Artist: Michael Jackson
Album: Music & Me
Song Title: Euphoria
概要
1973年リリースのサード・ソロ・アルバム『Music & Me』に収録された、多幸感溢れるソウル・ポップ・ナンバー。「ユーフォリア(多幸感)」という言葉を無邪気にスペルアウトしながら、愛と自由の喜びを謳い上げる本作は、1970年代初頭のドラッグ・カルチャーへの健全なアンチテーゼとして機能している。同時に、後のマイケルが深刻な不眠症やメディアのバッシングに苦しみ、肉体的・精神的な「ユーフォリア」を永遠に失っていく過酷な運命を逆説的に浮き彫りにする。14歳の変声期の無垢な歌声が、彼が生涯追い求めた「幻の理想郷(ネバーランド)」の原風景を鮮やかに描き出している、ポップミュージック史における美しくも残酷なマスターピースである。
和訳
[Intro]
Love, love, love, love
愛、愛、愛、愛
Love, love, love, love
愛、愛、愛、愛
Love, love, love, love
愛、愛、愛、愛
Love, love, love, love
愛、愛、愛、愛
Euphoria, euphoria
ユーフォリア(多幸感)、ユーフォリア
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
[Verse 1]
E-U-P-H-O-R-I-A
それが今日の新しい合言葉さ
※「ユーフォリア(至福・多幸感)」という難解な単語を無邪気にスペルアウトする構成は、ジャクソン5の「ABC」を彷彿とさせる。しかし、ここでは単なる子供向けのポップスではなく、混沌とした70年代のアメリカ社会に対する愛と平和のメッセージとして提示されている。
That's the new word for today
それが今日の新しい合言葉
E-U-P-H-O-R-I-A
口に出して言うのは
It is very easy to say
とても簡単なことさ
[Pre-Chorus]
Say euphoria
「ユーフォリア」って言ってみて
And you'll feel fine from the start
そうすれば、最初から素晴らしい気分になれるはずさ
You can close your eyes
目を閉じてごらん
And see the world with your heart
そして、心の目で世界を見るんだ
※物理的な視覚を閉じ「心で世界を見る」というフレーズは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』の「大切なものは目に見えない」という哲学に直結する。マイケルは後年、このイノセンスの哲学を自身の生き方の根幹に据え、人種や国境といった「目に見える」障壁を超越しようとした。
[Verse 2]
Do what you wish, be what you are
やりたいことをやって、ありのままの自分でいればいい
※モータウンの厳しい管理下で「作られたアイドル」として振る舞うことを強要されていた14歳のマイケルが、「ありのままの自分でいろ(be what you are)」と歌うことの強烈なアイロニー。彼自身の抑圧された自我からの解放願望が、この底抜けに明るいメロディの裏に潜んでいる。
What a victorious thrill
なんて誇らしくて、ワクワクする気分だろう
Wearing a smile, all of the while
いつでも微笑みを絶やさずにいれば
Feeling the world standing still
世界が静止しているように感じるんだ
[Chorus]
Watch rainbows glow
虹が輝くのを見つめて
Rest on a bed of flowers
花びらのベッドで安らぎの眠りにつく
Then die a star
そして、一つの星として命を終えるんだ
※「die a star(星として死ぬ)」という強烈でショッキングなフレーズ。究極の幸福の果てにある死すらも美しく肯定するこの表現は、世界最大の「スター」として頂点を極め、同時に悲劇的な最期を遂げたマイケル自身の運命を残酷なまでに予言している。
Anything's in your powers
君の力なら、なんだってできるんだよ
[Verse 3]
E-U-P-H-O-R-I-A
E-U-P-H-O-R-I-A
Full of [?]
[?]で満ち溢れて
Knowing no ills, needing no pills
病の苦しみも知らず、薬なんて必要ない
※1970年代のドラッグ・カルチャー(LSDや鎮痛剤による人工的な多幸感)に対する健全なアンチテーゼである。しかし、晩年のマイケルが深刻な不眠症と鎮痛剤への依存に苦しみ、プロポフォール(麻酔薬)によって命を落としたという歴史的事実と照らし合わせると、この「薬なんて必要ない」という無垢な宣言は、ポップス史上最も胸を締め付ける悲痛な響きへと変貌してしまう。
Singing a rock and roll hymn
ロックンロールの賛美歌を歌いながらね
[Pre-Chorus]
Feeling glorious, full of love
最高に素晴らしい気分さ、愛に満ち溢れて
Fine from the start
最初からずっとね
You can close your eyes
目を閉じてごらん
And see the world with your heart
そして、心の目で世界を見るんだ
[Verse 4]
How good to be happy and free
幸せで自由でいられるって、なんて素晴らしいんだろう
Living the way that you choose
自分の選んだ道を生きられるなんて
Healthy and clean
健康的で、とてもクリーンさ
※「Healthy and clean」という清廉性の強調。スキャンダルやゴシップでまみれる前の、絶対的な無垢(イノセンス)の象徴。マイケルが後年『Bad』や『Dangerous』でストリートの不良性やダークな官能美を表現していく前の、純白のキャンバスのような輝きがここにある。
Can't understand anyone having the blues
誰かが憂鬱になるなんて、僕には信じられないよ
[Chorus]
Euphoria
ユーフォリア(多幸感)
Never to feel frustration
フラストレーションを感じることも決してない
※後の『Scream』や『They Don't Care About Us』で爆発する、メディアや社会に対する凄まじい「フラストレーション」を思うと、この14歳の頃の平穏な精神状態がどれほど尊く、失われた楽園であったかが浮き彫りになる。
How great to give
与えることって、なんて素晴らしいんだろう
Love without limitation
限界のない愛をね
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
Long as we love each other
僕らがお互いを愛し合う限り
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
Living for one another
お互いのために生きていくんだ
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
That's the new word for heaven
それは「天国」を表す新しい言葉
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
Living in love is heaven
愛の中に生きること、それが天国なんだ
※「愛の中に生きること=天国」。マイケルが生涯を通じて追求したヒューマニズムの最終到達点であり、世界中のファンへ贈り続けたメッセージの核心である。変声期の無垢な歌声でこの真理を歌い上げるマイケルは、まさにポップ・ミュージック界に舞い降りたメッセンジャー(天使)であった。
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
Long as we love each other
僕らがお互いを愛し合う限り
Euphoria, euphoria
ユーフォリア、ユーフォリア
