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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Tearz - Wu-Tang Clan 【和訳・解説】

Artist: Wu-Tang Clan

Album: Enter the Wu-Tang (36 Chambers)

Song Title: Tearz

概要

本楽曲は、Wu-Tang Clanのデビューアルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』の終盤に配置された、彼らのディスコグラフィにおいて最も悲痛で教訓的なストーリーテリング・トラックである。RZAは、ウェンディ・レネ(Wendy Rene)が1964年にスタックス・レコードからリリースしたソウルの名曲「After Laughter (Comes Tears)」を大胆かつ感傷的にサンプリングし、ストリートの過酷な現実を浮き彫りにした。「笑いの後には涙がやって来る」というサンプルのメッセージ通り、Verse 1ではRZAが些細な強盗によって幼い弟の命を理不尽に奪われる悲劇を、Verse 2ではGhostface Killahが、一時の性的な快楽を優先して安全なセックスを怠った親友がHIVに感染する絶望を描く。ギャングスタ・ライフの無常観と、ゲットーの若者たちへの切実な警告が込められた、ヒップホップ史に残るブルースである。

和訳

[Intro Skit: RZA]

Boy, where your shit?
おい、ブツはどこだ?
※緊迫した強盗のスキットから始まる。

Fuck, where your shit? (Fuck that)
クソ、ブツはどこだって聞いてんだよ!(ふざけんな)
※被害者が抵抗している様子。

Give me your shit, nigga
てめえの持ってるモンを寄こせってんだよ

I'ma blast you, I'ma blast you
ブッ殺すぞ、ブッ放すぞ

What?
何だと?

Oh shit, yo, is that the God?
おおクソッ、ヨォ、あれってザ・ゴッド(あいつ)じゃねえか?
※「the God」はFive Percent Nationの教義で黒人男性の同胞を指す。仲間の誰かが撃たれて倒れているのを発見した群衆の声。

Is that the God?
あいつじゃねえか?

Yo, the god's got shot, man
ヨォ、あいつが撃たれちまったぞ、おい

Move back
下がれ

Don't touch him
触るんじゃねえ

Don't touch him, man
触るなよ、おい

No, no, no
嘘だろ、嘘だと言ってくれ

What's fucking happening?
一体何が起きてやがるんだ?

(Call the ambulance)
(救急車を呼べ)

"It's always the good ones that have to die"
「いつだって、死ななきゃならないのは良い奴らばかりだ」
※Wendy Reneの楽曲「After Laughter (Comes Tears)」からのサンプリング音声が挿入され、悲劇の幕開けを告げる。

[Chorus]

After laughter comes tears
笑いの後には、涙がやって来るのさ
※Wendy Reneのボーカルサンプリング。本楽曲のメインテーマ。

[Pre-Verse: RZA]

Yo, check it, yo, yo
ヨォ、聴きな、ヨォ、ヨォ
※RZAの悲痛なストーリーテリングが始まる。

[Verse 1: RZA]

Check the script, me and the gods gettin' ripped
事の始まり(台本)を聴きな。俺と仲間(ザ・ゴッズ)で酔っ払ってハイになってたんだ
※「script」はこれから語る物語。「the gods」はストリートの同胞たち。「ripped」は大麻や酒で泥酔・ハイになっている状態。

Blunts in the dip, forty dogs in my lip
口の端(ディップ)にブラント(大麻)をくわえて、フォーティ・ドッグス(酒)を煽りながらな
※「dip」は口の端。「forty dogs」はゲットーで愛飲される40オンスのモルトリカー。ストリートの享楽的な日常。

Had a box, "Boom-boom" the bass would blast
ラジカセ(ボックス)を持ってて、「ドゥン・ドゥン」とベースをブチ鳴らしてた
※「box」はブームボックス(大型ラジカセ)。

We was laughin' at all the girls that passed
俺たちは、通り過ぎる女の子たちをからかって笑い合ってたんだ

Conversation, brothers had began to discuss
そんな会話の中で、兄弟たちが話し始めた
※ここから、彼ら自身の過去の暴力行為の話題に移る。

(Ayo, Ra, remember that kid you bust?)
(エイヨォ、ラ(Ra)、お前がブッ放したあのガキのこと覚えてるか?)
※「Ra」はRZAの別名「Rakeem(ラキーム)」の略。「bust」は銃で撃つこと。ストリートの抗争を武勇伝のように語っている。

Aw yeah, he ran, but he didn't get far
ああ、そういやアイツ逃げたけど、大して遠くまでは行けなかったな

'Cause I dropped him, heh heh heh heh heh ha
だって俺が撃ち倒した(ドロップした)からな、ヘッヘッヘッハッハ
※過去に他人の命を奪いかけた(あるいは奪った)ことを笑い話にしているRZA。この「無自覚な暴力への笑い」が、直後に自分自身の身に「涙」となって返ってくるという皮肉なコントラストを描いている。

Not knowin' exactly what lied ahead
この先に何が待ち受けているかなんて、これっぽっちも知らずにな
※ここから物語は急展開を見せる。

My little brother, my mother sent him out for bread
俺の幼い弟だ、お袋がアイツをパンの買い出しに行かせたんだよ

Get the Wonder, it's a hot day in the summer
「ワンダー・ブレッド」を買ってこいってな、ある夏の暑い日のことさ
※「Wonder」はアメリカのスーパーで売られている安価な食パンの定番ブランド。ごくありふれた日常の風景。

Didn't expect to come across a crazy gunner
イカれたガンマン(強盗)に出くわすなんて、思いもしなかった

"Hey, Shorty, check it, run the bag and the dough!"
「おい、坊主、よく聞け、その袋と金(ドウ)を置いてけ!」
※「run」は強盗が金品を要求する際のスラング。「dough」は金。

But he was brave, looked him in the eye, and said, "No!"
だが弟は勇敢だった、強盗の目を見て「嫌だ!」と言い放ったんだ

Money splattered him, BOW! Then he snatched the bag
強盗の野郎は弟をブチ撒けた、バウ!(銃声) そんで袋をひったくりやがった
※「Money」はここでは強盗犯(男)を指すストリート・スラング。わずかなパン代のために銃の引き金が引かれる非情な世界。

Hit his pockets, then he jetted up the Ave
弟のポケットを探って、アベニュー(大通り)を全速力で逃げていきやがった
※「jet」は素早く逃走すること。

Girls screamin', the noise up and down the block
女の子たちの悲鳴が上がり、ブロック(区画)中に騒ぎが広がった

(Hey, Rakeem!) What? (Your little brother got shot!)
(おい、ラキーム!)なんだ?(お前の弟が撃たれたぞ!)

I ran frantically, then I dropped down to his feet
俺は半狂乱になって走り、アイツの足元に崩れ落ちた

I saw the blood all over the hot concrete
熱いコンクリートの上に、血が辺り一面に広がっているのを見たんだ

I picked him up, then I held him by his head
俺は弟を抱き起し、その頭を抱え込んだ

His eyes shut, that's when I knew he was…
アイツの目は閉じられていた、その時、俺はアイツが…って悟ったんだ
※「dead(死んだ)」という言葉を最後まで言えず、言葉を詰まらせるRZAの痛切な表現。

Aw, man! How do I say goodbye?
ああ、クソッ! どうやってサヨナラを言えばいいんだ?

It's always the good ones that have to die
いつだって、死ななきゃならないのは善良な奴らばかりだ
※イントロのサンプリングフレーズをRZA自身が復唱する。前科持ちの自分ではなく、無実の弟が犠牲になったことへのやり場のない怒りと悲しみ。

Memories in the corner of my mind
心の片隅にある思い出の数々

Flashbacks of us laughin' all the time
俺たちがいつも一緒に笑い合っていた記憶がフラッシュバックする

I taught him all about the bees and birds
俺はアイツに、「ミツバチと鳥」のことも全部教えてやったのにな
※「the birds and the bees」は英語圏において「セックス(生命の誕生)の仕組み」や「人生の教訓」を子供に教えることを意味する慣用句。兄として弟に生きるためのすべてを教えてきたという自負。

But I wish I had a chance to sing these three words
だが、この3つの言葉(スリー・ワーズ)を歌う(伝える)チャンスが欲しかったぜ
※「these three words」は「I love you(愛してる)」。ストリートのタフガイとして生きるあまり、家族に対する素直な愛情を伝えられなかったことへの深い後悔でヴァースを終える。

[Chorus]

After laughter comes tears
笑いの後には、涙がやって来るのさ

[Verse 2: Ghostface Killah]

Me and my man, my ace Big Moe from the shelter
俺と俺のマイメン、シェルター出身の相棒(エース)、ビッグ・モーさ
※Ghostface Killahのヴァースが始まる。「ace」は親友や最高の相棒。「shelter」はホームレス・シェルターや低所得者向け施設、あるいは単に彼らのフッドのたまり場のこと。

'Bout to hit skins from this girl named Thelma
俺たちは「テルマ」って名前の女の肌を叩く(セックスする)ところだったんだ
※「hit skins」は肉体関係を持つことのスラング。

Now, Thelma had a rep that was higher than her neck
さて、このテルマって女は、自分の首よりも高い(広く知れ渡った)評判(レップ)を持っていてな
※「rep」はreputation(評判)。彼女がストリートで誰とでも寝る尻軽女として有名だったことを意味する。

Every girl from Shaolin dissed her respect
少林(スタテンアイランド)の女の子たちはみんな、彼女の尊厳をディスって(軽蔑して)たのさ

We was stimmy, you know how it is when you're blitzed
俺たちは完全にハイ(スティミー)だった、泥酔(ブリッツ)してる時がどんな風になるか分かるだろ
※「stimmy」は stimulated(刺激された、ハイになった状態)、「blitzed」は酔い潰れている状態。正常な判断力を失っていたことの言い訳。

Three o'clock in the mornin', somethin' got to give
朝の3時だ、何かが起きなきゃ(誰かがヤラなきゃ)収まらねえ時間帯さ
※「somethin's gotta give」は限界に達して何らかの行動を起こさざるを得ない状況。

Moe said he'll go first, I said I'll take next
モーが「俺が先に行くぜ」って言ったから、俺は「じゃあ俺は次をもらう」って言ったんだ

Here, take this raincoat and practice safe sex!
「ほら、このレインコート(コンドーム)を持っていけ、安全なセックス(セーフセックス)をしろよ!」ってな
※「raincoat」はコンドームのストリート・スラング。テルマの評判を知っていたGhostfaceは、親友に最低限の忠告をした。

He seemed to ignore, I said, "B, for real!
だがアイツは無視する気らしかった。俺は言ったよ「兄弟(B)、マジで言ってるんだぞ!

She's not even worth it to go raw deal."
あの女は、生(ロウ・ディール)でヤル価値なんてこれっぽっちもねえんだ!」
※「raw deal」は不当な扱いという意味の慣用句だが、ここでは「go raw(ゴムなしでセックスする)」と掛けた表現。

A man's gonna do what a man's gonna do
だが、男ってのは自分のやりたいようにやる生き物さ

He got butt-naked and stuck the Power U
アイツはすっぽんぽん(バット・ネイキッド)になって、パワー・Uにブチ込みやがったんだ
※「Power U」はFive Percent Nationの教義で「女性の膣(子宮)」を意味する独特のスラング。快楽に負けて警告を無視したMoe。

Twenty minutes went by, Moe, I'm out without a doubt
20分が過ぎた。モー、俺は間違いなくここから抜け出す(帰る)ぜ
※友人の無謀な行動を見て、Ghostfaceは自分がヤル番(next)をキャンセルして逃げ帰る決断をした。

I'm not pumpin' up, I am airin' out
俺は勃起(パンプ・アップ)してる場合じゃねえ、ここから逃げ出す(エア・アウト)のさ
※「air out」は立ち去る、逃げるという意味。恐怖感が性欲を上回った。

Ayo, he came out laughin' with glory
エイヨォ、アイツは誇らしげに笑いながら(部屋から)出てきやがったんだ
※生のセックスを楽しんで「笑っている」Moe。これが後に「涙」へと変わる伏線。

I'm surprised he's still livin' to tell his story
アイツがまだ生きてて、この武勇伝を語れてること自体が驚きだよ

But he carried on with the same old stuff
だがアイツは、その後もずっと同じようなバカな真似(生ハメ)を続けやがったんだ

With Stephanie, like a Whammy, he pressed his luck
ステファニー相手にもな。まるで「ワミー(ハズレ)」みたく、アイツは自分の運を試しすぎたんだ
※「Whammy」と「pressed his luck」は、80年代のアメリカの人気ゲーム番組『Press Your Luck』からの引用。参加者がルーレットを回して賞金を狙うが、「Whammy(悪魔のキャラクター)」を引くと全額没収される。Moeが性病のリスクという「運試し(ロシアンルーレット)」を繰り返した結果、最悪のババ(Whammy)を引いてしまったという秀逸なメタファー。

Moe tried to be down with O.P.P
モーは「O.P.P.」にハマろうとしすぎたのさ
※「O.P.P.」はNaughty By Natureの1991年の大ヒット曲で「Other People's Property(他人の女/浮気・遊びのセックス)」の略。

Ain't nothin' wrong, but he got caught with the HIV
遊ぶこと自体は悪かあねえが、アイツはHIVに捕まっちまった
※90年代初頭の黒人コミュニティにおいて、HIV/エイズは深刻な猛威を振るっており、ストリートの死因の一つとしてリアルな恐怖だった。

Now no life to live, doc says two more years
今や生きる未来もねえ、医者は「余命あと2年」だってよ
※当時はまだ抗レトロウイルス療法が確立されておらず、HIV感染は実質的な死の宣告であった。

So after the laughter I guess comes the tears
だから、笑い声の後にやって来るのは、やっぱり涙なんだろうな
※Ghostfaceの悲痛な独白で楽曲のテーマが回収される。

[Chorus]

After laughter comes tears
笑いの後には、涙がやって来るのさ
※取り返しのつかない後悔と、ストリートの冷徹な因果応報を歌うコーラスがリフレインし、アルバム終盤の重々しい余韻を残して曲は幕を閉じる。