Artist: Michael Jackson
Album: Bad
Song Title: Speed Demon
概要
1987年発表のアルバム『Bad』に収録された、シンクラヴィアによる革新的な電子サウンドが炸裂するファンク・チューンである。表面上は「スピード違反のドライバーと警察官のカーチェイス」を描写しているが、その本質は、前作『Thriller』の歴史的成功によって世界で最も有名な人物となったマイケルが直面した「パパラッチや熱狂的なファンからの執拗な追跡」と「プライバシーの喪失」というパラノイア(被害妄想)のメタファーである。映画『ムーンウォーカー』(1988年)内でウィル・ヴィントン監督によるクレイアニメーションとして映像化されたショートフィルムでは、マイケルがウサギのキャラクター「スパイク」に変装して追跡者から逃走する姿がユーモラスかつシニカルに描かれている。オートバイのエンジン音すらも自身のボイスパーカッション(Cho!という破裂音)とシンセサイザーで見事に融合させており、天才的なリズム感と名声への痛烈な皮肉が同居する隠れた名曲である。
和訳
[Refrain]
Cho, cho
チョ、チョ
※マイケル自身の破裂音によるボイス・パーカッション。バイクのエンジンをふかす音やギアチェンジの金属音を見事に声帯でシミュレートしており、彼自身の肉体がリズム楽器として機能していることを示す象徴的なイントロダクションである。
Cho, oh
チョ、oh
Cho, cho
チョ、チョ
Cho
チョ
[Verse 1]
I'm headed for the border, it's on my mind
境界線へと向かっている、そのことばかり考えている
※「border(境界線)」は、警察の管轄外へと逃れる州境を指すのと同時に、マイケルを息苦しくさせる「名声の境界線」や「監視社会からの脱出」を暗喩している。
And nothing really matters, I've got to be on time
他のことはどうでもいい、とにかく時間に間に合わせなきゃいけないんだ
Look in the view mirror, is he hot on my tracks?
バックミラーを見る、あいつは俺のすぐ後ろまで迫っているのか?
※「he(あいつ)」。表向きは白バイ警官やパトカーであるが、マイケルの現実においては、昼夜を問わず彼を追い回すパパラッチやタブロイド紙の記者たちへの怯え(パラノイア)そのものである。
Is he getting nearer? I feel some heat is on my back
近づいているのか? 背中に熱(プレッシャー)を感じるぜ
[Chorus]
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Speedin' on the freeway, gotta get a leadway
フリーウェイを猛スピードで飛ばす、もっと引き離さなきゃ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Doing it on the highway, gotta have it my way
ハイウェイを駆け抜ける、俺の思い通りにやらせてもらうぜ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Mind is like a compass, I'm stopping at nothing
思考はコンパスのようさ、俺は決して立ち止まらない
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Pull over, boy, and get your ticket right
車を止めな、坊や、そして違反切符をちゃんと受け取りな
※ここで視点が「追跡者(権力側)」へと突如切り替わる。「違反切符(ticket)」は、規格外の名声を得たマイケルに対して社会やメディアが突きつける「有名税(代償)」のメタファーとして機能している。
[Post-Chorus]
Cho
チョ
[Verse 2]
Ain't nothing gonna stop me
何も俺を止めることはできない
Ain't no stop and go
立ち止まったり進んだりなんてしていられない
I'm speeding on the midway
中央車線を猛スピードで突っ走る
I gotta really burn this road
この道を焼き尽くす勢いで走らなきゃならないんだ
※逃走の切迫感がファンクのビートと同調し、スピードそのものが彼にとっての唯一の防衛手段となっている様が描かれている。
[Chorus]
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Speedin' on the freeway, gotta get a leadway
フリーウェイを猛スピードで飛ばす、もっと引き離さなきゃ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Doing it on the highway, gotta have it my way
ハイウェイを駆け抜ける、俺の思い通りにやらせてもらうぜ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Mind is like a compass, I'm stopping at nothing
思考はコンパスのようさ、俺は決して立ち止まらない
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Just pull over, boy, and get your ticket right
さっさと車を止めな、坊や、そして違反切符をちゃんと受け取りな
[Refrain]
Cho
チョ
[Bridge]
Speed demon, you're the very same one
スピード・デーモンよ、お前はあの時のヤツと全く同じだな
Who said, "The future's in your hands
「未来はお前の手の中にある
The life you save could be your own"
お前が救う命は、お前自身のものかもしれない」と言っていたヤツとさ
※「The life you save could be your own」は、アメリカの交通安全キャンペーンで実際に使われていた有名なスローガンの引用。自分を執拗に追い回し、危険に晒しているメディアや社会が、同時に道徳的な説教を垂れるという「偽善」に対する極めて知的な皮肉である。
You're preaching 'bout my life like you're the law
まるで自分が法律であるかのように、俺の人生に説教を垂れるんだな
Gonna live each day and hour like for me there's no tomorrow
明日なんてないかのように、この1日、この1時間を生きてやるさ
Go, go, go, aaow!
行け、行け、行け、アォゥ!
[Interlude]
Cho, oh
チョ、oh
Cho, cho
チョ、チョ
Cho
チョ
[Chorus]
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Speedin' on the freeway, gotta get a leadway
フリーウェイを猛スピードで飛ばす、もっと引き離さなきゃ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Got fire in my pocket like I just lit a rocket
ロケットに点火したみたいに、ポケットの中で炎が燃えているんだ
(Speed demon)
(スピードの悪魔)
Just pull over, boy, and get your ticket right
さっさと車を止めな、坊や、そして違反切符をちゃんと受け取りな
Ah, pull over, boy, and get your ticket right
Ah、車を止めな、坊や、そして違反切符をちゃんと受け取りな
Just pull over, boy, and eat your ticket
さっさと車を止めな、坊や、そして違反切符でも食らいな
※「eat your ticket(切符を食え)」。追跡する権力側(あるいはメディア)の理不尽さと暴力性が露わになる一節。法に基づく取り締まりから逸脱し、単なる嫌がらせへと変貌していることを表現している。
Pull over, boy, pull over, boy, and get your ticket right
車を止めな、坊や、車を止めな、坊や、そして違反切符をちゃんと受け取りな
[Post-Chorus]
Uh, ah, c'mon, hoo!
Uh、ah、さあ来いよ、hoo!
[Outro]
Pull over, boy, get your ticket right
車を止めな、坊や、違反切符をちゃんと受け取りな
Pull over, boy, get your ticket right
車を止めな、坊や、違反切符をちゃんと受け取りな
Pull over, boy, pull over, boy, and get your ticket
車を止めな、坊や、車を止めな、坊や、違反切符を受け取りな
Eat your ticket, get your ticket
切符を食らいな、切符を受け取りな
Eat your, get your—
食らいな、受け取り—
Hoo, ah, ooh, ah
Hoo, ah, ooh, ah
Get your ticket right
違反切符をちゃんと受け取りな
Hoo, ooh
Hoo, ooh
※ベースラインとドラムのシンコペーションが絡み合い、逃亡劇の狂騒がそのままフェイドアウトしていく。決して終わることのないチェイス(マイケルとメディアのいたちごっこ)を暗示するかのような、閉塞感とグルーヴが同居する見事なエンディングである。
