Artist: Eminem & Steve Berman
Album: The Marshall Mathers LP
Song Title: Steve Berman (Skit)
概要
ヒップホップ史に名を残す名盤『The Marshall Mathers LP』の中盤に配置された、エミネムの作品ではお馴染みとなるインタースコープ・レコードの重役スティーブ・バーマンとのやり取りを描いたスキットの初登場作である。前作のメガヒットを受けて制作された本作だが、同性愛嫌悪や薬物乱用といった過激すぎる表現に対し、巨大レコードチェーン店や有力バイヤーが取り扱いを拒否し、レーベル側が頭を抱えているというメタ的な状況をブラックジョークとして描いている。商業的な成功の定型(ドクター・ドレーのギャングスタ・ラップ)を強要し、表現を検閲しようとするレコード会社の圧力を風刺しており、この直後に続く、自身の表現の自由と名声への怒りを爆発させた名曲『The Way I Am』への完璧なセットアップ(前振り)として機能している。
和訳
[Skit: Eminem, Steve Berman & Vanessa]
Instrumental for What's the Difference by Dr. Dre (Ft. Eminem & Xzibit) plays in the background
背景でドクター・ドレーの「What's the Difference」のインストが流れている
※このBGMは、直前に大ヒットしたドレーのアルバム『2001』からの楽曲。同曲でエミネムはドレーへの忠誠をラップしており、レコード会社のオフィスという空間のリアリティを高めると同時に、後述する「ドレーの成功」との対比の伏線となっている。
Ayy
エイ
Hey, Em, what's up?
やあ、エム。調子はどうだい?
Steve Berman, what's going on, man? How you doin'?
スティーブ・バーマン、調子はどうだよ? 元気にしてたか?
※スティーブ・バーマンは、エミネムが所属するインタースコープ・レコードのセールス・マーケティング部門の重役(実在の人物)。このスキット以降、エミネムのアルバムには彼がブチギレてエミネムをオフィスから叩き出す寸劇が恒例として収録されることになる。
Good to see you again, what's up?
また会えて嬉しいよ、どうしたんだ?
Em, could you come here and have a seat, please?
エム、こっちに来て座ってくれないか?
Um, yeah, what's u—
ああ、わかったよ。どうし—
Vanessa, shut the door (Okay)
ヴァネッサ、ドアを閉めてくれ。(はい)
※秘書(ヴァネッサ)にドアを閉めさせることで、極秘の、かつ深刻な説教が始まることを示唆している。
So, what's up? How's orders lookin' for the first week?
で、どうしたんだ? 初週の発注状況はどんな感じだ?
It would be better if you gave me nothin' at all
いっそ、何も提出してくれなかった方がマシだったよ。
(Wh—) This album is less than nothing
(えっ—)このアルバムは「無」以下だ。
I can't sell this fucking record
こんなクソみたいなレコード、売り物にならねえんだよ。
(What?) Do you know what's happening to me out there?
(なんだって?)外で俺がどんな目に遭ってるか分かってんのか?
Wh-wh-what's the problem?
な、な、何が問題なんだよ?
Violet Brown told me to go fuck myself (Who's Violet—)
ヴァイオレット・ブラウンには「くたばれ」って言われたよ。(誰だよヴァイオレ—)
※ヴァイオレット・ブラウン(Violet Brown)は、当時アメリカ全土に展開していた巨大レコード店チェーン「Wherehouse Music」のアーバン・ミュージック部門の有力なバイヤー。彼女の評価一つで全米のセールスが大きく左右されるほどの絶対的な権力者であった。業界のリアルな固有名詞を出すことで、リアリティと皮肉を深めている。
Tower Records told me to shove this record up my ass
タワーレコードには「このレコードはお前のケツの穴にでも突っ込んどけ」って言われたぜ。
※タワーレコードも当時最大手のCD小売店。内容があまりに過激なため、大手流通網から軒並み取り扱いを拒否される(という体の)状況を誇張している。
Do you know what it feels like to be told to have a record shoved up your ass?
レコードをケツに突っ込めって言われるのがどんな気分か、お前に分かるか?
(But I—) I'm gonna lose my fucking job over this
(でも俺は—)俺はこれのせいでクソみたいな仕事を失うハメになるんだぞ。
Do you know why Dre's record was so successful?
ドレーのレコード(『2001』)がなぜあんなに成功したか分かるか?
He's rappin' about big-screen TV's, blunts, 40's and bitches
あいつは、大画面テレビ、大麻(ブラント)、40オンスの酒、そしてビッチどもについてラップしてるからだ。
※ヒップホップにおける「商業的に安全(確実)な王道のギャングスタ・トピック」の羅列。レーベル側が求める「売れるテンプレート」を提示している。
You're rappin' about homosexuals and Vicodin
お前は、同性愛者とバイコディン(処方薬)についてラップしてやがる。
※当時のエミネムが激しくバッシングされていた同性愛嫌悪的な暴言や、重度の処方薬依存の描写は、メインストリームの小売店で売るにはあまりにコンプライアンス的にリスクが高すぎるというレーベル側の悲鳴。
(I mean) I can't sell this shit
(いや、だから)こんなクソ、売れるわけねえんだよ。
(What?) Either change the record or it's not comin' out
(なんだって?)レコードの内容を変えるか、さもなきゃ発売中止だ。
(What? I—) Now get the fuck out of my office (What am I 'sposed—), now
(え? 俺は—)さあ、今すぐ俺のオフィスから出ていけ。(俺はどうすりゃ—)今すぐだ。
※レコード会社による表現の検閲と圧力。この「ポップで売れるものを作れ、内容を変えろ」という理不尽な要求こそが、次曲『The Way I Am』でエミネムが怒りを爆発させる直接の引き金となっている。Reddit等の考察でも、アルバムのコンセプトを支える完璧な伏線として高く評価されているシーンである。
Alright, man—
分かったよ、な—
