Artist: JID (feat. EARTHGANG)
Album: The Never Story
Song Title: D/vision
概要
本作「D/vision」は、J. ColeがJIDの『The Never Story』のために自らプロデュースを手掛けた、90年代のブーンバップ・ヒップホップを彷彿とさせるソウルフルかつ不穏な一曲だ。客演には、JIDと同じくアトランタを拠点とするヒップホップ・コレクティヴ「Spillage Village」の盟友であり、後にDreamvilleへと合流するデュオ「EARTHGANG(Doctur DotとJohnny Venus)」を迎えている。Dreamvilleの総帥であるJ. Coleからのボイスメール(イントロ)で幕を開けるこの楽曲は、レーベル契約という大きな転機を迎えた彼らが、アトランタのストリートで培った強烈なハングリー精神と、他を圧倒する異常な次元のリリシズム(言葉遊び、比喩、フローの引き出し)を見せつける「マイク・リレーの最高峰」として、ヘッズから絶大な支持を集めている。
和訳
[Intro: J. Cole]
Yo, I'm in Atlanta, bruh
ヨォ、俺は今アトランタにいるぜ、兄弟
※J. Cole(Dreamvilleの創設者)からJIDへ向けられた実際のボイスメモ。J. Coleが直々にアトランタへ出向き、彼らをフックアップした歴史的な瞬間の空気をそのままパッケージしている。
Hit me back, lil' nigga
折り返し連絡してくれよ、若きダチよ
※この何気ない留守電のメッセージが、JIDの人生(そしてアトランタのアンダーグラウンド・シーン)を大きく変えることになる。
[Chorus: Johnny Venus]
Now, elevate my status to "Gucci bag us"
今、俺のステータスは「グッチのバッグ」レベルにまでハクがついてるぜ
※Johnny Venus(現在のOlu)によるフック。「Gucci bag us」は高級ブランドを買えるほどの成功を意味すると同時に、彼らの価値そのものがハイブランド級に跳ね上がったことを示している。
Glued to my apparatus, pussy harass us
俺は自分の機材(マイク)に釘付けさ、女どもが俺たちに群がってくる
※「apparatus」は機材や装置のこと。音楽制作に没頭しているが、成功に伴ってグルーピー(pussy)が付き纏ってくる現状。
Me and Siri moving steery so that shit don't matter
俺とSiriは巧みに舵を切ってる、だからそんなこたぁ関係ねぇんだ
※「Siri」はAppleの音声アシスタント。運転中もハンズフリーでSiriを使いこなし(あるいは情報空間をナビゲートし)、周囲の雑音や誘惑を回避して真っ直ぐに進んでいる。
And, yes, them things gon' flash if you want to act up
そうさ、お前らが調子に乗ってふざけた真似をするなら、アレが火を噴くぜ
※「them things」は銃(あるいはカメラのフラッシュ)のこと。「act up(バカな真似をする、喧嘩を売る)」相手には、容赦無く実力行使(発砲)で応じるというストリートの警告。
[Verse 1: J.I.D]
Dead 'em from every side of the spectrum
あらゆる領域(スペクトル)から奴らを全滅させてやる
※JIDの凄まじいバースの幕開け。自分がヒップホップのどんなサブジャンルやスタイル(spectrum)においても、他のラッパーを凌駕し殺す(Dead 'em)ことができるという絶対的な自信。
Hannibal Lecter lecture, body part bone collector
ハンニバル・レクターの講義さ、死体の部位を集めるボーン・コレクターだぜ
※映画『羊たちの沈黙』の狂気的な人食い殺人鬼レクター博士と、デンゼル・ワシントン主演のサスペンス映画『ボーン・コレクター』を引用。知性と残虐性を兼ね備えたシリアルキラーのように、ビート上で同業者たちを解体していく。
Nosy ass hoes get punched in the septum
首を突っ込んでくるお節介なビッチどもは、鼻中隔(セプタム)を殴られるんだよ
※「septum」は鼻の穴の間にある軟骨。他人のビジネスに鼻を突っ込む(Nosy)奴の、文字通り「鼻をへし折る」という強烈なライン。
That's part of the woes for throwing salt like Epsom
それがエプソムソルトみたいに「塩を撒く」ことの代償の一部さ
※「throw salt」は他人の成功を妬む、ケチをつけるというスラング。入浴剤として有名な「エプソムソルト(Epsom salt)」と掛け、ヘイターたちの嫉妬に対する痛烈なしっぺ返しを語る。
Pardon my bros, kinda off the rocker and steps
俺の兄弟たちを許してやってくれ、ちょっとイカれてて(ロッキングチェアから落ちて)ステップを踏み外してるんだ
※「off the rocker」は「気が狂っている」というイディオム。狂気じみたアトランタのクルーの特異性を表現している。
Don't step, stupid, or you get slept stupid
踏み込んで(喧嘩を売って)くるなよ、マヌケ。さもなきゃ気絶させられる(眠らされる)だけだぜ
※「step(近づく、挑発する)」と「slept(ノックアウトされる)」のシンプルなライミングで警告を放つ。
East side, Lil' Route, Zone 6 vet
イーストサイド、リル・ルート、ゾーン6のベテランだ
※自身のルーツの表明。JIDの本名である「Destin Route」と、Gucci ManeやFutureなど数々のレジェンドを生んだアトランタのゲットー「Zone 6」出身であることを誇示。
Showin' respect, a nigga forever in debt, but don't forget it
リスペクトを示せ、俺はずっと恩義を感じてるが、決して忘れるなよ
※先人たちへの敬意(特に自分を引き上げたJ. Coleなどへの恩)は忘れないが、自分の実力をナメるなという牽制。
Anybody wanna see 'em, I can make 'em a believer
誰か奴ら(俺の敵)の末路を見たいか? 俺のヤバさを信じさせてやるよ
※自分のラップスキルを疑う者がいれば、瞬時に信者に変えてみせるという圧倒的なカリスマ性。
At your neck like Gillette, get you and the nigga next to ya
ジレット(の髭剃り)みたいにお前の首元に当てて、お前と、その隣にいる奴も道連れにしてやる
※カミソリの有名ブランド「Gillette」を名指しし、首を掻き切る(致命傷を与える)ほどの鋭利なリリックで周囲のラッパーをまとめて葬り去る描写。
In present time they sayin' that I'm the next nigga
現在進行形で、皆が「あいつが次の大物だ(the next nigga)」って言いやがる
※Dreamvilleと契約したことで、周囲からの期待値が爆発的に高まっている状況。
Woah, woah, that kinda sound like a death trap
おいおい、そいつはまるで死の罠(デストラップ)みたいに聞こえるぜ
※「次の大物」ともてはやされることは、プレッシャーで潰されたり、業界の闇に飲まれたりする「罠」になり得るという冷静な視点。
Can't see the floor, elevator, where the steps at?
床が見えねぇよ、エレベーターか? 階段はどこにあるんだ?
※「階段を一段ずつ登る(地道な下積み)」を通り越し、「エレベーター(J. Coleからのフックアップ)」で急激に上へ引き上げられて足元が見えないという、ブレイク直前のめまいがするような急上昇の感覚。
James Bond' 9—James Harden with the step-back
ジェームズ・ボンド…いや、ステップバックを決めるジェームズ・ハーデンだ
※Geniusでも絶賛されたワードプレイ。発音上は「James Bond, nah(ジェームズ・ボンド? いや違う)」と聞こえる。スパイの「007(ジェームズ・ボンド)」ではなく、NBA屈指の得点力を誇り、代名詞の「ステップバック(step-back)」シュートで相手を出し抜く「ジェームズ・ハーデン」に自身を例えている。直前の行の「steps(階段)」からの鮮やかな連想ゲームである。
No D, niggas playin' foul, where the techs at?
ディフェンス(D)はゼロ、連中はファウルばかりだ、テクニカル(反則)はどこだ?
※バスケットボールのメタファーの続き。他のラッパーたちには防御力(D=Defense)がなく、汚い手(foul)ばかり使っているというディス。「techs」はテクニカル・ファウルの略。
That's cool, wave the 30 round, where the TECs at?
それもいいだろう、30発のマガジンを振り回してやる、TEC-9(銃)はどこだ?
※前行の「techs(ファウル)」を、ギャング御用達のサブマシンガン「TEC-9」という同音異義語で見事に裏返し、ストリートの銃撃戦の文脈へとスライドさせている。
Better get back, better get you a jetpack
下がった方がいいぜ、ジェットパックでも持ってくるこったな
※俺の銃撃(あるいは超絶スキルのラップ)から逃れるには、空を飛んで逃げるしかないという挑発。
They shoot where the ref at
あいつらは審判(レフェリー)がいる場所でもお構いなしに撃ちまくるんだ
※ストリートのギャングたちは、ルールを管理する者(警察や法)の目の前であっても発砲を躊躇わないという無法地帯のリアル。
They shoot at your jefe
お前のボス(ヘフェ)だって撃ち抜かれるぜ
※「jefe」はスペイン語で「ボス、首領」のこと。どんな権力者であってもストリートの暴力からは逃れられない。
They leavin' 'em stank like Pepé Le Pew
奴らをペペ・ル・ピューみたいに悪臭(死臭)まみれにして放置するのさ
※「Pepé Le Pew」はルーニー・テューンズに登場するスカンクのキャラクター。「stank(悪臭)」と、殺体から放たれる死臭をかけたブラックユーモア。
They just put a hole in his Pepe
あいつの頭(ペペ)に風穴を開けたばかりだぜ
※「Pepe」を頭や脳天(あるいは特定のギャングのあだ名)の隠語として使用し、容赦ない処刑を描写。
I go where the check at, Margiella Gorilla
俺は小切手(金)がある場所へ行く、マルジェラのゴリラだぜ
※ハイブランドの「Maison Margiela」を着こなす野蛮なゴリラ(ストリートの野獣)。洗練と野蛮さを兼ね備えたJIDの異常な存在感。
They kill a nigga for a thrill, they feel it now, cool, keep it movin'
連中はスリルのためだけに人を殺す、奴らは今それを実感してる、クールだ、そのまま進み続けな
※アトランタの過酷な現実を冷徹に描写しつつ、そこに立ち止まることなく自分のハッスル(ラップ)を続けるという決意。
I won't be the nigga they taking out, breaking down, face down
俺は奴らに殺されて、打ちのめされて、うつ伏せに倒れるような男にはならねぇよ
※ゲットーの犠牲者として終わる運命を強く拒絶している。
As far as these rappers man, these words couldn't hurt a nigga
こいつらのような有象無象のラッパーどもに関して言えば、奴らの言葉じゃ俺を傷つけることすらできねぇ
※フェイクなラッパーたちの薄っぺらいリリック(口撃)は、JIDにとって全く脅威ではないという宣言。
Far as these rappers, I can't count on a ninja turtle's finger
周りのラッパーどもの中で(対抗できる奴の数は)、ニンジャ・タートルズの指でも数え切れねぇ(余っちまう)よ
※ヒップホップファンを唸らせた歴史的パンチライン。ミュータント・タートルズの指は片手に「3本」しかない。つまり、「自分とタメを張れるレベルのラッパーは、3人未満しか存在しない」という強烈極まりないスキルの誇示である。
Who really is fucking with the kid, that is J.I.D
マジでこのガキに敵う奴がどこにいる? それがJIDってもんさ
※前行のパンチラインからの堂々たるネームドロップ。
I am loud, that is mid, I'm a pound, that's a smidge
俺はラウド(極上のウィード)、あれはミッド(質の低いウィード)。俺は1ポンドの塊で、そっちはほんのカス(スミッジ)さ
※大麻の質(loud=ハイグレード、mid=低グレード)と、重さの単位(pound=約453グラム、smidge=微量)を用いて、他のラッパーとの実力差と器の違いを対比させている。
I'm a stallion, stout, strong, war ready, resilient
俺は種馬だ、逞しく、力強く、戦争の準備はできてる、回復力も抜群だぜ
※自分のラップをアスリートや戦闘馬(stallion)に例え、いかなるビーフや試練にも耐えうる頑強さをアピールしている。
Guess the Lord put me in position just to kill niggas
神様は、俺を他のラッパーどもを惨殺するためだけにこのポジションに置いたんだな
※「ポジション」とは、Dreamvilleとの契約によって得た巨大なプラットフォームのこと。この舞台で同業者たちをラップで圧倒し、全員公開処刑にするのが自分の使命だと悟っている。
A warrior, but words used is my spear
俺は戦士だ、だが俺が使う槍は「言葉(リリック)」なのさ
※銃撃戦のメタファーを多用してきたが、最終的にJIDが世界と闘うための最大の武器は、その異常なライミングと語彙力であると結論づけている。
My sword, my fear, my Lord, my chance is void if I
俺の剣、俺の恐怖、俺の主よ、もし俺が…
※次のラインへ続く、流れるような感情の吐露。
Do it for myself and don't give back to the loyal
自分のためだけにこれをやって、忠実な仲間たちに還元しないのなら、俺のチャンスは無効(無意味)になっちまうんだ
※どれだけ成功しても、共に苦労してきたSpillage Villageの仲間やフッドの連中をフックアップしなければ、神に与えられた才能もチャンスもすべて無意味であるという、固い「義理」を誓う感動的なライン。
The unemployed, all my boys in here
失業中の奴らも、俺の兄弟たちはみんなここにいるぜ
※スタジオに地元の仲間たちを呼び寄せている熱気。
Okay, let's really make some noise in here
オーケー、この場所でマジで一丁騒ぎを起こしてやろうぜ
※JIDのバースが終わり、EARTHGANGへとバトンが渡される。
[Verse 2: Doctur Dot]
I'm under pressure, smoking pressure, walking in no direction
俺はプレッシャーの下にいる、プレッシャー(大麻)を吸いながら、あてもなく歩いてるんだ
※EARTHGANGのDoctur Dot(現在のWowGr8)のバース。「pressure」は重圧という意味と、同時に「強力な大麻」を指すストリートスラング。重圧を紛らわすために強力なウィードを吸っている情景。
Chalk it up to the devil for fucking with my perspective
俺の視界(考え方)を狂わせやがった悪魔のせいにしといてくれ
※ドラッグによる幻覚や、ストリートの悪環境による道徳観の麻痺を「悪魔のせい(Chalk it up to the devil)」としている。
Too young to be a witness but old enough for the lessons
証言台に立つには若すぎるが、教訓を学ぶには十分な歳さ
※幼い頃からゲットーの犯罪や悲惨な現実を目撃してきたが、警察に喋る(証言する=snitching)ことはせず、ただ生き抜くためのストリートの知恵として吸収してきたという生々しいライン。
Soo Young, got a tucker to fuck with the chief inspector
「スー・ヤン」、俺は警部をブチ殺すための「タッカー(銃)」を持ってるぜ
※映画ファンの度肝を抜く高度なワードプレイ。ジャッキー・チェンとクリス・タッカー主演のアクション映画『ラッシュアワー』のネタ。劇中で誘拐された少女「スー・ヤン(Soo-Yung)」、ジャッキー演じる「リー警部(chief inspector)」、そして相棒のカーター刑事を演じるクリス・「タッカー(Tucker)」の名前を網羅している。同時に「tucker」は「tucked(衣服の下に隠し持った銃)」の隠語であり、「警察(警部)とやり合うための銃を忍ばせている」というストリートの文脈に完璧に落とし込んでいる。
I bleed just like your favorites, I shit just like the angels
俺だって、お前らのお気に入りのラッパーと同じように血を流すし、天使と同じようにクソもするんだよ
※どれだけ神格化されたスターやラッパーであっても、結局は血を流し排泄する同じ人間に過ぎないというニヒリズム。
Oh shit, I feel a change and a shift in niggas' thinkin'
あぁクソ、連中の考え方に変化やシフトが起きてるのを感じるぜ
※自分たちがDreamvilleと契約し注目を集めたことで、周囲の人間(仲間や敵)の態度が露骨に変わってきたことへの違和感。
Like Lute, I got the jugg, I'ma say it's quite the finagle
Luteみたいに、俺は「ジャグ(ハッスル)」を手に入れた、かなり巧妙なごまかし(手口)だと言っておくぜ
※同じくDreamvilleに所属するノースカロライナのラッパー「Lute」の大ヒット曲「Juggin'」へのシャウトアウト。「jugg」は盗みや詐欺、ストリートのビジネスで金を稼ぐこと。「finagle」は口八丁手八丁でうまくやり遂げること。音楽業界という巨大なシステムを、ストリートの手口でハックして金を稼いでいるという皮肉。
Get rich and make some babies that's weirder than Will and Jada's
金持ちになって、ウィル(・スミス)とジェイダの子供たちよりも奇妙なガキを作ってやるよ
※ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスの子供であるジェイデンとウィロウは、非常にエキセントリックでスピリチュアルな言動で知られている。自分もハリウッドスター級の富を築き、あいつら以上にブッ飛んだ二世を育ててやるというブラックユーモア。
But lately, I've been blocked up
でも最近、俺は行き詰まってたんだ
※クリエイティブなスランプや、契約前の停滞期を告白。
Lately, I've been strugglin' with ways to get my stock up
最近は、自分の株(価値)を上げる方法に苦心してたのさ
※アンダーグラウンドで燻っていた日々のリアルな悩み。
Me and Venus workin' on new videos to blockbust and city shows and pop-ups
俺とVenus(相方)で、大ヒットさせるための新しいビデオや、街のショー、ポップアップストアの準備をしてるんだ
※EARTHGANGとしての野心的な活動の裏側。
And really though I feel as though there's no bitch I could not fuck
マジな話、俺にヤレないビッチなんて一人もいないような気がしてるぜ
※音楽活動が軌道に乗り始めたことで爆発する全能感。
Niggas make art and act hard for no Oscar
連中はアート気取りで、しかもオスカーも貰えないのにハードな(ギャングの)フリをしてやがる
※ストリートの痛みをリアルに知らず、ただ流行りに乗って危険なギャングスタを「演じて(act)」いるだけのフェイクラッパーたちへの痛烈な批判。
Boy, you're just Leonardo
坊や、お前はただのレオナルド(・ディカプリオ)だよ
※ハリウッドを代表する名優レオナルド・ディカプリオは、長年にわたりアカデミー賞(オスカー)を受賞できないことでネットの「ミーム」となっていた。「お前らはディカプリオ級に必死でギャングを『演技』しているが、結局誰からもオスカー(本物のプロップス)は貰えない大根役者だ」という強烈な皮肉。
Born in the life you had to learn to be part of
お前らがわざわざ「学びに行かなきゃならなかった」ような生活環境の中に、俺は生まれ落ちたんだよ
※フェイクラッパーたちが後から必死に真似をする「ゲットーの文化や仕草」は、Doctur Dotたちにとっては生まれながらの日常であり、生存競争そのものであったという絶対的なリアルの証明。
Still, no deal, still whippin' the Mazda, but fuck
いまだに(自分の)メジャーディールは無くて、マツダ車を乗り回してるが、まぁいいさ
※この時点ではJIDがDreamvilleと契約したものの、EARTHGANG自身はまだメジャー契約を結んでいなかった(彼らが正式加入するのは少し後)。金はないが、スキルだけは誰にも負けないというハングリー精神でバースを終える。
[Verse 3: Johnny Venus]
"Niggas ain't seein' you, Venus"—shit, and I ain't seeing me
「Venus、誰もてめぇのレベルには追いつけねぇよ」—クソ、俺自身ですら自分の限界が見えねぇんだ
※EARTHGANGのもう一人、Johnny Venus(Olu)のバース。「see」には「理解する、対抗する」という意味があり、周りの連中だけでなく自分自身でも己の底知れぬポテンシャルを把握しきれていないという狂気的なスタート。
So many nights at the bottom, swore I was ET
どん底で過ごした幾多の夜、俺はマジで自分がE.T.(宇宙人)だと思ってたぜ
※誰にも理解されず、社会から疎外されたアンダーグラウンドの生活を、地球に取り残された宇宙人「E.T.」に例えている。同時に、自分のラップスキルが「地球外のレベル(Extraterrestrial)」であることの比喩。
My mama beat me, mu'fuck a degree
母ちゃんには殴られたし、学位(大学卒業)なんてクソ喰らえだ
※親からの厳しい折檻と、敷かれたレール(大学進学など)への反発。ストリートと音楽にすべてを賭けた男の覚悟。
I chose both pills—my thoughts 3D
俺は両方のピルを飲んだ—俺の思考は3D(立体的)になったのさ
※映画『マトリックス』における「赤いピル(真実)」と「青いピル(虚構)」の選択ネタ。どちらかを選ぶのではなく「両方とも飲み込む(現実の厳しさも、虚構の夢もすべて引き受ける)」ことで、常人には不可能な三次元的(3D)な思考回路を手に入れたという狂気のパンチライン。
And often I probably come off so off the deep beat
そして俺はよく、この深淵なビートから完全に外れたようなノリになっちまうんだ
※Venusのラップスタイルは、意図的にオフビート(リズムから外れる)になったり、変則的なフロウを用いたりするエキセントリックなもの。自身のスタイルの特異性を自認している。
That a lil' nigga like me gotta keep at least two or three BPs
だから俺みたいなちっぽけな黒人は、最低でも2つか3つのBPを手放せないのさ
※「BPs」は「Blunt Phillies(安葉巻のブラント)」で常に大麻を吸っていること、あるいはストレスで「Blood Pressure(血圧)」の薬を飲まざるを得ないことのダブルミーニングと推測される。
In the blunt, they're off a DP as the rain pops off of these street
ブラントの中にはDP(ダブルペネトレーション/強いドラッグ)が仕込まれてて、このストリートに雨が弾け飛ぶように効いてくる
※「DP」はポルノ用語の「Double Penetration(二重挿入)」から転じ、複数のドラッグを混ぜた強力なブラントのこと、あるいは「Dr. Pepper」のような咳止めシロップ(リーン)の隠語の可能性がある。現実の苦痛(雨)を麻痺させるためのハードなドラッグ乱用。
And the pain pops me another one to the brain
そして痛みが、俺の脳天にもう一発弾丸(ドラッグ)をブチ込んでくるんだ
※精神的・肉体的な痛みが限界に達し、さらに強い薬効を求めてしまう悪循環。
I let the strain do what you can't, I know it's hard out tryna reach me, huh
お前らにはできねぇことを、この品種(大麻)にやらせてるんだ、俺の境地へ辿り着くのは難しいだろ?
※「strain」は大麻の品種。極上の大麻の力も借りて、他のラッパーが絶対に到達できない高次元の精神状態(リリシズム)にいることを見せつける。
I'm battling addiction, I'm peeping premonitions
俺は依存症と戦いながら、未来の予兆(プレモニション)を覗き見してるんだ
※ドラッグ中毒に苦しみながらも、その変性意識の中で自分たちが大スターになる「予知夢」を見ているという、預言者のような描写。
I'm clutching on my last dollars, I'm stretching common sense
なけなしの全財産を握りしめ、常識ってやつを引き伸ばしてる(ぶっ壊してる)
※極限の貧困状態の中で、普通の人間(常識)なら絶対に選ばないようなクレイジーな賭け(音楽へのフルコミット)をしている。
A pressure point a keeper so I question my existence
急所を握られちまってるから、俺は自分の存在意義を問い直すんだ
※社会の底辺という「急所(pressure point)」を押さえつけられているため、常に自分のアイデンティティや生きる意味と向き合わざるを得ない。
Be assessing my involvement, second-guessing my deliverance
自分の関わり方を評価し、自分の救済(デリバランス)について勘繰っちまう
※本当に音楽で救われるのか? 自分がやっていることは正しいのか? という深い自問自答。
Lord, Ezekiel take the wheel, I'm flying in the young
主よ、エゼキエルよ、ハンドルを握ってくれ、俺は若さの中で空を飛んでる(ハイになってる)んだ
※カントリー歌手キャリー・アンダーウッドの大ヒット曲「Jesus, Take the Wheel(イエス様、どうかハンドルを握って)」の秀逸なもじり。ここではジーザスではなく、旧約聖書で「炎の車輪(UFOのような幻視)」を見た預言者「エゼキエル(Ezekiel)」にハンドルを託している。ドラッグで完全にトリップ(飛行)しており、神がかった幻覚を見ながら運命を天に委ねるスピリチュアルな表現。
Out of luck, out of hope to fuck up
運も尽き果てて、失敗(ファックアップ)する希望すら残っちゃいねぇ
※これ以上失うものは何もない(もう失敗しようがない)という、開き直りのパワー。
So motherfuck a time limit, I'ma take what's mine, nigga
だからタイムリミットなんてクソ喰らえだ、俺は俺のモノ(成功)を奪い取るだけだぜ
※焦りや寿命といった限界を否定し、実力でシーンの頂点を奪取するというVenusの力強い宣言。
Ha—now, elevate my status to "Gucci bag us"
ハァ—さぁ、俺のステータスを「グッチのバッグ」レベルにまで引き上げな
※怒涛のマイク・リレーを終え、再び勝利宣言のようなフックへと帰還する。
Glued to my apparatus, pussy harass us
俺は自分の機材に釘付けさ、女どもが俺たちに群がってくる
※JIDとEARTHGANGというアトランタの地下で燻っていた才能が、ついに地上へと躍り出た瞬間を象徴している。
Me and Siri moving steery so that shit don't matter
俺とSiriは巧みに舵を切ってる、だからそんなこたぁ関係ねぇんだ
※インディペンデント精神を持ちながらメジャーシーンを航海していく決意。
And, yes, them things gon' flash if you want to act up
そうさ、お前らが調子に乗ってふざけた真似をするなら、アレが火を噴くぜ
※ラップゲームにおいて、彼らに「喧嘩を売る(act up)」ことがいかに致命的であるかを、3人のバースを通して見事に証明して見せた。
[Chorus: Johnny Venus]
Now, elevate my status to "Gucci bag us"
今、俺のステータスは「グッチのバッグ」レベルにまでハクがついてるぜ
Glued to my apparatus, pussy harass us
俺は自分の機材に釘付けさ、女どもが俺たちに群がってくる
Me and Siri moving steery so that shit don't matter
俺とSiriは巧みに舵を切ってる、だからそんなこたぁ関係ねぇんだ
And, yes, them things gon' flash if you want to act up
そうさ、お前らが調子に乗ってふざけた真似をするなら、アレが火を噴くぜ
[Outro: Johnny Venus]
If you want to act up
調子に乗ってふざけた真似をするならな
※ビートがフェードアウトしていく中で、ヘイターやフェイクラッパーたちへの最後の警告として言葉が反響する。
If you want to act up
調子に乗ってふざけた真似をするならな
Come, act up
来いよ、やってみろよ
※J. Coleが仕立てた極上のサンプリングビートの上で、圧倒的な実力を見せつけた男たちの、不敵なまでの自信と余裕で楽曲は幕を閉じる。
