Artist: MF DOOM (feat. Pebbles the Invisible Girl)
Album: Operation: Doomsday
Song Title: The M.I.C.
概要
MF DOOMのデビューアルバム『Operation: Doomsday』に収録された本作は、ヒップホップにおける「マイク」を魅力的な女性に見立てた、高度な擬人化(パーソニフィケーション)のマスターピースである。Commonの「I Used to Love H.E.R.」やNasの「I Gave You Power」の系譜に連なる手法を用いながら、DOOMはThe S.O.S. Bandの1983年の名曲「Tell Me If You Still Care」のメロウなフレーズを引用し、自身とマイク(音楽業界)との愛憎入り交じる関係をセクシャルかつスリリングに描き出している。リリックの随所には、実弟Subrocと共に活動していたKMD時代の栄光と挫折、そして彼を襲った過酷な法的トラブル(レーベルからの不当解雇やアルバムのお蔵入り)のメタファーが散りばめられており、スーパーヴィランの裏側に潜む痛切なヒップホップへの愛と、業界の罠に対する深い不信感が浮き彫りになる傑作だ。
和訳
[Intro: Pebbles the Invisible Girl]
Feel the magnetism between us (The mic)
私たちの間に流れる磁力を感じて(ザ・マイク)
※The S.O.S. Bandの「Tell Me If You Still Care」のフレーズの引用。ダイナミックマイクの構造(磁石とコイルの電磁誘導)と、男女の間に生じる「惹かれ合う磁力(magnetism)」を見事に掛けている。
Growing stronger and stronger (The mic)
どんどん強くなっていくわ(ザ・マイク)
Why don't we do it? (The mic)
ねえ、やっちゃいましょうよ(ザ・マイク)
[Verse: MF DOOM]
I was in a case out of state
俺は州外で厄介な事件(ケース)に巻き込まれてたんだ
She was thirteen and good, we had a hotter date
彼女は「13」で極上だった、俺たちは最高にホットなデートをしたのさ
※彼女(マイクやラップゲーム)が「13」だったという表現。DOOMが13歳の頃(1984年頃)にヒップホップに魅了されたことの暗示、あるいは未成年に手を出すような「危険で違法な罠(音楽業界の悪徳契約)」に足を踏み入れたことのダブルミーニング。
It was just a number, she never told me she was knocked up
年齢なんてただの数字だ、彼女は「身ごもってる(ノックト・アップ)」なんて一言も言わなかったぜ
※「knocked up」は妊娠することだが、ここでは「マイクがすでに他人のライム(唾液)で孕んでいた」、あるいは「業界の甘い誘いに乗ったら、思わぬ巨大なトラブル(妊娠という責任)を抱え込まされた」というKMD時代のElektra Recordsとの契約トラブルの比喩。
By the end of the summer chick almost had me locked up
夏の終わりには、その女のせいで俺は危うくムショ送り(ロックト・アップ)になるところだった
※アルバム『Black Bastards』がお蔵入りになり、業界から追放され、ホームレス同然のどん底を味わったDOOMの過酷な経験。
My akh came and got me, and steadied the block
俺のアク(兄弟)が迎えに来て、ブロック(地元)を落ち着かせてくれたんだ
※「akh」はアラビア語で「兄弟」を意味し、ネーション・オブ・イスラム(NOI)などの黒人イスラム教徒の間で使われるスラング。ここでは1993年に交通事故で急逝した最愛の血の分けた弟であり、KMDのパートナーだったDJ Subrocを指している。彼の存在がDOOMの支えだった。
We bounced to the yeti, and I'm ready to rock
俺たちはイエティ(雪男)のところへ飛び込み、ロックする準備は万端だった
With no attachments, feelin' a little loose
しがらみ(アタッチメント)なんて一切なし、少しルーズな気分でな
Blowin' up in every spot, we had a little juice
行く先々でブチかまして、俺たちにはちょっとした「ジュース(影響力)」があったのさ
※「juice」はストリートでのリスペクトや影響力、権力のこと。KMDとしてシーンで名を馳せていた初期の栄光時代を回想している。
Probably the Dom or the Afghani bud in me
たぶんドンペリか、アフガン産の極上のクサが効いてたんだろうな
We played the stage, standin' by the speaker and suddenly
ステージをこなして、スピーカーのそばに立ってたら、突然
Who tapped me? I'm 'bout to get real ill
誰かが俺を叩いた。最高にヤバい(イルな)気分になりかけてたんだ
Already ripped the whole club with Metal Face's steel wheel
メタルフェイスの「鋼鉄の車輪」で、すでにクラブ中をブチ上げちまってたからな
※「steel wheel(鋼鉄の車輪)」はDJのターンテーブル、あるいはオープンリールのテープのこと。プロデューサー兼DJとしてのDOOMの圧倒的なスキル。
What a sweet surprise, her with the fly eyes
なんて甘いサプライズだ。イカした目(アイズ)をした彼女さ
And fine, she pulled me to the sidelines
極上のイイ女だ、彼女は俺をサイドライン(舞台袖)へと引き寄せた
※擬人化された「マイク」との運命的な出会い。ステージ袖にあるマイクスタンドからマイクを手に取る情景を、クラブでのナンパに重ねている。
The mystery shot up with strong words
そのミステリーは、力強い言葉と共に湧き上がってきた
She was an intelligent wisdom and a songbird
彼女は知的な「ウィズダム」であり、歌姫(ソングバード)だった
※「wisdom(知恵)」はファイブ・パーセント・ネーションの教義において「女性」を意味する隠語。マイクを通して放たれる言葉の美しさと知性を表現している。
I met her last week at the same place
先週も同じ場所で彼女に会ったんだ
She stepped to me, the same way at a no shame pace
彼女は恥じらいもない足取りで、同じように俺に歩み寄ってきた
I'm off-guard, her game had me choked up
俺は油断してた、彼女のゲーム(駆け引き)に言葉を失っちまったよ
Checkin' me, play testin' me 'til I spoked up
俺をチェックし、俺が声を出すまでテストしやがるんだ
※本楽曲における最も秀逸なダブルミーニング。「女が俺を品定め(Check)し、試す(Test)」という文脈だが、実際はマイクに向かって「Mic check, 1, 2, testing...」と発声テストを行っている様子を描写している。
Seven whole days and nights and not a word from you (Not a word)
丸7日、昼も夜も、君からは一言もなかった(一言も)
※The S.O.S. Bandの「Tell Me If You Still Care」の歌詞をそのまま歌い上げている。マイク(ラップ)から1週間離れていた焦燥感。
I was worried, I thought I woulda heard from you
心配したぜ、君から連絡があると思ってたのに
Stranger, you know I never get enough of you
ストレンジャー、君のことはいくらあっても足りないって分かってるだろ
How you be comin' through (The mic!)
君がどんな風に俺の心に入り込んでくるかってね(ザ・マイク!)
Myself and two a alikes had ran through this crew of three
俺と、2人の似た者同士で、この「3人組のクルー」をモノにしてきたんだ
※「two a alikes(似た者同士の2人)」は、KMDのメンバーだったSubrocとOnyx the Birthstone Kidのこと。「crew of three」は3本のマイクロフォンのこと。KMDの3人のMCが、3本のマイクを回してラップしていた青春時代。
In my earlier days they showed me things new to me
俺の若い頃、彼女たち(マイク)は俺に新しい世界を見せてくれた
So we knew mad brothers who they had hit off
だから、彼女たちが「ヤッた(ヒット・オフ)」ブラザーたちを、俺たちはたくさん知ってたぜ
※同じマイク(あるいは録音スタジオ)を使っていた他の無数のラッパーたちのこと。マイクを「数々の男たちと関係を持ってきた尻軽女」として表現している。
They even used to watch each other just to rock they shit off
ヤツらはお互いを見せ合いながら、最高にロックしてたもんさ
When slovenly two smile and I'm scopin' her
だらしない2人が微笑み、俺が彼女を狙い定める時
Switchin' off three times a night made them more opener
一晩に3回もポジションを入れ替える(マイクを回す)ことで、彼女たちはより心を開いてくれた
※マイクリレーの情景と、スワッピング(乱交)のメタファーが完全に融合している。
So you could love Allah or leave him the hell alone
アラーを愛することもできるし、放っておくこともできる
※Brand Nubianの「Wake Up」などで歌われる5% Nation的なイスラム教義の引用。信じるか信じないかはお前の自由だ、というスタンス。
Message from my godfather, solid gold telephone
俺のゴッドファーザーからのメッセージだ、純金の電話越しにな
※純金の電話(マイク)を通して、神(あるいはヒップホップの先人たち)からの啓示を受け取っている。
Many of my men went up in smoke
俺の仲間の多くは、煙となって消えちまった
※ドラッグに溺れて破滅した仲間、銃撃戦で命を落とした者、あるいは弟Subrocの死に対する深い哀悼。
While trickin' with these chickens and ended up broke
こんなチキン(安い女/業界の誘惑)に貢いだ挙句、文無しになっちまってな
You find out who's ya mans when you broke
自分が一文無しになった時、誰が本当のダチ(マンズ)か分かるもんさ
※KMD時代にレコード会社から解雇され、金も名声も失ったDOOMの周囲から、潮が引くように偽物の友人たちが消え去っていったというストリートの真理。
Like a bad joke, it's funny when you on you got mad folk
悪いジョークみたいだろ、自分が上手くいってる時(オンの時)だけ、周りに人が群がるなんて滑稽さ
I played the middle man in every little scam
俺はあらゆる小さな詐欺(スキャム)で、仲介役(ミドルマン)を演じてきた
Some as complex as a hip hop album riddle jam
中には、ヒップホップアルバムの謎解き(リドル)みたいに複雑なシノギもあったぜ
※ストリートでのハスリング(ドラッグディールなど)と、難解なリリックを構成する「謎解き」の複雑さを重ね合わせている。
I find it's quite intriguing as I think about rappers
ラッパーどものことを考えると、かなり興味深い(滑稽な)気分になるよ
Walk upon me speaking with they stinkin' mouth (About what?)
俺のところに歩み寄ってきて、その臭え口で喋りやがるんだ(何についてだ?)
About this and that from sneakers to hats to gats
スニーカーから、ハット、チャカ(銃)に至るまで、あれやこれやとな
※ファッションや銃などの表面的なステレオタイプしか語れない、中身のないメインストリームのワックMCたちへの痛烈な批判。
Freak chicks with the cooty cat raps
クーティ・キャット(女性器)のことばかり歌う、フリークなビッチどものラップとかな
And it's that cool the dice at that
それならサイコロでも振ってた方がマシってもんだ
I'm at a black tie affair with a diva with the fatty fat
俺はブラックタイ(正装)のパーティにいる。ファッティ・ファット(極上のケツ)な歌姫(ディーヴァ)と一緒にな
I play the back, steady on the humble
俺は後ろの方に控えて、常に謙虚(ハンブル)に振る舞うのさ
※スーパーヴィランでありながら、表舞台で目立つことを避け、常に裏側(アンダーグラウンド)から静かにシーンをコントロールしようとするDOOMのキャラクター性。
But be right up front when we get ready to rumble
だが、乱闘(ランブル)の準備ができたら、真っ直ぐ最前線に立つぜ
I gave her breath control, ask her who she learned off
俺は彼女に「ブレスコントロール(呼吸法)」を与えた、誰から教わったか聞いてみな
※ベッドでの激しいセックスの呼吸法と、MCにとって最も重要なスキルの一つである「マイクコントロール/ブレスコントロール」を掛けた神がかったメタファー。
Coulda took her back to the crib, somehow was turned off
彼女を家(クリブ)に持ち帰ることもできたが、なぜか「冷めちゃった(ターンド・オフ)」んだよな
※「turned off」は性的興奮が冷めること。同時に、マイクの電源が「オフにされた(turned off)」ことを意味し、ここで曲の録音(あるいはヒップホップ業界への未練)を自ら断ち切るという見事なオチ。
Me and you was overdue
俺と君は、もっと早くこうなるべきだった(オーバーデュー)
From gettin' together, baby
一緒になるのが遅すぎたんだ、ベイビー
I always knew our love was meant to be (The mic)
俺たちの愛は運命だったって、ずっと分かってたよ(ザ・マイク)
[Chorus: Pebbles the Invisible Girl]
Feel the magnetism (The mic) between us (The mic)
私たちの間に流れる磁力を感じて(ザ・マイク)
Growing stronger and stronger (The mic)
どんどん強くなっていくわ(ザ・マイク)
Why don't we do it? (The mic)
ねえ、やっちゃいましょうよ(ザ・マイク)
[Outro]
(The mic)
(ザ・マイク)
(The mic)
(ザ・マイク)
(The m-) (The mic)
(ザ・マ-)(ザ・マイク)
(The mic)
(ザ・マイク)
