Artist: Michael Jackson
Album: Forever, Michael
Song Title: You Are There
概要
1975年発表のモータウン期最後のソロ・アルバム『Forever, Michael』に収録された、極めてスピリチュアルで美しいバラード。サム・ブラウン3世によるプロデュースの本作は、表向きは愛する人への感謝を歌ったラブソングだが、歴史的文脈においてはより深い意味を持つ。当時16歳、変声期を終えて成熟したテナーボイスを獲得したマイケルは、過酷なショービジネスの中で自らを支え続ける「目に見えない力」——それはファンであり、音楽そのものであり、神の存在——への絶対的な信頼を歌い上げている。モータウンという巨大な庇護を離れ、インディペンデントなアーティストとしての道を歩み出そうとしていた彼の、孤独と希望、そして大衆への無償の愛(アガペー)が結晶化した、ポップス史に残る隠れた名曲である。
和訳
[Verse 1]
You are there like the laughter of a child
君はそこにいる、まるで無邪気な子供の笑い声のように
※マイケルの生涯を通じて最大のインスピレーション源であり、彼が最も神聖視した「子供の無邪気さ」というモチーフが冒頭から提示される。過酷な大人のビジネス社会で疲弊していた16歳の彼にとって、子供の笑い声こそが究極の癒やしであり、彼自身が失った「イノセンス」の象徴であった。
When I need just a smile
僕がただ微笑みを必要としているときに
Suddenly, the sun shines for a while
突然、太陽がひとときの間、光を投げかけてくれるんだ
Everywhere, sounds of love are everywhere
どこを見渡しても、愛の響きがそこら中に溢れている
And my heart sings along
そして僕の心も、それに合わせて歌い出す
Thanks to you, I finally got a song
君のおかげで、僕はやっと自分の歌を見つけたんだ
※「自分の歌を見つけた(I finally got a song)」。このフレーズは、他人が用意した楽曲を歌うモータウンの「アイドル」から、自らの魂の言葉を紡ぎ出す「アーティスト」へと自己覚醒していくマイケルの内面と激しくリンクする。彼が芸術的独立を果たす直前の、静かなる勝利宣言とも読める。
[Chorus]
Because you are there
だって、君がそこにいてくれるから
You are there
君がそこにいるから
You are there somewhere
どこかに必ず、君がいてくれるから
Each time my world seems like it is falling down
僕の世界が今にも崩れ落ちそうになるたびに
※巨大な名声に伴うプレッシャーや、ジャクソン・ファミリーを巡る業界の泥沼の権力闘争など、10代の彼を取り巻いていた「崩壊しそうな世界」のリアリズムが、この一節に暗い影を落としている。
Things look up just having you around
君がそばにいてくれるだけで、すべてが上向いていくんだ
So every night, I say a prayer
だから毎夜、僕は祈りを捧げるよ
Just because you're there
ただ君がそこにいてくれること、それだけのためにね
※相手の存在そのものに対して「祈り(prayer)」を捧げるという、極めて宗教的・神聖なアプローチ。マイケルにとっての「君」が、単なる恋人を超越した絶対的な救済者(神、あるいは音楽そのもの)であることを示唆している。
[Verse 2]
Like a rainbow after rain
雨のあとに架かる虹のように
Like the night follows day
昼のあとに静かな夜が訪れるように
You're the answer to the prayers I say
君は、僕が捧げる祈りへの確かな答えなんだ
[Chorus]
And you are there
そう、君はそこにいる
You are there
君がそこにいるんだ
You are there somewhere
どこかに必ず、君がいてくれる
No matter where I go or what I do
僕がどこへ行こうとも、何をしようとも
You are there to help me see it through
君はそこにいて、僕が最後までやり遂げるのを助けてくれる
※「see it through(最後までやり遂げる、見届ける)」。孤独な完璧主義者として、後にエンターテインメントの極北へと突き進むマイケルが、自らの過酷な運命を全うするための「不可視の支え」への絶対的な信頼を表明している。
So every night, I say a prayer
だから毎夜、僕は祈りを捧げるよ
Just because you're there
ただ君がそこにいてくれること、それだけのためにね
[Chorus]
Ooh, you are there
Ooh、君がそこにいる
Ooh, you are there somewhere
Ooh、どこかに必ず、君がいてくれる
And as the years go by, we will stay as true
そして何年経とうとも、僕らは変わらず真実のままでいよう
What you are for me, I'll be for you
君が僕のためにそうであるように、僕も君のためにそうあり続けるから
※本作の白眉とも言える一節。「自分を救ってくれる存在に対し、今度は自分が相手を救済する存在になる」という究極の相互扶助の誓い。マイケルが生涯をかけて、音楽や慈善活動を通じて世界中(ファン)に愛を還流させようとした姿勢は、16歳の時点で既にこの歌に刻み込まれていたのである。
And every night, I'll say a prayer
そして毎夜、僕は祈りを捧げるよ
Just because you're there
ただ君がそこにいてくれること、それだけのためにね
[Outro]
Ooh, you are there
Ooh、君がそこにいる
Ooh, you are there
Ooh、君がそこにいるんだ
Everywhere, you are there
どこにいても、君はそこにいてくれる
※フェイドアウトしていく中で「Everywhere(どこにいても)」という言葉が繰り返される。特定の場所に縛られない、偏在する愛への賛歌であり、モータウンを飛び立ち世界中を自らの愛で包み込もうとする若き「キング・オブ・ポップ」の静かなる旅立ちの描写として、これ以上ないほど美しい結末である。
