Artist: MF DOOM
Album: Operation: Doomsday
Song Title: Doom, Are You Awake? (Skit)
概要
1999年にリリースされたMF DOOMのデビューアルバム『Operation: Doomsday』に収録された本作は、1967年のアニメ版『ファンタスティック・フォー』のエピソードをサンプリングし、スーパーヴィラン「MF DOOM」誕生の決定的な瞬間を描き出した重要なスキットである。前スキット「Back in the Days」で暗示された実験の失敗により、顔に深い傷を負ったヴィクター・フォン・ドゥームが、その醜い素顔を隠すために鉄仮面を被り、世界への復讐を誓う姿が描かれている。このアメコミのオリジン・ストーリーは、1993年に実弟・DJ Subrocを失い、さらに所属レーベルであったElektra Recordsからアルバム『Black Bastards』の発売中止と理不尽な契約解除を言い渡され、数年間にわたりヒップホップシーンから完全に姿を消したダニエル・ドゥーミレイの過酷な現実と完璧に同期している。彼がなぜ仮面を被り、業界に対する「悪役」として舞い戻ってきたのか、その深いトラウマと怒りの根源を説明するコンセプチュアルなマスターピースである。
和訳
[Principal]
Doom, are you awake?
ドゥーム、起きているか?
※大爆発事故を起こした直後のドゥームに対する、大学の学長からの呼びかけ。ヒップホップの文脈においては、不祥事やトラブルの直後にコンタクトを取ってくるレーベルの重役など、冷酷な業界の大人たちを暗示している。
[Dr. Doom]
Yes, but what do you want?
あぁ、だが何の用だ?
[Principal]
You fool, it's a miracle that you didn't kill Costez as well as yourself. So, before you cause greater harm—
この愚か者め、自分自身だけでなくコステスまで殺さなかったのは奇跡だぞ。だから、君がこれ以上大きな被害をもたらす前に—
※「Costez(コステス)」はドゥームの実験助手。ここでは、KMD時代に「サンプリングの権利問題」や「物議を醸すアルバムジャケット」などを理由に、Elektra Recordsから「会社に損害を与える危険人物」として扱われ、一方的に切り捨てられたDOOMの理不尽な経験が重ね合わされている。
[Dr. Doom]
Get out of here! This is just a minor disappointment. I shall overcome it
ここから出て行け! こんなものはほんの些細な失望に過ぎん。俺は必ず乗り越えてみせる
※絶望的な大事故を起こしながらも決して屈しない、ヴィラン特有の傲慢さと強靭なエゴイズム。弟の死と業界からの追放というどん底の「失望(disappointment)」を味わいながらも、自らの芸術性とスキルで必ず復活してみせるという、ダニエル・ドゥーミレイの不屈の精神の宣言である。
[Reed]
The failure of DOOM's experiment did not end his tragedy
ドゥームの実験の失敗は、彼の悲劇の終わりではなかった
※語り手はライバルであるリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)。弟の死という悲劇が、レーベル解雇というさらなる悲劇を引き起こしたDOOMの数奇な運命を語っている。
For a few days later, his bandages were removed
数日後、彼の包帯が外されたからだ
[Nurse]
There. Aah! How horrible, that face
さあ。ああ! なんて恐ろしい、その顔…
※焼け爛れた素顔に対する驚愕。KMDの『Black Bastards』のジャケット(サンボのキャラクターが首を吊っているイラスト)が当時のビルボード誌などで「人種差別的で醜悪だ」と激しくバッシングされ、社会から忌み嫌われた経験のメタファー。
[Dr. Doom]
What have I done to myself? My face is...hideous! He made me hurry my experiment! Now I must hide my face from all mankind. But he will pay. Oh, how he will pay!
俺は自分自身に何をしてしまったんだ? 俺の顔が…醜い! 奴が俺の実験を急がせたせいだ! これから俺は、全人類からこの顔を隠さねばならない。だが奴には代償を払わせる。あぁ、きっちりツケを払わせてやる!
※本スキット、ひいてはアルバム全体における最重要ライン。「顔を隠さねばならない(must hide my face)」という決意こそが、かつての「Zev Love X」というアイデンティティを捨て、素顔を隠した「MF DOOM」へと変貌を遂げた直接的な理由である。実験を急がせ、あるいは邪魔をした「奴(リード=音楽業界)」に対する激しい憎悪と、「必ず代償を払わせる(he will pay)」という冷酷な復讐の誓い。メインストリームを憎み、アンダーグラウンドからシーンを侵略するスーパーヴィランの誕生である。
[Reed]
So after his face was ruined, he just seemed to disappear
そうして顔が崩れ去った後、彼はそのまま姿を消したように見えた
※KMDの崩壊後、1994年から1997年頃にかけて、ダニエルがニューヨークからアトランタへ移り、ホームレス同然の生活を送るなど、ヒップホップシーンから完全に「失踪(disappear)」していた数年間の空白期間を指している。
[Commissioner Robbins]
Why did DOOM threaten just to—
なぜドゥームはあんな脅迫を—
[Reed]
Well, like I said he just disappeared. I'll never forget that day
ええ、言ったように、彼はただ姿を消したんです。あの日のことは決して忘れません
※メインストリームの人間(リードたち)が、才能ある若者を追放したことを後悔するほど、彼が強大で恐ろしい存在となって帰還することへの伏線。ヒップホップ史において、この「姿を消したあの日」が伝説の始まりとなった。
