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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

¥$, Kanye West & Ty Dolla $ign - VULTURES 2 【全21曲和訳・アルバム解説】

目次

 

アルバム解説

概要

2024年8月、『VULTURES 1』からの熱狂と幾度ものリリース延期を経て唐突に投下された『VULTURES 2』は、Kanye West(現Ye)のキャリアにおいて最も物議を醸し、かつ現代の音楽消費のあり方を根底から問う「異形のミュータント」となった。リリース初日の荒削りなミックス、一部の未完成なヴァース、そして何より物議を醸したAIボーカルの使用疑惑は、Redditの「GoodAssSub」をはじめとするコアなファンコミュニティや批評家たちを大混乱に陥れた。しかし、本作の真の姿はリリース後に展開された「Digital Deluxe」の販売戦略にある。長年ファンが渇望していた幻の未発表曲(Holy Grails)である「CAN U BE」や「TAKE OFF YOUR DRESS」などを、自身の公式サイトを通じてゲリラ的に追加販売するという手法は、ストリーミング・プラットフォームのアルゴリズムをハックし、直接的なファンエコノミーへと回帰する強烈なアンチテーゼであった。本作は、Ty Dolla $ignという絶対的な安定感を持つR&Bの巨匠を伴いながら、Yeの精神的なカオスと音楽産業への反逆が、最もグロテスクかつ魅力的な形でパッケージングされた「生きた記録(Living Album)」である。

コアテーマと考察

過去の亡霊(Grails)の召喚と「未完成」という芸術

本作のトラックリストは、長年Yeを追いかけてきた熱狂的なリスナーにとって信じがたいラインナップとなっている。『Donda 2』期に未完成のまま放置された「530」、『Yandhi』期の幻の名曲「SKY CITY」、そして『The Life of Pablo』期からリーク界隈で神格化されていた「CAN U BE」。これら過去の遺産(亡霊)たちを引っ張り出し、現在の文脈に強引に接続するアプローチは、Geniusの考察スレッドでも激しい議論を呼んだ。特に「530」の後半部分では、あえて未完成のマンブル(つぶやき)をそのまま残しており、Yeが「完成された製品」ではなく「進行形のカオス」を提示することに執着していることが伺える。これは過去の自身の巨大な影に追われながらも、その傷跡をそのまま晒け出す究極の自己破壊的アート表現である。

AI(人工知能)の導入と「アーティストの肉体性」の融解

『VULTURES 2』を語る上で避けて通れないのが、「SKY CITY」や「FIELD TRIP」などにおける「Ye-I(YeのAI音声)」の使用疑惑である。本来自らがマイクに向かうべきヴァースを、別のラッパー(CyHi The Prynceなど)のガイドボーカルを基にしたAIフィルターで処理しているという事実は、音楽における「本物性(オーセンティシティ)」の概念を根底から揺るがした。かつてサンプリング文化を極限まで押し上げた男が、今度は自らの「声」すらもサンプリング素材やソフトウェアのプリセットとして扱っているのだ。このディストピア的なアプローチは、精神的な疲弊からくる怠慢だと非難される一方で、「アーティストの肉体性を放棄したポスト・ヒューマン的な表現」としての解釈も生んでおり、現代の音楽シーンに巨大な問いを投げかけている。

Ty Dolla ignの献身と「¥」が抱える双面性

Yeのパフォーマンスが混沌と分裂を極め、アルバムが崩壊の危機に瀕する中、本作を音楽作品として辛うじて成立させているのは、間違いなくTy Dolla ignの驚異的な献身とメロディセンスである。「PROMOTION」やゴスペル調に再構築された「RIVER」で聴かせる彼のシルキーで官能的なR&Bボーカルは、Yeの荒れ狂うエゴイズムを包み込む巨大な防波堤として機能している。「HUSBAND」から「LIFESTYLE」へと続く流れでは、過剰な欲望と虚無感が交錯する中、Tyの歌声がリスナーに一時の安らぎを与える。このデュオの真の面白さは、暴走するYeと、それを音楽的な調和へと繋ぎ止めるTyという、ギリギリのバランスの上に成り立つスリリングな双面性にある。狂気と理性が背中合わせになった、極めて歪で美しいコラボレーションである。

総評

『VULTURES 2 (Digital Deluxe)』は、従来の「完成されたマスターピース」という評価軸で測るべきアルバムではない。リリース後もリアルタイムでミックスの修正パッチが当てられ、ファンが熱望する未発表曲をボーナスとして次々と投下するその様は、音楽アルバムというよりは「ライブサービス型のビデオゲーム」に近い。AIの使用や未完成なボーカルなど、既存の批評では「失敗」と断じられかねない要素を多数含みながらも、それでもなお全世界のリスナーを熱狂させ、考察の渦へと巻き込んでしまう引力は、音楽史においてKanye Westにしか生み出せない特異な現象だ。現代の音楽産業のルールを破壊し、自らの脆さも狂気も全てをエンターテイメントとして消費させる本作は、2020年代のヒップホップにおける最も混沌とし、それゆえに最も目が離せない「生々しいドキュメント」の到達点である。

トラック和訳

1. SLIDE

2. TIME MOVING SLOW

3. FIELD TRIP

4. FRIED

5. ISABELLA

6. PROMOTION

7. 530

8. DEAD

9. FOREVER ROLLING

10. BOMB

11. RIVER

12. FOREVER

13. HUSBAND

14. LIFESTYLE

15. SKY CITY

16. MY SOUL

17. TAKE OFF YOUR DRESS

18. BELIEVER

19. DRUNK

20. GUN TO MY HEAD

21. CAN U BE