Artist: MF DOOM
Album: Operation: Doomsday
Song Title: Hey!
概要
MF DOOMのソロデビューアルバム『Operation: Doomsday』の中でも、ひときわ異彩を放ち、彼の「スーパーヴィラン(悪役)」というペルソナを決定づけたクラシック・トラックである。最大の特徴は、アメリカの国民的キッズアニメ『スクービー・ドゥー(Scooby-Doo)』の不気味な劇伴と、登場人物たちの声(「Hey!」という掛け声や、犬のスクービーの「Huh?!?」という鳴き声など)を大胆かつ執拗にサンプリングしている点だ。DOOMは自身を、アニメのエピソードの最後に仮面を剥がされる「怪人(悪役)」に重ね合わせている。アンダーグラウンドの埃っぽいビート上で、メインストリームの行儀の良いラッパーたちを子供扱いし、コミックの悪役や昼ドラのキャラクター、ストリートの過酷な日常を縦横無尽に結びつける変幻自在のライムは圧巻である。最後のアウトロでアニメの悪役の定番の捨て台詞を吐き捨てる構成など、ヒップホップにおける「ギミック」を芸術の域まで高めた歴史的名曲だ。
和訳
[Intro: MF DOOM + sample]
Good evening, ladies and gentlemen
こんばんは、紳士淑女の皆さん
("Hey!")
(「ヘイ!」)
I'd like to thank you all for joining us this evening
今宵はご来場いただき、心より感謝するぜ
Let me know if y'all with me, y'all
お前ら、ついて来てるか教えてくれ
("Hey!")
(「ヘイ!」)
Just a couple of things I wanna say...
少しだけ言いたいことがあるんだ…
[Verse: MF DOOM, (sample)]
I only play the games that I win at
俺は自分が勝てるゲームしかやらねえ
And stay the same, with more rhymes than there's ways to skin cats
スタンスは変えない。「猫の皮を剥ぐ方法」よりも多くのライムを持ってな
※英語のことわざ「There's more than one way to skin a cat(目的を達する方法は一つではない)」をもじった表現。ラップゲームで勝利するための多種多様なフロウやアプローチ(皮の剥ぎ方)を熟知しているというアピール。
As a matter of fact, let me rephrase:
実際のところ、言い換えさせてもらおう
With more rhymes than ways to fillet felines these days
最近じゃ「ネコ科の動物を三枚におろす方法」よりもライムを持ってるぜ
※「skin cats(猫の皮を剥ぐ)」を、より残酷で専門的な「fillet felines(ネコ科を切り身にする)」という言葉に言い換えたヴィランらしい猟奇的なユーモア。
Watch the path of the black one, the Supervillain
黒いヤツ、スーパーヴィランの通る道を見ときな
He wrecks clubs for delf in a drunken stupor, chillin'
ヤツは泥酔状態のまま、自分のためにクラブをぶっ壊し、くつろいでるんだ
※「for delf」は自分自身のため(for myself)を意味する90年代のヒップホップ・スラング(Wu-Tang Clanのメソッド・マンなども多用した)。酒に酔って暴れ回り、その後は平然としているという悪党の日常。
Ready and willin' to inadvertently foil that
意図せずとも、あいつらの計画をぶち壊す準備はできてるぜ
Plan of any rhymer, whiner or spoiled brat
どんなライマーや、泣き言を言うヤツ、甘やかされたガキどもの計画だろうとな
Who got more snidey-er flows and snotty nose–
誰がより嫌味な(スナイディな)フロウを持ってて、鼻水垂らしてるかって?
And holds mics like he knows karate body blows?
それに、空手のボディブローを知ってるみたいにマイクを握るヤツは誰だ?
※格闘技の構えのようにガッチリとマイクをホールドし、相手の急所を突くようなフロウを繰り出す自分自身の描写。
Nobody knows the trouble I see
俺が見てきた苦労なんて、誰にも分かりゃしねえ
※黒人霊歌「Nobody Knows the Trouble I've Seen」からの引用。弟の死やホームレス生活という、DOOMが味わった壮絶なトラウマと孤独への言及。
From the MPV fly dirty tailin' the bubble i30
MPVから、丸みを帯びたi30をダーティに尾行してるときにな
※「MPV」はマツダのミニバン。「bubble i30」は丸っこいデザインの高級セダン、インフィニティ・I30(日産・マキシマ)。強盗や抗争のために、怪しまれないバンに乗って高級車を尾行するという、ストリートの生々しい犯罪の情景を描写している。
For the record: this is some shit I just thought of, y'all
言っとくが、こいつは今思いついたばかりのクソだぜ、お前ら
Science fiction that's not admissible ("Hey!") in no court of law
どこの法廷でも証拠として認められない(「ヘイ!」)SF(サイエンス・フィクション)さ
※自分のラップの内容が過激な犯罪描写を含んでいても、それはあくまで「SF(フィクション)」であり、警察や法廷は手出しできないという言い訳を用いた高度な言葉遊び。
I live to rock mics 3-D
俺はマイクを3D(立体的)にロックするために生きてる
The only reason I seek to stop is– snuff the TV
俺が止めようと思う唯一の理由は…テレビを消す(ぶっ壊す)ことくらいだ
※「snuff」は消す、あるいは殺すこと。二次元(2D)で薄っぺらいメインストリームのテレビ番組やラップシーンを破壊し、自分は立体的(3D)で奥深いアートを提供するという対比。
I heard beats, they sound like karaoke
ビートを聴いたが、カラオケみたいに聞こえるぜ
With monkey rhymers on a leash, like "Don't have this fairy choke me"
首輪をつけられた猿回しのライマーどもが「このオカマ野郎に俺の首を絞めさせないでくれ」って言ってるみたいにな
※「monkey rhymers」はレーベルの大人たち(飼い主)に操られているオリジナリティのないラッパーたち。「fairy」は同性愛者への侮蔑語だが、ここでは軟弱な業界の人間やマネージャーを指し、彼らに搾取され首を絞められている(借金漬けになっている)シーンの惨状を皮肉っている。
Hit 'em with a penny, so we can get these peanuts
あいつらにペニー(1セント硬貨)をぶつけてやれ、そうすりゃピーナッツが手に入るからな
※猿(ワックMC)に小銭を投げてピーナッツ(小銭程度の安いギャラ)を拾わせるという侮蔑的表現。
And I thought we was nuts; I used to get free cuts
俺たちが狂ってる(ナッツ)と思ってたよ。昔はタダで散髪(カット)してもらってたしな
※「nuts(ピーナッツ)」と「nuts(狂っている)」のダブルミーニング。「free cuts」は美容室代も払えない極貧時代、あるいはDJのスクラッチ(カット)を無料でやっていた時代への回想。
They locks Lex Luthor up in Green Haven
連中はレックス・ルーサーをグリーン・ヘイブン刑務所にぶち込んだ
※「Lex Luthor(レックス・ルーサー)」はスーパーマンの最大の宿敵(ヴィラン)。「Green Haven」はニューヨーク州にある警備の厳重な悪名高い刑務所。アメコミのヴィランと現実のストリートの刑務所を融合させている。
Since when, a nigga never really been too clean shaven
その時から、俺はまともに髭も剃ってねえんだ
※ヴィランが投獄され、あるいは地下に潜伏して無精髭を生やしたまま復讐の機会を伺っている様子。
Misbehavin' rap stars need Listermint
行儀の悪いラップスターどもには「リスターミント」が必要だ
※「Listermint」はマウスウォッシュ(洗口液)。口の利き方がなってない(misbehavin')、あるいは吐くライムが「臭い(ワックな)」ラッパーたちの口を洗ってやれというディス。
Call me Mista Bent, I'm at where your sister went
俺をミスタ・ベント(酔っ払い)と呼べ、お前の妹が行った場所に俺はいるぜ
※「Bent」は酒やドラッグでハイになっている状態。敵の妹(や彼女)を寝取っているという定番のトラッシュトーク。
Intelligent, used to write and be well-spoke
インテリジェントさ、昔はよく文章を書き、言葉遣いも丁寧だったんだ
Now all a nigga wanna do is fight and sell—("Hey!")—tell joke!
だけど今、俺がやりたいことといったら、喧嘩して、売る…(「ヘイ!」)…ジョークを言うことくらいさ!
※「fight and sell coke(喧嘩してコカインを売る)」と韻を踏みつつ、犯罪を自白しそうになった瞬間にアニメのサンプリング(Hey!)が入り、慌てて「tell joke(ジョークを言う)」とごまかすという、DOOMのコミカルで天才的な言葉遊び。
This could lead to catastrophe
こいつはとんでもない大惨事(カタストロフィ)に繋がるかもしれないぜ
'Bout to stop the violence, right after these last of three
暴力を止めるつもりさ、この最後の3発を撃ち終わった直後にな
※ヒップホップにおける「Stop the Violence(暴力反対)」運動を掲げつつも、手元の銃の弾を全部撃ち尽くすまではやめないという、ギャングスタの極めて矛盾した(そして皮肉な)ジョーク。
Shots from the black bat, got me at headlock
黒いバット(銃)からの銃撃、ヘッドロックを食らった気分だ
※「black bat」は黒い銃器、あるいはバットマンのような黒いコウモリのメタファー。
Holdin' on to sanity by strands of that dreadlock
そのドレッドヘアの束にすがりついて、何とか正気を保ってる状態さ
※DOOM(ダニエル)はKMD時代や、業界から追放されてホームレス同然だった時代にドレッドヘアを長く伸ばしていた。どん底の生活の中で、ドレッドの髪の毛一本でギリギリ狂気からぶら下がっているような、当時の深刻な精神状態の吐露。
She told me, "Get off!" – I said "Tsk... bitch!
女は俺に「どいてよ!」って言った。だから俺は「チッ…ビッチ!
Let me set this shit off so I can get rich right quick"
このクソみたいな状況をぶっ壊させてくれ、手っ取り早く金持ちになるためにな」って言ってやった
※「set off」は行動を起こす、あるいは銃を乱射すること。女の制止を振り切り、手段を選ばずラップゲーム(あるいはストリートのハッスル)で成功を掴みにいく決意。
Then it hit me like the point of intoxication ("Huh?!?")
その時、泥酔したような衝撃が俺を襲ったんだ(「ハァ!?」)
Nigga, come out and rock this nation like ("Hey!") ox defacin'
ブラザー、表に出てこの国をロック(震撼)させようぜ、(「ヘイ!」)オックスで顔面を切り刻むようにな
※「ox」はカミソリの刃(boxcutter)を指すストリート・スラング。「defacin'」は顔(face)を切り刻むこと。国中を熱狂(rock)させる音楽的なインパクトを、カミソリで顔を切り裂くような残虐なストリートの暴力に例えている。
A lot of niggas out is rusty like oxidation
外にいる連中の多くは、酸化(オキシデーション)したみたいにサビついてやがる
In this world's strangest, most dangerous occupation
この世で最も奇妙で、最も危険な職業(ラップゲーム)においてな
But you could do it, you the Super like in your building
だが、お前ならやれる。お前は自分のビルのスーパー(管理人)みたいに最強(スーパー)だからな
※「Super」はニューヨークのマンションなどにいる「Superintendent(管理人)」の略称。ビルを支配する管理人のように、シーンを支配する「スーパー(ヴィラン)」であるというダブルミーニング。
Villian, like trife Kinder is, in All My Children
ヴィラン(悪役)さ。昼ドラ『オール・マイ・チルドレン』の、性悪な子供(キンダー)みたいにな
※「Kinder」は歌詞データに基づくが、実際はアメリカの長寿昼ドラ『All My Children』に登場する利己的で悪名高い女性キャラクター「Kendall Hart(ケンダル)」のことであるとGenius等で考察されている。DOOMの昼ドラ好きというパーソナルな一面が出たライン。
Plottin' – and it's sure to pay ends
陰謀を企ててるのさ。そして、そいつは確実に金(エンド)になる
With some real mature womens and some more of they friends ("Hey!")
何人かの成熟した本物のイイ女たちと、その友達を連れてな(「ヘイ!」)
When bad men roll tight, it's actual true
バッドボーイたちがガッチリ結束した時、それは真実となる
Like a pack of big Bambú with natural glue
天然ノリのついた、デカい「バンブー」のパックみたいにな
※「Bambú」はマリファナを巻くための有名なローリングペーパー(巻紙)のブランド。仲間(bad men)との強固な結束力(roll tight)を、粘着力の強い天然ノリで巻かれた極太のジョイントに例えるという、大麻文化に根ざした見事なワードプレイ。
Who grip necks of Becks to triple X?
ベックスの首(ネック)から、トリプルXまで握りしめるのは誰だ?
※「Beck's」はドイツのビールの銘柄。「triple X」はBallantine XXX Aleという酒、あるいはアルコール度数の高い密造酒、さらにはポルノ映画(X指定)の暗示。ビールの瓶の首を握りしめ、酒と快楽に溺れる描写。
He just came from 4D, follow the ripple effects
ヤツは4次元(4D)から来たばかりだ、その波及効果(リップル・エフェクト)を辿ってみな
※DOOMの思考やラップの次元が、我々の住む3次元を超えた「4次元」にあるというSF的な誇示。
And it'll lead you right to him ("Huh?!?") – oh, snap!
そうすりゃ、ヤツの元へ真っ直ぐ辿り着くぜ(「ハァ!?」)— おっと、ヤバい!
It seems you walked into a trap through rap
どうやらお前ら、ラップを通じて罠に足を踏み入れちまったみたいだな
Zoinks! This place is filled with pretender willies
「ゾインクス!」ここは偽物のウィリー(チンピラ)どもで溢れ返ってるぜ
※「Zoinks!」は『スクービー・ドゥー』の主人公の一人、シャギーが驚いた時に発する有名な口癖。アニメの世界観に浸りながら、ラップシーンに蔓延するフェイクなギャングスタたちをからかっている。
One false move and get broke off like end of Phillies
一歩間違えれば、「フィリーズ」の吸い殻みたいにポキッと折られちまう
※「Phillies」はブラント(葉巻)のブランド名。吸い終わって灰になったブラントの先端のように、脆いワックMCたちは簡単に叩き折られるという比喩。
True believers, ain't nothin new to a–
真の信者たちよ、こんなのは新しいことじゃねえ
Crook with special powers like how to tell the future "Uh-uh-..."
未来を予知する方法みたいな、特殊能力を持ったペテン師(ヴィラン)にとってはな。「ウッ・ウッ…」
'Rhyme Of The Month', two page long
『今月のライム』、2ページにわたる長編さ
※ヒップホップ雑誌『The Source』の有名なコーナー「Rhyme of the Month」に選ばれるほど、自分のリリックが長大で優れているという自負。
Bustin' off two gauges with my cape on wrong
マントを裏返しに着たまま、2丁のショットガン(ゲージ)をぶっ放すぜ
※スーパーヴィランでありながら、マントの着方も気にしない(あるいは意図的に間違えて着る)という型破りで粗暴なキャラクター。
Son, it's on, remind me of a Raekwon tape song ("Huh?!?")
なぁ、いよいよだぜ。レイクウォンのテープの曲を思い出すな(「ハァ!?」)
※Wu-Tang ClanのRaekwonによる1995年の歴史的名盤『Only Built 4 Cuban Linx...(通称:パープルテープ)』への言及。マフィアやドラッグ・ディーリングの世界をシネマティックに描いた同作の「殺伐とした空気」を、自分もこの曲で体現しているというリスペクト。
With a fleet of the super baddest, status: Rae Dawn Chong
超絶イイ女たちの艦隊を引き連れてな。ステータスは「レイ・ドーン・チョン」級だ
※Rae Dawn Chongは1980年代に映画『コマンドー』などで活躍した女優。当時の黒人コミュニティにおいて美人の代名詞としてよくラップで引き合いに出された。
Let me know if y'alls with me, y'all! ("Hey!")
お前ら、ついて来てるか教えてくれ!(「ヘイ!」)
National and geographic down to the titty-ball
ナショナル ジオグラフィックみたいに、おっぱい(裸)の部族のレベルまで詳細にな
※ドキュメンタリー番組『ナショナル ジオグラフィック』が、未開の部族の裸の女性たちをありのままに放送するように、自分のラップも検閲なしで生の真実(リアル)を放送するというユニークな比喩。
Rep Monsta Island City, y'all!
モンスター・アイランド・シティをレペゼンするぜ、お前ら!
※DOOMが所属するクルー「Monsta Island Czars」のシャウトアウト。
To all my brothers who is doin' unsettlin' bids
落ち着かない刑期(ビッド)を務めてる、俺のすべてのブラザーたちへ
You could have got away if it was not for them meddlin' kids!
「あの『お節介なガキども』がいなけりゃ、お前らも逃げおおせてたのにな!」
※『スクービー・ドゥー』の各エピソードの最後で、正体を暴かれ逮捕される悪役(ヴィラン)が必ず口にするお決まりの捨て台詞「And I would have gotten away with it, too, if it weren't for you meddling kids!」。これを刑務所にいるストリートの仲間たち(罪を暴かれて捕まった同業者)へのメッセージに重ね合わせて曲を締めくくるという、ポップカルチャーとゲットーの現実を融合させたDOOM史上最高峰のオチである。
"Over here!"
「こっちだ!」
[Outro: sample]
"Hey!"
「ヘイ!」
"Hey!"
「ヘイ!」
