Artist: Michael Jackson (feat. Paul McCartney)
Album: Thriller
Song Title: The Girl is Mine
概要
1982年発表の歴史的モンスターアルバム『Thriller』からの第一弾先行シングル。マイケル・ジャクソンと元ビートルズのポール・マッカートニーによる世紀のデュエットである。一人の女性を巡って二人の世界的スターが軽妙な恋の鞘当てを演じるソフトなAORナンバーだが、この曲がアルバムのリードシングルに選ばれた背景には、プロデューサーのクインシー・ジョーンズとマイケルの緻密な「クロスオーバー戦略」が存在した。当時、白人音楽と黒人音楽で明確に分断されていたアメリカのラジオ局の壁を打ち破るため、白人ポップスの象徴であるポールを招き入れ、人種を問わず全米のメインストリームで放送されることを狙ったのである。見事にその目的を果たした本作は『Thriller』の歴史的成功の完璧な地ならしとなった。しかし、この数年後にマイケルがビートルズの楽曲の版権(ATVカタログ)を買収したことで二人の友情が完全に決裂することになる歴史の皮肉を内包している点でも、ポップス史において極めて重要な意味を持つ一曲である。
和訳
[Verse 1: Michael Jackson]
Every night, she walks right in my dreams
毎晩、彼女は僕の夢の中へと歩いてくるんだ
※白人ポップスの帝王ポール・マッカートニーを迎え撃つ一番手として、マイケルは得意のシルキーなボーカルで甘いロマンティシズムを提示する。夢と現実の境界を曖昧にするアプローチは、彼が自身の楽曲で頻繁に用いる「ファンタジーへの逃避」の表れでもある。
Since I met her from the start
初めて彼女に出会ったその時からずっと
I'm so proud I am the only one
僕だけが彼女にとって唯一の存在だなんて、本当に誇らしいよ
Who is special in her heart
彼女の心の中で、特別な存在だなんて
[Chorus: Michael Jackson]
The girl is mine
あの子は僕のものさ
The doggone girl is mine
あの子は絶対に僕のものなんだ
※「doggone」は「goddamn(いまいましい、全くの)」を和らげた上品なスラング。当時、敬虔なエホバの証人の信者であり、汚い言葉(Fワードなど)を極端に避けていたマイケルのクリーンなパブリック・イメージと信仰的背景が色濃く反映された特有の表現である。
I know she's mine
僕のものだって分かっている
Because the doggone girl is mine, mhm
だって、あの子は僕のものなんだから、mhm
[Verse 2: Paul McCartney]
I don't understand the way you think
君がどうしてそんな風に考えるのか理解できないね
Saying that she's yours, not mine
彼女は僕のじゃなくて、君のものだなんて言うなんて
※ここでポールが登場する。一人の女性を黒人青年と白人青年が争うという構図は、1980年代初頭のアメリカにおいて、人種間の壁を軽やかに越えてみせる極めて画期的なポップ・ステートメントであった。
Sending roses and your silly dreams
バラの花を贈ったり、馬鹿げた夢を語ったりしても
Really just a waste of time
本当にただの時間の無駄さ
[Chorus: Paul McCartney]
Because she's mine
だって彼女は僕のものだから
The doggone girl is mine
あの子は絶対に僕のものなんだ
Don't waste your time
無駄な時間は使わないことだね
Because the doggone girl is mine
だって、あの子は僕のものなんだから
[Bridge: Paul McCartney, Michael Jackson, Both]
I love you more than he
彼よりも僕の方が君を愛しているよ
(Take you anywhere)
(君をどこへだって連れて行く)
Well, I love you endlessly
そうさ、僕の愛は永遠に終わらない
(Loving, we will share)
(愛を、僕らは分かち合うんだ)
So come and go with me to one town
だから僕と一緒に、ある街へ行こう
※「one town(一つの街)」。争いを離れ、二人だけの閉鎖されたユートピアへと逃避しようとするマイケル特有のピーターパン・コンプレックス的な願望が垣間見える。
But we both cannot have her
でも、僕ら二人が彼女を手に入れることはできない
So it's one or the other
どちらか一人しか選ばれないんだ
And one day, you'll discover
そしていつの日か、君も気づくはずさ
That she's my girl forever and ever
彼女が永遠に僕の女の子だってことにね
[Verse 3: Paul McCartney & Michael Jackson]
Don't build your hopes to be let down
後でがっかりするような期待は抱かないことだね
'Cause I really feel it's time
そろそろ決着の時だと、本当に感じているからさ
I know she'll tell you I'm the one for her
彼女はきっと君に言うはずさ、僕こそがふさわしいって
'Cause she said I blow her mind
だって彼女は、僕に夢中だと言っていたからね
※「blow someone's mind(心を吹き飛ばす=夢中にさせる、圧倒する)」。1960年代のサイケデリック・カルチャー由来のスラングをビートルズの元メンバーであるポールが歌うことで、彼の音楽的ルーツと歴史的な重みを楽曲に付与している。
[Chorus: Michael Jackson]
The girl is mine
あの子は僕のものさ
The doggone girl is mine
あの子は絶対に僕のものなんだ
Don't waste your time
無駄な時間は使わないことだね
Because the doggone girl is mine
だって、あの子は僕のものなんだから
[Bridge: Michael Jackson & Paul McCartney]
She's mine, she's mine
僕のものさ、僕のもの
No, no, no, she's mine
いやいや、彼女は僕のものだよ
The girl is mine, the girl is mine
あの子は僕のもの、僕のものさ
The girl is mine, the girl is mine
あの子は僕のもの、僕のものさ
The girl is mine (Mine, mine); yep, she's mine (Mine, mine)
あの子は僕のもの(僕の、僕のもの)、あぁ、彼女は僕のもの(僕の、僕のもの)
The girl is mine (Mine, mine); yeah, she's mine (Mine, mine)
あの子は僕のもの(僕の、僕のもの)、そう、彼女は僕のもの(僕の、僕のもの)
[Chorus: Michael Jackson]
Don't waste your time
時間の無駄さ
Because the doggone girl is mine
だって、あの子は僕のものなんだから
The girl is mine
あの子は僕のものなんだ
[Interlude: Paul McCartney & Michael Jackson]
Michael, we're not going to fight about this, okay?
マイケル、このことで僕たち殴り合ったりするつもりはないよね?
※楽曲のハイライトとなるスポークン・ワード(語り)の応酬。アドリブのように聴こえるが、実際には緻密にスクリプト化されている。頂点を極めた大スター二人が、嫉妬や憎悪という生々しい感情をユーモアで包み込み、まるで上質なシットコム(コメディ番組)のワンシーンのように昇華させている。
Ha, ha, Paul, I think I told you I'm a lover, not a fighter
ハハ、ポール、前に言ったと思うけど、僕は「愛する者(lover)」であって、「争う者(fighter)」じゃないんだ
※「I'm a lover, not a fighter」。マイケルの平和主義的なパーソナリティを決定づけた歴史的名言。このセリフは後に彼自身のアイコン的なフレーズとして大衆文化に定着し、平和や非暴力を訴える彼の生涯のスタンスを象徴する言葉となった。
Eh, I've heard it all before, Michael
ええと、それはもう聞き飽きたよ、マイケル
She told me that I'm her forever lover, you know, don't you remember?
彼女は僕こそが永遠の恋人だと言っていたんだ、ほら、覚えてないかい?
Well, after loving me, she said she couldn't love another
でも、僕と愛し合った後、彼女は他の誰も愛せないと言っていたよ
Is that what she said?
彼女がそう言ったのかい?
Yeah, she said it; you keep dreaming
ああ、言っていたとも。君は夢でも見てなよ
[Outro: Michael Jackson & Paul McCartney]
(I don't believe it!) (Mine, mine)
(信じられないね!)(僕のもの、僕の)
(No, no, no) The girl is mine (Mine, mine, mine)
(いやいや)あの子は僕のもの(僕のもの、僕の、僕の)
(No, mine) No, mine (Mine, mine)
(いや、僕のさ)いや、僕の(僕の、僕の)
(She's mine, mine, mine, mine, mine) (Mine, mine, mine)
(彼女は僕のもの、僕の、僕の、僕の、僕のもの)(僕のもの、僕の、僕の)
'Cause the girl is mine
だってあの子は僕のものなんだから
(No, the girl is mine) (Mine, mine)
(いや、彼女は僕のものさ)(僕のもの、僕の)
The girl is mine (Mine, mine, mine)
あの子は僕のものなんだ(僕のもの、僕の、僕の)
(No, the girl is mine)
(いや、彼女は僕のものだ)
The girl is mine (Mine, mine)
あの子は僕のもの(僕の、僕の)
(No, she's mine)
(いや、彼女は僕のものさ)
※フェイドアウトしていく二人の口論。一人の女性をモノのように「mine(自分の所有物)」と主張し合う構図は、一見すると無邪気なラブソングである。しかし、のちにマイケルがビートルズの全楽曲の出版権(ATVミュージック・カタログ)を約4,750万ドルで買収し、ポールが激怒して絶交に至ったという「現実の泥沼の所有権争い」の歴史を踏まえてこのアウトロを聴くとき、あまりにも残酷な皮肉とダブルミーニングが浮かび上がってくる。ポップス史上、最も美しくも業の深いデュエットの結末である。
