Artist: Eminem (feat. Jeff Bass)
Album: The Marshall Mathers LP
Song Title: Public Service Announcement 2000
概要
ヒップホップ史に燦然と輝く金字塔『The Marshall Mathers LP』(2000年)の幕開けを飾る、象徴的なイントロ・スキットである。前作『The Slim Shady LP』の大ヒットにより世界的スターとなったエミネムだが、同時にその非道徳的な歌詞が原因でPTAや保守派の政治家、さらには実の母親からも名誉毀損で訴訟を起こされるなど、強烈なバッシングの嵐の中にいた。本作は前作冒頭の「公共広告(PSA)」のセルフパロディでありながら、かつての「家で真似するな」という建前上の警告すら完全に放棄している。「俺のケツにキスしろ(くたばれ)」「文句があるなら訴えろ」と、批判者への妥協なき徹底抗戦を宣言するこのトラックは、前作以上にダークで内省的、かつ攻撃的なアルバム全体のトーンを決定づける完璧なプロローグとなっている。
和訳
[Announcer: Jeff Bass & Eminem]
This is another public service announcement brought to you, in part, by Slim Shady
これがスリム・シェイディの提供でお送りする、もう一つの公共広告だ。
※前作『The Slim Shady LP』(1999年)の冒頭に収録された同名スキットの続編。前作ではプロデューサーのジェフ・ベースが「家で真似するな」「ドラッグはやるな」と建前上の警告を読み上げていたが、本作ではその防衛線すら完全に放棄している。世界中から浴びせられていたメディアバッシングに対する、一切の弁明を持たない宣戦布告である。
Tell 'em I don't give a fuck!
俺は一切気にしちゃいねえって、アイツらに言ってやれ!
※「I don't give a fuck」は前作の重要トラックからの引用であり、エミネムの根幹をなすアティチュード。PTAや保守層がどれほど抗議しようと、彼のスタンスは揺るがないことを示している。
Slim Shady does not give a fuck what you think
スリム・シェイディは、あなた方がどう思おうが知ったこっちゃないとのことです。
※アナウンサー役のジェフ・ベースが、背後で叫ぶエミネムの暴言を「丁寧な言葉遣い」で復唱・翻訳する構図が、ブラックコメディとしての異常性を際立たせている。
Tell 'em to suck it
俺のモノでもしゃぶってろって伝えてくれ。
※自身の表現の自由を妨害しようとする批評家や検閲当局に対する強烈な侮蔑。
If you don't like it, you can suck his fucking cock
気に入らないのであれば、彼のイチモツでもしゃぶっていればいいとのことです。
※放送禁止用語(fucking cock)を真面目なアナウンサー口調で代弁するというシュールなユーモア。
Tell 'em to kiss my ass!
俺のケツにキスしな(くたばりやがれ)って言ってやれ!
※「Kiss my ass」はアメリカの典型的な侮蔑表現。前作から急激に過激化したバッシングに対し、一切媚びない姿勢を貫いている。
Little did you know, upon purchasing this album, you have just kissed his ass
あなた方はお気づきでないでしょうが、このアルバムを購入した時点で、すでに彼のケツにキスした(屈服した)のと同じなのです。
※天才的なメタフィクション的皮肉。本作を批判し、粗探しをする目的でCDを買ったPTAやメディア関係者でさえ、結果的にエミネムの印税収入に貢献しているという逃れられない矛盾を突いている。実際に本作は初週で176万枚というヒップホップ史上空前のセールスを記録した。
Tell 'em I'm fed up!
俺はもうウンザリなんだって言ってやれ!
※エミネムのリアルな感情の吐露。名声と共に失われたプライバシー、ファンやアンチからの異常な執着、家族問題などへのリアルな疲弊感が滲み出ている。本作全体を覆う「名声へのヘイト」というテーマを象徴している。
Slim Shady is fed up with your shit, and he's going to kill you
スリム・シェイディはあなた方の戯言にウンザリしており、あなた方を殺しに行くそうです。
※前作の「スリム・シェイディはお前らの行動に責任を負わない」という受動的な免責から、「お前らを殺しに行く」という能動的な殺害予告へと表現がエスカレートしている。これは直後に続く凶悪なトラック『Kill You』への完璧なセットアップ(前振り)として機能している。
Yeah
ああ。
A-Anything else?
ほ、他に何かありますか?
※前作のPSAでも使われた全く同じフレーズ。前作ではここで「ドラッグはやるな」というフリが来たが、今回はさらに踏み込んだ衝撃的なオチが用意されている。
Yeah, sue me
ああ、俺を訴えな。
※前作リリース後、実の母親(デビー・マザーズ)や、かつての同級生(ディアンジェロ・ベイリー)などから次々と名誉毀損で数千万ドル規模の訴訟を起こされたという彼の実体験に基づいた強烈なパンチライン。どれだけ訴訟を抱えようと、言葉の刃を収めるつもりはないという究極の開き直りであり、当時のヒップホップ界における彼の「失うものがない狂犬」としての立ち位置を如実に表している。
