Artist: G.O.O.D. Music (John Legend, Travis Scott, Teyana Taylor, CyHi & Malik Yusef)
Album: Kanye West Presents: Good Music - Cruel Summer
Song Title: Sin City
概要
本作は、2012年リリースのG.O.O.D. Musicのコンピレーションアルバム『Cruel Summer』に収録された、ダークで退廃的なアトモスフィアを放つ隠れた名曲である。特筆すべきは、当時Kanye Westに見出されてレーベルに加入したばかりの無名の新人であったTravis Scottが、プロデュースとオープニング・ヴァースの両方を担っている点だ。彼の後の大ブレイクを予感させる、ドラッグと欲望が渦巻く「罪の街(Sin City)」の不穏なサウンドスケープに、Teyana TaylorとJohn Legendのソウルフルで悲痛なボーカルが響き渡る。さらに、G.O.O.D. Musicの最高のリリシストであるCyHi The Prynceがストリートの現実と聖書の教えを交差させる哲学的なヴァースを投下し、ポエトリー・アーティストのMalik Yusefが街の残酷さを語り継ぐ。欲望、堕落、そしてそこからの救済を求める祈りが交錯する、アルバム内で最もシネマティックな一曲である。
和訳
[Verse 1: Travis Scott]
10 A.M., it’s Ransomnia
午前10時、身代金(ランサム)と不眠症(インソムニア)にうなされてるぜ
※当時若手プロデューサー兼ラッパーとして抜擢されたTravis Scottのヴァース。「Ransomnia」はRansom(身代金)とInsomnia(不眠症)を組み合わせた造語、あるいは単に眠れない夜の苦悩を表す表現。ドラッグの影響で朝になっても眠れない退廃的な状態。
She see the dust, it's so obvious
あの子は「ダスト」を見つめてる、超分かりやすいよな
※「Dust」はエンジェルダスト(PCP)などのドラッグ、あるいはコカインの粉末を指す。
Run from home, after tonight, we up out of it
家から逃げ出そう、今夜が終われば、俺らはここから抜け出すんだ
※罪深い環境や現実からの逃避行。
Don't go home, 'cause they just ran me up out of that
家には帰るなよ、あいつらが俺をそこから追い出したばかりだからな
※居場所を失った二人の逃走劇。
All of those drunken nights, then fuckin' every night
酒に溺れた夜を重ねて、毎晩ヤりまくってさ
※快楽に溺れるSin City(罪の街)でのライフスタイル。
She run her mouth but can't eat right?
あの子は口数が多い(減らず口を叩く)くせに、まともにメシも食えねえんだろ?
※「Run her mouth(口を動かす/喋りまくる)」と「Eat(口で食べる)」の対比。コカインやアンフェタミン系のドラッグの副作用である食欲不振を鋭く突いている。
Don't read between the line, if it get her hot it'd be white
行間(ライン)を読む必要なんてねえよ、あの子を興奮させるなら、それは「白い粉(ホワイト)」に決まってる
※「Line」は文章の行(行間を読む)と、鏡の上に引かれたコカインの列(ライン)の秀逸なダブルミーニング。
She smelled the line – baby, you know you don't need white
あの子はそのラインを鼻で嗅いだ(吸い込んだ)——ベイビー、お前に白い粉なんて必要ないって分かってるだろ
※ドラッグに依存していく女性への哀れみと制止。
Now look what we did now, the cops behind us
ほら見ろよ、俺たちのしでかした事を、サツが後ろまで来てるぜ
※パラノイア(被害妄想)的な逃走の情景。
Ran that red light, did you have to be mindless?
赤信号を突っ切りやがって、そこまで頭カラッポにならなきゃダメだったのか?
※ドラッグで正気を失った彼女の無軌道な運転。
SMH, we all know that cocaine killed Abel
マジで呆れるぜ(SMH)、コカインがアベルを殺したことくらい誰だって知ってる
※「SMH」はShaking My Head(呆れて首を振る)の略。旧約聖書の「カインとアベル」の物語において、兄のカイン(Cain)が弟のアベルを殺した事実と、「コカイン(Co-Caine)」の「Caine」を掛け合わせた、Geniusのフォーラムでも天才的と絶賛されるTravis屈指の歴史的Wordplay。ドラッグ(カイン)が罪のない者(アベル)を破滅させるというメタファー。
From 'The Scarlet Letter's, get by with this
『緋文字』のごとく、こいつを背負って生きていくのさ
※ナサニエル・ホーソーンの小説『緋文字(The Scarlet Letter)』への言及。姦淫の罪を犯した女性が胸に「A(Adultery)」の文字を刻まれたように、自分たちも罪の刻印を背負って生き延びる(Get by)という文学的な引用。
She stepped into hell, 'cause winter got cold
あの子は地獄へと足を踏み入れた、だって冬が寒すぎたからな
※温もり(救い)を求めて、結果的にドラッグや売春という地獄に堕ちてしまったことの悲哀。「Cold」は『Cruel Summer(残酷な夏)』というアルバムタイトルとの対比でもある。
Don't look in her eyes, you might see straight to her soul
あの子の目を見ちゃダメだ、魂の奥底まで真っ直ぐ見透かされちまうかもしれないからな
※完全に堕落した瞳の中に広がる虚無感。
Don't say yes to that good, 'cause you'll never know
その快楽(グッド)に「イエス」と言っちゃダメだ、その先どうなるか分からないんだから
※「Good」は上質なドラッグや快楽のことだが、同時にレーベル名「G.O.O.D. Music」のライフスタイルに溺れることへの警告とのダブルミーニング。
'Cause we lost in the city, where sin is no biggy
だって俺たちは迷子になっちまったんだ、「罪(シン)」を犯すことなんて大したことじゃない、この街でな
※Sin City(ラスベガスや、誘惑に満ちた大都市全般)では、道徳的な罪など日常茶飯事にすぎないという冷酷な結論。
[Chorus: Teyana Taylor]
I'm here with open arms and I got her
私はここで両手を広げて待っている、彼女を抱きとめるわ
※Teyana Taylorのソウルフルなコーラス。罪の街で堕ちていく女性(あるいは自分自身の魂)を救済しようとする母性や神の愛のメタファー。
Here is where her heart belongs
こここそが、彼女の心が帰るべき場所なの
※(同上)
Her heart belongs with me
彼女の心は私と共にあるべきなのよ
※(同上)
Here is where her heart
こここそが、彼女の心が...
※(同上)
I'm here and I won't go without her
私はここにいる、彼女を置いていったりしないわ
※堕ちた魂を見捨てないという決意。
This is where her heart belongs
こここそが、彼女の心が帰るべき場所なの
※(同上)
It should be here with me
私のそばにいるべきなのよ
※(同上)
Here is where her heart
こここそが、彼女の心が...
※(同上)
[Bridge: Teyana Taylor & John Legend]
I beg for mercy today
今日、私は慈悲を乞うわ
※Teyana TaylorとJohn Legendによる、ゴスペルのような神への祈り。
They won't take me away
奴らに私を連れ去らせはしない
※ドラッグや悪魔(誘惑)への抵抗。
Take me away from you
あなたのもとから私を連れ去らせはしないわ
※「あなた」は神、あるいは真実の愛を指す。
Don't know what I would do
私、どうなってしまうか分からないの
※(同上)
Don't let us die in vain
私たちを無駄死にさせないで
※ストリートで命を落とす若者たちへの鎮魂歌。
Don't let them see our pain
私たちの痛みを見せ物にさせないで
※(同上)
Wash these demons away
この悪魔たちを洗い流して
※ドラッグ依存や内なる罪悪感(悪魔)からの浄化(洗礼)を求める祈り。
Wash these demons away
この悪魔たちを洗い流して
※(同上)
[Verse 2: Malik Yusef]
You are all unwelcome to Sin City
お前ら全員、「罪の街」には歓迎されない存在だ
※シカゴ出身のスポークン・ワード(ポエトリーリーディング)のアーティスト、Malik Yusefによる詩的なヴァース。街の冷酷な本質を語る。
Yet the population still increases its density
それなのに、この街の人口密度(デンシティ)は増え続けている
※冷遇されると分かっていても、欲望に引き寄せられて人が集まる矛盾。
And that increases its intensity
そしてそれが、街の狂気(インテンシティ)を増幅させる
※(同上)
Which increases the propensity
その結果、ある傾向(プロペンシティ)が高まっていくのさ
※(次の行へ続く)
To complicate your simplicity
お前の「純朴さ(シンプリシティ)」を、複雑に歪めてしまうという傾向がな
※田舎から夢を見てやってきた純粋な若者が、街の誘惑に飲まれて複雑な罪に手を染めていく過程。5行連続で「〜sity(シティ)」で韻を踏む、スポークン・ワードならではの美しい韻律表現。
No matter your ethnicity
お前の人種(エスニシティ)が何であろうと関係ない
※罪の街は、人種を問わず全ての人間の欲望を平等に喰い尽くす。
All for the sake of publicity, in this city
すべては「名声(パブリシティ)」を得るためさ、この街(シティ)ではな
※承認欲求と名声のためなら、誰もが魂を売るという現代の病理。
[Verse 3: CyHi The Prynce]
Huh, bad bitches with ass shots
ハッ、ケツに注射(豊尻手術)を打ったイイ女たち
※G.O.O.D. Musicが誇る最高峰のリリシスト、CyHi The Prynceのヴァース。ストリートの生々しい描写から始まる。
Use a house as a stash spot
家をヤクの隠し場所(スタッシュ・スポット)として使ってる
※整形した女性たちが、売人の彼氏のために自分の家をドラッグの隠し場所に提供しているゲットーのリアル。
Lexus coupe with the rag-top
ラグトップ(幌)のレクサスのクーペ
※(次の行へ続く)
I'm in the loop, boy, I'm tied like an ascot
俺はそのループ(輪)の中にいるぜ、坊や、アスコットタイみたいにキッチリ結ばれてるんだ
※「In the loop」は情報通であること、あるいはストリートの裏社会と密接に繋がっていること。首に巻くアスコットタイの結び目(ループ)と掛けた見事な比喩。
I used to run with the have-nots
俺もかつては「持たざる者(ハヴ・ノッツ)」たちと一緒に走ってた
※貧しいゲットーの若者たちとストリートをハッスルしていた過去。
Kept the ave hot, just so we could have knots
札束(ノッツ)を手に入れるためだけに、大通り(アヴェニュー)を熱く(危険に)保ってたんだ
※「Knots」は輪ゴムで縛った札束の塊。金のためにドラッグ売買や発砲事件を起こし、地元を警察の目(Hot)に向けさせていたという罪の告白。
A lot of niggas see they dreams in a glass pot
多くの黒人たちが、ガラスの鍋の中に自分たちの「夢」を見る
※「Glass pot(ビーカーや耐熱ガラス)」は、粉末コカインを重曹と煮詰めてクラック・コカインを精製するための道具。沸騰するクラックの中に、一攫千金とゲットーからの脱出という儚い夢を見出しているという、Reddit等でもヒップホップ史上最も美しく悲しいストリートの比喩として絶賛されるパンチライン。
Until the judge throw you in that box and watch your ass rot
裁判官にお前を「箱」の中に放り込まれ、お前が腐っていくのを見下ろされるその日まではな
※「Box」は刑務所の独房(あるいは死後の棺桶)。クラックで夢を見た代償として、最終的には終身刑などで人生を腐らせるという残酷な現実。
We broke all the commandments
俺たちはすべてのモーセの十戒(掟)を破ってきた
※CyHi特有の宗教的なテーマへの回帰。「盗むなかれ、殺すなかれ」等の神の掟を全て破ってきた罪の意識。
Authentic, I'm hand-stitched
俺は本物(オーセンティック)だ、手縫い(ハンドステッチ)のようにな
※量産品(フェイクなラッパー)とは違う、魂の込もった本物の存在であるという誇示。
Come spend a day in my Hamlet
俺のハムレット(小さな村/フッド)で一日過ごしてみな
※シェイクスピアの悲劇『ハムレット』と、小村(Hamlet)を掛け、自分の地元がいかに悲劇的で危険な場所かを示している。
My city lost, some say it's Atlantis
俺の街は失われてしまった、まるでアトランティスだと言う奴もいる
※犯罪と貧困によって沈んでしまった地元を、海に沈んだ伝説の都市アトランティスに例えている。
I went to Cannes with a tan bitch – Francis
俺は日焼けしたビッチとカンヌ(映画祭)へ行った——フランシスさ
※「Cannes(カンヌ)」と「Tan(日焼け)」で韻を踏んでいる。「Francis(フランシス)」は女性の名前だが、映画監督フランシス・フォード・コッポラなどを暗に匂わせる映画祭に掛けたワードプレイとも解釈できる。
She rode the broom on the beach, that's a sand witch
あの子はビーチで「ほうき」に乗った、まさに「砂の魔女(サンド・ウィッチ)」さ
※「Rode the broom」はセックスで上に乗る(騎乗位)ことのメタファー。ビーチ(Sand)の魔女(Witch)と、サンドイッチ(Sandwich)を掛けた強烈なダジャレ。
So I ate her like it, haters hate to like it
だから俺はサンドイッチみたいに彼女を食ってやった、ヘイター共は俺を好きになるのが悔しくてたまらないのさ
※「Ate her(クンニリングスをする)」という性的な意味とサンドイッチを掛ける。アンチでさえ俺のラップの巧さを認めざるを得ないというボースト。
Sex, drugs, and playin' dices, those are our favorite vices
セックス、ドラッグ、そしてダイス(賭博)、それが俺たちのお気に入りの「悪徳(バイス)」さ
※罪の街を象徴する3つの要素。
But this life'll take a toll on ya
だが、この生活は確実にお前の心身を削り取る(代償を要求する)ぜ
※(次の行へ続く)
Well, I guess you gotta pay the prices
まあ、そのツケ(代償)は払わなきゃならないってことさ
※「Toll(通行料/代償)」と「Prices(対価)」の連続。
I know who Christ is and He never hung with the saints
俺はキリストがどんな御方か知ってる、彼は決して聖人君子たちとだけツルんでいたわけじゃない
※イエス・キリストは、当時の宗教的エリートや聖人ではなく、徴税人、娼婦、病人といった「罪人や社会の底辺」と食事を共にし、彼らを救ったという聖書の重要な真理(マルコによる福音書2:17など)を引用している。
It makes no sense to save the righteous
「正しい者(義人)」を救ったって、何の意味もないからな
※キリストの言葉「わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである」を見事にストリートの文脈に翻訳した、CyHiの最高傑作とも言えるライン。俺たちのような罪深きゲットーの住人(Sinners)こそが、神の救いを最も必要としているのだという痛切な叫びである。
By the age ten, we were caged in
10歳になる頃には、俺たちはもう檻(ケージ)に閉じ込められていた
※ゲットーという環境が、幼い頃から選択肢を奪う「檻」であるという構造的な人種差別の現実。
Now they raise men in the state pen
今じゃ連中(システム)は、州立刑務所(ステート・ペン)の中で男たちを育てている
※ストリートで父親不在のまま育った黒人の若者たちが、最終的に刑務所システムの中で大人になっていく(大量投獄問題)というアメリカの闇。
Fake friends, forgive 'em for they sins
偽物の友達たちよ、奴らの罪をどうかお許しください
※裏切っていった仲間たちに対する、キリストのような許しの境地。
God bless the city, amen
神よ、この街を祝福したまえ、アーメン
※罪の街(Sin City)に対する、究極の祈りと慈悲でヴァースを締めくくる。
[Chorus: Teyana Taylor]
I'm here with open arms and I got her
私はここで両手を広げて待っている、彼女を抱きとめるわ
※(Chorusリフレインのため解説省略)
Here is where her heart belongs
こここそが、彼女の心が帰るべき場所なの
※(同上)
Her heart belongs with me
彼女の心は私と共にあるべきなのよ
※(同上)
Here is where her heart
こここそが、彼女の心が...
※(同上)
I'm here and I won't go without her
私はここにいる、彼女を置いていったりしないわ
※(同上)
This is where her heart belongs
こここそが、彼女の心が帰るべき場所なの
※(同上)
It should be here with me
私のそばにいるべきなのよ
※(同上)
[Outro: Malik Yusef]
And now I'm one of the residents
そして今や、俺自身がこの街の住人の一人さ
※Malik Yusefによるアウトロ。批判的に街を語っていた彼自身も、結局は誘惑に負けてSin Cityに取り込まれてしまったという告白。
They walk with none of the repercuss', but all of the decadence
連中は一切の「報い(リパーカッション)」を受けることなく、あらゆる「退廃(デカダンス)」を纏って歩いている
※悪人が裁かれず、堕落したまま権力を握っている街の不条理。
And all the fuckin' debauchery
あらゆるクソみたいな「放蕩(ディボーチェリ)」の限りを尽くしてな
※(同上)
Adult film star, somebody's fuckin' watchin' me
ポルノスターみたいだ、常に誰かが俺のクソみたいな行為を監視してる
※セレブとしてのプライバシーの欠如と、自分の罪悪が白日の下に晒されているというパラノイア。
I always feel like, I'm almost Phil like
俺はいつも感じてる、まるで自分が「フィル(・コリンズ)」みたいだってな
※(次の行へ続く)
'Cause I could "feel it in the air tonight"
だって俺は「今夜、空気に(危険な予感を)感じることができる」からさ
※80年代のポップスター、フィル・コリンズ(Phil Collins)の歴史的名曲『In the Air Tonight』を引用。「Phil」と「Feel」を掛けたWordplay。同曲の「今夜、空中に何かが漂っているのを感じる(破滅や裏切りの予感)」という不穏なテーマを、Sin Cityの空気感と完全にリンクさせている。
I did some wrongs I wouldn't dare to right
俺はいくつか過ちを犯した、もはや正そうとも思わないような罪をな
※取り返しのつかない罪に対する諦め。
And wrote some songs I wouldn't dare recite
そして、二度と口にしたくもないような歌をいくつか書いてきた
※自らの暗い過去や闇を曝け出した楽曲(あるいはこの曲の存在自体)への複雑な感情。
But I am willing to share tonight
だが今夜は、それを分かち合う覚悟ができている
※それでもなお、自分の罪や街の現実をリスナー(あるいは神)に告白するという決意。
In the city that is as unfair as life
人生と同じくらい「不公平」な、この街の中で
※Sin City(罪の街)とは、ラスベガスのような特定の場所ではなく、理不尽で残酷な「人生そのもの」のメタファーであることを示して、楽曲は静かに幕を閉じる。
