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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Tick, Tick... - MF DOOM (feat. MF Grimm) 【和訳・解説】

Artist: MF DOOM (feat. MF Grimm)

Album: Operation: Doomsday

Song Title: Tick, Tick...

概要

『Operation: Doomsday』の中でも極めて特異な存在感を放つ本作は、DOOMの盟友でありアンダーグラウンドの伝説的MCであるMF Grimmを全面にフィーチャーした一曲だ。最大の聴きどころは、The Beatlesの「Glass Onion」をサンプリングしたストリングス・ループのBPMが、ジェットコースターのように徐々に加速・減速を繰り返す狂気的なビート構造である。DOOM(Metal Fingers)が仕掛けたこの実験的なトラックに対し、Grimmは完璧にフロウを同調させ、ストリートの過酷さ、裏切り、そして自らの内面に潜む神と悪魔の二面性をスピットしている。1994年の銃撃事件により半身不随となったGrimmの過酷な人生経験と死生観が、時限爆弾(Tick, Tick...)のような緊迫感を生み出しており、プロデューサーとMCの究極の共犯関係を示したヒップホップ史に残る怪作である。

和訳

[Intro: MF DOOM & MF Grimm]

You know when you're gonna come in?
いつ(ビートに)入るか分かってるか?
※イントロから、BPMが一定ではないこの奇妙なビートに対するDOOMとGrimmのやり取りから始まる。

Nobody will never ever, ever, really, really know
誰にも、絶対、絶対に、マジで分からねえよ

Because the more you know, the more you know that you don't know shit!
だって、知れば知るほど、自分が何も分かっちゃいねえってことに気づくからな!
※古代ギリシャの哲学者ソクラテスの「無知の知」をストリートの言葉で表現している。この不安定なビート(ひいては予測不可能な人生)においては、過去の経験や知識など何の役にも立たないという達観。

Niggas'll never run out of shit!
野郎どもは絶対にネタを尽かさねえ!

So much shit, so much scripts through here, niggas never run out of shit
ここにはクソほど多くのネタや脚本が溢れてる。野郎どもは絶対に尽きねえんだよ

Enjoy the roller coaster ride
このジェットコースターの旅を楽しんでくれ
※BPMが激しく上下するこの楽曲自体を「ジェットコースター」と定義している。また、栄光とどん底を味わった彼らの波乱万丈な人生への言及でもある。

[Verse 1: MF Grimm]

Walk the path of Jesus, witness if Hell freezes
イエスの道を歩み、地獄が凍りつくかどうかを見届けるのさ
※「Hell freezes over(地獄が凍る=絶対にあり得ないこと)」という慣用句を用いた表現。キリストのように苦難の道を歩み、あり得ない奇跡(ストリートでの成功や生き残り)を体現するという宣言。

The mind teases reality, crack the pieces
精神が現実をからかい、破片を打ち砕く

Nothing eases; being chastise with blood baptize
安らぎなんてねえ。血の洗礼による懲罰を受けてるんだ
※1994年に敵対するドラッグディーラーからの襲撃で数発の銃弾を浴び、半身不随となって車椅子生活を余儀なくされたGrimmの壮絶な過去を指している。「血の洗礼(blood baptize)」は、ゲットーで生き残るために流さざるを得なかった血と犠牲のメタファー。

Guys revise, acknowledge past lives
野郎どもは考えを改め、過去の過ちを認めるんだな

Statements will be made, acknowledge me (Acknowledge me)
声明は出される、俺の存在を認めろ(認めろ)

My mind is Heaven's gate so enter me (Enter me)
俺の心は天国への門だ、だから入ってきな(入ってきな)

My mind is the gate to Hell, so try to flee (Try to flee)
俺の心は地獄への門だ、だから逃げてみな(逃げてみな)
※Grimmが持つ二面性。神のような慈悲と、悪魔のような冷酷さが同居している。精神的に極限状態にあるストリートのハスラーの狂気。

Both gates look the same, which will it be?
両方の門は同じように見える。どっちになるだろうな?

Demons scream from thought process
思考回路の奥底から悪魔たちが絶叫する

Enter semen, child born, stress
精子が入り、子供が生まれ、そしてストレスだ
※生命の誕生という本来は祝福されるべき出来事が、ゲットーにおいては貧困や責任という重圧(stress)に直結する生々しい現実を短い単語の羅列で表現している。

Body want to sleep but the mind can't rest
体は眠りたがってるが、精神は休まらねえ
※PTSDやパラノイアの描写。常に命を狙われる危険と隣り合わせのストリートでは、安心して眠ることすら許されない。

Measure pleasure through financial progress
経済的な成功でしか喜びを測れねえんだ

When it come to currency, love is nonexistent
金のこととなると、愛なんて存在しねえ

Foes modify, friends become so distant
敵は姿を変え、ダチはどんどん遠ざかっていく

Some hope you die, backstab in an instant
お前が死ぬのを願うヤツもいれば、一瞬で背後から刺してくるヤツもいる
※金と権力が絡むと、かつての友人が裏切り者に変わる。Grimm自身が銃撃された事件も、かつての仲間や同業者からの裏切りによるものだった。

Foes I despise, disguised as allies
俺が軽蔑する敵どもは、味方のフリをしてやがるんだ

To sabotage, camouflage, loyalty is lies
サボタージュするためのカモフラージュさ、忠誠心なんて嘘っぱちだ

To see God, look into my eyes
神を見たいなら、俺の目を見な

To see the Devil, then you look into my eyes
悪魔を見たい時も、俺の目を見るんだな
※生死の境をさまよったGrimmの眼差しには、神聖な悟りと、復讐に燃える悪魔のような怒りの両方が宿っている。

(As I rise from Hell's equator...)
(俺が地獄の赤道から這い上がる時…)
※「Hell's equator」は地獄の中で最も熱く、最も過酷な場所の比喩。そこから這い上がってきたという究極のサバイバー宣言。

[Chorus: MF Grimm]

'Cause I'ma slow it up, speed it up, slow it up, speed it up
俺がビートを遅くし、速くし、遅くし、速くするからだ

Metal Fingers feed beats, Grimm Reaper eat 'em up
メタル・フィンガーズがビートを供給し、グリム・リーパーがそいつを喰い尽くす
※「Metal Fingers」はMF DOOMのプロデューサー名義。「Grimm Reaper(死神)」はMF Grimmの別名。DOOMの変則的なビートをGrimmが完璧に乗りこなす様を、死神が獲物を食らうことに例えている。

Speed 'em up, slow 'em up, speed 'em up, slow it up
速くし、遅くし、速くし、遅くする

Brainsick, tick, tick, tick, MF blow it up
イカれた頭(ブレインシック)、チク、タク、チク、MFが爆発させるぜ
※「tick, tick」は時限爆弾の秒針の音。テンポが変化するビートが限界に達し、大爆発を起こす(blow it up)という曲全体のコンセプト。「MF」はDOOMとGrimm、両者の称号。

Slow it up, speed it up, slow it up, speed it up
遅くし、速くし、遅くし、速くする

Metal Fingers feed beats, Grimm Reaper eat it up
メタル・フィンガーズがビートを供給し、グリム・リーパーがそいつを喰い尽くす

Speed it up, slow it up, speed it up, slow it up
速くし、遅くし、速くし、遅くする

Brainsick, tick, tick, tick, MF blow it up
イカれた頭、チク、タク、チク、MFが爆発させるぜ

[Verse 2: MF Grimm]

Take air, compress it, bless it, lynch loops like Ku Klux
空気を吸い込み、圧縮し、祝福し、KKKみたいにループをリンチ(首吊り)にしてやる
※息を吸い込んでラップを始める描写。「Ku Klux(KKK=白人至上主義団体)」が黒人をリンチにしたように、自分がビート(ループ)を首吊りにして完全に殺す(圧倒する)という極めて過激でブラックなジョーク。

MF don't give two fucks
MFは少しも気にしねえよ
※「don't give two fucks(全く気にしない)」。「MF」としてのペルソナは、倫理観や他人の評価など一切意に介さない悪役であることを強調。

Nigga, quarterback blitz, popped, quickly fumble
クォーターバックにブリッツを仕掛け、ブチ当てて、即座にファンブルさせるのさ
※アメフトの比喩。「ブリッツ」は守備側が奇襲をかける戦術。ワックなMC(クォーターバック)に強烈なタックルを食らわせ、マイク(ボール)を落とさせる(ファンブル)という攻撃的なライン。

Leave game with concussion, seeing stars and mumbles
脳震盪で試合から退場させ、星がチカチカしてうわ言を言わせてやる

This happens to any emcee that wants to rumble
俺とやり合おうとするMCには、誰にでもこんな結末が待ってるぜ

Dynasties destroyed like Carringtons and Colbys
キャリントン家やコルビー家みたいに、王朝(ダイナスティ)をぶっ壊してやる
※1980年代の大ヒットメロドラマ『ダイナスティ(Dynasty)』と、そのスピンオフ『コルビー家(The Colbys)』からの引用。富豪一族が権力争いで崩壊していくように、シーンを牛耳る大物ラッパーたちの帝国を破壊するというヴィランの野望。

Noise, reduced, MF thinks in Dolby
ノイズは削ぎ落とされ、MFはドルビーで思考する
※「Dolby(ドルビー)」はカセットテープなどのノイズリダクション・システム。雑音(ヘイターの声や不要な情報)を遮断し、高音質(クリアな頭脳)で物事を考えているというメタファー。

Chop that ass in half like Obi-Wan Kenobi
オビ=ワン・ケノービみたいに、テメエのケツを真っ二つに斬り裂いてやるぜ
※『スター・ウォーズ』からの引用。ライトセーバーで敵を両断するオビ=ワンのように、リリカルなスキルで相手を切り刻む。

Greatest of all time, God straight up told me
「史上最高(G.O.A.T.)」だって、神が直接俺に教えてくれたんだ

Greatest of all time, the Devil even told me
「史上最高」だって、悪魔でさえ俺に教えてくれたのさ
※Verse 1の「神と悪魔」のテーマをリフレイン。善と悪の両方から最強のお墨付きを得ているという無敵の境地。

Icicles on surfaces of Sun, we livin' coldly
太陽の表面にできたツララ、俺たちはとてつもなく冷たく(残酷に)生きてるんだ
※太陽という灼熱の場所でも凍りつく(Icicles)ほどの冷酷さ。ゲットーのストリートという地獄を生き抜くために、心を完全に凍てつかせている心理描写。

Prophets be phony
預言者どもは偽物だらけさ

And we attack, we switch like the Wu-Tang symbol
俺たちは攻撃を仕掛け、ウータンのシンボルみたいに(スタイルを)切り替える
※Wu-Tang Clanの有名なロゴ(Wの形)は、逆さにすると「M」にもなる(Method Manのロゴなど)。様々なスタイルやアプローチを自在に切り替える多才さのアピール。

Still kill Jack even though quick and nimble, plain and simple
素早くて身軽だろうが関係ねえ、ジャックを殺す。単純明快さ
※マザーグースの童謡「Jack Be Nimble(ジャックはすばしっこい)」のパロディ。どんなに逃げ足が速いワックMC(ジャック)でも、俺からは逃れられずに殺されるという宣告。

Pick niggas off while they ballin'
ヤツらが調子に乗って(ボーリンして)る間に、一人ずつ仕留めてやる

And die old like Stalin
そしてスターリンみたいに、長生きして死ぬのさ
※ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンへの言及。彼は数え切れないほどの人間を粛清(Pick niggas off)しながらも、暗殺されることなく天寿を全うした。ストリートの抗争を生き抜き、最強の独裁者として君臨したまま老衰で死ぬという、ギャングとしての究極の目標。

Yes, Death, I hear you callin', I accept collect
あぁ、死神よ、お前の呼ぶ声が聞こえる。コレクトコールで受け取ってやるよ
※「collect call(受信者払い通話)」。死(Death)からの電話(呼び出し)を恐れることなく、自ら通話料を払ってでも応じるという死生観。車椅子生活となり、死の淵を彷徨ったGrimmだからこそ吐ける、重すぎるパンチライン。

Human sacrifice, must pay respect
人間の生贄だ、敬意を払わなきゃならねえ

We catch reck, nigga, we catch reck
俺たちは暴れ回るぜ(キャッチ・レック)、なぁ、俺たちは暴れ回るんだ
※「catch reck(catch wreck)」はヒップホップ・スラングで「マイクを握って大暴れする、スキルを見せつける」こと。

And, we gonna, gonna
そして、俺たちは、俺たちは…

[Chorus: MF Grimm]

Slow it up, speed it up, slow it up, speed it up
遅くし、速くし、遅くし、速くする

Metal Fingers feed beats, Grimm Reaper eat it up
メタル・フィンガーズがビートを供給し、グリム・リーパーがそいつを喰い尽くす

Speed it up, slow it up, speed it up, slow it up
速くし、遅くし、速くし、遅くする

Brainsick, tick, tick, tick, MF blow it up
イカれた頭、チク、タク、チク、MFが爆発させるぜ

[Outro]

Boom
ドカーン
※「tick, tick...」とカウントダウンを続けてきた時限爆弾が、曲の終わりと共に遂に爆発する。

MF Grimm, MF DOOM
MF Grimm、MF DOOMだ

Do your homework nigga
しっかり宿題(研究)してきな
※「Do your homework」は「俺たちの過去やリリックの深い意味をちゃんと調べてから聴け」というリスナーへのメッセージ。ヒップホップの歴史やコンテクストを学ばない浅はかなヘイターたちへの警告でもある。