Artist: Eminem
Album: The Marshall Mathers LP
Song Title: Paul (skit)
概要
エミネムの長年のマネージャー兼弁護士であるポール・ローゼンバーグからのお決まりの留守電メッセージを収録したスキットである。前作『The Slim Shady LP』の同名スキットで、ポールは過激すぎる歌詞に対して「少しトーンダウンできないか」と苦言を呈していた。しかし、世界的スターとなった本作においてエミネムの狂気と社会へのヘイトはもはや制御不能なレベルにまで肥大化。完成した音源を聴いたポールが、呆れ果てて言葉を失い「もう勝手にしろ(Fuck it)」と完全にさじを投げるというメタ的な構図となっている。常識人(=レコード会社や世間の良識)の完全なる敗北宣言であり、この直後に続く極悪非道なトラック群への完璧なフリとして機能している、ヒップホップ史に残る名スキットだ。
和訳
[Skit: Paul Rosenberg]
Em, what's going on? It's Paul
エム、どうなってるんだ? ポールだ。
※「ポール」はエミネムの長年のマネージャーであり、シェイディ・レコードの共同創設者であるポール・ローゼンバーグのこと。彼の留守電スキットはエミネムのアルバムにおける伝統的なランニングギャグであり、世間の良識やレコード会社のコンプライアンスを代弁するキャラクターとして機能している。
Um, Dre gave me a copy of the new album
えーと、ドレーから新しいアルバムのコピー(音源)を受け取ったんだけどよ。
※「ドレー」は本作のエグゼクティブ・プロデューサーであり、エミネムの恩師であるドクター・ドレーのこと。
And I just
その、俺はただ……
※言葉に詰まるポール。前作『The Slim Shady LP』での忠告を完全に無視され、さらに過激化した女性蔑視、同性愛嫌悪、猟奇的殺人の描写(直前の『Kill You』や『Stan』など)を目の当たりにし、弁護士として到底かばいきれない絶望感がリアルに表現されている。
Fuck it
あーもう、知るかよ(勝手にしろ)。
※前作では「世間に弁明できることには限界がある」と必死に説得を試みていたポールがついに完全に「匙を投げた」瞬間。マネージャーの職務放棄という究極のブラックコメディでありながら、エミネムの抱える「スリム・シェイディ」という怪物が、誰にも制御できない領域に突入したことを暗に示すパンチライン。Geniusの考察でも、このたった一言がアルバム全体の「もう誰の指図も受けない」というアティチュードを完璧に代弁していると高く評価されている。電話の切れる無機質な音が鳴り、そのまま次曲『Who Knew』へとシームレスに突入する。
