Artist: Michael Jackson
Album: Off the Wall
Song Title: I Can’t Help It
概要
1979年発表の歴史的傑作アルバム『Off the Wall』に収録された、極上のジャズ・ファンク/ネオ・ソウルの先駆的ナンバーである。モータウンのレジェンドであるスティーヴィー・ワンダーと、スプリームスの元メンバーであるスザイ・グリーンによって書き下ろされた。クインシー・ジョーンズの洗練されたプロデュースの下、幾重にも重なる複雑なジャズのコード進行と、ルイス・ジョンソンによる官能的なベースラインが浮遊感のあるグルーヴを生み出している。当時20歳であったマイケルは、ジャクソン5時代の元気な少年の歌唱法を完全に脱ぎ捨て、息の混じったシルキーなファルセットと驚異的なリズム・コントロールで、大人の色気と脆弱性(Vulnerability)を見事に表現した。この楽曲は後年、デ・ラ・ソウルやメアリー・J. ブライジなど、数多くのヒップホップ/R&Bアーティストにサンプリングされ、ブラック・ミュージック史における究極のレイドバック・サウンドとして神格化されている。
和訳
[Verse 1]
Looking in my mirror
鏡を覗き込んで
※自己と向き合う「鏡」のモチーフ。恋に落ちて制御不能になっている自分自身に対する驚きであると同時に、天才子役というペルソナから、一人の成熟した大人の男性へと変貌を遂げたマイケル自身の「新たな自我の発見」のメタファーとしても機能している。
Took me by surprise
自分でも驚いてしまったんだ
I can't help but see you
君の姿ばかりを追ってしまう
Running often through my mind
頭の中を、君が何度も駆け巡るんだ
Helpless like a baby
赤ん坊のように無力になってしまう
※「赤ん坊のような無力さ」という自己開示。すべてをコントロールする完璧主義者の彼が、愛という引力の前では無防備になってしまう様を描いている。
Sensual disguise
官能的な仮面を被っているけれど
※無力な赤ん坊と「官能的な仮面(Sensual disguise)」という強烈なコントラスト。スティーヴィー・ワンダーが書いたこの難解で詩的なフレーズを、マイケルが吐息混じりのファルセットで歌いこなすことで、彼が複雑な大人のセクシュアリティを表現できる真のソウル・シンガーへと到達したことを証明している。
I can't help but love you
君を愛さずにはいられないんだ
It's getting better all the time
その想いは、時が経つにつれて増していく
[Chorus]
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
※タイトルでもある「I can't help it(どうしようもない、抗えない)」の反復。複雑なジャズ・コードに乗せてスキャットのように歌われるこのコーラスは、理性を超えた愛の引力(あるいは音楽のグルーヴそのもの)に対する絶対的な降伏宣言である。
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
[Verse 2]
Love to run my fingers
指先を這わせるのが好きなんだ
Softly while you sigh
君が優しく吐息を漏らす間に
Love came and possessed you
愛が舞い降りて、君を包み込み
※「possess(憑依する、取り憑く)」というスピリチュアルな表現。スティーヴィー・ワンダー特有の神秘的な愛の描写を、マイケルはゴスペルのように神聖かつ官能的に解釈している。愛を単なるロマンスではなく、魂を浄化する超自然的な現象として捉えている。
Bringing sparkles to your eyes
その瞳に輝きをもたらす
Like a trip to Heaven
まるで天国への旅路のように
Heaven is the prize
天国こそが、そのご褒美なんだ
And I'm so glad I found you, yeah
君を見つけられて本当に良かったよ、そうさ
You're an angel in disguise
君は、人間の姿を借りて舞い降りた天使なんだ
※「Angel in disguise(変装した天使)」。マイケルは生涯を通じて「天使」や「純真無垢な存在(イノセンス)」への強い憧憬を抱き続けた。過酷なショービジネスの現実世界において、彼を救済してくれる対象(恋人、ファン、あるいは音楽そのもの)を神聖化する彼の人生観が、この美しい一節に集約されている。
[Chorus]
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
[Post-Chorus]
And I'm so glad I found you, yeah
君を見つけられて本当に良かったよ、そうさ
You're an angel in disguise
君は、人間の姿を借りて舞い降りた天使なんだ
[Chorus]
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it, no
そうしないさ、決してね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
Wouldn't help it, no, no
そうしないさ、決してね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
I wouldn't help it even if I could
たとえ抗えたとしても、そうしないだろうけどね
I can't help it if I wanted to
どうしたって抗えないんだ
Wouldn't help it, no, no, no
そうしないさ、決してね
※フェイドアウトに向かうにつれて、マイケルのボーカルはスキャットやハミングへと融解していく。言葉の意味を超え、声帯そのものが一つの精緻なジャズ楽器として機能しており、音楽の波に完全に身を委ねる彼の「抗えない(I can't help it)」恍惚の境地を完璧に音声化している。
