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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Hero vs. Villain (Epilogue) - MF DOOM (feat. E. Mason) 【和訳・解説】

Artist: MF DOOM (feat. E. Mason)

Album: Operation: Doomsday

Song Title: Hero vs. Villain (Epilogue)

概要

MF DOOMの伝説的デビューアルバム『Operation: Doomsday』の真の終幕を飾るエピローグである。本作は従来のラップ楽曲ではなく、E. Masonによるポエトリー・リーディング(スポークン・ワード)と、映画やアニメからの緻密なサンプリングで構成されている。「ヒーローとヴィランの境界線はどこにあるのか?」という根源的な問いを投げかけ、辞書が定義するような表面的な善悪の二元論を解体する。メインストリームの流行や同調圧力に縛られたラッパーたち(自称ヒーロー)を「奴隷」と一刀両断し、社会の規範から逸脱し、素顔を隠した「ヴィラン」こそが真の自由とアートの本質(エッセンス)を体現していると説く。アウトロでは、ヒップホップ映画の金字塔『ワイルド・スタイル』から、メディアに消費されることを拒絶するグラフィティ・ライターの怒りのセリフをサンプリング。ダニエル・ドゥーミレイがなぜ鉄仮面を被り、商業主義に中指を立ててアンダーグラウンドの悪役となったのか、その存在理由とヒップホップ美学が完全に言語化された、哲学的なマスターピースである。

和訳

[Intro]

"And that ended Doom's plans for world destruction!"
「そして、それがドゥームの世界破滅計画の結末だった!」
※1967年のアニメ版『ファンタスティック・フォー』からのサンプリング。ヒーローであるリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)がドゥームの計画を阻止したと語るシーン。

"And how did you manage to stop him?"
「それで、どうやって彼を止めたんだ?」

"Simple, I [..] rearranged the circuits"
「簡単なことだ。私が回路を組み替えておいたのさ」
※アルバム冒頭のスキット「Back in the Days」で、リードがドゥームの実験装置を勝手にいじった(rearrange)という伏線がここで回収される。ドゥームの破滅は自身のミスではなく、ヒーロー(正義)側の干渉によるものだったという事実の提示。

"Once he threw the switch" {bang}
「ヤツがスイッチを入れた途端にな」{バァン}

"My ability to attack is faster than the cobra..." {dialogue fades}
「俺の攻撃力はコブラよりも速い…」{音声フェードアウト}

"Very helpful."
「実に役に立ったよ」

"And I will be certain not to make the same mistakes as Doom!"
「そして俺は、絶対にドゥームと同じ過ちは犯さないと誓おう!」
※『ファンタスティック・フォー』に登場する別のキャラクター(ネイモア・ザ・サブマリナーなど)のセリフ。ドゥームの敗北から学び、更なる脅威が続くことを示唆している。

[Verse: E. Mason]

What's the hero, who's the villain?
ヒーローって何だ? ヴィランってのは誰のことだ?
※E. Masonによるスポークン・ワード。アルバム全体の根源的なテーマである「善悪の二元論」への問いかけ。

Dead or livin, killed or killin, who the fuck should remain chillin?
死んでるか生きてるか、殺されたか殺してるか、一体誰が平然として(チリンして)いられるってんだ?

(Doom) Webster says, wicked and evil, but yo who's Webster?
(ドゥーム)ウェブスター辞典には「不道徳で邪悪」とあるが、ヨォ、そもそもウェブスターって何者だ?
※「Webster」はアメリカの代表的な国語辞典『メリアム・ウェブスター辞典』。辞書(権威や体制側)が定めた「ヴィラン=悪」という定義そのものに疑問を呈している。

Nihilation and outcast, equals freedom that's so fast
虚無と除け者(アウトキャスト)、それはすなわち一瞬で手に入る自由のことさ
※社会や業界から追放されたヴィラン(除け者)であることこそが、あらゆるしがらみから解放された真の「自由」であるという逆説的な真理。

Culture in chains, that be the rolls villain plays
鎖に繋がれたカルチャー、それがヴィランの演じる役割なんだ
※商業主義に縛られたヒップホップ・カルチャー(Culture in chains)の中で、あえて嫌われ者の悪役を演じることで、その鎖を断ち切ろうとするDOOMのスタンス。

All these are just metaphors, they describe symbols in folklore
これらはすべてただのメタファーだ。民間伝承(フォークロア)のシンボルを描写してるに過ぎねえ

But who knows why it's like this?
だが、なぜこんな風になってるのかなんて誰が知ってる?

Hero? Hit or old miss? Maybe it's all good
ヒーロー? 当たりか、それとも昔のハズレか? まぁ、全部どうでもいいさ

Really of God, but who should, determine the real
マジで神の御業だが、誰が「本物(リアル)」を決定すべきなんだ?

Evil, what's the deal
悪(イーヴィル)、一体どうなってんだよ

Fools rush in, they don't know the yin, from the yang
バカどもは急いで飛び込んでいくが、陰(イン)と陽(ヤン)の違いも分かっちゃいねえ
※「Fools rush in」は「愚か者は天使が恐れるところへも飛び込む」という英語のことわざ。道教の「陰陽(Yin and Yang)」の思想を引き合いに出し、光(ヒーロー)と影(ヴィラン)は表裏一体であり、一方が欠ければ世界は成立しないことを説いている。

And are ashamed to deviate, or act sane
そしてヤツらは道を踏み外すことや、正気で振る舞うことを恥じている

From the norm, they are slaves, forced to conform
社会の規範(ノーム)からな。ヤツらは同調を強制された奴隷なんだよ
※メインストリームの流行や業界のルールに盲目的に従うラッパーたち(ヒーロー気取りの連中)は、実はシステムに飼い慣らされた「奴隷(slaves)」に過ぎないという痛烈な批判。

To really find your essence, take this as a lesson
自分自身の本質(エッセンス)を本当に見つけたいなら、これを教訓にしろ

Break away from the rest of them
有象無象の連中から抜け出すんだ

Get from the form ending, like the villain in the song
終わっちまうような型から抜け出せ、この曲のヴィランみたいにな

Find truth, who determines wrong
真実を見つけ出せ。何が間違ってるか誰が決めるんだ?

From right, without a fistfight
殴り合いなんかしなくても、正しいことからな

Different from day than from night {Operation... Doomsday}
昼と夜が違うようにさ {オペレーション…ドゥームズデイ}
※ここでDOOMのスクラッチが入り、アルバムタイトルがコールされる。光(昼)と闇(夜)のどちらも世界に必要不可欠な存在であるという結論。

It's just a simple play on words
これはただのシンプルな言葉遊びさ

Delete all these punks ass herbs
こんなパンクなクソ野郎ども(ハーブ)は全員消去(デリート)してやるよ
※「herb」はマリファナの他に「ダサいヤツ、弱虫」を意味するスラング。

Who's the hero, what's the villain?
誰がヒーローで、何がヴィランなんだ?

The question still remains chillin
その問いは、今も静かに残されたままだ

Listen to the music, try very hard to use it
この音楽を聴いて、必死にそいつを利用してみな

Open up and research, and that's the end of this verse
心を開いて研究(リサーチ)するんだ。これでこのヴァースは終わりさ

But y'all niggas keep y'all minds open out there
だがお前ら、心は常にオープンにしとけよ

[Outro]

"So like fuck you, fuck the newspaper, fuck all that shit man!"
「だからテメエも、新聞も、そんなクソみたいなもんは全部クソくらえってんだ!」
※ここからヒップホップ映画の金字塔『ワイルド・スタイル(1983年)』からのサンプリング。主人公のグラフィティライター・Zoro(レイモンド)が、自分の作品を商業メディアの記者に撮影されそうになり、激怒して立ち去るシーン。

"I'm leavin" {"Good evening"}
「俺は帰るぜ」{「こんばんは」}

"Yo why you want to be leaving man?"
「ヨォ、なんで帰っちまうんだよ?」
※Zoroの仲間(Phade)のセリフ。

"Man don't worry about that sucker, yo man listen"
「あんなクソ野郎のことは気にすんな、ヨォ、聞いてくれよ」

"Yo I'm not gonna finish my piece man, not with this lady around man"
「ヨォ、俺はこの作品(ピース)を完成させる気はねえ。こんな女がウロついてる状況じゃな」
※「piece」はグラフィティのマスターピースのこと。アンダーグラウンドの純粋なアートを金儲けのために利用しようとする外部(メディアやレコード会社)の人間に対する強い拒絶。DOOMが素顔を隠し、音楽業界のコマーシャリズムから距離を置いた姿勢と完全にシンクロしている。

"Yo what the fuck is this shit man?"
「ヨォ、一体何の真似だ?」

"I don't like that shit man, I don't want no fuckin pictures taken of my shit man"
「俺はこういうのは嫌いなんだよ。俺の作品の写真を撮られたくねえんだよ」
※DOOM自身がメディアに素顔の写真を撮られることを極端に拒絶し、鉄仮面を被り続けた理由を、Zoroのセリフを通して代弁している。

"Yo relax!"
「ヨォ、落ち着けって!」

"Nah man, that shit is fucked up man, that shit can get us busted over here man!"
「いや、こいつはマジでクソだ。こんなことしてたら、俺たちがパクられちまうだろうが!」

"Relax man it's for the paper"
「落ち着けよ、新聞のためなんだから」

"NAH NAH I'm not gonna relax, I'm gettin the fuck out of here"
「いや、いやだね、俺は落ち着かねえよ。ここからとっととズラからせてもらうぜ」

"Look, we got a car! She's got a car parked right over there man!"
「おい、車があるんだぞ! 彼女の車がすぐそこにあるんだよ!」

"Let's get the fuck out of here!"
「とっととここからズラかろうぜ!」

"Well come on let's go then!"
「分かったよ、じゃあ行こうぜ!」

"Doom, wears body armor to conceal his own mangled form, right?" "Yeah"
「ドゥームは、自分自身の醜く潰れた姿を隠すためにボディアーマーを着ているんだろ?」「あぁ」
※再びアニメからのサンプリング。「醜い顔を隠すヴィラン」という自身の境遇の事実確認であり、DOOMが顔を隠す理由の総括。

"So like fuck you"
「だから、クソくらえってんだよ」
※Zoroのセリフを再びカットアップ。偏見の目で見てくる世間やメディア、偽善のヒーローたちに対する、DOOMからの最後の中指。

"Do yourself a favor.. do yourself.. trust me"
「自分のためにも…そうしな…俺を信じろ」
※アルバム全体を締めくくるエコーのかかったメッセージ。ヴィランからの警告であり、ヒップホップの真実(本質)を見極めろというリスナーへの至高の助言である。