
A fool who lives alone
孤独に生きる愚か者の姿を
And the fool who set you free
君を自由にしてしまった、この愚か者をね
※「the world will have to see(世界が見ることになる)」。プライベートな失恋が、常に全世界のゴシップとして消費されてしまうスーパースターの宿命。一個人の悲しみが瞬時にして「大衆の見世物(ショー)」へと変換されてしまうことへの恐怖が隠されている。
[Hook]
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
(No)
(ダメだ)
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
[Bridge]
I got the feeling trouble's gotta stop
このトラブルを終わらせなきゃならない気がする
I got the feeling she's never gonna drop
彼女は決して引き下がらない気がする
I got the feeling she's never gonna stop
彼女は決して立ち止まらない気がする
I got the feeling but she's never gonna know
僕はそう感じているのに、彼女は決して気づかないだろう
My friends thought she's gonna like it
友人たちは彼女が気に入ると思っていた
※自分だけでなく、周囲の人間(友人たち)の予測すらも裏切る彼女の奔放さ。恋愛における他者の介入とその無力さを示している。
I got the feeling but she's never gonna take it
僕はそう感じているのに、彼女は決して受け入れないだろう
I got the feeling her head's all fucked up
彼女の頭は完全に狂っている気がする
※「fucked up(狂っている、滅茶苦茶だ)」。マイケルのキャリアにおいてFワードが使用された極めて稀な瞬間(しばしば音声加工で濁されるが、歌詞カードには存在する)。怒りとフラストレーションが限界を突破し、彼がストリートの荒々しい言語を身にまとった歴史的なパンチラインである。
I got the feeling she's out to play
彼女はただ遊びに出かけているだけなんだろう
[Break]
(Can't let you go, oh)
(君を手放すわけにはいかない、oh)
I never plan to go, I got a feeling but she's never gonna let it go
僕が出て行くつもりはない、そう感じているのに、彼女は決して諦めないだろう
(Can't let you go, oh)
(君を手放すわけにはいかない、oh)
Gotta see her, how are they gonna stop me?
彼女に会わなきゃならない、誰が僕を止められるっていうんだ?
※理性を完全に失い、狂気的なまでの執着を見せる。ジェームス・ブラウンの声やシンセサイザーの暴力的な打撃音が交錯し、主人公の精神状態が崩壊していく様を音響的に表現している。
I got a feeling, but they're never gonna be
そう感じているけれど、奴らに何ができようか
Got a feeling, but she's gonna run away
そう感じているけれど、彼女は逃げ去ってしまうのだろう
I never feel it, but she's never gonna find a way
そんな風には思いたくないが、彼女が決して道を見つけることはないのだろう
[Hook]
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
※後半のフックは、執念深い反復(ループ)の連続。ヒップホップにおけるサンプリングのループ構造を声で再現し、リスナーを強迫観念のようなグルーヴの渦へと引きずり込んでいく。
(No, no)
(ダメだ、ダメだ)
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
(Oh no)
(Oh no)
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let
逃がすわけにはいかない
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
I can't let, I can't let her get away
逃がすわけにはいかない、彼女を逃がすわけにはいかないんだ
