Artist: Michael Jackson
Album: Music & Me
Song Title: All the Things You Are
概要
1973年発表のサード・ソロ・アルバム『Music & Me』に収録された本作は、ジェローム・カーン作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞による1939年の古典的ジャズ・スタンダードの極めて意欲的なカバーである。フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドら数々の巨匠が歌い継いできた成熟した大人のラブソングを、当時14歳で変声期を迎えていたマイケルが歌唱している点は音楽史的に特筆すべきである。ブロードウェイ特有の複雑なコード進行と格調高い詩の世界に対し、少年期特有のイノセンスと天才的なボーカル・コントロールで挑んだこのテイクは、モータウンのキッズ・スターから普遍的な表現力を持つソロ・アーティストへと脱皮していく過渡期の彼の姿を見事に捉えている。
和訳
[Verse 1]
You are the promised kiss of springtime
君は春の訪れを約束するキスのよう
※オスカー・ハマースタイン2世による極めて詩的で格調高いオリジナル詞。長く厳しい冬(孤独や試練)の終わりを告げる「春のキス」という表現を、14歳のマイケルが歌うことで、単なる大人のロマンチックな愛のメタファーを超え、過酷なショウビジネスの世界で彼自身が渇望した「無条件の温もり」や「救済」としての意味合いを帯びて聴き手の胸に迫る。
That makes the lonely winter seem long
その温もりが、孤独な冬をより長く感じさせるんだ
You are the breathless hush of evening
君は夕暮れ時の、息を呑むほどの静寂
※「breathless hush(息を呑む静寂)」は、圧倒的な美しさの前に言葉を失う瞬間を指す。マイケルのささやくような繊細なビブラートと息遣い(ブレス)のコントロールが、この歌詞の持つ静謐な風景を完璧に音声化している。後の『Human Nature』などで聴かせる、空間を震わせるようなボーカル・スタイルの萌芽がここにある。
That trembles on the brink of a lovely song
美しい歌がこぼれ落ちる、その寸前の震えのよう
You are the angel glow that lights a star
君は星に火を灯す、天使の輝き
The dearest things I know are what you are
僕の知る最も愛おしいもの、それが君なんだ
※ジャズ・スタンダードの王道とも言える直球の愛情表現。モータウン時代のマイケルは大人びた恋愛ソングを多数歌わされたが、本作のようなミュージカル由来の気品あるメロディに乗せると、彼の声が持つ「天使的な無垢さ」が最大限に引き出される。彼が生涯にわたって純粋な愛(アガペー)を歌い続けた原風景とも言える一節だ。
[Chorus]
Someday, my happy arms will hold you
いつの日か、僕の腕が幸せに満ちて君を抱きしめる
And someday, I'll know that moment divine
そしていつか、あの神聖な瞬間を知るんだ
When all the things you are, are mine
君という存在のすべてが、僕のものになるその時を
※「moment divine(神聖な瞬間)」という宗教的な崇高さを伴う表現を、変声期の微かなかすれを伴うハイトーンで歌い上げることで、神への祈りのような切実さが生まれている。手に入らない理想の愛を「いつか(Someday)」と夢見るこの構成は、彼自身の人生における永遠の孤独と、ファンへの普遍的な愛というアンビバレントな関係性を予言しているかのようである。
[Verse 2]
You are the angel glow that lights a star
君は星に火を灯す、天使の輝き
The dearest things I know are what you are
僕の知る最も愛おしいもの、それが君なんだ
[Chorus]
Some, some, some, someday
いつか、いつの日か
My happy arms will hold you
僕の腕が幸せに満ちて君を抱きしめる
And someday, I'll know that moment divine
そしていつか、あの神聖な瞬間を知るんだ
When all the things you are, are mine
君という存在のすべてが、僕のものになるその時を
Yeah, yeah, all the things you are, are mine
そうさ、君という存在のすべてが、僕のものになる
※クラシックなスタンダード・ナンバーの形式美を打ち破るように、曲の終盤でマイケル特有のR&B的なフェイクやソウルフルなアドリブ(Yeah, yeah)が挿入される。白人主導のブロードウェイ音楽を、黒人音楽の土壌で育った天才少年が自身のルーツ(ソウル・ミュージック)へと引き寄せ、完全に自分のもの(are mine)へと昇華させる歴史的瞬間を捉えたスリリングなアウトロである。
All the things you are gon' be mine
君のすべてが僕のものになるんだ
Someday you are, are mine
いつの日か、君は僕のものに
All the things you are gon' be mine
君のすべてが僕のものになるんだ
All the things you are gon' be mine
君のすべてが僕のものになるんだ
