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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Gas Drawls - MF DOOM 【和訳・解説】

Artist: MF DOOM

Album: Operation: Doomsday

Song Title: Gas Drawls

概要

1997年に「Fondle 'Em Records」から12インチシングル『Dead Bent / Gas Drawls / Hey!』としてリリースされ、後にデビューアルバム『Operation: Doomsday』に収録された本作は、MF DOOMの初期を代表するコンセプチュアルなマスターピースである。タイトルの「Gas Drawls」は「ガソリンを染み込ませた下着(drawers)」を意味し、コーラスで登場する「Hell in gas drawls(ガソリン漬けのパンツを履いて地獄にいる)」というフレーズは、「絶体絶命」「一触即発の危険な状態」を示す強烈なメタファーとなっている。Steely Danの1977年の名曲「Black Cow」をサンプリングしたジャジーで哀愁漂うループの上で、DOOMはKMD時代の「Zev Love X(見えざるX)」としての過去、不慮の事故で亡くなった実弟Subrocへの痛切な献杯、そして宿敵ファンタスティック・フォー(因縁のElektra Recordsや音楽業界の象徴)との秘密の戦争をスピットする。スーパーヴィランという仮面の奥に隠された、ダニエル・ドゥーミレイの生々しい怒りと悲哀、そして天才的な言葉遊びが凝縮されたアンダーグラウンド・ヒップホップの金字塔である。

和訳

[Intro]

Metal Face DOOM
メタル・フェイス・DOOM

Operation Doomsday
オペレーション・ドゥームズデイ(審判の日作戦)

You were very high
お前はひどくハイになっていたな
※Steely Danの楽曲「Black Cow」からのボーカルサンプリング。原曲の「I saw you in Rudy's / You were very high(ルーディーズでお前を見たよ、ひどく酔っ払ってたな)」というフレーズを切り取り、効果的にループさせている。

[Verse 1: MF DOOM]

By the way, I re-up on bad dreams, bag up screams in fiftys (Fifty blocks)
ところで、俺は悪夢を再入荷(リー・アップ)し、悲鳴を50個単位で袋詰めにするぜ(50ドルのブロックでな)
※「re-up」や「bag up」はドラッグの密売人が在庫を仕入れて小分けにする際のスラング。ドラッグの代わりに「悪夢」や「悲鳴」という恐怖をストリートで売り捌くヴィランの姿。

Be up on mad schemes that heat shop like jiffy (Jiffy, pop, pop)
ジフィーみたいに店を熱くする、狂った計画に精を出してるのさ(ジフィー、ポップ、ポップ)
※「Jiffy Pop」はアルミ箔の鍋に入った有名なポップコーンのブランド。火にかけるとアルミが膨張し弾ける(pop)様子を、ストリートの銃撃(pop)や一触即発の緊張感に掛けている。

In an instant, get smoked like Winston cigarettes
一瞬で、ウィンストンのタバコみたいにスモークされる(殺される)ぜ

Hoes get ripped off like Nicorette (Patch)
ビッチどもは、ニコレット(パッチ)みたいに引き剥がされるんだ

In real life, the real trife scene
現実世界の、マジで危険(トライフ)なシーンじゃ

Might snatch your life like assault machine
アサルト・マシン(突撃銃)みたいに、お前の命を奪い去るかもしれないぜ

Rifle, dead-up, setup like bull-fight
ライフルさ。マジな話、闘牛みたいなセットアップ(罠)だ

Be blunted how we like couldn't white or in full flight
俺たちの好きなようにブラント(大麻)をキメて、白旗も上げず、全力逃走もしねえ
※「blunted」は大麻を吸ってハイになること、または感情が鈍ること。

The unemotional, call me anti-social
無感情なヤツ、俺を「反社会的(アンチソーシャル)」と呼びな

On the run, off the gun death tally commercial
逃亡中さ、銃による死のカウント(コマーシャル)からは外れてな

Death Valley is like rehearsal to the streets
デス・ヴァレー(死の谷)でさえ、このストリートに比べりゃリハーサルみたいなもんさ
※アメリカで最も過酷な環境とされるデス・ヴァレー国立公園を引き合いに出し、ゲットーの日常の生存競争がいかに熾烈かを表現している。

To my peeps, GM, MF on the beat
俺のダチたちへ。GM、そしてビート上のMFへ
※「GM」は盟友MF Grimm(Grimm Reaper)、「MF」はMF DOOM自身を指す。

Rhymes is chosen like the weapons of war
ライムは戦争の武器のように選び抜かれている

So keep from steppin' on my floor or delivery front-door
だから俺のシマに足を踏み入れたり、玄関先に配達に来るのはやめとけ

I bring it to y'all motherfuckers, master yours
お前らクソ野郎どものところへ持って行ってやるよ、自分のスキルを磨いときな

My disaster cause Hell in gas drawls
俺のもたらす大惨事(ディザスター)は、「ガソリン漬けのパンツを履いて地獄にいる」ようなもんさ
※タイトルの回収。「drawls」は下着のパンツ(drawers)の黒人発音。燃え盛る地獄の中で引火性の高いガソリンを染み込ませた下着を履いている、つまり「いつ大爆発してもおかしくない、最高に危険で絶望的な状況」を意味する秀逸なメタファー。

The supervillain cooler than a million, I be chillin'
スーパーヴィランは100万ドル(ミリオン)よりもクールに、くつろいでるぜ

Still quick to slice squares like Sicilians
それでも、シチリア人みたいにスクエア(四角いピザ/ダサいヤツら)を素早く切り刻むのさ
※シチリア風ピザ(Sicilian pizza)は四角くカットされる。同時に、シチリアン・マフィアが敵対者を容赦なく切り刻む暴力性と、「squares(型にはまったダサい連中、ワックMC)」を掛けている。

Don't make me have to hurt them feelings
あいつらの感情を傷つけさせないでくれよ

I'll ruin you in the dirt that I be doin' in my dealings
俺の取引(ディール)で巻き起こる泥の中で、お前を破滅させてやる

(While I'm) Sendin' spirits through the ceilin', chrome peelin'
(俺が)魂を天井へ送り込みながらな、クローム(銃)が火を吹くぜ
※「send spirits through the ceiling」は魂を昇天させる=殺害すること。「chrome peelin'」は銀色の銃を発砲するスラング。

Dome blown within the comforts of your own home
お前自身の快適な家の中で、頭(ドーム)を吹き飛ばされるんだ

Grown big, wheelin' and high rollin'
デカく成り上がり、車を乗り回し、ハイローラー(大物)としてな

I hold the lye, it keeps the sty on my eye swollen
俺はライ(大麻)を握りしめる、そいつが俺の目の「ものもらい(スタイ)」を腫らしたままにするんだ
※「lye」はニューヨーク特有の大麻のスラング。大量の煙によって目が真っ赤に充血して腫れている状態を描写している。

(In the corner) Holdin', foldin' the pal
(部屋の隅で)抱きしめ、ダチを包み込む

Known as massive versatile (I saw you)
圧倒的に多才(ヴァーサタイル)なヤツとして知られてるぜ(お前を見たよ)

I'd like to big them up, Monsta Isle (You were very high)
あいつらにビッグ・アップを送りたい、モンスター・アイル(M.I.C.)にな(お前はひどくハイになっていたな)
※DOOMが率いるアンダーグラウンド・クルー「Monsta Island Czars」へのシャウトアウト。

[Interlude: MF DOOM]

Um
うむ

In the corner of my eye
俺の目の隅っこで
※Steely Danのサンプリングボーカル「In the corner of my eye / I saw you in (Rudy's)」のRudy'sの部分をカットし、DOOMが文脈を補完してヴィランの物語に書き換えている。

Yeah
あぁ

I saw you in Hell with them gas drawls
ガソリン漬けのパンツを履いて地獄にいる、お前の姿を見たぜ

You were very high
お前はひどくハイになっていたな

Mhm
フン

You
お前だ

[Verse 2: MF DOOM]

To my brother Subroc and Black Jewel
俺の兄弟、サブロックとブラック・ジュエルへ
※DOOMの最愛の弟であり、KMDのメンバーだったDJ Subroc(1993年没)への献辞。「Black Jewel」も同じく亡くなった関係者や友人であると推測されている。

I crack brew for two more, three men, two up
あと2人分、酒(ブリュー)を開けるぜ。男が3人、2人は天国(アップ)だ
※ストリートの追悼儀式「Pour out a little liquor(酒を少し地面にこぼす)」の情景。DOOMと亡き2人の合計3人で酒を酌み交わしている、極めて悲痛で美しいライン。

I hit the brew up like nobody knows how X the unseen feels
「見えざるX」がどんな気分かなんて、誰にも分からねえよって感じで、俺は酒を呷るのさ
※「X the unseen」は、DOOMのKMD時代の名義である「Zev Love X」のこと。業界から消え(unseen)、誰からも見向きもされなくなった過去の自分(X)の苦しみや悲しみを、酒で紛らわせている。

When givin' crews a brush with death like between meals
食事の合間に歯磨き(ブラシ)するみたいに、クルーどもに死の恐怖(ブラシ・ウィズ・デス)を与えながらな

Two times a day with brothers that's tight like a noose
1日に2回さ、首吊り縄(ヌース)みたいに固く結ばれた(タイトな)兄弟たちと一緒にな

With more rhymes in use than Dr. Seuss
ドクター・スースよりも多くのライム(韻)を使いこなして

Or motherfuckin' Mother Goose, X the suspicious flirter
あるいはマザーファッキン・マザーグースよりもな。「X」、疑い深い浮気者さ
※「Dr. Seuss」や「Mother Goose」は子供向けの韻文・絵本の代表格。それらを超えるほどの複雑なライムを紡ぐというアピール。ここでも自分自身を「X」と三人称で呼んでいる。

Who every hooker heard of, next to malicious murder
悪意ある殺人(マーダー)の次に、すべての娼婦が噂を聞いたことのある男だ

A track type vicious, fulfillin' the pipe wishes
凶暴なトラック、パイプの願い(クラックの欲求)を満たすヤツ

The misses may be legal, minus the baby eagle
お嬢さん方は合法かもしれないが、ベビー・イーグルは別だぜ
※「baby eagle」はデザート・イーグル(大型自動拳銃)のコンパクトモデルのこと。違法な銃器を携帯しているというギャングスタ・アピール。

Any given summer's eve, don't breathe
どんな夏の夜(サマーズ・イブ)でも、息をするな
※「Summer's Eve」は女性用デリケートゾーンの洗浄剤の有名ブランド。敵対するラッパーたちを「女性器(pussy)」と侮蔑する隠語として機能している。

Sixteen shots, I do believe, and one up the sleeve (In the corner)
たしか16発の銃弾、そしてもう1発は袖の中(薬室)に隠してるぜ(部屋の隅で)
※グロック19などの装弾数(マガジンに15発+薬室に1発で計16発)の描写、または16小節(16 bars)のラップのライム弾のダブルミーニング。

Master of the O who predict your last pause
「O」のマスター、お前の最後の静寂(死)を予言する男

I told y'all, Hell and gas drawls
お前らに言っただろ、ガソリン漬けのパンツを履いた地獄さ

Breakin' glass and plastic jaw like federal drastic law
ガラスと、プラスチックの顎(グラスジョー)を砕く。連邦の過激な法律みたいにな
※「plastic jaw (glass jaw)」はボクシング用語で「打たれ弱い顎」のこと。口先だけのワックMCの脆いラップを、厳しい法律のように粉砕する。

Fed up from fightin' secret war with them Fantastic Four
あの「ファンタスティック・フォー」どもと秘密の戦争(シークレット・ウォー)を続けるのにもウンザリだぜ
※アメコミにおいて、ドクター・ドゥームの宿敵であるヒーローチーム「ファンタスティック・フォー」。ヒップホップにおいては、DOOMのキャリアを妨害したElektra Recordsの重役たちや、メインストリームの音楽業界そのものを「倒すべき偽善のヒーロー」としてメタファーにしている。

(Invisible Bitch) versus DOOM with the metal face
(インビジブル・ビッチ)対 メタルフェイスを持つDOOM
※ファンタスティック・フォーのメンバー「インビジブル・ウーマン(スー・ストーム)」をビッチ呼ばわりしている。契約問題で立ちはだかったレーベルの女性A&Rなどを揶揄しているという考察もある。

Before I go to state, the ho better settle case
俺が州立刑務所(ステート)にブチ込まれる前に、あのビッチはさっさとケリをつける(示談にする)べきだな

The flow is at pedal pace, steady like tricycles
フロウはペダルを漕ぐペースだ。三輪車みたいに安定(ステディ)してるぜ
※激しいラップの中で、三輪車(tricycles)という子供向けの単語を出して相手を小馬鹿にする特有のユーモア。

Beware, all suckers is froze like icicles (In the corner)
気をつけな、サッカー野郎どもは全員、ツララみたいに凍りついてるぜ(部屋の隅で)

(Bag 'em up) and baggin' bitches like nickels 'cause I lick 'em where they tickle
(袋詰めにして)ビッチどもをニッケル(5ドル袋)みたいに袋に詰める。くすぐったい場所を舐めてやるからな
※「nickels」は5ドル分のドラッグ(ニッケル・バッグ)。女たちを安いドラッグのように扱い、手玉に取る描写。

Before I hit the clit though, I'ma spit 'til I pronounce
だけどクリトリスを攻める前に、俺は宣告するまでスピット(唾を吐く/ラップ)し続けるぜ

More hits than a ounce, no doubt
1オンスから取れるヒット(吸う回数)よりも多くのヒット(名曲)をな。間違いない
※「hits」はドラッグを吸い込む回数と、音楽の「ヒット曲」のダブルミーニング。「ounce」は約28グラムの大量のドラッグ。それ以上に大量のクラシックを生み出すというスーパーヴィランの誓い。

About to bounce, X the unannounced, I'm out
そろそろずらかるぜ、予告なしの「X」だ。俺は消える
※自分自身(Zev Love X)を名乗り、幻のようにビートから去っていくアウトロ。

[Outro: MF DOOM and samples]

And I like to give a shout out
そして、シャウトアウトを送りたい

Of my eye
俺の目の

To the brother Jet Jaguar
ブラザー、ジェット・ジャガーへ

I saw you in
俺はお前を見たぜ

Megalon
メガロ(メガロン)へ

You were very high
お前はひどくハイになっていたな

And King Geedorah
そしてキング・ギドラへ

In the corner
部屋の隅で

Of my eye
俺の目の隅っこで

I call this joint right here
俺はこの曲(ジョイント)をこう呼ぶぜ

I saw you in
俺はお前を見たぜ

"Gas Drawls"
「ガス・ドロールズ」ってな

You were very high
お前はひどくハイになっていたな

In Hell with yours
お前の連中と一緒に地獄でな

You
お前だ

Of my eye
俺の目の

I saw you in
俺はお前を見たぜ

You were very high
お前はひどくハイになっていたな

In the corner
部屋の隅で

Of my eye
俺の目の隅っこで

I saw you in
俺はお前を見たぜ

You were very high
お前はひどくハイになっていたな

You
お前だ

In the corner
部屋の隅で

You were very high
お前はひどくハイになっていたな