Artist: JID
Album: The Never Story
Song Title: General
概要
本作「General」は、JIDのデビューアルバム『The Never Story』の実質的な幕開けを飾る、自伝的かつ冷酷なトラップ・バンガーだ。前曲「Doo Wop」の夢見がちなドゥーワップ・ハーモニーから一転、リスナーはアトランタ・イーストサイドの過酷な現実へと引きずり込まれる。曲名は彼が乗り回していたポンティアック・G6の愛称「The General」に由来すると同時に、ストリートや過酷な人生の最前線で指揮を執る「将軍」としての覚悟を示している。ハンプトン大学でのアメフト選手時代、退学の引き金となった強盗事件、そして家族(軍人の父、武装していた兄)の背景など、彼の複雑な過去が卓越したフロウと精緻な言葉遊びで赤裸々に綴られた、JIDの原点とも言える最重要楽曲である。
和訳
[Intro]
Uh, fuckin' wisdom tooth is killin' me
あぁ、クソ親知らずが痛んでやがる
※レコーディング当時、JIDは実際に親知らずの痛みに悩まされていた。完璧に整えられたスタジオ録音ではなく、ブースでの生々しい呟きをそのままイントロに採用することで、彼の飾らないリアルな姿勢(Rawネス)を強調している。
Fuck, whatever—ahem
クソ、まぁいいや、コホン
※痛みを強引に飲み込み、咳払いでマイクに向かう。ここから彼の壮絶な過去の語りが始まるスイッチとなっている。
[Verse 1]
Check, anybody can see the kid got it
チェックしろ、俺に才能があるのは誰の目にも明らかだろ
※「got it」は「持っている=特別な才能やカリスマ性がある」という意味。無名時代から自身のスキルに対する絶対的な自信を持っていたことを示している。
I see niggas ignore it so I feel a way about it
なのに連中がそれを無視しやがるから、俺も思うところがあるんだよ
※「feel a way」はAAVEで「不快に思う」「イラつく」の意。実力に見合った評価を得られなかったアンダーグラウンド時代のフラストレーションを吐露している。
From rappin' in that truck with bolts on and rollin' blunts
ボルト剥き出しのトラックの中でラップして、ブラントを巻いてた頃からな
※「that truck」は曲名の由来でもある愛車「The General」を指す。内装が壊れボルトが剥き出しになったボロボロの車内で大麻を巻きながらフリースタイルをしていた、彼のハングリーな下積み時代を描写している。
Baggin' a couple bitches and fuckin' them all at once
女を何人か持ち帰って、まとめてヤっちまってた
※アメフト選手時代の血気盛んな若き日のライフスタイル。
Friday night lights, I was catchin' and droppin' punts
金曜の夜のライトの下、パントをキャッチしたり落としたりしてた
※「Friday night lights」はアメリカの高校・大学アメフトの象徴的な言葉。JIDはハンプトン大学(NCAAディビジョンI)で奨学金を得てプレイする優秀なディフェンシブバックだった。「落としたり(droppin')」と自身のミスや挫折も包み隠さずラップする点が、等身大のJIDらしいリリシズムである。
Thinkin' 'bout rappin', I could be J.I.D or like Chris Johnson
ラップのことばかり考えてた、JIDになるか、クリス・ジョンソンみたいになるかってな
※クリス・ジョンソン(CJ2K)はNFLの伝説的なランニングバックで、驚異的なスピードで知られていた。JID自身も俊足の選手であったため、アメフトでプロになるか、ラッパー「JID」として生きるかの岐路に立たされていた青春時代の葛藤を描いている。
My thumbs keep strummin' kinda like the Mumford & Sons
俺の親指はマムフォード・アンド・サンズみたいに弾き続けてる
※「マムフォード・アンド・サンズ」はバンジョーやギターをかき鳴らす(strummin')イギリスのフォークロックバンド。ストリートの文脈では「親指を動かす」=「大麻を巻く」「ゲームのコントローラーを操作する」などを意味するが、ここではビートメイクやリリックを書くために絶え間なく手を動かす自身のクリエイティビティへのメタファーとして機能している。
Mommy went dumb when she got that call, I had got caught
俺がパクられたって電話を受けた時、お袋はパニックになってた
※「went dumb」はショックで言葉を失う、頭が真っ白になること。大学時代に事件に巻き込まれ逮捕された際の、母親の悲痛な反応を振り返っている。
Kicked out of college for tongues, niggas be talkin'
舌のせいで大学をクビになった、連中がチクりやがったからな
※「tongues(舌)」は「口を割ること(Snitching)」の隠語。共犯者が警察にペラペラと喋ったことで、JIDはハンプトン大学を退学処分となってしまった。
I wasn't even on camera, just hit the lick with some amateurs
防犯カメラにすら映ってなかったのに、素人どもと強盗をやっちまったせいでな
※「hit a lick」は強盗や窃盗で手っ取り早く金を稼ぐこと。Reddit等の考察やインタビューによれば、JID自身は実行犯ではなく逃走用の車の運転手(ゲッタウェイ・ドライバー)だったためカメラには映っていなかったが、素人のチームメイトが捕まり自白したことで連座したという背景がある。
Glad we did that, now I'm flyin' to Los Angeles
だがアレをやって良かったぜ、おかげで今はロサンゼルスへ飛んでるんだからな
※大学を追放されたことでアメフトへの道を絶たれ、結果的に音楽一本に絞らざるを得なくなった。それがJ. Cole率いるDreamville Recordsとの契約に繋がり、LAのスタジオへ飛ぶ現在へと結実した。最悪の挫折が最高の成功を生んだという強烈な皮肉と自己肯定である。
With a 8th in my pre-rolls, call that shit a tarantula
プレロールには8分の1オンスの葉っぱ、そいつをタランチュラって呼んでる
※「8th」は8分の1オンス(約3.5グラム)の大麻。「Tarantula(タランチュラ)」は、大麻オイルやキーフ(粉末)をまぶした極太のジョイントのブランド名、もしくは蜘蛛の足のように太く巻かれたジョイントを指すスラング。LAの合法的な高級大麻を楽しむ成功者の余裕を示している。
Tarantino on your big screen, ho
お前のデカいスクリーンにはタランティーノだ、ビッチ
※クエンティン・タランティーノ監督。次のラインへ続く映画的なメタファーの導入部。
Slave man, South East Coast, J.I.D or DiCap Leo
奴隷の男、南東海岸、JIDかレオナルド・ディカプリオか
※タランティーノ監督の映画『ジャンゴ 繋がれざる者』への言及。「South East Coast」はアトランタ(南部)を指す。ディカプリオは同作で冷酷な農園主を演じた。JIDは自身が「抑圧された黒人(奴隷)」の出自を持ちながら、エンタメの世界では「ディカプリオ級のスター・支配者」になり得るという二面性を見事に表現している。
Set it off, my big sis reminded me of Cleo
ブチかますぜ、俺の姉貴は(映画の)クレオを思い出させるんだ
※1996年の強盗映画『Set It Off』からの引用。クイーン・ラティファ演じる「Cleo(クレオ)」は、男勝りで銃を撃ちまくる荒々しいキャラクター。JIDの姉が、この映画のクレオのようなタフで危険なゲットーの女性であったことを明かしている。
And my brothers is killers you might see on Nat Geo
そして俺の兄弟たちはナショナルジオグラフィックに出るような猛獣(キラー)だ
※野生動物の狩りを放送する「ナショナルジオグラフィック(Nat Geo)」に例え、彼の兄弟たちがストリートの食物連鎖の頂点に立つ危険な存在(Killer)であったことを描写する見事なパンチライン。
You gotta chill 'cause niggas can get they cap peeled
お前ら落ち着いた方がいいぜ、頭(キャップ)を吹っ飛ばされるかもしれないからな
※「cap peeled」は頭を撃ち抜かれることのストリート・スラング。身の程知らずな態度をとると、彼の兄弟や仲間に殺されるぞという警告。
I keep that .40 like I'm Pat Tillman
俺はパット・ティルマンみたいに40口径(背番号40)を手放さない
※Geniusでも高く評価されるダブルミーニング。パット・ティルマンはNFLのアリゾナ・カージナルスで「背番号40」を着用していたが、同時多発テロ後に軍隊へ志願し、戦死した英雄的なアメフト選手。「.40(フォーティー)」は40口径の拳銃を指し、「背番号40」と「40口径の銃を携帯する(keep)」を見事にかけている。
They sent my nigga up the hill, yea they jack jill'd 'em
奴らは俺のダチを丘の上(刑務所)に送った、そうさ、ジャックとジルみたいにハメたんだ
※「up the hill」は刑務所(丘の上に建てられることが多い)へ送られること。マザーグースの童謡「ジャックとジル(丘に水を汲みに行き転げ落ちる)」を引き合いに出し、「Jack(強盗・奪う)」というスラングとかけて「システムに人生を奪われた(転落させられた)」友人の悲劇を歌っている。
And a million other black children, let's crack the seal, I'm spillin'
そして何百万もの他の黒人の子供たちもだ、シールの封を切ろうぜ、俺はこぼしちゃうけどな
※制度的レイシズムによって刑務所へ送られる無数の黒人青年の現実を嘆く。「crack the seal」は医療用シロップ(プロメタジン)の未開封シールを切ること。「spillin'」はシロップをこぼすことと、「心の内(悲痛な現実)を吐き出す」ことのダブルミーニングである。
[Chorus]
Alright, I feel amazin', I can feel the haters, do some
オーライ、最高の気分だ、ヘイターどもの気配を感じるぜ、何かやってみろよ
※成功を手にした現在の無敵感と、周囲の嫉妬に対する挑発。
I ain't finna fade ya, I ain't got a taser, shoot some
殴り合うつもりはねぇし、テーザー銃も持ってねぇ、ブッ放すだけだ
※「fade」はストリートの素手での喧嘩。警察のような非致死性の武器(テーザー銃)など使わず、実弾で確実に仕留めるという冷酷なスタンス。
Niggas talkin' crazy, wipe the little baby, too funny
連中が狂ったように喚いてる、ガキの涙でも拭いてやれ、笑えるぜ
※ネット上や陰で文句を言う同業者たちを「泣き喚く赤ん坊」扱いし、完全に小馬鹿にしている。
Pull up on ya, had a crew comin', take a deuce on ya, hold up, nigga
お前のとこに乗り込むぜ、クルーを引き連れてな、お前の上にクソ(2発の銃弾)を落としてやる、待てよ
※「take a deuce」は一般的に「大便をする(クソを落とす)」という意味だが、ストリートスラングでは「2発の銃弾(22口径など)」を撃ち込むという凶悪なダブルミーニングを持つ。
[Interlude]
I'm talkin' about for real
マジな話をしてるんだ
※ここからJIDの生々しい肉声による語り(スパイク・リーの映画のワンシーンのような演出)が入る。
I mean man, I did it man, talkin' 'bout for real, man
いや、俺はやり遂げたんだ、マジな話さ
※どん底から這い上がり、レコード契約という切符を手にした実感を噛み締めている。
Your ass goin' to do it man, free us and shit man
お前もやるんだよ、俺たちを解放してくれってな
※フッドの仲間からJIDに託された「俺たちをこのゲットーから救い出してくれ」という重い期待の声。
We was in deep, we done got-, we done got (Look, look) evictions, man (Look)
俺たちはどん底にいた、立ち退き(ほら、見ろよ)まで食らったんだ
※家賃が払えず、強制立ち退き(eviction)にまで追い込まれた絶対的な貧困の記憶。
We had went through everything
ありとあらゆる苦労を乗り越えてきたんだよ
※綺麗事ではないサバイバルの日々を回顧している。
[Verse 2]
Lookin' for it in the night time, (Night time) I been lookin' for it all day (All day)
夜の間にそいつを探してる(夜にな)、一日中そいつを探し続けてきたんだ(一日中)
※「そいつ(it)」とは成功、金、あるいはドラッグを指す。フッドでの終わりのないハッスル(生活のためのあがき)を描写。
I'ma get it at the right time, (Right time) watch 'em fuck with me the long way (Long way)
適切なタイミングで手に入れてやる(絶好の時にな)、あいつらが俺にどう絡んでくるか見ておけよ(ずっと前からな)
※機が熟すのを待ち、ついに成功を掴んだ今、かつて彼を見下していた連中がすり寄ってくる様を冷ややかに見つめている。
Watch a nigga at the bike whip, (Whip, whip) hit the buyer with the stone face (Stone face)
チャリに乗ってる俺を見な(チャリでな)、無表情でバイヤーにモノを売りつけるのさ(無表情で)
※「bike whip」は車を買う金がなく自転車でドラッグを配達していた頃の記憶。客に対して感情を見せない(stone face)のは、トラッパーとしての鉄則である。
Greenbriar with the whole case, (With the whole case) bust it down and flood the whole state (Whole state)
グリーンブライアー・モールにケースごと持ち込んで(ケースごと)、小分けにして州全体にばら撒くんだ(州全体に)
※「Greenbriar(グリーンブライアー)」はアトランタ南西部にある歴史的なショッピングモールで、ヒップホップ文化とストリートビジネスの交差点として有名。「bust it down」はまとまった量のドラッグを小分けにすること。
Bitches know when that work good, (Work good) Anna Mae eat the whole cake (Yeah, yeah)
そのクスリ(仕事)が上物だってことはビッチどもが知ってる(上物さ)、アンナ・メイがケーキを丸ごと平らげるようにな
※「Anna Mae(アンナ・メイ)」はティナ・ターナーの本名。映画『TINA ティナ』での、夫アイク・ターナーが彼女に無理やりケーキを食わせる有名なDVシーン(Eat the cake, Anna Mae)を引用。自身が捌くドラッグ(work)の中毒性を、この強烈なポップカルチャーの狂気に例えている。
We ain't even gotta role play, (We ain't even gotta role play) had to get it out the bowl way (Had to get it out the bowl way)
役を演じる必要なんてねぇ(演じる必要はねぇ)、ボウルから直接掻き出さなきゃならなかったんだ(ボウルからな)
※フェイクなギャングスタを演じるラッパーたちとの差別化。「bowl way」は耐熱ガラス(Pyrex)のボウルでクラック・コカインを調理し、残ったカスまで削り取って金に換えていた極限の貧困状態を指す。
Kill shit, OJ, no way, (Yeah) Jose, slo-mo, (Yeah) okay (Alright)
殺りまくるぜ、O.J.(シンプソン)みたいにな、あり得ねぇよ(Yeah)ホセ、スローモーションで(Yeah)オーケー(オーライ)
※「No way, Jose」という英語の定番の韻遊び。さらに元NFLスターであり殺人容疑をかけられた「O.J.シンプソン」を引き合いに出し、ビート上で「殺戮」を繰り返す自身のラップスキルを誇示している。
I don't do this shit at your pace, (I don't do this shit at your pace) I ain't here to do it your way (I ain't here to do your way)
お前らのペースでこのクソをやるつもりはねぇ(お前のペースじゃやらねぇ)、お前らのやり方に従うためにここにいるわけじゃねぇんだ(お前のやり方じゃねぇ)
※業界のトレンドやレーベルの指示には従わず、JIDという唯一無二のスタイルを貫くという宣言。
And I'm comin' through the ceilin'
天井から突入してやる
※音楽業界のシステム(ガラスの天井)を破壊して上り詰めるというメタファー。
Through the floor, back and front door way
床から、そして裏口から正面玄関からな
※あらゆる手段を使ってシーンを完全に包囲・制圧するという軍事的な「General(将軍)」としての戦術。
You do not want war, I swear, I (Swore) swore on your grave (Been)
お前は戦争なんて望んじゃいない、誓って言うぜ、お前の墓の前で(誓ったんだ)
※ビーフ(ラップ上の戦争)を仕掛ければ確実に相手を葬り去るという、圧倒的なスキルの差を見せつけている。
I been on my shit since like 6th, 5th, and 4th grade—wait
俺は小学6年、5年、いや4年の頃から自分のヤバさを発揮してたんだ、待てよ
※ラップの才能やストリートの知恵が、幼少期からすでに培われていたことを数字のカウントダウンで表現している。
Even before grades, (Yeah, yeah) goin' to my brother court dates (Yeah)
小学校に入る前からだ(Yeah, yeah)、兄貴の裁判の公判日に通ってた頃からな(Yeah)
※小学校(grades)よりも前の幼少期から、兄の刑事裁判(court dates)を傍聴していたという壮絶な原体験。これが彼の冷酷なリアリズムの根源である。
And I asked my mom and dad what he did but they'd never tell me (Yeah, never tell me)
お袋と親父に、兄貴が何をやったのか聞いたけど、絶対に教えてくれなかった(Yeah, 絶対にな)
※親が幼い子供をトラウマから守ろうとする悲しい家族の情景。
Then I figured he killed a nigga or got caught for some dope he sellin' (Dope he sellin')
だから俺は、兄貴が誰かを殺したか、捌いてたクスリで捕まったんだって悟ったんだ(捌いてたクスリでな)
※幼いながらにストリートの掟を理解し、親が隠す真実(殺人や麻薬密売)を察知してしまったJIDの異常な環境。
Kinda close but no cigarillo, (Cigarillo) he was armored up, that's a armadillo (Armadillo)
当たらずとも遠からずだがシガリロ(葉巻)は無しだ(シガリロ)、兄貴は武装してたんだ、まるでアルマジロみたいにな(アルマジロ)
※Geniusで絶賛されたワードプレイ。「Close, but no cigar(惜しい、当たらずとも遠からず)」という慣用句の「cigar」を、ブラント用の安い葉巻「cigarillo(シガリロ)」に変えてフッドの文脈に落とし込んでいる。さらに兄が重武装していた(armored up)様を、硬い甲羅を持つ「armadillo(アルマジロ)」の韻で表現する高度なテクニック。
My pops did time in the military (In the military) and he taught us how to disarm a nigga (Yeah)
親父は軍隊にいた時期があって(軍隊にな)、俺たちに銃を奪い取る(武装解除する)方法を教えてくれたんだ(Yeah)
※JIDの父親は元軍人であった。無法者の兄(武装=armored up)と、軍の規律を持ち自衛術(武装解除=disarm)を教える厳格な父。この対照的な環境こそが、JIDの多角的な視点を形成した。
See the boys, you better warn a nigga but J.I.D prolly got warrants, nigga
サツ(The boys)を見たら、周りに警告してやった方がいいぜ、まぁJID自身に逮捕状(ワラント)が出てるだろうからな
※「The boys」は警察のスラング。「warrants」は逮捕状。仲間を守るために警察の存在を知らせるが、皮肉にも自分自身が最も警察に追われる身であるというジョーク交じりのライン。
Like North Carolina or South Carolina, got the hideout in like Florence, nigga (Like Florence)
ノースカロライナかサウスカロライナみたいに、フローレンスあたりに隠れ家があるんだよ(フローレンスみたいにな)
※「Florence(フローレンス)」はサウスカロライナ州の都市。アトランタ(ジョージア州)から北上する際の逃亡ルートや隠れ家としてリアルな地名を挙げている。
(Yeah) Swear your raps so borin', nigga
(Yeah)マジでお前らのラップは退屈すぎるぜ
※過酷なリアルを生き抜いてきたJIDから見れば、他者のありきたりなラップは児戯に等しい。
Then you say you trap—you be lyin', nigga (Lyin', nigga)
トラップ(密売)やってるなんて言ってるが、嘘っぱちだろ(嘘つきめ)
※実際のドラッグディーラーの恐怖や痛みを一切知らずに、流行として「トラップ」を語るフェイクなラッパーたちを痛烈に批判している。
I don't fuck with none of y'all happy trappers (Yeah)
お前らみたいな「ハッピーなトラッパー」とは一切関わらねぇよ(Yeah)
※本作の核心を突くパンチライン。「Happy trapper」とは自己矛盾の言葉(オキシモロン)である。本来のトラップライフは暴力、死、パラノイアに満ちた地獄であるはずなのに、それをポップで楽しいライフスタイルのように歌う当時の「バブルガム・トラップ」シーンの軽薄さを、JIDは徹底的に拒絶している。
Better grab and strap, (Yeah) people dyin', nigga, Lord (Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah)
銃(ストラップ)を掴んだ方がいいぜ、(Yeah)人が死んでるんだよ、主よ(Yeah...)
※「ハッピーなトラップ」の裏側では、現実のストリートで血が流れ、友人が死んでいる。自己防衛のために銃(strap)を手放せない本物の狂気と、神への祈り(Lord)でバースを締めくくる。
Sorry we makin' all the noise, (Sorry we makin' all the noises) but you ain't have to call the boys (You ain't have to call the boys)
騒音を立ててすまねぇな(騒いで悪かったよ)、でもサツ(boys)を呼ぶ必要はねぇだろ(サツを呼ぶなよ)
※隣人(あるいは社会)に対して騒動を起こすことを謝りつつも、警察という部外者を自分たちの世界に介入させるなというゲットーの鉄則(ノー・スニッチング)を提示している。
Some shit you just can't avoid, dumb shit, (Yeah) coolin' with the squad
避けられないトラブルってやつもあるんだ、馬鹿げたことさ、(Yeah)いつもの仲間とチルしてるだけなのにな
※どれだけ平和に仲間と過ごしていても、ストリートにいる限り理不尽な暴力や警察の介入は避けられないという宿命を語り、アウトロへと接続していく。
[Outro]
I was talkin' 'bout man, you know how we-we livin' it now man, I'm talkin' 'bout everybody, ya dig what I'm sayin'?
俺が言いたかったのはさ、俺たちが今どうやって生き抜いてるかってことだよ、皆のことさ、言ってる意味わかるか?
※アウトロではビートがフェードアウトし、JIDのアトランタのフッド訛り全開の語りが収録されている。
Ayy man, big shit goin' on over here, y'know what I'm sayin'?
なぁ、こっちじゃデカい事が起きてるんだ、わかるだろ?
※彼らを取り巻く環境が急激に変化し、成功へと向かっている現状(Big shit)を示唆。
Everybody makin' they plays, but everybody had to work for sum', ain't shit came without nothin', nigga
誰もが自分の勝負(プレイ)をしてる、でも皆何かを得るために必死に働かなきゃならなかった、何もせずに手に入ったモノなんて一つもねぇんだよ
※「make plays」はストリートで金を稼ぐ動きのこと。現在の成功は決して運ではなく、血のにじむようなハッスル(work)の賜物であるという労働倫理。
You kids don't know what we talkin' about, where we come from, they gon' know about--and I'm talkin' 'bout all the way from Deshon Road, y'know what I'm sayin'?
今のガキどもには俺たちが何の話をしてるのか、どこから来たのかなんてわからねぇだろうが、いつか知ることになるさ。デション・ロードからの長い道のりの話をしてるんだよ、わかるか?
※「Deshon Road(デション・ロード)」は、JIDが生まれ育ったジョージア州リトニア(アトランタ郊外のイーストサイド)にある実際の通りの名前。自身のルーツを明確にレペゼンしている。
My dad, y'know, growing up in the projects, y'know what I'm sayin', putting the real shit in us, not keepin' around no fucks and keepin' all that bullshit away from a nigga, so we can grow up to be real ones
俺の親父はさ、プロジェクト(低所得者層公営住宅)で育って、俺たちに「本物の哲学」を叩き込んでくれたんだ。くだらねぇ奴らを近づけず、あらゆるクソみたいな事から俺たちを遠ざけてくれた。俺たちが「本物(リアル)」として育つようにな。
※厳しい軍人であった父親への深い敬意の念。貧困街の悪影響(bullshit)から子供たちを守り、本物の男(real ones)に育て上げてくれた父の教育が、いまJIDの音楽の確固たる芯となっている。
I clocked they don't make that shit no more
そういう(昔気質の)人間は、もう作られてねぇんだなって気づいたよ。
※「I clocked」はAAVEで「気づいた、理解した」の意。フェイクなトラッパーが蔓延る現代のヒップホップシーンにおいて、自分の父親のような「本物」は絶滅危惧種になってしまったという強烈なアイロニーで、この重厚なトラックは幕を閉じる。
