Artist: G.O.O.D. Music (Kanye West & DJ Khaled)
Album: Kanye West Presents: Good Music - Cruel Summer
Song Title: Cold
概要
本作は、Hit-Boyによる冷徹でバンギングなビートに乗せ、2012年当時のKanye Westの圧倒的な全能感と傲慢さをパッケージした問題作である。当初は風邪薬の商標である『Theraflu(テラフル)』というタイトルで発表されたが、製薬会社からの抗議を受け『Way Too Cold』、最終的に『Cold』へと改名された経緯を持つ。リリックでは、Vogue編集長アナ・ウィンターらと肩を並べるファッション界での特権的地位を誇示し、動物愛護団体PETAへの意図的な挑発を行うなど、彼のメガロマニア(誇大妄想)が炸裂している。さらに、のちに妻となるKim Kardashianへの公の場での愛の告白や、彼女の元夫Kris Humphriesに対する「Jay-Zの権力を使ってNBAチームから追放できる」という究極の権力フレックスなど、ゴシップとラップスキルが極限レベルで融合。アウトロではシカゴの重鎮DJ Pharrisを起用し、当時勃興しつつあった「シカゴ・ドリル(Chiraq Drillinoise)」シーンへの目配せも行うなど、カルチャーの結節点として極めて資料価値の高い一曲だ。
和訳
[Intro: Kanye West & DJ Khaled]
Uhh, can the headphones go louder?
あー、ヘッドフォンの音、もっとデカくできるか?
※レコーディング時の生々しい指示をそのままイントロに使用し、スタジオの臨場感を演出している。
Kanye West!
カニエ・ウェストだ!
※DJ Khaledによるお馴染みの過剰なシャウトアウト。本作でのKhaledの役割はプロデューサーではなく、楽曲を煽る「ハイプマン」である。
Yup, Swag King Cole, yup
ああ、「スワッグ・キング・コール」のお出ましだ
※伝説的ジャズシンガーのNat King Cole(ナット・キング・コール)の名をもじったKanye自身の新たなペルソナ。ジャズ界の王のような品格と、現代のストリートの「Swag(イケてる魅力)」を併せ持つ存在であることを自称している。
DJ Khaled!
DJキャレド!
※(Khaled自身のシャウト)
[Chorus: Kanye West]
Can't a young nigga get money any more?
若え黒人がこれ以上稼いじゃいけねえってのか?
※Kanye Westのフック。黒人が巨万の富を得ることに対する白人社会やメディアからの偏見、バッシングに対する反発。
Tell PETA my mink is dragging on the floor
PETAに言っとけ、俺のミンクのコートは床を引きずってるぜってな
※「PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)」は過激な動物愛護団体。リアルファー(毛皮)の着用を猛批判する彼らに対し、わざと「俺のミンクは長すぎて床を引きずっている(それほど大量の毛皮を贅沢に使っている)」と宣言する、Kanye特有の最悪で最高の挑発ライン。PETAは公式声明で激怒し、大きなニュースとなった。
Can I have a bad bitch without no flaws
欠点のない最高のイイ女を抱いちゃいけねえのか?
※「Bad bitch」はスラングで非常に魅力的な女性。完璧な女性(のちに言及されるKim Kardashianなど)を求めることの何が悪いのかという開き直り。
Come to meet me without no drawers?
ノーパンで俺に会いに来るような女をさ
※「Drawers」は下着(パンティー)。
[Verse 1: Kanye West]
Dinner with Anna Wintour, racing with Anja Rubik
アナ・ウィンターとディナーして、アンジャ・ルービックとレースする
※ファッション誌『Vogue』の伝説的編集長Anna Wintourと、ポーランド出身のトップモデルAnja Rubikへの言及。Kanyeがいかにハイファッション界の中枢に入り込み、特権的な交友関係を築いているかを示す強烈なネームドロップ。
I told you motherfuckers it was more than the music
クソ野郎どもに言ったよな、俺のやってることは単なる音楽以上のモンだって
※ヒップホップという音楽ジャンルにとどまらず、ファッションやカルチャー全体を支配するインフルエンサーであるという事実。
In the projects one day, to Project Runway
ある日はプロジェクト(団地)にいて、今じゃ『プロジェクト・ランウェイ』だ
※「Projects(低所得者層向けの公営住宅)」というゲットーの出自と、人気ファッションデザイナー発掘番組『Project Runway』という華やかな世界を見事に掛け合わせたWordplay。
We done heard all that loud-ass talking, we're used to it
大口叩く連中の声は散々聞いてきた、もう慣れっこさ
※アンチや批評家からのバッシングに対する達観。
I'm from where shorties fucked up, double-cupped up
俺の地元じゃガキ共がイカれてて、ダブルカップをキメてる
※「Double-cupped」は咳止めシロップとスプライトを混ぜたドラッグ「リーン(紫の液体)」を飲むために重ねたプラスチックカップのこと。シカゴの荒れた若者たちのリアル。
Might even kill somebody and YouTube it
誰かを殺してYouTubeにアップするかもしれねえような場所さ
※スマートフォンとSNSの普及により、ギャングの抗争や殺人が可視化・エンタメ化していくシカゴの凄惨な現状を鋭くえぐり出している。
To whoever think their words affect me is too stupid
自分の言葉が俺にダメージを与えられると思ってる奴はバカすぎるぜ
※ネットの誹謗中傷など意に介さないという傲慢さ。
And if you can do it better than me, then you do it!
俺より上手くやれるってんなら、お前がやってみろよ!
※文句があるなら自分のレベルまで這い上がってこいという挑発。
We flyer than a parakeet, floatin' with no parachute
俺らはインコより高く飛び(イケてて)、パラシュート無しで宙に浮いてる
※「Fly」は「飛ぶ」と「イケてる/オシャレ」のダブルミーニング。「Parakeet(インコ)」と「Parachute(パラシュート)」の音の類似を利用したライミング。
Six thousand dollar pair of shoes, we made it to the Paris news!
6000ドルの靴を履いて、パリのニュースにまで載ったぜ!
※Kanyeがイタリアの高級靴ブランドGiuseppe Zanottiとコラボレーションしてデザインした靴がパリ・ファッションウィークで大々的に報じられたことのフレックス。
Don't talk about style cause I embarrass you
スタイルの話はするな、俺がお前に恥をかかせることになるからな
※俺の前でファッションやセンスを語れば、レベルの違いを見せつけて赤っ恥をかかせるぞという威圧。
Shut the fuck up when you talk to me 'fore I embarrass you
俺に話しかける時は黙りな、お前に恥をかかせる前にな
※(同上)
[Chorus: Kanye West]
Can't a young nigga get money any more?
若え黒人がこれ以上稼いじゃいけねえってのか?
※(Chorusリフレインのため解説省略)
Tell PETA my mink is dragging on the floor
PETAに言っとけ、俺のミンクのコートは床を引きずってるぜってな
※(同上)
Can I have a bad bitch without no flaws
欠点のない最高のイイ女を抱いちゃいけねえのか?
※(同上)
Come to meet me without no drawers?
ノーパンで俺に会いに来るような女をさ
※(同上)
[Verse 2: Kanye West]
And the whole industry want to fuck your old chick
業界中がお前の元カノとヤりたがってるぜ
※ここからKanyeの恋愛事情に絡む生々しい暴露が始まる。「お前の元カノ」とは、Kanyeの元恋人であり、当時はWiz Khalifaと交際(後に結婚し離婚)していたAmber Roseのこと。
Only nigga I got respect for is Wiz
だが俺がリスペクトしてる黒人はWizだけだ
※自分の元カノと付き合っているWiz Khalifaに対し、ディスではなく「唯一リスペクトしている」と公言した驚きのライン。因縁を避ける大人の対応でありつつ、Wiz以外のラッパーは全員見下しているという傲慢さも孕んでいる。
And I'll admit, I had fell in love with Kim
認めるよ、俺はキムに惚れちまったんだ
※ヒップホップ史に残る有名なライン。長年の友人であったKim Kardashianへの愛を、楽曲を通じて全世界に公式発表した瞬間である。
Around the same time she had fell in love with him
ちょうど彼女があいつに恋に落ちた頃にな
※「あいつ(Him)」とは、当時のKimの恋人でNBA選手のKris Humphries(クリス・ハンフリーズ)のこと。KimはKrisと2011年に結婚したが、わずか72日で離婚を申請し世界的なニュースとなった。Kanyeは彼女が別の男と結婚するのを歯痒い思いで見つめていたことを告白している。
Well that's cool, baby girl, do ya thang
まあいいさ、ベイビーガール、お前の好きにしろよ
※一旦は身を引き、彼女の決断を尊重する余裕を見せる。
Lucky I ain't had Jay drop him from the team
俺がJayに頼んで、あいつをチームからクビにさせなかっただけ運が良かったな
※直前の「余裕」を一気に覆す、恐るべき権力フレックス。Kanyeの「兄貴分」であるJay-Zは、当時NBAのニュージャージー・ネッツの共同オーナーであった。そしてKimの夫であったKris Humphriesはまさにそのネッツに所属していた。つまり「俺の女に手を出したお前を、俺のコネ一つでNBAチームから追放することすらできたんだぞ」という、音楽界とスポーツ界を跨いだマフィアのような脅しである。Reddit等で「史上最もえげつないフレックスの一つ」と絶賛される名ライン。
La Familia, Roc Nation
ラ・ファミリア、Roc Nationさ
※Jay-Zが率いるレーベル「Roc Nation」の絆は、マフィアの「ファミリー(La Familia)」のように強固であり、絶対的な権力を持っているというアピール。
We in the building, we still keep it basement
俺らがビル(頂点)にいても、メンタルは地下(アンダーグラウンド)のままだ
※商業的に大成功しても、ストリートの冷酷なルールやハングリー精神を忘れていないという宣言。
Flyer than a parakeet, floatin' with no parachute
俺らはインコより高く飛び、パラシュート無しで宙に浮いてる
※(Verse 1の反復)
Six thousand dollar pair of shoes, I made it to the Paris news
6000ドルの靴を履いて、パリのニュースにまで載ったぜ
※(同上)
Don't talk about style cause I'll embarrass you
スタイルの話はするな、俺がお前に恥をかかせることになるからな
※(同上)
Shut the fuck up when you talk to me 'fore I embarrass you
俺に話しかける時は黙りな、お前に恥をかかせる前にな
※(同上)
G.O.O.D. Music, we fresh, we fresh
G.O.O.D. Music、俺らは常にフレッシュだ
※自らのレーベルへのシャウトアウト。
Anything else, we detest, detest
それ以外のモノは全部嫌悪するぜ
※G.O.O.D. Music以外の音楽やアーティストには価値がないという極端なエゴイズム。
Bitch-ass niggas got ass and breasts
ビッチみたいな野郎どもにはケツと胸がついてやがる
※女性のような振る舞いや態度をとる「女々しい(Bitch-ass)」ラッパーたちを、文字通り女性の身体的特徴を持っていると揶揄するホモソーシャル的なディス。
All that said, let me ask this quest'
それを踏まえた上で、この質問をさせてくれ
※ここから再びコーラス(質問)へと戻るためのブリッジ。
[Chorus: Kanye West]
Can't a young nigga get money any more?
若え黒人がこれ以上稼いじゃいけねえってのか?
※(Chorusリフレインのため解説省略)
Tell PETA my mink is dragging on the floor
PETAに言っとけ、俺のミンクのコートは床を引きずってるぜってな
※(同上)
Can I have a bad bitch without no flaws
欠点のない最高のイイ女を抱いちゃいけねえのか?
※(同上)
Come to meet me without
ノーパンで俺に会いに来るような...
※(同上)
[Bridge: Kanye West]
Don't talk to me 'bout style, nigga, I'll mothafuckin' embarrass you
俺にスタイルの話なんかするな、お前にクソ恥をかかせてやるからな
※Kanyeの激しい感情が爆発するブリッジ部分。
Talking 'bout clothes, I'll mothafuckin' embarrass you
服の話をしてみろ、お前にクソ恥をかかせてやる
※(同上)
Hollering 'bout some hoes, I'll mothafuckin' embarrass you
女について騒ぎ立ててみろ、お前にクソ恥をかかせてやるよ
※ファッションだけでなく、付き合っている女性のレベル(Kim Kardashian)でも誰にも負けないという自信。
Way too cold, I promise you'll need some Theraflu
冷たすぎる(ヤバすぎる)からな、約束するよ、お前には「テラフル(風邪薬)」が必要になるぜ
※本作の元々のタイトルであった「Theraflu(テラフル=風邪やインフルエンザの薬)」の伏線回収。「Cold」には「冷酷/カッコいい」という意味と、文字通りの「風邪」の意味がある。俺の才能とファッションセンスが冷たすぎる(Coolすぎる)ため、周りの連中は風邪を引いて薬が必要になるというユーモア溢れるメタファー。後に製薬会社(Novartis)からのクレームでタイトル変更を余儀なくされる原因となったラインである。
(Uh, uh, uh, uh, uh) Get the Theraflu
(ア、ア、ア)テラフルを買ってきな
※(同上)
(Uh, uh-uh, uh-uh, uh) Get the Theraflu
(ア、ア)テラフルを買ってきな
※(同上)
(Uh, uh-uh, uh-uh, uh, uh-uh, uh-uh)
(ア、ア)
※(同上)
(Uh, uh-uh, uh-uh, uh) Get the Theraflu
(ア、ア)テラフルを買ってきな
※(同上)
[Outro: DJ Pharris]
This Chicago, nigga
ここはシカゴだぜ、ニガ
※シカゴの著名なラジオパーソナリティ/DJであるDJ Pharrisによるアウトロ。Kanyeのルーツであるシカゴ全体への熱いシャウトアウトが始まる。
South Side, we in this bitch
サウスサイド、俺らがここを仕切ってる
※シカゴ南部のゲットー。Kanye自身の出身地であり、ギャング抗争の激しいエリア。
East Side crazy, blow that loud
イーストサイドは狂ってるぜ、極上のハッパ(ラウド)を吸いな
※(同上)
Low End, 39th, The Ickes
ロー・エンド、39丁目、アイキース(公営住宅)
※シカゴのストリートの具体的な地名や団地の名前の羅列。
47th Street, Garfield Park, 79th
47丁目、ガーフィールド・パーク、79丁目
※(同上)
Stony Island, K-Town, Wild 100's
ストーニー・アイランド、K-Town、ワイルド・ハンドレッズ(100丁目台のエリア)
※(同上)
This Chi-Town, Dro City, The Village
これが「チー・タウン(シカゴ)」だ、ドロ・シティ、ザ・ヴィレッジ
※「Dro City」はシカゴ南部の特定のブロックの俗称であり、ドリル・ミュージックの発祥地の一つ。
Harvey World, O Block, 64th and Normal
ハーヴィー・ワールド、O Block、64丁目とノーマル通り
※「O Block(オー・ブロック)」はシカゴで最も危険な団地の一つ(Parkway Gardens)の俗称であり、Chief KeefやKing Vonといったドリル・ラッパーたちの出身地。この2012年はまさにChief Keefの『I Don't Like』の大ヒット(Kanyeもリミックスに参加)によりシカゴ・ドリルが世界を席巻し始めた年であり、Kanyeが新しいムーブメントの中心地をフックアップしている歴史的に重要な言及である。
64th and King Drive, what up?
64丁目とキング・ドライブ、調子はどうだ?
※まさにO Blockの所在地を指す交差点。
83rd, Cottage Grove, the Gardens
83丁目、コテージ・グローブ、ザ・ガーデンズ
※(同上)
This Chicago nigga!
ここはシカゴだぜ、ニガ!
※(同上)
The Dearborns, 55th, Cabrini-Green
ディアボーン団地、55丁目、カブリーニ・グリーン(悪名高き公営住宅)
※映画『キャンディマン』の舞台にもなった、シカゴの犯罪多発団地の名前。
Terror Town, West Side, Pocket Town
テラー・タウン、ウェストサイド、ポケット・タウン
※「Terror Town(恐怖の街)」と呼ばれるほど危険なエリア。
This Chicago! Halsted to the Ida B. Wells
これがシカゴだ!ホルステッドからアイダ・B・ウェルズ団地までな
※(同上)
New York City, Atlanta, London Town
ニューヨーク・シティ、アトランタ、ロンドン・タウン
※シカゴから全米、そして世界(ロンドン)へと影響力を拡大していく宣言。
Chiraq Drillinoise
シャイラク、ドリリノイズ
※「Chiraq(シカゴ+イラク)」は、シカゴの殺人件数がイラク戦争の戦死者数を上回ったことから生まれた、シカゴの凄惨なストリートを指すスラング。「Drillinoise(ドリル+イリノイ州+ノイズ)」は、イリノイ州シカゴ発祥の暴力的なラップジャンル「ドリル・ミュージック」を指す造語。この曲がシカゴ・ドリル・ムーブメントの爆発と密接にリンクしていることを象徴する強力なパンチラインである。
This DJ Pharris, fuck around and get embarrassed
DJファリスだ、下手な真似してみろ、クソ恥をかくことになるぜ
※Kanyeの「Embarrass you(恥をかかせる)」というテーマをDJ Pharrisが引き継ぎ、シカゴのフッドの流儀で楽曲を力強く締めくくる。
