Artist: MF DOOM
Album: Operation: Doomsday
Song Title: Go With the Flow
概要
MF DOOMのデビューアルバム『Operation: Doomsday』に収録された本作は、DOOMの卓越したサンプリング・センスと、オタク的知識が爆発した怒涛のスピットが堪能できるアップテンポな一曲である。リリック内で自ら「Kool G Rapの『Truly Yours』のドラムをチョップした」とネタばらしをしているように、ヒップホップ・クラシックへのリスペクトを込めつつ、独自のグルーヴを構築している。また、盟友MF Grimmらと共に結成したアンダーグラウンドのスーパーグループ「Monsta Island Czars (M.I.C.)」へのシャウトアウトが込められており、スーパーヴィランとしてのペルソナだけでなく、シーンにおける自身の立ち位置を明確に示している。映画『プレデター』、『トワイライト・ゾーン』のホストであるロッド・サーリング、さらには特撮怪獣ジェットジャガーまで、多彩なポップカルチャーを縦横無尽に引用しながら、圧倒的なライミングスキルで他のMCをねじ伏せるマニフェスト的な楽曲だ。
和訳
[Intro]
Enough is enough
もう十分だろ
Yeah, yeah, here we go, just go with the flow
イェー、イェー、行くぞ、ただフロウに乗るだけさ
Enough is enough
いい加減にしろ
Yeah, here we go, just go with the flow
イェー、行くぞ、ただフロウに乗るんだ
Yeah, yeah, yeah, yeah, ho
イェー、イェー、イェー、イェー、ホー
Yeah, here we go, just go with the flow
イェー、行くぞ、ただフロウに乗るだけさ
Just go with the flow
ただフロウに乗るんだ
Ayo, I'd like to test this microphone 'fore I start right quick
エイヨ、さっさと始める前に、このマイクをテストさせてくれ
Yeah, here we go, just go with the flow
イェー、行くぞ、ただフロウに乗るんだ
Microphone check two-two, one-two, one-two
マイクチェック、ツーツー、ワンツー、ワンツー
[Verse]
Big up all the Monsta Island massive
モンスター・アイランドのクルー全員にビッグ・アップを
※DOOMが所属していたニューヨークのアンダーグラウンド・ヒップホップ・コレクティヴ「Monsta Island Czars (M.I.C.)」へのシャウトアウト。メンバー全員がゴジラシリーズの怪獣の名を冠しており、DOOM自身はキングギドラ(King Geedorah)を名乗っていた。
And beware before I triple dare you like the last kid
お前らをトリプル・デア(絶対服従の挑戦)にかける前に気をつけな、前のガキにしたみたいにな
※「triple dare」は子供の遊びでの挑発文句(絶対にやれよ、という強い挑戦)。相手を子供扱いし、MCバトルやスキルの競争において自分に挑むことの危険性を警告している。
Who asked me what we don't got that you got, son
「俺たちが持ってなくて、お前が持ってるものって何だよ?」って聞いてきたヤツにな
For one flow that's elementary, my dear Watson
一つはこのフロウさ。初歩的なことだよ、親愛なるワトソン君
※名探偵シャーロック・ホームズの有名なセリフ「Elementary, my dear Watson(初歩的なことだよ、ワトソン君)」の引用。他のラッパーにとって難解に見える高度なフロウも、DOOMにとっては基礎的で造作もないことだという皮肉。
Secondly, ever since I was little
二つ目に、俺がガキの頃からずっと
Not so much to riddle, least rhyme to the syllable
なぞなぞ(リドル)をするってよりは、音節(シラブル)の隅々までライムしてきたんだ
Keep tracks that make a Arab thief clap
アラブの泥棒が拍手するようなトラックを作り続けるぜ
With no hands, I chopped these drums off Truly Yours, G. Rap
両手を使わずに、Gラップの『Truly Yours』からこのドラムをチョップしたんだ
※強烈なダブルミーニング。イスラム法の極端な解釈において窃盗犯は「両手を切り落とされる」というステレオタイプなイメージを引用。「アラブの泥棒が(手がないのに)拍手するほど素晴らしいビート」であり、同時にDOOM自身が「手を使わずに(魔法のような手さばきで)」Kool G Rap & DJ Poloの1989年のクラシック「Truly Yours」のドラムブレイクをサンプリングして切り刻んだ(chopped)という、ビートメイカーとしての圧倒的なスキルの誇示。
Actual fact, relax
紛れもない事実だ、リラックスしな
In this land of lyrical loss, black, I'm not the cool Sleestak
リリカルさが失われたこの世界じゃな、ブラザー。俺はクールなスリースタックじゃねえ
※「Sleestak」は1970年代の子供向けSFテレビ番組『Land of the Lost』に登場する不気味な爬虫類人。劇中には「Enik」という理性的で友好的(cool)な個体が登場するが、DOOMは「俺はそんな優しい存在ではなく、お前らを襲う凶暴な悪役(ヴィラン)だ」と宣言している。オタク的な知識を用いた高度な比喩。
The one who might stop and talk to you
立ち止まって、お前とおしゃべりするようなヤツじゃねえんだよ
Poison to few, niggas who be biting styles, I'm like pork too
一部のヤツらにとっちゃ毒さ。スタイルをパクる(噛む)連中にとって、俺は豚肉みたいなもんさ
※ヒップホップ・コミュニティに多大な影響を与えたネーション・オブ・イスラム(NOI)やファイブ・パーセント・ネーションの教義において、豚肉(pork)を食すことは禁忌(Poison)とされる。「bite」は他人のラップのスタイルを盗むこと。「俺のスタイルをパクる(食う)のは、禁じられた豚肉を食うようなもので、お前ら自身の破滅(毒)を招くぞ」という宗教的メタファーを交えた強烈なディス。
Ooh, what you got to lose? Let mud fly
オゥ、何を失うってんだ? 泥を飛ばしてやれ
When I got blues, I chew whole crews that's Bud Dry
ブルースを感じた時は、クルー全体を飲み込んでやる。「バド・ドライ」だぜ
※「Bud Dry」は1990年代に販売されていたバドワイザー社のビールの銘柄。当時の大ヒットCMのキャッチコピー「Why ask why? Try Bud Dry.(理由なんて聞くな、バド・ドライを試せ)」を次の行への布石として使用している。憂鬱な時(ブルース)は、敵のクルーをビールのようにつまみ食いして飲み干すという描写。
So why ask why the styes from the cess
だから、なんで極上のクサ(セス)でもの貰い(スタイ)ができるかなんて聞く必要はねえ
※前述のCMの「why ask why」というフレーズを受けてのライン。「cess」は良質なマリファナ。「styes」は目の感染症(もの貰い)。大量のマリファナの煙を吸うことで目が真っ赤に充血し、痛みを感じる様子を表現している。
Shit be fucking with my eye as I pull it to the chest
煙を胸いっぱいに吸い込むと、俺の眼がおかしくなっちまうんだ
The Super motherfucking Villain grip the mic with an iron hand
スーパー・マザーファッキン・ヴィランが、鉄の拳でマイクを握りしめる
※マーベル・コミックのDr. Doomの象徴である「鉄の手袋(iron hand)」を用いて、自身の絶対的な支配力とマイクコントロールをアピールしている。
Throwing MCs to the fire from out the frying pan
フライパンの上から、MCどもを炎の中へ放り込むのさ
※「Out of the frying pan into the fire(フライパンから火の中へ)」という英語の小諺(一難去ってまた一難、状況がさらに悪化すること)をもじった表現。バトルを挑んできたMCたちをさらなる地獄(DOOMの圧倒的なラップ)へ突き落とすという描写。
It ain't no use in trying, man, son stop crying
挑戦しても無駄だぜ、なぁ、坊や、泣くのはやめな
Fronting like you death-defying, need to stop lying
命知らずのフリしてイキるのはやめて、嘘をつくのもやめな
Speak your piece, only once you're spoken to first
言いたいことがあるなら、先に話しかけられた時だけにしろ
Now let me hear your verse while I'm choking you
さあ、お前の首を絞めながら、お前のヴァースを聞かせてもらおうか
With well refined rhymes like a editor
編集者みたいに、よく洗練されたライムを使ってな
Throw them to my collections of skulls and spines like Predator
あいつらを『プレデター』みたいに、俺の頭蓋骨と脊椎のコレクションに放り込んでやる
※1987年のSFアクション映画『プレデター』の有名な設定。宇宙から来た狩人であるプレデターが、狩った人間や獲物の頭蓋骨と脊椎を引き抜き、戦利品として飾る残酷なシーンを引用。倒したラッパーたちを自分のトロフィーにするというヴィランらしい残虐なユーモア。
Fuck around, the only niggas who could hear the same sound
ふざけんな、この同じサウンドを聴き分けられるヤツらなんて
(Who?) Was Jet Jaguar and James Brown
(誰だよ?) ジェットジャガーとジェームス・ブラウンくらいだぜ
※東宝の1973年の特撮映画『ゴジラ対メガロ』に登場するロボット「ジェットジャガー」と、ファンクの帝王「ジェームス・ブラウン」という、極端にかけ離れた二つのアイコンを並列させている。DOOMのサンプリングソースの幅広さ(日本の特撮から王道のソウル/ファンクまで)と、彼の脳内にしかない奇妙なポップカルチャーの融合を象徴するライン。
(Yeah, yeah, only them two niggas?)
(イェー、イェー、その2人だけか?)
And I'm glad I took the time to write their names down to big 'em up (True, true)
あいつらにビッグ・アップを送るために、時間を割いて名前を書き留めておいて良かったぜ(間違いない、間違いない)
I'd like to say, "Hi, it's Sci.Fly, the odd Merlin"
「やあ、風変わりな魔法使い(マーリン)、サイ・フライだ」って言いたいね
※「Sci.Fly」はDOOMのプロデューサー/DJとしての別名義。自分自身をアーサー王伝説に登場する偉大な魔法使い「マーリン(Merlin)」に例え、ビートメイクの魔法(サンプリングの錬金術)を操る存在であると宣言している。
That's quick to whip up a script like Rod Serling
ロッド・サーリングみたいに、手際よく脚本を書き上げるぜ
※「Rod Serling」は、1950〜60年代のアメリカの伝説的なSFオムニバスドラマ『トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)』の企画・脚本・ホストを務めた人物。DOOMの持つ、奇妙でSF的な世界観を構築するストーリーテリング能力を重ね合わせている。
Who eye on bad bitch who used to whip the Sterling
昔スターリングを乗り回してたイイ女(バッド・ビッチ)に目を付けてる男さ
※「Sterling」はイギリスのローバー社とホンダが共同開発した高級セダン(Rover Sterling)。
Who see God tore but never see God hurlin'
神が引き裂かれるのは見ても、神が吐き出すのは絶対に見ないヤツさ
My man Grimm had his little monkey like Space Ghost
俺のダチ、Grimmは『スペース・ゴースト』みたいに小さな猿を飼ってたんだ
※「Grimm」はDOOMの無二の親友であり、M.I.C.の中心人物であるMF Grimmのこと。「Space Ghost」は1960年代のハンナ・バーベラ制作のアニメ。スペース・ゴーストの相棒である宇宙ザルの「ブリップ(Blip)」を引用し、Grimmの周辺にいた人物(あるいは文字通りのペット)をコミカルに表現している。
Me myself, I got flavors that out-taste most
俺自身は、ほとんどのヤツらを凌駕するフレーバー(味)を持ってるぜ
With numb gums, some rhymers is lactose
歯茎が麻痺してやがる、一部のライマーどもは乳糖不耐症(ラクトース)だからな
※「numb gums」はコカインを歯茎にこすりつけて麻痺させる行為の暗示。「lactose」はコカインの純度を下げるための混ぜ物(カット剤)として使われる乳糖のこと。中身の薄いフェイクなラップをしている連中を、質の悪いドラッグに例えている。
Back to you MF DOOM, you late show host
現場のMF DOOMにお返しします、レイトショーのホストさん
※DOOM自身が深夜番組の司会者(ホスト)になりきり、ニュース番組の中継のように自分自身に語りかけるメタ的な言葉遊び。前述のロッド・サーリングへのオマージュともリンクしている。
S to the U to the P-E-R-uh
S-U-P-E-R…(スーパー)
※「SUPER VILLAIN(スーパーヴィラン)」の綴り。
Who chronicle these times in a 3D horror
この時代を、3Dホラー映画の年代記に記録する男
Thriller porno co-starrer in a realer drama
よりリアルなドラマの中で、スリラーとポルノの共演者でもある
Who break bread with stingy kin-men, Indian borrower
ケチな親戚どもとパンを分け合い(食事し)、インディアン・ボロワー(借りたものを返さないヤツ)とも付き合うのさ
※「break bread」は食事を共にする、あるいは利益を分け合うこと。「Indian borrower」は、一度与えたものを返せと要求する人を指す慣用句「Indian giver」をもじったもの。借りたまま返さない、ストリートの図々しいハスラーたちのこと。
Lone gunman who candidly flip fly flows
一匹狼のガンマン、ヤバいフロウを率直に(見事に)弾き出す
Single-handedly with one eye closed
片目を閉じて、片手だけでな
※スナイパーが片目を閉じて銃の狙いを定めるように、マイクを片手で握りながら正確無比にフロウの弾丸を撃ち込むDOOMの姿を描写。
In a fly pose, no shirt Alayé
イカしたポーズで、シャツも着ないぜ、アラエ
※「Alayé」はナイジェリアのヨルバ語に由来するスラングで、「ストリートのボス」「チンピラ」「説明する者」などを意味する。アフリカのルーツとゲットーのストリート・ハスラーの姿勢を表現。
May see me stack the quarter-mill cash pay
俺が25万ドル(クォーター・ミル)の現金を積み上げるのを見るかもな
That's that inner smash way how he did it
それがヤツのやり遂げた、内なる破壊のやり方さ
Motherfuckers probably couldn't peep it past a minute, it's the–
クソ野郎どもは、おそらく1分も理解(ピープ)できなかっただろうな、こいつは—
Exquisite scripts, that quick shit, go with the flow
極上の脚本だ。この素早いシット、フロウに乗るだけさ
That's how we do it though
それが俺たちのやり方だけどな
[Outro]
Yeah, yo, I'd like to give a special shout-out
イェー、ヨォ、特別なシャウトアウトを送りたい
Raamers and L. Rockwell
ラーマーズ、そしてL・ロックウェル
※L. RockwellはKMD時代からの関係者。
Since depths of hell, Pure Mathematics
地獄の底からずっと、ピュア・マスマティクス(純粋な真理)
※「Mathematics(数学)」はファイブ・パーセント・ネーションの教義において「宇宙の真理・知識」を意味する。
Fold 'em stacks like crack-matics
クラック・マティクスみたいに札束(スタック)を折りたたむのさ
Supreme Justice, Supreme Love Allah, Prince Love Allah
シュプリーム・ジャスティス、シュプリーム・ラブ・アラー、プリンス・ラブ・アラー
※DOOMの周囲にいたファイブ・パーセント・ネーションのメンバーやストリートの友人たちへのシャウトアウト。
[?] Master Sword
[?] マスター・ソード
[?]
[?]
Peace
ピース
Ayo yo, yeah yo, it's MF
エイヨヨ、イェーヨ、MFだ
VS, shout out [?] MF Grimm, The Magician
VS、シャウトアウト、MF Grimm、ザ・マジシャン
※盟友であるMF Grimmへのリスペクト。
God-U Now
ゴッド・ユー・ナウ
Sin, GM, Kong
シン、GM、コング
※Monsta Island Czarsのメンバーたち(Kongなど)への言及。
The whole Monsta Island City strong
モンスター・アイランド・シティ全体が強固だぜ
Metal Face DOOM
メタル・フェイス・DOOM
Your Concurrence In The Above Is Assumed
上記へのあなたの同意は前提とされています
※法的な書類や公式な声明文の末尾に使われるような硬いフレーズ。スーパーヴィランからの冷徹な通告としてアルバムの世界観を補強している。
