Artist: Michael Jackson
Album: Thriller
Song Title: Billie Jean
概要
1982年発表の歴史的アルバム『Thriller』に収録され、マイケル・ジャクソンを名実ともに世界最大のポップアイコンへと押し上げた不滅のマスターピースである。マイケル自身が単独で書き上げた本作は、熱狂的なグルーピー(ストーカー)から「自分の子供の父親だ」と虚偽の告発を受けた彼自身の実体験とパラノイアを基にしている。クインシー・ジョーンズが「長すぎる」と反対した象徴的なベースラインのイントロをマイケルが押し通したという逸話は有名だ。モータウン25周年特番での初ムーンウォーク披露や、MTVにおける黒人アーティストの人種の壁を打ち破ったスティーブ・バロン監督によるショートフィルムなど、音楽・映像・ダンスの全方位においてポップカルチャーの特異点となった。名声の代償として彼が一生背負うことになる「メディアとの闘い」と「猜疑心」を、極限まで研ぎ澄まされたファンク・ビートに刻み込んだ闇の賛歌である。
和訳
[Verse 1]
She was more like a beauty queen from a movie scene, uh
彼女はまるで、映画のワンシーンから抜け出してきた絶世の美女のようだった
※「映画のワンシーン(movie scene)」。現実離れした魅力を表現すると同時に、これから語られる出来事がハリウッド的な虚構(嘘)に満ちていることを暗示する秀逸な導入である。
I said, "Don't mind, but what do you mean, I am the one?
僕は言ったんだ、「気にしてないけど、僕が『運命の相手(the one)』ってどういう意味だい?
Who will dance on the floor in the round?"
このフロアの中心で一緒に踊る相手が、僕だって?」
※「in the round」は「円の中心で、周囲を囲まれて」の意。ダンスフロアの熱気だけでなく、大衆やメディアの好奇の目(円陣)の真ん中に立たされるマイケル自身のパブリック・イメージの暗喩とも取れる。
She said I am the one
彼女は、僕こそがその相手だと言った
Who will dance on the floor in the round?
このフロアの中心で一緒に踊る相手なんだと
She told me her name was Billie Jean as she caused a scene
彼女は騒ぎを起こしながら、自らをビリー・ジーンと名乗った
※「caused a scene(騒ぎを起こす)」。ファンの熱狂が暴走し、アーティストの私生活を脅かすストーカーやスキャンダルへと変貌する恐怖を描写している。
Then every head turned with eyes that dreamed of bein' the one, uh
その瞬間、誰もが振り返った。自分こそがその『運命の相手』になりたいと夢見るような目を向けて
※大衆がスターを消費する欲望の視線。群衆の誰もが「ビリー・ジーン(スターと特別な関係にある存在)」になりたがっているという、アイドル崇拝の狂気を浮き彫りにしている。
Who will dance on the floor in the round?
このフロアの中心で一緒に踊る相手にね
[Pre-Chorus]
People always told me, "Be careful of what you do," uh
大人たちはいつも僕に言っていた、「自分の行動には気をつけなさい」と
"And don't go around breakin' young girls' hearts" (Hee-hee)
「そして、若い女の子たちの心を弄んで傷つけてはいけないよ」と(Hee-hee)
And mother always told me, "Be careful of who you love
母さんはいつも僕に言っていた、「愛する相手には気をつけなさい
And be careful of what you do (Oh, oh)
そして、自分の行動には十分注意しなさい(Oh, oh)
'Cause the lie becomes the truth" (Oh, oh), hey
なぜなら、嘘はいずれ真実になってしまうから」と(Oh, oh)、hey
※「嘘が真実になる(the lie becomes the truth)」。タブロイド紙の捏造や根も葉もないゴシップが、大衆によって消費されるうちに「真実」として定着してしまうという、マイケルの生涯を通じた悲痛な叫びである。敬虔な母キャサリンの教えを引くことで、彼の生真面目さとスキャンダルに対する怯えがより強調されている。
[Chorus]
Billie Jean is not my lover, uh
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない
She's just a girl who claims that I am the one (Oh, baby)
彼女はただ、僕が「運命の相手」だと言い張っている女の子に過ぎないんだ(Oh, baby)
※ポップ・ミュージック史上最も有名な拒絶のコーラス。「Billie Jean(ビリー・ジーン)」は特定の個人ではなく、マイケルや兄たち(ジャクソンズ)を悩ませてきた数多くの熱狂的なグルーピーの総称であると彼自身が語っている。
But the kid is not my son (Woo)
その子供は、僕の息子じゃない(Woo)
Uh, she says I am the one (Oh, baby)
彼女は僕が運命の相手だと言うけれど(Oh, baby)
But the kid is not my son (Hee-hee-hee; no, no)
その子供は、決して僕の息子なんかじゃないんだ(Hee-hee-hee; いや、違う)
(Hee-hee-hee, woo)
(Hee-hee-hee, woo)
[Verse 2]
For forty days and for forty nights, the law was on her side
40日と40夜もの間、法律は彼女の味方だった
※「40日と40夜(forty days and forty nights)」。旧約聖書の「ノアの方舟」や、イエス・キリストが荒野で悪魔の誘惑を受けた期間を示す極めて宗教的なメタファー。マイケル自身がこの濡れ衣によって受けた苦痛と試練が、聖書レベルの受難であったことを示している。
But who can stand when she's in demand? Her schemes and plans
でも、彼女のその要求に誰が耐えられるというんだ?彼女の陰謀と計画に
'Cause we danced on the floor in the round (Hee, uh, uh)
だって僕らは、あのフロアの中心で一緒に踊ってしまったのだから(Hee, uh, uh)
So take my strong advice
だから、僕からの強い忠告を聞いてほしい
Just remember to always think twice (Don't think twice)
行動する前には、必ず二度考える(よく考える)ことを忘れないで(軽はずみな行動はダメだ)
Do think twice (A-hoo)
絶対に、よく考えるんだ(A-hoo)
She told my baby we danced 'til three, then she looked at me
彼女は僕の恋人に「私たちは夜中の3時まで一緒に踊ったのよ」と告げ、そして僕を見た
Then showed a photo of a baby cryin', his eyes were like mine (Oh, no)
それから泣いている赤ん坊の写真を見せてきたんだ、その瞳は僕にそっくりだった(Oh, no)
※追い詰められる心理の極致。実際にマイケルの元には、彼の子だと主張する女性からの写真や手紙、さらには拳銃(無理心中を迫るもの)まで送られてきたという実体験がベースになっている。
'Cause we danced on the floor in the round, baby (Ooh, hee-hee-hee)
あのフロアの中心で一緒に踊ってしまったがためにね、ベイビー(Ooh, hee-hee-hee)
[Pre-Chorus]
People always told me, "Be careful of what you do," uh
大人たちはいつも僕に言っていた、「自分の行動には気をつけなさい」と
"And don't go around breakin' young girls' hearts" (Don't break no hearts; hee-hee)
「そして、若い女の子たちの心を弄んで傷つけてはいけないよ」と(心を傷つけるな;hee-hee)
But she came and stood right by me
でも、彼女の方からやってきて僕のすぐそばに立ったんだ
Just the smell of sweet perfume (Ha-oh)
ただ、甘い香水の匂いだけを漂わせて(Ha-oh)
This happened much too soon (Ha-oh, ha-ooh)
すべてはあまりにも急な出来事だった(Ha-oh, ha-ooh)
She called me to her room (Ha-oh, hoo), hey
そして彼女は、僕を自分の部屋へと誘ったんだ(Ha-oh, hoo)、hey
※スター特有の絶対的な孤独と、性的な誘惑への恐怖(ファム・ファタール・コンプレックス)。「甘い香水」という嗅覚の記憶が、トラウマのように生々しく刻み込まれている。
[Chorus]
Billie Jean is not my lover (Woo)
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない(Woo)
She's just a girl who claims that I am the one, uh
彼女はただ、僕が「運命の相手」だと言い張っている女の子に過ぎないんだ
But the kid is not my son, uh
その子供は、僕の息子じゃない
No-no-no, uh, no-no-no, no-no-no (Woo)
違う、違うんだ、絶対に違う(Woo)
Billie Jean is not my lover, uh
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない
She's just a girl who claims that I am the one
彼女はただ、僕が「運命の相手」だと言い張っている女の子に過ぎない
But the kid is not my son (No, no)
でもその子供は、僕の息子じゃない(違うんだ)
She says I am the one (Oh, baby)
彼女は僕が運命の相手だと言うけれど(Oh, baby)
But the kid is not my son (No, hee-hee-hee)
その子供は、決して僕の息子なんかじゃない(違う、hee-hee-hee)
(Ah-hee-hee-hee)
(Ah-hee-hee-hee)
[Interlude]
Hee, hoo
Hee, hoo
(Chicka-boom, chicka-boom, chicka-boom, chicka-boom)
(チカ・ブーン、チカ・ブーン、チカ・ブーン、チカ・ブーン)
※マイケル自身のビートボックス(ボイス・パーカッション)によるリズム構築。彼自身が楽器となり、ベースラインとドラムの隙間を埋めるこの天才的なアプローチが、楽曲のグルーヴを極限まで高めている。
[Chorus]
She says I am the one, uh
彼女は僕が運命の相手だと言うけれど
But the kid is not my son (No-no-no, woo, uh)
その子供は僕の息子じゃない(絶対に違うんだ、woo)
Billie Jean is not my lover, uh
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない
She's just a girl who claims that I am the one (You know what you did to me, baby)
彼女はただ、僕が「運命の相手」だと言い張っている女の子に過ぎないんだ(自分が僕に何をしたか分かってるだろ、ベイビー)
But the kid is not my son
でもその子供は、僕の息子じゃない
No-no-no (No-no-no, ah), no-no-no-no (No-no-no)
違うんだ(違うんだ、ah)、絶対に違う(違うんだ)
She says I am the one (No, baby)
彼女は僕が運命の相手だと言うけれど(違うんだ、ベイビー)
But the kid is not my son (No-no-no-no; woo, uh)
その子供は、僕の息子じゃない(絶対に違う;woo)
[Outro]
She says I am the one (You know what you did)
彼女は僕が運命の相手だと言う(自分が何をしたか分かってるだろ)
She says he is my son (Breakin' my heart, babe)
彼は僕の息子だと言い張るんだ(僕の心を壊していく、ベイビー)
She says I am the one
彼女は僕が運命の相手だと言う
Yeah, yeah, Billie Jean is not my lover, uh
あぁ、ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない
Yeah, Billie Jean is not my lover, uh
あぁ、ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない
Yeah, Billie Jean is not my lover, uh (She is just a girl)
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない(彼女はただの女の子さ)
Yeah, Billie Jean is not my lover, uh (She is just a girl; don't call me Billie Jean, hoo)
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない(彼女はただの女の子さ;僕をビリー・ジーンと呼ばないでくれ、hoo)
※「僕をビリー・ジーンと呼ばないでくれ」という不可解なアドリブ。追いつめられたマイケルの精神が、告発者(ビリー・ジーン)と自己との境界線を喪失し、パラノイアの迷宮へと完全に迷い込んだことを示唆する戦慄のアウトロである。
Billie Jean is not my lover, uh (She is just a girl; she's not at the scene)
ビリー・ジーンは僕の恋人じゃない(彼女はただの女の子さ;彼女はその場にはいなかった)
Billie Jean is not (Hee), aaow, ooh
ビリー・ジーンは違うんだ(Hee)、アォゥ、ooh
Yeah, Billie Jean is
あぁ、ビリー・ジーンは…
