Artist: Michael Jackson
Album: Thriller
Song Title: Thriller
概要
1982年発表の歴史的モンスターアルバム『Thriller』の表題曲であり、ポップカルチャーの歴史を永遠に変えた記念碑的楽曲である。ロッド・テンパートンが作詞作曲を手掛け(初期タイトルは「Starlight」であった)、クインシー・ジョーンズがプロデュースした。ホラー映画の意匠を借りた本作は、表向きはスリリングなフィクションだが、その底流には巨大すぎる名声がもたらす恐怖、メディアという「魔物」への潜在的なパラノイア、そして無垢な少年期からの脱却(=野獣への変貌という性的暗喩)が渦巻いている。ジョン・ランディス監督による14分の革新的なショートフィルムはMTVにおける黒人アーティストの人種の壁を打ち破り、音楽ビデオを単なる宣伝ツールから独立した芸術表現へと昇華させた。怪奇俳優ヴィンセント・プライスの語りが、このファンク・トラックに完璧なゴシック的演劇性を付与している。
和訳
[Verse 1]
It's close to midnight
真夜中が近づき
And something evil's lurking in the dark
暗闇に邪悪な何かが潜んでいる
※古典的なホラーの導入部であるが、当時世界最大のポップスターへと変貌を遂げつつあったマイケルにとって、「暗闇に潜む邪悪な何か」は、昼夜を問わず彼を狙うパパラッチや、彼を搾取しようとする業界の暗部(パラノイア)のリアルなメタファーとして機能している。
Under the moonlight
月明かりの下で
You see a sight that almost stops your heart
心臓が止まるような光景を目にする
You try to scream
悲鳴を上げようとするけれど
But terror takes the sound before you make it
声に出す前に、恐怖がその音を奪い去ってしまう
You start to freeze
体は凍りつき始める
As horror looks you right between the eyes
恐怖が君の眉間を真っ直ぐに見据え
You're paralyzed
君はすっかり金縛りに遭ってしまうんだ
[Chorus]
'Cause this is thriller, thriller night
だってこれはスリラー、スリラー・ナイトだから
※元々のタイトルであった「Starlight(星明かり)」から「Thriller(スリラー)」へと変更されたことで、単なるアップビートなダンス・トラックから、生死を賭けたサスペンスへと楽曲の強度が劇的に引き上げられた。
And no one's gonna save you
誰も君を救い出せはしない
From the beast about to strike
襲いかかろうとする野獣からは
You know it's thriller, thriller night
分かるだろ、これはスリラー、恐怖の夜さ
You're fighting for your life inside a killer
今夜、この息を呑むようなスリラーの中で
Thriller tonight, yeah
君は生き残るために戦うんだ
Ooh
Ooh
[Verse 2]
You hear the door slam
ドアがバタンと閉まる音がして
And realize there's nowhere left to run
もう逃げ場がないことに気づく
※「逃げ場がない(nowhere left to run)」。名声という密室に閉じ込められたマイケルの閉塞感(クラウストロフォビア)を如実に表す一節。ショートフィルムにおいて、ゾンビに包囲される廃屋のシーンと見事にリンクする。
You feel the cold hand
冷たい手を感じて
And wonder if you'll ever see the sun
再び太陽の光を見ることができるのだろうかと絶望する
You close your eyes
瞳を閉じて
And hope that this is just imagination (Girl)
これがただの幻覚であってほしいと願う(なぁ)
But all the while
だけどその間にも
You hear a creature creepin’ up behind
背後に魔物が忍び寄る音が聞こえる
You're out of time
もう時間切れさ
[Chorus]
'Cause this is thriller, thriller night
だってこれはスリラー、スリラー・ナイトだから
There ain't no second chance
二度目のチャンスなんてないんだ
Against the thing with forty eyes, girl
40の目を持つバケモノを前にしてはね
※「40の目(forty eyes)」を持つ怪物。文字通りの多眼のモンスターであると同時に、フラッシュを焚きながら彼の一挙手一投足を監視するカメラのレンズや、大衆の容赦ない視線(The Public Eye)を暗示した見事なダブルミーニングである。
Thriller (Ooh), thriller night
スリラー(Ooh)、スリラー・ナイト
You're fighting for your life
君は生き残るために戦うんだ
Inside a killer, thriller tonight
今夜、この息を呑むようなスリラーの中で
[Bridge]
Night creatures call
夜の魔物たちが鳴き声を上げ
And the dead start to walk in their masquerade
死者たちが仮装行列(マスカレード)のように歩き出す
※「masquerade(仮面舞踏会、偽装)」。ハリウッドやショービジネス界隈における、偽りの笑顔と死んだような目を持つ人々(=ゾンビ)が織りなす虚飾のパレードへの痛烈な皮肉として機能している。
There's no escaping the jaws of the alien this time
今回ばかりは、異形の顎(あぎと)から逃れる術はない
(They're open wide)
(奴らは大きく口を開けている)
This is the end of your life, ooh
これが君の人生の最期なんだ、ooh
[Verse 3]
They're out to get you
奴らは君を捕らえようとしている
There's demons closing in on every side (Ooh)
悪魔たちが四方八方から迫り来る(Ooh)
They will possess you
奴らに取り憑かれてしまうぞ
Unless you change that number on your dial
テレビのチャンネル(ダイヤル)を変えない限りはね
※作詞家ロッド・テンパートンによる極めて秀逸なメタ・フィクション的展開。第四の壁を破り、これまでの恐怖体験が「テレビ画面のホラー映画」であったことを暴露する。同時に、恐怖やセンセーショナリズムを家庭のリビングへと垂れ流すマスメディアそのものへの批評にもなっている。
Now is the time
今こそ
For you and I to cuddle close together, yeah
君と僕がぴったりと寄り添う時なんだ
All through the night
夜通しずっと
I'll save you from the terror on the screen
僕が、画面の恐怖から君を守ってあげる
I'll make you see
僕が教えてあげるよ
[Chorus]
That this is thriller, thriller night
これがスリラー、スリラー・ナイトだってことを
'Cause I can thrill you more
だって、僕の方がもっと君をゾクゾクさせられるから
Than any ghoul would ever dare try
どんな悪鬼(グール)の企みよりもね
※ホラーの文脈から一転、「映画の怪物よりも、僕の男としての魅力の方が君を震え上がらせる(快感を与える)」というセクシュアルな誘惑への劇的なシフト。モータウン時代の無性的な(アセクシャルな)子役から、危険で官能的な大人の男性(=獣)への変貌を宣言する、極めて重要なメタファーである。
Thriller (Ooh), thriller night
スリラー(Ooh)、スリラー・ナイト
So let me hold you tight
だから、君を強く抱きしめさせて
And share a killer, thriller, chiller
そして分かち合おう、この最高にスリリングで、背筋の凍る
Thriller, here tonight
スリラーを、今夜ここで
'Cause this is thriller, thriller night
だってこれはスリラー、スリラー・ナイトだから
Girl, I can thrill you more
なぁ、僕の方がもっと君をゾクゾクさせられるから
Than any ghoul would ever dare try
どんな悪鬼の企みよりもね
Thriller (Ooh), thriller night
スリラー(Ooh)、スリラー・ナイト
So let me hold you tight
だから、君を強く抱きしめさせて
And share a killer, thriller (Ow)
そして分かち合おう、この最高の、スリラーを(Ow)
[Outro: Vincent Price & Michael Jackson]
I'm gonna thrill you tonight
今夜、君をゾクゾクさせてあげる
Darkness falls across the land
闇が大地を覆い
The midnight hour is close at hand
真夜中の刻(とき)が近づく
※怪奇俳優ヴィンセント・プライスによる、エドガー・アラン・ポーを彷彿とさせるゴシック調のラップ(語り)。この歴史的なナレーションの導入により、アーバン・ファンクと西洋の古典的ホラーが見事に融合し、世界中の誰もが楽しめる究極のクロスオーバー・エンターテインメントが完成した。
Creatures crawl in search of blood
魔物たちが血を求めて這い回り
To terrorize y'all's neighborhood (I'm gonna thrill you tonight)
お前たちの街を恐怖に陥れる(今夜、君をゾクゾクさせてあげる)
And whosoever shall be found
そして、もし見つかったならば
Without the soul for getting down
「踊り明かす(get down)」魂を持たぬ者は
※「get down」はファンクやディスコにおける「ノリよく踊る」という意味のスラング。ゾンビの徘徊するゴシック詩の中に忍ばせられた巧妙な音楽的パンである。つまり、音楽とダンス(ファンクの魂)を持たない者だけが、生きた屍(ゾンビ)になってしまうという、マイケル自身の音楽至上主義を説いたテーゼである。
Must stand and face the hounds of hell
地獄の猟犬に立ち向かい
And rot inside a corpse's shell
屍の抜け殻の中で腐りゆく運命にある
I'm gonna thrill you tonight
今夜、君をゾクゾクさせてあげる
Thriller, ooh, babe (Thriller)
スリラー、ooh、ベイビー(スリラー)
I'm gonna thrill you tonight (Thriller night)
今夜、君をゾクゾクさせてあげる(スリラー・ナイト)
Thriller, oh, darling (Oh, baby)
スリラー、oh、ダーリン(Oh、ベイビー)
I'm gonna thrill you tonight (Thriller)
今夜、君をゾクゾクさせてあげる(スリラー)
Ooh, babe (Thriller night)
Ooh、ベイビー(スリラー・ナイト)
I'm gonna thrill you tonight (Thriller)
今夜、君をゾクゾクさせてあげる(スリラー)
Oh, darling (Oh, baby)
Oh、ダーリン(Oh、ベイビー)
Thriller night, babe (Thriller night, babe)
スリラー・ナイトさ、ベイビー(スリラー・ナイト、ベイビー)
Ooh
Ooh
The foulest stench is in the air
最も忌まわしい悪臭が漂い
The funk of forty thousand years (Thriller night, thriller)
4万年のファンク(腐臭)が迫る(スリラー・ナイト、スリラー)
※「funk(ファンク)」。腐敗臭や強烈な匂いを示す単語であるが、同時にブラック・ミュージックの「ファンク(Funk)」との見事なダブルミーニングになっている。「4万年のファンク」とは、死者をも踊らせる黒人音楽の根源的で圧倒的なグルーヴの歴史そのものを指している。
And grisly ghouls from every tomb
そしてあらゆる墓場から、おぞましい喰尸鬼(グール)が
Are closing in to seal your doom
お前の運命を封じ込めるために迫り来る
And though you fight to stay alive
生き延びようと抗っても
Your body starts to shiver (I'm gonna thrill you tonight)
お前の体は震え始める(今夜、君をゾクゾクさせてあげる)
For no mere mortal can resist
いかなる定命の者(ただの人間)も、抗うことなどできないのだから
The evil of the thriller
このスリラーの魔力(悪)にはね
