Artist: Mos Def (feat. Talib Kweli)
Album: Black on Both Sides
Song Title: Know That
概要
1999年にリリースされたMos Def(現Yasiin Bey)のソロデビュー作『Black on Both Sides』に収録された本作は、伝説的デュオ「Black Star」の相棒であるTalib Kweliをフィーチャーした、ヒップホップ史に残る真のコンシャス・アンセムである。Ayatollahがプロデュースした、サンプリングを駆使した重厚でソウルフルなブーンバップ・ビートに乗せ、両者は音楽産業における搾取やフェイクなMCたちへの怒り、そして何よりも黒人の同胞たちに対する絶対的な「愛(Love)」を宣言する。歌詞には、SF映画の金字塔『スター・ウォーズ』のメタファーから、アメリカ南部における奴隷制の過酷な歴史、聖書の詩篇、さらにはイスラム教の教義まで、極めて広範かつディープな文化的引用が散りばめられている。商業主義(Bling Blingエラ)に傾倒しつつあった当時のメインストリーム・シーンに対し、精神性(スピリチュアリティ)と知性という「光」を突きつけた、ネイティブ・タン派閥の正統な後継者としての矜持が爆発するマスターピースである。
和訳
[Intro: Mos Def]
I strike the empire back
俺は帝国に逆襲する
※映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲(The Empire Strikes Back)』をもじった宣言。ヒップホップを搾取する巨大な音楽産業や、黒人を抑圧する白人至上主義的な社会構造を「帝国(Empire)」に見立て、それに対するレジスタンスとして自らを位置づけている。
I strike the empire back
俺は帝国に逆襲する
Fuck the empire
帝国なんてクソくらえだ
High flying like the Millenium Falcon piloted by Han Solo
ハン・ソロが操縦するミレニアム・ファルコンみたいに、高く飛び回るぜ
※スター・ウォーズの代表的な密輸船とキャラクター。体制(帝国)に与せず、アウトローでありながら最終的に反乱軍の英雄となるハン・ソロの姿に、インディペンデントなスタンスを貫く自分自身を重ね合わせている。
I never roll for dolo, fronting on me's a no-no
俺は絶対に一人(ソロ)で動くことはない。俺に虚勢を張るなんて絶対にやめとけ
※「Dolo」はSolo(一人)のストリートスラング。常にクルー(Black Starや同胞たち)と共にあり、孤独な戦いではないという連帯の提示。「No-no」は絶対に許されないこと。
Understand, doing this for my family
分かってくれ、俺はこれを家族のためにやってるんだ
Haha, check it out y'all
ハハ、みんなチェックしてくれ
[Verse 1: Mos Def]
Yo, I'm tryna make a dollar out of what makes sense
ヨー、俺は意味のあること(センス)から1ドル(金)を生み出そうとしてるんだ
※「Sense(意味、知性)」と「Cents(セント、小銭)」の同音異義語を用いた、Eric B. & RakimやSnoop Doggらも使用したヒップホップの古典的かつ至高のワードプレイ。中身のない音楽で稼ぐのではなく、精神性のあるメッセージで正当な富を得るという宣言。
Add it up, told my daddy I'd be a rich man
計算してみな。親父には「俺は金持ちになる」って言ってたんだ
You never know when your fate gon' switch hand
運命がいつ手のひらを返す(好転する)か、誰にも分からないからな
Get today's solid ground out of yesterday's quicksand
昨日の流砂(クイックサンド)から抜け出して、今日の固い地面を掴み取るのさ
※ゲットーの貧困や困難という、もがくほど沈んでいく「流砂」から這い上がり、安定したキャリアと生活(固い地面)を確立したという見事なメタファー。
I was a young boy who dreamt about being a big man
俺は「大物」になることを夢見る一人の少年だった
On small looseleaf sheets, I sketched a big plan
小さなルーズリーフの紙に、デカい計画をスケッチ(リリック書き)してたんだ
Gotta handle business properly, boost up my economy
ビジネスを適切にこなして、自分の経済(エコノミー)を向上させなきゃな
Store it up and get my mom some waterfront property
金を貯めて、お袋にウォーターフロントの物件を買ってやるんだ
※過酷な環境で育ててくれた母へ、治安が良く美しい水辺の家をプレゼントするという、ヒップホップにおける親孝行(Make Mama Proud)の究極の目標。
Yesterday was not for me but nowaday it's time for me
昨日は俺の時代じゃなかったが、今日からは俺の時代だ
The streets is watching me, I watch back, that's the policy
ストリートが俺を見張ってる。だから俺もストリートを見張り返す、それがポリシーだ
※Jay-Zの1997年の名曲「Streets Is Watching」への言及を含む。ゲットーのプレッシャーに怯えるのではなく、コンシャス・ラッパーとしてコミュニティの現状を鋭く「観察(Watch back)」し、代弁するという決意。
Moving along my odyssey like blood through the artery
動脈(アーテリー)を流れる血のように、俺の壮大な旅(オデッセイ)を進んでいく
※「Odyssey(長期の放浪、冒険)」と「Artery(動脈)」のライム。ヒップホップカルチャーが彼の体内を循環する生命線であることを示している。
Navigate the treacherous and make it seem effortless
危険な道(トラップ)をナビゲートし、いとも簡単にやってのけてみせるぜ
Let those who make the exodus seekin' the North beacon
北の灯台(ビーコン)を求めて脱出(エクソダス)を企てる者たちを導くんだ
※ここから黒人の苦難の歴史絵巻が展開される。奴隷制時代、南部から自由な北部への逃亡ルートであった「地下鉄道(Underground Railroad)」において、逃亡奴隷たちが目印とした「北極星(North beacon/North Star)」への言及である。
From beating and hog-eating, from punishment all season
鞭打ちや豚の残飯食い、一年中続く罰から逃れるためにな
※「Hog-eating」は奴隷たちが白人農場主の残した豚の残飯(チタリンズ等の内臓肉)を与えられて生き延びていた屈辱的な歴史を指す。
From hands cracked and bleeding, cotton thorns in your palms
ひび割れて血を流す手、手のひらに刺さる綿花の棘から逃れるために
※南部のプランテーションにおける綿花積みの過酷な肉体労働の生々しい描写。
It's for y'all that I sketch these songs, and it goes
そんな先人たちや、今苦しんでいるお前らのために、俺はこの歌をスケッチする。こう続くぜ
Yay, though I walk through the valley of the shadow
ああ、たとい俺が死の陰の谷を歩むとも
※旧約聖書「詩篇 第23篇4節」からの直接的な引用。Coolioの「Gangsta's Paradise」などでも引用される、死と隣り合わせのゲットーを歩む黒人たちの絶対的な信仰のフレーズ。
I fear no man, because faith is the arrow
俺は誰も恐れない、なぜなら「信仰」こそが俺の矢だからだ
※権力や暴力に屈しない、イスラム教や自分自身の神に対する絶対的な信仰心。
My vocal chord travel worldwide to block narrow
俺の声帯は世界中を旅して、狭い視野(ブロック)を打ち破る
We can blow with the ammo or go mano-a-mano
銃弾(アンモ)でブッ飛ばすこともできるし、タイマン(マノ・ア・マノ)でいくこともできるぜ
※「Mano-a-mano」はスペイン語で「手と手」、転じて1対1の素手での果し合いの意。
Kweli is you with me (What up? What up?) Let's make it happen
クウェリ、俺と一緒にいるか?(調子どうだ?) さあ、ぶちかまそうぜ
※ここで盟友Talib Kweliをシームレスに呼び込む、Black Starとしての絶対的な絆の演出。
I burn through your argument with action
俺は口先だけの議論なんて、行動(アクション)で焼き尽くしてやる
My eyes stay fastened to tomorrow, looking for a brighter day
俺の目は常に明日(未来)に固定されてる、より明るい日を求めてな
※2Pacのクラシック「Keep Ya Head Up」でも歌われた「Brighter day(明るい未来)」の探求。
When y'all wanna leave y'all
お前らがここから抜け出したい時は
Right away
今すぐにな
[Chorus: Mos Def]
Shout it out from East-West (from South to Northern)
大声で叫べ、東西から(南から北まで)
From Cackalack (to California)
キャカラックから(カリフォルニアまで)
※「Cackalack」はノースカロライナ/サウスカロライナ州のストリートスラング。アメリカ全土へのシャウトアウト。
From the coldest (to the warmest)
最も寒い場所から(最も暖かい場所まで)
To the borders ('cross the waters) understand..
国境の果てへ(海を越えて)。分かってくれ…
And know that I love you
俺はお前らを愛してるってことを、知っておいてくれ
※説教や啓蒙の根底にあるのは、同胞に対する純粋で無償の「愛」であるという本作の最も重要なテーマの提示。
We got love in the place
この場所には愛があるんだ
Shout out to all the Queens (all the Seeds)
すべてのクイーンたち(すべての子供たち)にシャウトアウト
※黒人女性を「Queens」、次世代の子供たちを「Seeds(種)」と呼ぶ、Five-Percent Nation(ファイブ・パセンターズ)の教義に基づいた敬意表現。
To all the teams (that's gettin' cream)
すべてのチームへ(クリームを稼いでる奴らにもな)
※「Cream」はWu-Tang Clanの「C.R.E.A.M. (Cash Rules Everything Around Me)」に由来する「金」のスラング。
From outlaw (to emcees)
アウトローから(MCたちまで)
Make it happen (do your thing) understand..
実現させろ(自分のやるべきことをやれ)。分かってくれ…
And know that I love you
俺はお前らを愛してるってことを、知っておいてくれ
Ladies and gentlemen, ladies and gentlemen, ladies and gentlemen
紳士淑女の皆さん、紳士淑女の皆さん…
[Verse 2: Talib Kweli]
Guess who? The illest MC in the atmosphere, yeah the Soul Controller
誰だと思う? この空間で一番ヤバいMC、そう、「ソウル・コントローラー」だ
※Talib Kweliの登場。「Soul Controller(魂の支配者)」は彼のエイリアス(別名)であり、Ghostface Killahなども好んで使用した至高のMCの称号である。
Who roam the frontier like a Buffalo Soldier
バッファロー・ソルジャーのように、最前線(フロンティア)を彷徨うのさ
※「Buffalo Soldier」は19世紀にアメリカ先住民との戦争に動員された黒人騎兵隊の名称。Bob Marleyの同名曲でも知られ、困難な状況下で道を切り開く「勇敢な黒人の戦士」のメタファーとして使用されている。
I follow the code of honor like a real man gonna
真の男がそうするように、俺は名誉の掟に従う
Never disrespect no women 'cause I love my momma
女性を軽蔑するような真似は絶対にしない。俺は自分の母親を愛してるからな
※ヒップホップにおけるミソジニー(女性蔑視)や「Bitch」といった言葉の安易な使用を拒絶する、コンシャス・ラッパーとしての確固たる倫理観。
These cats be giving us praise but it ain't that accurate
奴らは俺たちを称賛してくるが、それは正確じゃない
I give it up to God, all that love and attachment get
俺はその愛や執着のすべてを、神に捧げるんだ
※自分たちが天才なのではなく、その才能と名声はすべて神(アッラー)から与えられたものであるという謙虚な信仰心。
Scary well-prepared with the shears when it get hairy
状況が毛深く(厄介に)なった時のために、ハサミを完璧に準備してあるぜ、恐ろしいくらいにな
※「Get hairy」は状況が危険になる、困難になるのスラング。「毛深い(Hairy)」状況を刈り取るために「ハサミ(Shears=鋭いリリック)」を用意しているというユーモラスなワードプレイ。
Like how these niggas is looking like some fairies
お前らが妖精(フェアリー)みたいに見えるくらいにな
And singing like canaries to the beast
そして野獣(警察)に向かって、カナリアみたいに歌って(密告して)やがる
※「Sing like a canary」は警察にペラペラと密告する(Snitch)という意味の古典的なスラング。「Beast」はストリートにおける警察(豚)の蔑称。ストリートの掟を破るフェイクなサグたちへの軽蔑。
And anybody who will listen to 'em clearly
奴らの言葉を真に受けて聞いてる奴ら全員に対してもな
Y'all don't hear me though, even when I'm coming through in stereo
俺がステレオの最高音質でやって来ても、お前らには俺の声(真意)が聴こえないんだろ
You make a mockery of what I represent properly, yo, why you starting me
俺が正しくレペゼンしているものを、お前らは愚弄してる。ヨー、なんで俺を怒らせるんだ?
I take that shit straight to the artery
そのクソみたいな態度は、俺の動脈に直接響く(ブチギレる)んだよ
Intellectual property I got the title and the deed
知的財産権(インテレクチュアル・プロパティ)。俺はそのタイトル(所有権)と権利書を持ってる
※音楽産業において、レコード会社に権利を搾取されるアーティストが多い中、自分たちの生み出す知的財産(リリックや精神性)の主導権は完全に自分たちが握っているという宣言。
I pay for rent with the tears and sweat and what I bleed
俺は涙と汗、そして流した血で、家賃を払ってるんだ
※流行りのポップラップではなく、文字通り命を削って生み出したリアルな音楽で生活しているというヒップホップへの献身。
MCs imitate the way we walk, the way we talk
MCどもは俺たちの歩き方や、喋り方を真似するが
You cats spit lyrical pork with no spiritual thought
お前らはスピリチュアルな思想の欠片もない、「叙情的な豚肉(リリカル・ポーク)」を吐き出してるだけだ
※Talib Kweliのキャリア史上最も鮮烈なパンチラインの一つ。イスラム教やFive-Percent Nationの教義において「豚肉(Pork)」は不浄の象徴である。物質主義に塗れ、精神性の欠如したメインストリームのラップを「不健康で不浄な豚肉」と斬り捨てる極めてコンシャスなメタファー。
Plus your flow a little bit off, you come across soft
おまけにお前のフロウは少しズレてるし、どう見てもソフト(軟弱)なんだよ
Back in the days niggas like that on stage got tossed off
昔なら、ステージ上のそんな奴らは速攻で放り投げられて(トス・オフ)たぜ
※ブロンクス黎明期のブロックパーティーやオールドスクール時代における、スキルのないMCが容赦なくステージから降ろされた厳しい実力主義への郷愁。
Need to get crossed off the guestlist
ゲストリストから名前を消される(クロス・オフ)べきだ
It's like you gotta be disrespected and thrown out the exit to get the message
お前らは、ディスられて出口から放り出されないと、メッセージを理解できないみたいだな
Sometimes your sunshine get snatched like a necklace
時々、お前の太陽の輝き(サンシャイン)は、ネックレスみたいにひったくられるんだ
※「Sunshine」は人生の絶頂、名声、あるいは命そのもの。調子に乗ってゲットーで派手なネックレスを見せびらかしていると、強盗に一瞬で奪い取られる(Snatch)ように、キャリアも命もあっけなく終わるという警告。
When you get too drunk on power and your drive get reckless
権力に酔いしれすぎて、ドライブ(運転・野心)が無謀になった時にな
Check it, MCs in my face after I slug you then I hug you
チェックしろ、俺の目の前にいるMCども。俺はお前らを殴り倒した(スラッグ)後で、抱きしめる(ハグ)のさ
If I gotta dead you, know it's only 'cause I love you
もし俺がお前を終わらせ(デッド)なきゃならないとしたら、それは俺がお前を愛してるからだってこと、知っておいてくれ
※「Dead」はヒップホップスラングで「殺す、関係を絶つ、沈黙させる」。フェイクなMCをディスってキャリアを終わらせることも、カルチャーを正しく導くための「愛の鞭」であるという、ヒップホップという文化に対する究極の愛情表現。
[Outro: Mos Def]
Shout it out from East-West
大声で叫べ、東西から
(From South to Northern)
(南から北まで)
From the richest (to the poorest)
最も豊かな者から(最も貧しい者まで)
To the elders (in the coffins)
長老たちへ(棺桶の中にいる先人たちへも)
※コミュニティの歴史を築き、既に亡くなった先輩たちへの追悼。
Living native (dying for it) understand
ネイティブとして生き(そのために死ぬ)。分かってくれ…
And know that I love you
俺はお前らを愛してるってことを、知っておいてくれ
Yea, yea, we got love in the place
イェー、イェー、この場所には愛があるんだ
Shout out from up top (to the middle)
上層部から(中間層まで)シャウトアウト
To black bottom (sky high!)
真っ黒などん底までな(そこから空高く!)
※「Black bottom」は社会の最下層、あるいは1920年代に流行した黒人のダンス/地域名。どん底のゲットーから這い上がり、空高く(Sky high)飛び立てという強烈な鼓舞。
Whether you colder than December
お前が12月よりも冷酷(コールド)だろうと
Or hotter than July
7月よりも熱気(ホット)に溢れていようと
※Stevie Wonderの歴史的傑作アルバム『Hotter than July』へのオマージュ。
It don't stop til we complete this
俺たちがこれを成し遂げるまで、決して止まらないぜ
And know that I love you
俺はお前らを愛してるってことを、知っておいてくれ
Keep this fly
これを最高にイケてる(フライ)状態に保つんだ
It's so much to life when you just
人生には本当に多くのことがあるんだ
Stay black
黒人としての誇りを持ち続けろ(ステイ・ブラック)
※「Stay black」は黒人コミュニティにおける究極の連帯と自立を促す別れの挨拶。
My people, my people
俺の同胞たち、俺の同胞たちよ
And know that I love you
俺はお前らを愛してるってことを、知っておいてくれ
※フェードアウトしながら、楽曲全体を貫く「無償の愛」のメッセージで締めくくられる。
